NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
NGCパートナーズはクライアント企業の役職員と「協働する」経営・財務コンサルティングファームです。
キーワード:ベンチャー・スタートアップ / アトツギ・後継者 / M&A・事業承継 / セミナー・社内研修
活動拠点:福岡 / 東京

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2020年11月25日水曜日

NGCパートナーズの「セミナー講師業」について


少し先ですが、事業承継に関するセミナー講師を受託することとなりそうですので、この機会にセミナー講師受託についてまとめてみました。

1.過去のセミナー講師担当経験

講義内容・テーマ セミナー開催主体 備考
株式上場準備 地方自治体
起業家の成功要因・失敗要因 大学、VC
多面的な経営 経済団体
自社分析・現状分析 地方自治体 複数回シリーズもの
資金調達 大学
ファンドから投資を受けるために必要なこと 金融機関
起業と資金調達 大学
ビジネスプランと資金計画 地方自治体 複数年担当
ファンドを活用した創業支援 金融機関
ファンドを活用したベンチャー型事業承継支援 支援機関
若手社員向け勉強会(基本動作、知識、考え方等) 民間企業 社内勉強会、毎週定期開催のシリーズもの
管理職向け勉強会(マネジメントスキル) 民間企業 社内勉強会、毎週定期開催のシリーズもの
次期経営幹部向け勉強会(経営全般) 民間企業 社内勉強会、毎月定期開催のシリーズもの
(注)一部、過去の企業勤務時代の経験を含みます。


2.今後の方針

 今度の事業承継セミナー講師についても、メイン講師を担当される他社様への協力という立ち位置ですし、今後も私自身がセミナー講師受託を積極的に提案していくことは予定しておりませんが、ご協力というかたちであれば喜んでお受けしたいと考えています。

特定のテーマを深堀りする内容よりも、全体像を概観したい、本格的に学び始めるきっかけとして要点を知りたい、などといったご要望にお応えする内容の方が得意かと思います。

テーマとしては「創業」、「事業承継」、「株式上場」といったこと、「知識だけではなく考え方」といったことであればいろいろなかたちでお話しすることができます。また、社内の特定階層向けの研修講師も対応可能です。

セミナー講師をお探しの方がいらっしゃれば、より相応しい講師候補のご紹介を含めてご相談に乗ることができるかと思いますので、本ブログの上部の「Contact」よりお問い合わせいただければ幸いです。

2020年11月20日金曜日

菅政権の中小企業政策と中小M&A

新政権になってからすでに三ヶ月目に入っていますが、新しく立ち上げられた成長戦略会議での議論や、同会議の民間委員の見解が菅内閣の中小企業政策に反映された場合、中小企業のM&A(中小M&A)がより活発化するきっかけになるのではないかと注目が集まっています。

中小M&Aに関係する政策を少し振り返ってみますと、前の安倍政権では中小企業の「事業承継」促進が大きなテーマとなっており、まずは「法人版事業承継税制」の強化、「個人版事業承継税制」の創設など、主に親族内承継を促進する制度の整備が進み、2020年に入ってからは第三者承継支援総合パッケージとして経済産業省による「中小M&Aガイドライン」の策定、中小企業基盤整備機構による「経営力強化支援ファンド出資制度」など親族外(第三者)承継を促進する制度の整備も進みました。

第三者承継のための中小M&Aは引き続き活発な状況が継続すると予想されます。強いニーズがあることに加え、政策的な後押しもしばらく続きそうだからです。国も上記第三者承継支援総合パッケージの中で「10年間で60万者の第三者承継を目指」す、と明言しています。

ところで、菅政権では中小M&Aに新たなキーワードが加わりそうです。そのキーワードは「生産性向上」です。日本は主要国の中でも企業活動の生産性が低いということが長らく指摘され続けています。日本企業の生産性の低さの要因については様々な事項が挙げられていますが、菅政権になってから特に注目度が上昇している事項として、「企業の生産性は企業規模が大きくなるほど高くなる傾向があるが、日本は企業規模が小さい中小企業の割合が他国と比べても大きい。よって日本企業全体の生産性は低い。」ということが挙げられます。

これは、特に成長戦略会議の民間議員でもあるデービット・アトキンソン氏が唱えているもので、同氏の提言は菅首相の政策にも大きな影響があると言われています。同氏は中小企業基本法の改正を行ったり、最低賃金の見直しを行ったりすることにより、中小企業に企業規模拡大を促すことを提唱しています。

企業規模と生産性の相関関係は直感的に理解しやすいものの、因果関係はあるのか、因果関係があるとしても企業規模が拡大すると生産性が向上するのか、生産性が高い企業が企業規模拡大に成功しやすい傾向があるのかなど、どちらが原因でどちらが結果なのかなどは議論の余地があるかもしれません。また、そもそも日本の大企業の生産性が中小企業より高いのは、付加価値額が向上しているのではなく、労働者削減の結果にすぎないという意見もあるようです。

しかし、当面は解消されない後継者不足の問題、とも相俟って、中小企業への再編期待が高まっていくことは間違いなさそうです。そこでやはり引き続き注目されるのが手段としての「中小M&A」です。アトキンソン氏の提言でも中小企業の規模拡大の手段として挙げられているのは「統廃合」であり、つまりはM&Aです。今までの中小M&Aは事業承継のための手段という位置づけが中心で、一部に事業再生のための手段という位置づけがあったくらいでした(ただし、それは売り手にとって、という意味合いです。買い手にとっては成長戦略のひとつであったり、代替できない技術などを持った取引先の事業継続など、様々な意味合いがあります)。今後は売り手買い手双方の生産性向上の手段としてのM&Aが活発化し、中小M&A市場が盛り上がっていくことが期待されます。


2020年11月4日水曜日

NGCパートナーズの事業概要について(2020年11月版)


NGCパートナーズ事業概要」のページに掲載させていただいていますが、NGCパートナーズの事業概要について、どういったお客様向けに、どういったことを行っていきたいか、ということをまとめ直しました。今までも当ブログの記事に個別のコンサルティング事業の紹介などを行っておりましたが、それらを行わなくなるのではなく、それらも行いつつ、今後はこういったことに力を入れていく、という意味合いです。

NGCパートナーズ事業概要」のページでは端的な記載に留めているので、本記事で補足致します。

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一、顧客セグメント

1.ベンチャー企業・スタートアップ企業
2.後継者育成中の中小企業
3.事業承継を検討中、M&Aでの事業売却を検討中の中小企業

二、主要活動

1.経営・財務コンサルティング事業

 (1)ベンチャー・スタートアップ支援
事業計画・資本政策策定支援、コーポレートガバナンス構築支援、内部統制・管理体制構築支援、営業体制構築支援、社外取締役就任
 (2)アトツギ支援
現状認識・分析~計画立案~実行体制構築~マネジメントサイクル構築支援、コーポレートガバナンス構築支援、内部統制・管理体制構築支援 、営業体制構築支援、アトツギ教育・壁打ち
 (3)事業承継・プレM&A支援
経営の現状及び課題の可視化支援、課題解決策の実行支援、コーポレートガバナンス構築支援、内部統制・管理体制構築支援、事業用資産や株式の集約整理支援、セラーズDD、バリュエーション実施、その後の通常のM&Aアドバイザリー業務

2.投資事業

 未上場企業等への投資

三、リソース(専門領域・スキル)

1.ファイナンス

 資金調達側として5年、資金供給側として6年、コンサル・アドバザリーとして3年~
 数値計画策定、資金調達・運用、投資家・債権者とのコミュニケーション、M&A、管理会計

2.マネジメントサイクル構築運用

 経営陣の一員として5年~、コンサルとして3年~
 事業・行動計画策定、実行体制構築、計画実行、進捗評価

3.起業、事業承継及び経営全般の相談対応

 コンサルや社外取締役として7年~

四、費用その他

 月額報酬型を基本としています。報酬額水準はご相談ください。
 業務内容やクライアント企業の給与水準等を考慮させていただいています。
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「顧客セグメント」について、従来と変わっていないと言えば変わっていないのですが、主にどういった方々とご一緒に仕事をしていきたいと考えているか、改めてまとめました。かなり幅広めにも読めるのですが、上記の方々には共通して「変化の入り口または途上にある」ということがあると思います。そういった方々にお役に立ちたいですし、一緒に変化を起こしていきたいという想いがあります。

「主要活動」について、顧客セグメントごとに記載しています。上記のような記載の仕方になってしまってはいますが、本当は上記のような特定の問題の解決や課題の推進をお手伝いして終了、というのではなく、少しでも長い期間、伴走していくスタイルで仕事をしていきたいと考えています。幸い、今までご一緒してきた大半のお客様との間でもそういった関係を築くことができました。とはいっても、入り口はやはり特定の問題や課題への対応ということも多いですので、上記のように記載しました。

「事業承継・プレM&A支援」について若干補足します。今までいろいろな企業を見てきて、事業承継の方法を早い段階でひとつに絞り込むのではなく、選択肢を残しつつ準備を進めていきたいという企業も一定数あることを感じています。たとえば親族内承継に向けて準備するものの、それが頓挫した場合はM&Aに切り替える、などです。また、いきなりM&Aでのお相手探しに入るのではなく、時間的猶予もあるので先に自社の体質を強くしておきたいという企業も一定数あります。そういった企業に対する、どの選択肢も取りうるような体制を築いておくための支援、M&A前の企業価値向上のための支援を行うことを「事業承継・プレM&A支援」としています。

NGCパートナーズのリソース≒私の経験ですので、私の経験業務を端的にまとめさせていただいたのが「リソース(専門領域・スキル)」です。いろいろなかたちで新たに学び続ける姿勢は失っていませんので、これからも増えてくると思います。

以上、事業概要の補足です。
ご連絡は当ブログの上部にある「Contact」からいただければ幸いです。

2020年9月27日日曜日

事業計画の作り方17 後継者の方向け(5) ROICツリー(現状分析の補足)

事業計画の作り方14にて「現状理解と現状分析」、その補足として事業計画の作り方15で「事業計画づくりのための財務分析」、事業計画の作り方16で「ローカルベンチマーク」について説明しました。今回も「現状理解と現状分析」の補足として、ROICツリーについて説明します。ROICツリーは会社ごと・事業ごとに応用が可能なこと、時系列で追いやすく、過去から現在までの推移だけでなく、将来においても定点観測を行うためのツールとして活用しやすいものです。

1.ROICとは?

 ROICは「Returen On Invested Capital」の頭文字をとったもので、「ローイック」と読みます。
事業に実際に活用した資産に対して、どのくらいの利益を上げることができているかを見る指標、というのが最も基本的な使い方を表しており、資金調達コストを表すWACC(荷重平均資本コスト)を上回っているか、下回っているかという使い方もされます。
ROIC>WACCの場合、投下資本を使って、資金調達コストを上回る利益を計上できている
ROIC<WACCの場合、投下資本を使った利益率が、資金調達コストすら稼げていない
ということですね。
ROICの計算式は、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
で、式の右辺は、
NOPAT=税引後営業利益=営業利益×(1-実効税率)
事業投資資本=総資産-非事業用資産(※)

(※)非事業用資産=運用目的の有価証券、持ち合い株式、役職員や取引先への貸付、ゴルフ会員権、オーナー個人用の社有車など本業とは直接関係ない資産
です。

なぜ「現状理解と現状分析」の項目でROICを紹介するかというと、それが「利益の構造を分析するためのツール」として活用することができるものだからです。

2.ROICツリーの展開

「ROICツリー」は、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
というROICの計算式を分解していって、企業の利益の構造を分析するためのもので下の図のようなかたちとなるので「ツリー」と呼ばれています。下図の内容については後ほど触れます。

ROICツリーは「バリュードライバー分析」とも呼ばれます。バリュードライバーとは、「企業の利益を生み出す源泉」、言い換えると「企業価値の源泉」を意味します。なお、より正確な表現をすると、企業価値の源泉はキャッシュフローであり、キャッシュフローの源泉は利益である、その利益はどこからどのようにどの水準で生み出されているかといったことを分析する方法、ということです。

では、ROICの計算式を分解していきましょう。ここから先は文字だけの説明では全体像や位置づけが分かりにくいので上記の図と見比べながら読んでいただければと思います。まず最初に、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
NOPAT=営業利益×(1-実効税率)
でしたので、
ROIC=営業利益/事業投下資本×(1-実効税率)
と表すことができます。ここでの「営業利益/事業投下資本」は「税引前ROIC」と呼ばれます。よって、
ROIC=税引前ROIC×実効税率
となります。ここからは「税引前ROIC=営業利益/事業投下資本」をさらに分解していきます。
税引前ROIC=営業利益/事業投下資本
の右辺を分解すると、
税引前ROIC=(営業利益/売上高)×(売上高/事業投下資本)
と表すことができます。括弧書きは不要かとは思いますが、表記を分かりやすくするためあえて付けています。この式は、
税引前ROIC=売上高営業利益率×資本回転率
とも表記できます。ここからは、右辺の「売上高営業利益率」を分解していきながら収益性分析を、「資本回転率」を分解していきながら効率性分析を行っていきます。


(1)収益性分析

売上高営業利益率=営業利益/売上高
を原価面に着目すると
売上高原価率=原価/売上高
さらに原価の主な構成要素ごとに
売上高労務費率=労務費/売上高
売上高仕入率=仕入額/売上高
売上高外注費率=外注費/売上高
といったように分けることができます。なお、この分け方は決まりごとがあるのではなく、企業ごと・事業ごとに工夫できるものです。
そして、販管費でも同じように考えると
売上高販管費率=販管費/売上高
販管費の主な構成要素ごとに
売上高販売費率=販売費/売上高
売上高一般管理費率=一般管理費/売上高
売上高人件費率=人件費/売上高
売上高広告宣伝費率=広告宣伝費/売上高
売上高営業交通費率=営業交通費/売上高
原価・販管費、両方に関係する減価償却費でも
売上高減価償却費率=減価償却費/売上高
とすることができます。これらは全て、収益性を表す指標です。


(2)効率性分析

 ここからは、
資本回転率=売上高/事業投下資本
を分解しつつ、効率性分析を行っていきます。

資本回転率は、それぞれの資本の何倍の売上をあげたか、資本を有効に活用して売上をあげているかという効率性を見る指標です。

ところで、資本回転率の構成要素として「売上債権回転率」といった用語が出てきますが、事業計画の作り方15では似た用語として「売上債権回転期間」が出てきました。この両方の用語は同じ効率性を意味しており、売上債権回転率が高いと売上債権の回収までの期間が短いことを意味し、売上債権回転期間はそれがどのくらいの時間がかかっているかを意味しています。ROICツリーでは「回転率」の方を使うことが一般的ですので、以下「回転率」で説明していきます。ちなみに「率」と付いていますが、回転率の単位は「%」ではなく「回転」ですのでご注意ください。

資本回転率の計算式の右辺の分母は、事業に使用している資産であれば、どれでも当てはめることができます。
現預金回転率=売上高/現預金
運転資本回転率=売上高/運転資本
「運転資本=売上債権+棚卸資産-仕入債務」ということは「運転資本回転率」は以下の3つの要素で構成されます。
売上債権回転率=売上高/売上債権
棚卸資産回転率=売上高/棚卸資産
仕入債務回転率=売上高/仕入債務
また、
事業用有形固定資産回転率=売上高/事業用有形固定資産
事業用無形固定資産回転率=売上高/事業用無形固定資産
事業用その他資産回転率=売上高/その他資産
といったものもありますね。

3.ROICツリーの活用事例

 以上のようにROICツリーは「現状理解と現状分析」のツールとして、体系的な財務分析ができるのですが、そこからさらに数歩進んで先進的な企業では、ROICツリーの一番右側の項目について、KPI化して責任部署を決めたり、KSFまで落とし込んでいる事例もあります。以下、有名な事例ですので、ぜひリンク先の資料もご覧ください。

<ROICツリーの活用事例>
ヤマシンフィルタ(PDF) P19以降にROICツリーが出てきます。
日立(PDF) P16にROICツリーが出てきます。


2020年9月23日水曜日

事業計画の作り方16 後継者の方向け(4) ローカルベンチマークの活用(現状分析の補足)

事業計画の作り方14」にて現状理解と現状分析について触れ、「事業計画の作り方15」にて補足として財務分析について触れました。今回はさらなる補足として経済産業省が作成したツールである「ローカルベンチマーク」の活用について解説します。

さて、ローカルベンチマークとは経済産業省によると以下のように説明されています。読んでいただくとお分かりのとおり、事業計画作成のための現状分析と位置づけがほぼ同じです。
ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるものです。
具体的には、「参考ツール」を活用して、「財務情報」(6つの指標※1)と「非財務情報」(4つの視点※2)に関する各データを入力することにより、企業の経営状態を把握することで経営状態の変化に早めに気付き、早期の対話や支援につなげていくものです。

(※1)6つの指標;①売上高増加率(売上持続性)、②営業利益率(収益性)、③労働生産性(生産性)、④EBITDA有利子負債倍率(健全性)、⑤営業運転資本回転期間(効率性)、⑥自己資本比率(安全性)
(※2)4つの視点;①経営者への着目、②関係者への着目、③事業への着目、④内部管理体制への着目

今回の記事でローカルベンチマークを説明するのは、それが
  • 網羅性に優れている
  • 支援機関との対話の中で活用できるようになっている、もしくは支援機関との対話のきっかけとして活用できる
という特徴があるからです。

ローマルベンチマークは大項目として、
  1. 財務分析
  2. 商流・業務フロー
  3. 4つの視点
の3つの部分で構成されています。ひとつずつ内容について説明していきます。

1.財務分析

 予め用意されているExcelシートに数値を入力すると、
 (1)売上高増加率(売上持続性)
 (2)営業利益率(収益性)
 (3)労働生産性(生産性)
 (4)EBITDA有利子負債倍率(健全性)
 (5)営業運転資本回転期間(効率性)
 (6)自己資本比率(安全性)
について診断結果が表示され、業種の中での位置が指標化されます。同じ規模・業種の中で上位7%に入っていれば5点、その次の24%に入っていれば4点といった具合です。ぴったりと当てはまる業種分類がない可能性もありますが、参考になる情報が得られます。

ここでの財務分析では各指標は以下の計算式で算出されます。
売上高増加率(%)=(最新期売上高/前期売上高)-1
営業利益率(%)=最新期営業利益/最新期売上高
労働生産性(円)=営業利益/正社員数
EBITDA有利子負債倍率(倍)=(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費)
営業運転資本回転期間(ヶ月)=(売上債権+棚卸資産-買入債務)/(売上高/12)
自己資本比率(%)=純資産/負債・純資産合計
比較対象は帝国データバンク社が保有する企業の内、約10万社の財務指標とのことです。

2.非財務「商流・業務フロー」

 まず「業務フローでは、業務プロセスを分解し、価値を生み出すために行っている工夫・他社との差別化ポイントを記載します。」(引用元:ローカルベンチマークマニュアル)
企画に始まり、製造や仕入れ、営業、納品・サービス提供までを5程度のステップに分けて、それぞれに差別化ポイントを記載していくシートです。

次に「商流は取引先と取引理由を整理し、どのような流れで顧客提供価値が生み出されているかを把握します。」(引用元:ローカルベンチマークマニュアル)
商流を仕入先、協力先、得意先、エンドユーザーの4つに分類し、それぞれに選定理由を記載していくシートです。

3.非財務「4つの視点」

 項目が充実しています。まず、以下の(1)~(4)について対話を通じて確認していきます。

(1)経営者

・経営理念・ビジョン、経営哲学・考え・方針等
・経営意欲 ※成長志向・現状維持など
・後継者の有無、後継者の育成状況、承継のタイミング・関係

(2)事業

・企業及び事業沿革 ※ターニングポイントの把握
・強み・弱み 技術力・販売力等
・ITに関する投資・活用の状況、1時間当たり付加価値(生産性)向上に向けた取り組み

(3)企業を取り巻く環境・関係者

・市場動向・規模・シェアの把握、競合他社との比較
・顧客リピート率・新規開拓率、主な取引先企業の推移、顧客からのフィードバックの有無
・従業員定着率、勤続年数・平均給与
・取引金融機関数・推移、メインバンクとの関係

(4)内部管理体制

・組織体制、品質管理・情報管理体制
・事業計画・経営計画の有無、従業員との共有状況、社内会議の実施状況
・研究開発・商品開発の体制、知的財産権の保有・活用状況
・人材育成の取り組み状況、人材育成の仕組み

次に対話内容の総括として、

(5)現状認識
(6)将来目標

をまとめ、現状と目標のギャップを明らかにして、

(7)課題
(8)対応策

までまとめる、という流れです。

詳しくは、Youtubeでの動画解説と、引用元でもあるローカルベンチマークマニュアルなどをご確認ください。

事業計画づくりの前提となる現状理解や現状分析は様々な方法があります。ローカルベンチマークのその中のひとつとしてご活用ください。

NGCパートナーズではローカルベンチマーク活用の際の対話相手として協力させていただくことができます。ご関心がある方は当ブログ上部の「Contact」からお問い合わせください。

以下、Youtubeでの解説動画です(音が出ますのでご注意ください)。1本当たり2~5分程度の短い動画です。









2020年9月22日火曜日

事業計画の作り方・番外編 後継者の方向け 会社・業務のデジタル化

制度や事業に関する情報は変更や更新が生じている可能性がありますので、ご利用にあたってはそれぞれの制度や事業に関するWebページ等で最新の情報を必ずご確認ください。

今回は後継者、特に他の一般企業での勤務経験がある後継者の多くの方が感じていらっしゃるであろう、受け継ぐ会社のデジタル化の遅れにどう対応するか、ひとつの例をご紹介したいと思います。中小企業庁・中小企業基盤整備機構(中小機構)の制度を利用するものなのですが、単年度事業であるため「番外編」として先にご紹介するものです。早めの活用が好ましいため「番外編」として先に紹介するものです。(その後も制度が継続されているので修正しました。)

今回ご紹介するのは、「中小企業デジタル化応援隊事業」という事業です。以下、必要に応じて同事業のWebサイトや資料から引用もしくは一部改変してご紹介します。
(引用元:中小企業デジタル化応援隊事業Webサイト、中小企業向け手引書、IT専門家向け手引書、FAQ等)

まず、この事業は「全国の中小企業・小規模事業者のさまざまな経営課題を解決する一助として、デジタル化・IT活用の専門的なサポートを充実させるため、フリーランスや兼業・副業人材等を含めたIT専門家を『中小企業デジタル化応援隊』として選定し、その活動を支援する取り組みです。」

会社のデジタル化の遅れは、後継者が危機感を持つことが多い問題のひとつです。例えば、
  • 報告書や伝票類が手書き、紙ベースのままであり、集計や分析ができない
  • 社内での情報共有手段が会議と掲示板での周知しか方法がない
  • メールアドレスが会社や部署にひとつしかなく、メールを毎回プリントアウトしている
  • パソコンのセキュリティ対策がなされていない
  • データへのアクセス制限がなされておらず、悪い意味で情報がオープンになっている
  • 情報の一元管理や検索可能性向上がなされていない
  • 役職員がお互いのスケジュールは把握する方法が「直接聞く」しかない
等々、挙げだしたらキリがありません。

後継者が他社を経験していたり、デジタル化に詳しかったりする場合でも、デジタルツールの導入を作業レベルまで後継者自身が行うのが現実的ではないですし、詳しくない場合は問題意識はあってもさらにデジタル化を進めることが難しいでしょう。

そこで、「中小企業デジタル化応援隊事業」を通じてIT専門家と協力してデジタル化を進めてはどうでしょうか。

同事業の主な特徴を以下、箇条書きで記載します。記載している内容は「第1期時点での情報」ですので最新の情報や詳細は、中小企業デジタル化応援隊事業Webサイト、中小企業向け手引書、IT専門家向け手引書、FAQ等を必ずご確認ください。
  • デジタル化の対象として想定されているのは、「テレワーク、EC構築、ホームページ、RPA導⼊、グループウェア導⼊、セキュリティ強化、AI、インターネットバンキング、ERP導⼊、HR領域デジタル化、社内向け研修デジタル化、オンライン会議導⼊、オンラインイベント、各SaaS導⼊検討、IoTツール導⼊、ペーパーレス推進、DBサーバー、通信環境・サーバー、デジタルマーケティング、IP電話など」であり、デジタル化がこれからの中小企業に必要な事項が網羅されています。
  • IT専門家による支援領域は「デジタルツールの導⼊・推進にあたって必要な⽀援であり、準委任規約に基づく⽀援に関しては対象となり」、個別具体的に決めていくことになります。コンテンツ制作やデザイン作成等は対象になりません。
  • 対象となる中小企業等は、日本国内で登記・納税している等の条件を満たし、且つ業種ごとに資本金や従業員数で定められた範囲に該当する企業で、同事業事務局に登録した企業です。
  • IT専門家は主に「個人として本事業への参加を希望するフリーランス・副業・兼業の方」で、同事業事務局にIT専門家として登録した方です。登録にあたっては事務局が一定の審査を行っているとのことです。
  • IT専門家に対して、事業から謝金が支払われますので、中小企業側は直接依頼よりも事業を通じた依頼の方が出費が少なくてすみます(事業からの謝金は最大で3,500円/時間、中小企業の最低負担額は500円/時間です。例えばIT専門家の時間単価が5,000円であった場合、事業からの謝金3,500円を差し引いた1,500円が中小企業の負担額です)。
  • 期間は次のとおりです。受付期間:2020年9月1日(火)〜2021年1月31日(日)、支援事業実施期間:2020年9月1日(火)〜2021年2月28日(日)第2期以降のスケジュールは同事業のWebサイトでご確認ください。
  • 中小企業とIT専門家はお互いの間で契約を締結しますが、契約と合わせて両者間で合意する支援計画書に従い業務を進め、予め定められたタイミングで同事業事務局に進捗や状況を報告します。
NGCパートナーズでも最近、他の受託業務に付随するかたちでデジタルツール導入(グループウェア、SFA、CRM、Web会議システム、セキュリティ対応等)のお手伝いをさせていただきましたが、
  • 現状を理解した上で経営課題を認識し
  • その解決にデジタルツールが有効且つ必要か検証し
  • 現在・将来必要となる機能まで見越して情報収集・ツールの比較検討を行い(ツールの詳細はたまたま利用経験があるもの以外は毎回学ぶ必要があります)
  • ツールが使用できるよう、具体的な利用場面を想定しながら初期設定を行い(導入企業の業務詳細とシステムの仕組みを理解しながら、の作業です)
  • 社内での説明会開催、質問対応、場合によってはマニュアルを独自に用意するなどの定着化活動を行い(実際に導入企業の役職員に活用してもらわなければ意味はありませんし、デジタルツールに苦手意識がある役職員の方向けには実際に一緒に画面を見ながらの解説などを行う必要もあります)
  • 場合によっては同時に業務フローを見直す(デジタルツールを導入する際に合わせて業務フローを見直さないと効率化・適正化は不十分に終わります。例えば今まで紙ベースで行っていた業務をデジタル化しても業務フローを見直さなければ、良くてもせいぜい「原則紙ベース、必要に応じてデジタルツールの活用」と理解・認識されてしまい、結果としてデジタルツールが活用されず業務の効率化・適正化が達成できないということが起きます)
  • それらを一定の予算内で行う
のは思いの外時間がかかるものです。これをデジタル化に詳しい社内の人財に全て丸投げしたり、IT専門家に直接業務委託したりすると業務負担もコストもかかります。一方で、デジタル化を実現できると業務効率化・適正化に大きく貢献しますので、中小企業デジタル化応援隊事業をきっかけとして検討・推進することをおすすめします。

なお、私もIT専門家として「中小企業デジタル化応援隊」に登録されています。同事業の登録専門家としての活動は終了しました。


2020年9月21日月曜日

事業計画の作り方15 後継者の方向け(3) 事業計画作成のための財務分析(現状分析の補足)

前回の記事で事業計画を作るための「現状理解と現状分析」についていろいろな例示をしましたが、今回は前回の補足で「事業計画を作るための財務分析」について説明します。

財務分析は業種業態ごとに何をするかがある程度異なってくるのですが、今回ご紹介するのは事業計画を作るに当たってほとんどの業種で最低限、事前に財務分析をしておくべき事項です。財務分析はこれだけ行えば他の数値は分析しなくて良いという意味ではなく、来期以降の予想貸借対照表・損益計画・キャッシュフロー予想を行うに当たって、まずは最低限押さえておくべき事項のみ説明するものです。

1.貸借対照表と損益計算書に関する分析

 売上債権、棚卸資産や仕入債務については過去の決算書から回転期間を計算しておきましょう。事業計画を作る上では、今後の売上や仕入といった損益計画上の数値がどう予想貸借対照表に影響してくるか、さらにはどう予想キャッシュフローに影響してくるのかを計算するために使用します。

それぞれの用語の意味と計算式は以下のとおりです。なお、財務や会計に自信がない方は先にこちらの記事に目を通していただくと理解が進むと思います。

(1)売上債権回転期間の計算

 売上債権を回収するのに要する期間を表す指標です。

売上債権とは主に売掛金のことで、売上には計上しているものの、まだ資金回収・現金化が終わっていないものの残高を表しています。

売上債権回転期間が長いということは現金化まで時間を要しているということですし、逆に売上債権回転期間が短いということは現金化までの時間が短いということです。ですので、ほとんどの場合、売上債権回転期間が短い方が望ましいとされています。但し、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)で中小企業に対する支払い時期については規制がありますのでご注意ください。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
売上債権回転期間 = 売上債権 / ( 年間売上 ÷ 12 )
     = 売上債権 / 単月売上平均

(2)棚卸資産回転期間の計算

 何ヶ月分の棚卸し資産を保有しているかを表す指標です。

棚卸資産とは、将来販売する予定で保有している製品、商品、仕掛品、原材料のことです。

棚卸資産回転期間が長いということは過剰な在庫を抱えている可能性があるということですし、逆に棚卸資産回転期間が短いということは限られた在庫で事業を行っているということです。資金繰り上は棚卸資産回転期間は短い方が望ましいですが、在庫切れによる販売機会を逸失するという見方もあり、適正な在庫量を見極めていく必要があります。

財務分析にあたっては、過去の3期分の棚卸資産回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 棚卸資産 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で棚卸資産回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。棚卸資産の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

(3)仕入債務回転期間の計算

 仕入債務を支払うのに要した期間を表す指標です。

仕入債務とは主に買掛金のことで、将来販売するためにすでに仕入れているがまだ代金の支払いをしていないものの残高を表します。
 
仕入債務回転期間が長いということは支払いまでの期間が長い取引が多いということですし、逆に仕入債務回転期間が短いということは支払いまでの期間が短い取引が多いというこです。ですので一見、仕入債務回転期間は長い方が望ましいと思われますが、意図的に仕入債務回転期間を長くすることは慎重に検討する必要があります。仕入債務回転期間を長くするためには、取引先(仕入元)に対し、仕入れから支払いまでの期間を延ばして欲しいと相談・依頼することになりますが、そのことが貴方の会社がの資金繰りが厳しいのではないかという憶測を呼んでしまうなどのリスクもあるからです。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
仕入債務回転期間 = 仕入債務 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 仕入債務 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で仕入債務回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。仕入債務の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

2.貸借対照表に関する分析

(1)設備の確認

 正確には財務分析とは言えないですが、事業計画作成にあたっては現状の設備を点検しておきましょう。合わせて今後必要となる設備投資額の分析を行っておきましょう。新規に設備を購入する必要があるものだけでなく、既存設備の修繕も合わせて確認しておきます。将来、突然の出費に困ることがないよう、専門の事業者に見積もりをしてもらっておくべきです。なお、「必要な」設備投資と「できれば行いたい」設備投資はできるだけ分けておくことをおすすめします。

(2)有利子負債の返済予定一覧表の作成

 有利子負債とは、読んで時の如く利子を支払う必要がある負債のことで、多くの場合金融機関からの借入や社債のことを表します。取引先や自社の経営陣からの借入があり、且つ金銭消費貸借契約などでその借入に金利が付される場合は、その借入も有利子負債に含みます。

金融機関から借入を行ったら、その金融機関から返済予定表が送られてくると思います。しかし、同じ金融機関からでも借入が何本かあったり、複数の金融機関からの借入がある場合は、返済予定一覧表を作成しておくべきです。事業計画を作る上では将来のキャッシュフローを計算する際に使用します。

返済予定一覧表は以下の情報をとりまとめます。

まずは、以下の基本情報を記載しましょう。同じ金融機関からの借入でも別々の借入であれば以下の情報も別々に記載します。
  • 金融機関名(○○銀行)
  • 借入をした金額(○円)
  • 借入をした日付(○年○月○日)
  • 借入期間(○年○月○日~○年○月○日)
  • 返済月数(○ヶ月)
  • 利子率(○%)
  • 返済方法(元利均等返済 or 元金均等返済)
  • 返済猶予期間、据置期間(○ヶ月)
  • 借換の場合はどの借入の借換か
次に以下の情報を借入ごと・月ごとに記載しましょう。
  • 返済額(元本)
  • 利払額(利息)
  • 返済額合計(元本+利息)
  • 借入金残高(○円)
複数の借入がある場合は、この4つの項目はそれぞれの合計値も計算して記載しておきます。 

また利子率について、全ての借入の利子率を加重平均した利子率を合わせて計算しておきます。

(3)売却可能な資産の特定等

 もし売却可能な資産があればその特定とその売却予想額も調べておきましょう。

ここでの「売却可能」とは「事業で使用していない資産」という意味です。昔から保有しているものの事業には使用していない不動産や、取引などの付き合いとは関係ない運用目的の有価証券などが該当します。

事業に使用しているものの売却できる資産というものもありえますが、ほとんどの場合に売却した後、その資産を賃借する必要があります(セールス・アンド・リースバック取引)。よって売却した方が効率がいいか、保有し続けた方が効率がいいかの判断を慎重にする必要がありますので、事業で使用していない資産とは分けて数字を記録しておきます。

3.損益計算書

(1)売上の分解

 本シリーズの売上に関する説明の回で、「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」というフレーズをご紹介しました。売上計画を作るにあたっては、その根拠を示すためにも単価×個数といったように掛け算を行う必要があります。そしてそれを適切に行うには過去どうであったかも参考のひとつとしますので、過去の売上について分解作業をしておく必要があります。

粗利益率の計算も含めて、以下の計算は実施しておきましょう。
  • 販売数量と販売単価と粗利益率
  • 販路別の売上と粗利益率
  • 顧客別の売上と粗利益率
  • 製品商品・サービス別の売上と粗利益率

(2)原価・販管費の固変分解

 原価や販管費のような費用は、固定費と変動費に分けることができます。ただ、一般的な販管費一覧や製造原価報告書を見ただけでは、どの科目が固定費で、どの科目が変動費かはおおよそしか分かりません。そのため、それぞれの費用の内容や性質を見極めて固定費か変動費かを判定する必要があり、その作業のことを固変分解と呼びます。

事業計画をつくる上では、売上額を変動させた場合の利益額の変動度合い(弾力性)を見たり、損益分岐点売上高を計算したりするために使用します。

固定費とは売上の数字とは直接は連動しない費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な固定費:
人件費、労務費、法定福利費、地代家賃、水道光熱費、減価償却費、リース料など
但し、本当にそれらが固定費かどうかは内容や性質を個別に確認した上で決定しましょう。例えば地代家賃は固定費の代表格ではありますが、飲食店の地代家賃が固定部分と売上連動部分に分かれている例もあるようです。他にも製造原価内の労務費を変動費と見る場合や、人件費の内残業代だけを変動費と見る場合もあります。
変動費とは売上の数字と連動する費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な変動費:
原材料、販売手数料、リベート、外注費など

(3)人件費等の詳細確認

ほとんどの中小企業にとって、人件費が最も大きい費用項目のひとつです。事業計画をつくる上でも大切な項目ですので、財務分析と合わせて以下の計算をしておきましょう。
  • 退職率
  • 労務費・給与等の分解(従業員数と平均年収)
  • 一人あたりの給与増加率
  • 法定福利費の人件費に対する比率
  • 賞与支給の方針や計算式
事業計画をつくる上では、上記数値をそのまま採用するとは限りませんが、大きく乖離させるわけにはいかないことも多いため、しっかりと確認しておきます。

(4)減価償却費の詳細確認

 将来の数値を計算する上で地味にやっかいなのが減価償却費です。資産ごとに償却期間、償却方法が違いますし、教科書どおりに表計算ソフトに計算式を入れてもなかなかうまく計算できないこともあります。また、将来の設備投資に対する減価償却額を正確に計算することは、その設備投資の内容が決定していない限りは不可能です。そのため、事業計画を作る上では、既存設備に関する将来の減価償却費は顧問税理士に算出をお願いするか、固定資産額に対する比率として計算してしまうかの方法をとります。税理士事務所によっては将来の減価償却費を計算するソフトウェアが未導入である場合もありますので、その場合は固定資産額に対する割合として計算してしまう方法をとることになります。

財務分析の段階では以下の事項を確認しておきましょう。
  • 既存設備の今後の減価償却費の計算
  • 減価償却費の固定資産に対する率の計算
  • 過去に償却不足があればその額の確認

(5)同業種の財務指標の入手

 顧問税理士や金融機関に相談して、同業種の財務指標一覧をできるだけ入手しておきましょう。実際には業種分類がうまく自社に当てはまらなかったり、企業規模がうまく当てはまらなかったりして使用しにくい面もあるのですが、やはり他社の数値というのは参考になります。

以上、長くなりましたが、事業計画を作る前にやっておくべき最低限の財務分析についての説明でした。

2020年9月20日日曜日

事業計画の作り方14 後継者の方向け(2) 現状理解と現状分析

後継者の方向けに事業計画の作り方を解説していくシリーズですが、前回説明したとおり、一定の前提を設けています。読者層として想定しているのは、先代経営者の親族かもともと会社の役職員であった後継者の方です。詳しくはシリーズの前回の記事をご確認ください。

さて、本シリーズの「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」にて、事業計画の作り方の全体像を説明した際、「現状分析」について触れました。後継者の方もこれから何をするか、すべきかを考えたいと思います。しかし、その前に一端立ち止まって以下のようなことを考えてみてください。
  • 個々の役職員の仕事ぶり、得意な仕事、キャリアプランや性格についてどのくらい理解していますか?
  • 自社の製品商品やサービスについて詳細に説明できますか?なぜお客様に選ばれているか説明できますか?
  • ひとつの製品商品やサービス当たりの本当の利益額を把握していますか?粗利ではなく本当の利益です。
  • 自社のお客様について詳細に説明できますか?BtoBであれば個別のお客様の情報について理解できていますか?BtoCであれば顧客層の詳細について説明できますか?
  • 自社の決算書や月次試算表を見て、内容の詳細を説明できますか?例えば販管費の中にある雑費について説明できますか?
  • 会社全体の売上や利益だけでなく、お金の流れ=キャッシュフローを詳細に説明できますか?
  • 金融機関からの借り入れについて、毎月の返済額を把握していますか?支店長や担当者の名前を覚えていますか?
等々。

これらの情報のほとんどは自然に集まってくるものではなく、情報を集計する仕組みや、情報が報告される仕組みを構築しておかなければなりませんし、これらのことを人に説明できるくらい理解しておかなければ事業計画を適切に作ることはできません。会社の仲間達も現状や自分たちのことを理解しようとしない後継者にはついて行きたいとは思えないでしょう。また、現状分析などをすっ飛ばして新しい施策を行ってしまうと、必要以上に既存の役職員の反発を招く結果となってしまいます(もちろん、既存役職員の反発を覚悟で実施しなければならない施策というものはあります)。

では、現状分析はどのように行ったらよいでしょうか。

(1)まずは、現状を理解しましょう。

 一番良い現状理解の方法は「自分で実際にやってみる」、「自分の目で確かめる」ことです。時間がないと言い訳しても始まりません。

ファーストリテイリング社はどのような職種での入社でも、まずは実際の店舗での勤務から開始するそうです。製造業では昔から、現場・現物・現実と言われています。後継者の現状理解も同様かと思います。
  • 先代経営者の話を改めて丁寧に聞き、どのような想いで経営してきたか、どのような苦労を乗り越えてきたか、まだ乗り越えられていない問題点は何かを理解しましょう。いつも同じ話を聞かされていると考えてしまい、大切なことを聞き逃したりしていることもあります。
  • 役職員と一緒に働き、コミュニケーションをとりましょう。面談だけでは理解が不十分に終わります。
  • ものづくりを自分もやってみて、作り手の働きぶりを見てみましょう。
  • 原価や費用を決算書や月次試算表上の数字としてだけ理解するのではなく、総勘定元帳などに目を通し、さらには現場に行き原価や費用の発生の現場を実際に見て確認しましょう。
  • 外注先や業務委託先の現場にも行き、業務がどのように行われているのか理解しましょう。
  • 棚卸しを一緒に行い、どのような在庫がどのように保管・管理されているか理解しましょう。
  • 営業に行ったり、既存のお客様に会いに行ったりして、お客様はどういったことで困っておりどのような事情を抱えているか、自社の製品商品やサービスがなぜ選ばれているか、なぜ選ばれていないか、生の声を聞きましょう。また、自社の営業担当者がどのような状況で営業活動を行っているか確認しましょう。
  • 保守・メンテナンスに同行し、どういった活動が顧客満足度の維持向上につながっているのかを確認しましょう。
  • 役職員と同じ場所で働き、役職員から見た職場環境について理解しましょう。
  • 金融機関への説明に同行し、金融機関側がどう考えているか、何を知りたがっているかを理解しましょう。
  • 同業他社の経営者や後継者の話を聞き、その環境や言動を理解しましょう。
以上はあくまでも例示です。他にもたくさん理解すべき現状があるはずですので自分で考え、先代経営者にも教えを請い、現状理解のためのなすべきことをリストアップし、実行していってください。

自分は現状を理解できている!というのは思い込みにすぎないことが少なくありません。謙虚な気持ちで取り組むことをおすすめします。

(2)次に現状を分析しましょう。

 「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」では現状分析のフレームワークについて代表的なものを紹介しました。それ以外でも、現状理解で集めた情報についての分析、数字や営業に関する分析はご自身で分析をすることをおすすめします。

現状理解で例示したことだけでも、
  • 人に関することでは、適材適所が実現できているか、改善可能な理由にも関わらず退職をしてしまいそうな役職員はいないか、といったことが分析できます。
  • ものづくりの現場でも、生産効率向上の余地はないか、品質向上の余地はないか、外注先や業務委託先は適切かといったことを分析できます。
  • 営業と棚卸しを両方行えば、在庫量やその種類が適切か分析できるかもしれません。
  • お客様の声を元に、自社の製品商品やサービスがお客様の期待に応えられているか、改善の余地がないか分析できます。
  • 役職員と同じ場所で一緒に働けば、評価制度や職場環境の改善可能性について分析できるでしょう。
営業に関することでは、きっと営業担当者ごとに顧客の性質や営業担当者のキャラクターなどが理由で、様々な営業スタイルがあったかと思いますが、基本的な型としてはどのようなものか、営業担当者の行動のあるべき姿とかいったことが分析できるはずです。

数字に関しては、まずは月次試算表などを元に毎月の貸借対照表や損益計算書の数値を一覧表に自分で入力していきましょう。見ているだけでは気が付かなかったことが見つかるはずです。自分で入力した一覧表を常に手元に置いておいて時間があるときに見直してみるとまた気づきがあります。また、合わせて財務分析を行っていろいろな指標を計算してみるのも良いことです。財務分析の中で気がつくこともあれば、月次決算が適切に行われていないことが理由で、財務分析が行えない事項、つまりは月次決算の要改善点も判明するでしょう。

製品商品やサービスことの利益額も計算してみましょう。そもそも原価計算はどのレベルで行えているでしょうか。粗利の把握が適切にできていないことも珍しくありません。また、原価に含まれないコスト(主には販管費)も考慮した場合、製品商品やサービスをひとつ・一回提供する毎に本当の利益はどの程度出るのかも分析しましょう。一回の営業でどの程度売上を作る必要があるのか、営業担当者ひとりあたりどの程度の売上が必要か、自社の目標利益を達成するためにどの程度の売上をあげる必要があるのかが分かりやすくなります。

キャッシュフロー計算書を自分で作成してみることも良いかもしれません。その過程で貸借対照表、損益計算書とキャッシュフロー、それぞれの関係性やお金の流れを理解できるようにもなります。

主要メンバーの時間の使い方の分析も重要です。一生懸命に仕事に取り組んでいる役職員の中にも、重要度や緊急度に応じた時間の使い方になっていない例が多くあります。例えば、営業の基本である顧客接点回数の最大化のために営業に充てる時間が一番重要にも関わらず、実際には他の業務に時間を取られていたなどといったことです。

以上のこともあくまでも例示です。同業他社の現状分析の方法を模倣するところから始めても構いません。分析をすればするほど、また新たに分析すべきことが見つかると思います。

「べンチャー型事業承継」という言葉があるように今後の後継者には、起業家的なマインドが求められてくるのは間違いありません。

一方で既に一定の歴史がある企業を受け継ぐのですから、現状の良い面悪い面もしっかりと理解して必要に応じて打ち手を打つ必要があります。重ねてになりますが、後継者にとっての事業計画づくりはまずは現状理解と現状分析がとても重要です。

なお、経営コンサルタントに現状分析を依頼して、その報告を受けるという手段もありますが、後継者自身が目、耳や足を使って理解・分析したものと比べても後継者の血肉となりにくいので、できるだけ現状理解と現状分析は後継者自身で行うのが良いと考えます。

2020年9月11日金曜日

NGCパートナーズの「M&Aセカンドオピニオンサービス」について


2020年3月に発表された「中小M&Aガイドライン」でその重要性が強調されたからか、M&Aのセカンドオピニオンのニーズが高まっています。NGCパートナーズでも対応していますので、以下ご案内します。

1.セカンドオピニオンとは?

 もともとは医療の用語として普及したもので、以下のような意味の言葉です。
セカンドオピニオンを簡単に説明すると、日本語では「第二の意見」と呼ばれるように、患者がある病気で診断を下された際に診断結果やその後の治療方針や治療方法について、主治医以外の医師から意見を聞くことを言います。主治医以外の意見を聞くことで、現在の治療が適切なのか、他に良い治療がないのかなど、患者がより納得のいく治療を受けることが可能になります。
(出典:セカンドオピニオン.com Webサイト)

2.M&Aにおけるセカンドオピニオンとは?

 中小M&Aガイドラインでは以下のように定義されています。
セカンド・オピニオンとは、中小M&Aを行おうとしている者が支援機関と契約を締結する際や、支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、他の支援機関から意見を求めることをいう。
同ガイドライン用に定義されている言葉が含まれますので、より一般的な用語で書き直すと以下のとおりです。

中小企業のM&Aにおけるセカンドオピニオンとは、
  • 事業を譲り渡す側(いわゆる売り手)や事業を譲り受ける側(いわゆる買い手)が、
  • M&A助言業務を行うM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者などと
  • ファイナンシャルアドバイザリー契約や仲介契約を締結する際や、
  • それらの事業者から受けたM&Aのストラクチャーやバリュエーションなどを含む専門的な助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、
  • 他のM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者などに意見を求めること

3.M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性

 医療におけるセカンドオピニオンは、患者が自分の病気やその治療法について理解し選択するために必要な方法のひとつとして実施される例が増えていますが、M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性は医療におけるそれと同じかそれ以上と言えます。理由は以下のとおりです。
  • M&Aはほとんどの中小企業にとって極めて少ない回数しか経験しないものであるため、日々忙しい経営者や企業オーナーが理解を深めていくことは容易ではない。
  • 専門家の質がどうかを、その分野の専門ではない者が判断するのはM&Aに限らず簡単ではない。
  • 加えて、M&A助言業務は医療行為とは違い資格や免許が不要なため、専門家が保有する専門性が一定水準以上であることが保証されない(士業専門家としてM&Aに関わっている場合は資格は保有しているが、M&A助言業務そのものが士業としての本来の業務ではないことが多いため、士業の資格を保有していることが、M&Aの専門性が一定水準以上であることを保証しているわけではない)。
これらを解消するために、国も事業承継ガイドライン中小M&Aガイドラインを定め、中小企業経営者や企業オーナーの理解を促進したり、M&Aに関わる専門家にもガイドラインに沿った一定水準以上の活動を求めてたりしていますし、日本M&Aアドバイザー協会のように専門性向上活動や職業人としての倫理の啓発活動を行っている例もあります。セカンドオピニオンもそういった問題を解消するためのひとつの方法といえます。

4.どういった場合にセカンドオピニオンがあると良いか?

 では、M&Aにおけるセカンドオピニオンはどういった場合にどのようなことを確認するために活用すると良いのでしょうか?先述の中小M&Aガイドラインではいくつかの例が紹介されています。
  • M&A助言業務を行うM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者とFA契約や仲介契約を締結する際に、業務の具体的内容や報酬の妥当性について意見を求める。
  • 最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約など)を締結・調印する前に、その契約内容について意見を求める。
同ガイドライン記載以外の事項でも
  • バリュエーションの結果や、その前提条件、算出過程の妥当性について意見を求める。
  • デューデリジェンスの結果や、その調査過程・範囲について意見を求める。
といったことが考えられます。

いずれの事項も、事業を譲り渡す側、事業を譲り受ける側、どちらの場合でもセカンドオピニオンの活用が望まれます。

5.要確認事項

 M&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者とのFA契約や仲介契約の中には専任条項と呼ばれる条項で、実質的にセカンドオピニオンが禁止されている場合があります。ほとんどの場合は、M&Aで極めて重要な秘密保持の観点から設けられている条項ですが、そういった場合はFA契約や仲介契約を締結する前に当該専門家に必ず相談しましょう。「中小M&Aガイドラインに記載されていたセカンドオピニオンを活用する可能性も残しておきたい」と伝えれば、ほとんどの専門家が対応してくれるはずです。

6.NGCパートナーズの「M&Aセカンドオピニオンサービス」について

 NGCパートナーズでは以下の内容でセカンドオピニオンサービスを実施可能です。

(1)対応可能事項
 M&Aに関する全般的事項について相談対応可能です。すでに締結している(もしくは締結予定の)FA契約や仲介契約に基づき御社がM&A専門家に委託している事項に準じます。
但し、以下の事項については対応不可です。
・弁護士法や税理士法に違反する可能性のある事項
・知的財産、環境や技術分野の高度な専門性の必要な事項

(2)相談対応方法
 Web会議システム、メール、電話や面談いずれの方法でも可能です。特に理由がない限り、Web会議システム+メールでの対応が基本となります。

(3)期間及び費用
 1ヶ月50,000円(税抜)~で、ご希望の期間対応します。1ヶ月からでも承ります。資料の作成などを伴わないご相談であれば月内に何度でも承ります。資料の作成が必要になる場合は別途ご相談ください。交通費や調査費などの実費が発生した場合はご負担をお願いします。

(4)業務受託までの流れ
 こちらからお問い合わせください。秘密保持契約を締結するか、こちらから秘密保持誓約書を差し入れさせていただくまでは御社名を伏せていただいて問題ありません。

2020年8月30日日曜日

ハンズオンとコンサルティング


一般に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)のような投資家が投資先企業に行う経営支援は「ハンズオン」と呼ばれています。一方で、経営支援を業として行っている存在の代表格と言えば経営コンサルタントである、とのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。今回の記事では、ハンズオンとコンサルティングを比較することで、両者への理解を深めていきたいと思います。

内容に入る前に、以下4点を先に述べておきたいと思います。
  1. まず、今回の記事はあくまでも「私が考えるハンズオンとコンサルティング」だとお考えください。言ってしまえば独断と偏見に基づいています。両方の言葉とも、通説と言われるような定義が定まってはいません。全く違うお考えをお持ちVC関係者や経営コンサルタントの方もいらっしゃると思います。
  2. 私個人としては、「和魂洋才」のように、ハンズオンのスタンスとコンサルティングのノウハウをうまく融合したいと考えていますので、今回の記事もそういったバイアスがあるかもしれません。なお、NGCパートナーズの事業内容については「経営・財務コンサルティング」と記載していますが、これは投資ありきではないこと、言葉の分かりやすさを優先させたことが理由です。
  3. プライベート・エクイティファンド(以下、PEファンド)も同様の活動を行っており、その活動のこともハンズオンと呼ぶ場合もありますが、VCや経営コンサルタントと異なりPEファンドが経営の最終意思決定権限を持つことも多いので、あくまでも経営支援であるハンズオンやコンサルティングとは同列に論じることができないと私は考えます。よって、今回の記事のハンズオンはPEファンドのそれではなくVCが行う経営支援のことを意味するものとします。
  4. 本文中で「支援先企業」という言葉を使用していますが、これはVCにとっては投資先企業、経営コンサルにとってはコンサル先企業を意味します。経営コンサルがコンサル先企業に資金を投じる(出資する)事例が多いのかは勉強不足で知りませんが、そういった事例や、VCが投資先企業ではない企業に対しコンサルを行うこともありますが、そういった事例などは説明の都合上、今回の記事の対象外です。
さて、それではハンズオンとコンサルティングを比較していきましょう。

(1)立ち位置

・ハンズオン
 VCと支援先企業とは株主と発行体と関係であり、運命共同体(On the same boat)です。そのため、VCの投資担当者は支援先企業の内部関係者として、支援先企業もしくは経営者とできるだけ近い立ち位置に自分たちを位置づけようとします。但し、運命共同体であっても目指すべき方向が一致しているとは限りませんし、投資と出口(EXIT)の場面では利害が一致しない可能性があります。

・経営コンサル
 経営コンサルタントはあくまでも支援先企業からの業務委託を受けた立場であり、形式上は支援先企業の外部関係者です。支援先企業もしくは経営者とは対面で接することが大半です。

(2)経営支援の実施方法

・ハンズオン
 VCは支援先企業もしくはその経営者と共に考え行動します。一部の分野については「教える」というかたちも取ります。正解がないスタートアップの世界で求められるスタンスとも言える一方、別に述べるとおりVCは経営支援の専門性が高くないことが多いためにそういった方法を取らざるを得ないという側面もあります。

・経営コンサル
 支援先の担当者に「教える」というのが基本的方法です。また、あくまでも経営の一部分(戦略、財務、会計、営業、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を持っているが故に教えるという方法になりがちであり、また高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。

(3)経営支援の範囲

・ハンズオン
 経営全般が対象です。資金を投じている株主であるため、経営のあらゆる面について関心があるからです。別に説明するとおり、VCは支援先企業の株主価値向上が儲けの源泉であり、支援先企業のあらゆる事象が株主価値に影響を与える以上、経営支援の範囲も経営全般とならざるを得ません。ハンズオンを標榜するVCの投資担当者がしばしば支援先企業の社外取締役などに就任することを考えると分かりやすいかもしれません。但しこのことは、全ての支援先企業の経営全般に常に関わることを意味するわけではありません。

・経営コンサル
 あくまでも経営の一部分(戦略、会計、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。但し経営コンサルタントが支援先企業の取締役などに就任することが稀にありますが、その際は経営全般に対する助言を行うこともあるでしょう。

(4)視点

この点に関しては、他の項目と比べてもかなりバイアスがかかった見方になってしまっているかもしれません。

・ハンズオン
 「ありたい姿」「あるべき姿」にいかに近づけていくかを軸とし、個別の戦略や戦術については仮説検証を繰り返すことが一般的です。確立されたノウハウがあるわけではないものの将来性のある産業や事業に投資し経営支援を行うのがVCの役割ですから、そうならざるをえないとも言えます。

・経営コンサル
 「システム」や「フレームワーク」ありきなことが少なくありません。経営コンサル会社自身が開発したシステムやフレームワークを持っていることもあり、支援のための手段にすぎないはずのそれらがいつの間にか目的化してしまっているのを見ることもあります。また最近は変わりつつあるようですが「論理的に正しいかどうか」がまだまだ他のことよりも優先されます。

(5)専門性

・ハンズオン
 高くはありません。ハンズオンの能力を高めるために組織的研修や訓練を行っているVCは日本ではほぼ皆無ですし、ハンズオンの内容の妥当性を組織的に検証する仕組みがあるVCも日本ではほぼ皆無ですので、良い意味でも悪い意味でもハンズオンの専門性は投資担当者次第になってしまっています。

・経営コンサル
 少なくともVCよりは圧倒的に高いことが多いです。組織的研修や訓練も充実していますし、経営支援に関する勉強量全体で見ても圧倒的です。

(6)結果責任

・ハンズオン
 経営支援の結果が、支援先企業の企業価値や株主価値を通じて、VCの損益に影響します。そういった意味で経営支援の結果責任を支援先企業と共有していると言えます。

・経営コンサル
 あくまでも業務委託契約の関係であり経営支援の結果責任を経営コンサルは負いません。もちろん、経営支援の結果が出ないと業務委託契約を更新してもらえない、評判悪化により新規契約が獲得できないなどの影響はありえます。

(7)位置づけと儲けの源泉

・ハンズオン
 VCは「経営支援を行う投資家」ですので、株式などに投資を行い、それが投資時より高い株価で売却することによる差額つまりはキャピタルゲインが儲けの源泉です。経営支援はキャピタルゲインを大きくしたり、確度を高めたりするための手段のひとつです。

・経営コンサル
 経営コンサルは支援先企業からの業務委託料などが儲けの源泉ですので、経営コンサルは目的そのものと言えます。

(8)ノウハウの開示

・ハンズオン
 支援先企業に対してという意味合いでは、VCは経営支援のノウハウを隠す必要がありませんので、必要に応じて全て開示することが一般的です。但し、開示できるほどの専門性がない、体系化がなされていないといったことはありえます。

・経営コンサル
 経営支援のノウハウそのものが経営コンサルの強みですので、全てを開示するのは難しいことも多いようです。

(9)ネットワーク・人脈

・ハンズオン
 VCのネットワークや人脈は広いことが多いです。VCの日常の活動の中で最も重視されるのは「将来有望な未上場企業を探し出してくる」ことであり、そのためにネットワークや人脈を構築することに多くの時間を割いています。

・経営コンサルティング
 VCほどネットワークや人脈を構築することに時間を割けませんので、VCよりは狭いことが一般的です。

(10)担当者の質、経営に関わった経験、実務経験など

 これはいずれも担当者次第と言えますが、組織的な研修や訓練の仕組みが脆弱なVCの方が当たり外れが多いと考えられます。実務経験に関して言うとVCの投資担当者はないことが大半です。最近は出身業界が多様になりつつありますが、業界全体で見ると新卒採用や金融機関出身者が多く、実務経験は期待できません。両業界とも、若手はやる気にあふれており、優秀で勉強熱心な人物が多いです。

以上を総括すると、VCは経営コンサルのノウハウを学ぶべきと考えますし、経営コンサルは支援先企業に対する出資機能を持つとより理想的な環境で経営支援が行えるのではないかと考えます。

また別の機会にVCの投資担当者とPEファンドの投資担当者の比較も行ってみたいと思います。

2020年8月23日日曜日

事業計画の作り方13 後継者の方向け(1) 解説の前提

今回からは、後継者の方向けに事業計画の作り方を説明していきます。初回となる今回は次回以降の解説の前提に触れておきたいと思います。

事業承継は、まず
  • 経営の承継
  • 財産・資産の承継
に分けられます。中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、経営の承継をさらに「人の承継」と「知的資産の承継」に分けていますが、理解しやすい方の分類を使っていただいて問題ありません。本シリーズは「事業計画の作り方」ですので取り扱うのは「経営(人+知的資産)の承継」の範囲です。

さて、事業承継は他に、
  • 親族内承継
  • 親族外承継
という分け方もでき、親族外承継はさらに
  • 役職員への承継(MBO、EBOなど)
  • 社外の第三者への承継(M&A、プロ経営者招聘など)
に分けることもできます。本シリーズでは「親族内承継」もしくは「役職員への承継」で会社を引き継いだ(もしくは引き継ぐ)後継者を想定読者層と考えています。

ところで後継者の方は、ある方は別の会社でビジネスパーソンとしての経験を積んだり、会社経営について学んだりしてきたかもしれません。ある方は早い段階で事業承継する会社に入社し現場経験を積んだり、後継者候補として経営の一端を担ったりしてきたかもしれません。どんな経験を積んできたとしても、いざ実際に後継者と決定してときには、やらなければならないことの多さにいい意味でも悪い意味でも驚かれているのではないでしょうか。
  • 事業は順調だが今ままでのやり方では少しずつ厳しくなってくるのは分かっており改革したいが、事業が順調なため改革の必要性の理解が得にくい。
  • 事業が厳しい状況となっており、改革の必要性ではコンセンサスがとれているが、まずは目の前の赤字や資金不足を解消させなければならない。
  • 既存事業が順調なうちに新規事業に取り組みたい。
  • これからも大切にしていきたい理念や事業もある一方、新たに取り入れたい考え方や新たに開始したい事業もあり、日々の業務もある中頭の整理も追いつかず、手も回らない。
などなど。

何から開始していけばいいか、残念ながらすべての場合に当てはまる方程式のようなものはなく、個別具体的に考えていく必要があるかと思います。このシリーズでは、以下のようなパターンを想定して解説を行っていきます。

<解説の前提としての想定>
  • 後継者は先代経営者の親族かもともと会社の役職員(つまりはM&Aやプロ経営者招聘ではない)
  • 後継者がようやく経営の意思決定を任せられ始めたタイミング
  • 既存事業は昔は大きな利益を上げていたが、現在は決して順風満帆ではない(市場は縮小傾向、売上は営業努力で何とか水平飛行、損益は若干の黒字か赤字)
  • 資金の余力はない(従業員や取引先への支払いが遅れることはないが、運転資金と返済資金でギリギリであり余裕資金は少ない)
  • 事業を推進するために必要なデータは先代経営者やベテラン役職員の頭の中にあり、可視化に取り組み始めたところ
  • 後継者はやる気も体力もあり、既存事業のテコ入れと新規事業の開始により、企業を再び成長軌道に戻したいと考えている
私が今までの何らかのかたちでコンサルをさせていただいた事業承継事例も、このようなパターンが大きな割合を占めていました。上記のような前提だけで後継者の取り組み方やコンサルの仕方が一義的に決まるわけではありません。次回以降の解説を読んでいただける後継者の方は、自分の場合はどうすべきだろうと考えながら目を通していただければ幸いです。


2020年8月10日月曜日

事業計画の作り方12 起業前の方向け(11) まとめ

「事業計画の作り方シリーズ 起業前の方向け」の具体的内容は前回で終了しました。今回はまとめとして、起業をお考えの方にお伝えしたいことを記載します。

今回のシリーズの内容は、ある地域で開催された起業セミナーで私が講師を担当させていただいた際の講義内容を、大幅に加筆修正したものです。その起業セミナーは、「講義+実践(事業計画作り)+個別相談」で構成されており、今回のシリーズはあくまでもその「講義」の部分だけです。インプットはアウトプットを伴ってこそのものですし、実際にアウトプットしてみないと個別具体的な疑問も湧いてきません。一方である程度のインプットがないと意味があるアウトプットができないという面もあります。ですので、今回のシリーズの内容は、事業計画つくりのために十分とは言えないが必要なものと言えると思います。

そういう意味もあり、スモールビジネスの起業をお考えの方にはぜひ地元で開催されている起業セミナーに参加してみることをおすすめします。また違った視点での知識や考え方のインプットもできますし、アウトプット(事業計画作成)の実践もできます。そして何よりも、起業家仲間(同期の起業家や、先輩起業家など)ができることが良いところです。起業家には同じ起業家仲間にしか分からない悩みがあります。そういうことを相談しあえる起業家仲間は本当に得難い存在です。

また、起業に向けていろいろ勉強していくうちに、起業のリスクについても理解が深まり、その結果起業することに及び腰になってしまうこともあるかもしれません。しかし、リスクをとらずして事業の成功はありえません。また、起業をすることはみなさんの夢を叶えるため手段かと思います。夢ばかり見ていてはリスクに足をすくわれかねませんし、リスクばかり見ていては夢を叶えることができません。夢とリスク、どちらか一方だけに気を取られることなく意思決定していただければと思います。

2020年8月7日金曜日

事業計画の作り方11 起業前の方向け(10) 資金調達

今回は資金調達についての説明です。資金調達を行うにあたっては、コーポレートファイナンス(企業財務)の勉強をしておくことを奨められることも多いですが、スモールビジネスの起業を考えている今の段階では難しいことには深入りしすぎず、まずは今回説明することを理解しておきましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(5)資金調達


(A)資金調達を行うことで生じる責任について理解する
 当ブログの記事である「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」、「起業の覚悟、資金調達の責任(下)」をぜひご一読ください。

大切なことばかりをまとめた記事なのですが、特に以下の引用箇所はとても大切です。

起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

この引用箇所の文章は、主に投資家や金融機関から資金調達を行うことを想定して書いたものですが、投資家や金融機関ではなく、それが家族であったり友人であったり補助金であったりしても資金調達を行う際には責任が生じることに変わりはありません。いずれの場合も、起業家に何かの期待をしているからこそ資金を出してくれたのだと思います。その期待とは金銭的なものばかりとは限りません。資金提供者の期待は何かということと、その期待に応えるための最大限の努力をする責任が生じたことを正しく理解しましょう。


(B)資金調達の選択肢について理解する
 起業前後での資金調達の方法としては、
  • 自己資金
  • 配偶者や親族からの出資金や借入金
  • 友人や知人からの出資金や借入金
が大半で、3F(Founder, Family, Friends)と呼ばれています。

「起業を考えたら貯金を始める!」というのが大原則です。あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません(株式投資などは余裕資金で行うのが原則です。将来使う予定がある資金で株式投資などを行うことはおすすめできません)。起業の後、1年以上全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということも起業の心得としてよく言われます。

3Fに続くのが、
  • 公的機関からの助成金
  • 政府系金融機関からの借入金
  • クラウドファンディング
  • 創業支援ファンド(地域金融機関)からの投資資金
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの投資資金
といったものです。

公的機関(国、地方自治体やその外郭団体など)からの助成金は充実している一方、種類が多く分かりくい面もありますので、窓口に行って相談してみましょう。窓口は「創業支援センター」や「中小企業振興公社」などといった名称であることが多いようです。

政府系金融機関については、日本政策金融公庫の創業支援のWebページや資料を一読しておきましょう。創業を具体的に考えたらまずは相談に行くところ、と言っても過言ではありません。

クラウドファンディングは多くの個人から資金を募る方法です。Makuakeなどが有名です。単なる資金調達というだけでなく、ファンづくりやマーケティングの一環としても活用できます。

創業支援ファンドというのは、一部の地域金融機関が運営している創業支援に特化したファンドです。そういったファンドを運営している金融機関は創業支援に熱心な金融機関とも言えます。

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の活用はスモールビジネスではあまり見かけません。ベンチャーキャピタルは業として未上場企業への投資育成を行っている会社ですが、主に株式上場やM&Aでの会社売却を考えている企業が支援対象で、幅広く資金供給を行う存在ではありません。エンジェル投資家は過去に同じ起業家として成功し、その経験を活かして後輩起業家を応援する存在ですが、日本ではまだまだ数も少なく、質も玉石混交という状態です。


次回は「起業前の方向け事業計画の作り方」の最終回として、簡単なまとめを行います。

2020年8月3日月曜日

事業計画の作り方10 起業前の方向け(9) 設備資金

今回は設備資金についての説明です。そもそも事業に必要な設備とは何か、そこで必要となる資金についてどう考えておく必要があるかをみていきます。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)設備資金


(A)設備
 ソフトウェア・Web系の事業やコンサルティング事業であれば、パソコンとスマートフォンがあればひとまずは事業を行うことが可能ですが、多くの事業では「設備」が欠かせません。みなさんの事業にはどういった設備が必要になるでしょうか?以下、代表的な設備と、資金面での手当について列挙します。

・店舗
 モノを販売したり、サービスを提供したりする場所として必要です。いわゆる居抜き物件(同業他社が撤退した後の店舗をそのままに近い状態で賃借できる物件)であれば初期投資は抑えることができますが、反対にスケルトン物件に一から内装外装を行うのであれば大きな額の資金が必要です。

・備品
 業務を行う際の道具などとして使用するもの全般です。飲食店であれば厨房機器、調理道具やホール備品などが考えられます。サービス業でもお客様を迎えるためのスペースに置く必要がある椅子やデスクなどが考えられます。備品も居抜き物件であれば安価に入手できるかもしれませんが、一から購入となると大きな額の資金が必要なこともあります。中古品の活用も検討しましょう。

・事務所
 役職員(特に内勤者)が働く場所です。物件を賃借すると毎月固定費としての地代家賃が発生します。入居前にはまとまった額の敷金も必要でしょう。コロナ禍の前ですとコワーキングスペースやシェアオフィスを借りるという手段をとる企業も増えていました。初期費用も毎月の家賃(会費という名目の場合もあります)も通常の物件を賃借するよりも低額ですませることができます。今後、在宅勤務が根付いていくのであればそもそも事務所は必要かということも考えておくべきです。

・工場
 モノを製造する場所です。当シリーズで想定しているスモールビジネスでは製造業は極めて少ないと考えられますが、もしモノの製造販売をお考えの場合、製造を外注する方法も検討しましょう。

・車両
 製品を運んだり、顧客を訪問したりする際に使用します。事業を推進する場面を想像して、車両の稼働率がどのくらいになるかは事前に計算しておきましょう。また、たとえば営業活動に使用する場合でも、本当に訪問営業が必要か、インサイドセールスの活用が可能ではないかといったことを考えるなど、車両の必要性はしっかりと考えておいた方が良いです。営業活動中の交通事故というリスクも無視はできません。

どの設備であれ、イニシャルコスト(導入時に発生する費用)だけでなく、ランニングコスト(定期・不定期に発生する費用)が必要となります。一部の設備ではランニングコストの考慮をを忘れてしまうことも少なくはありません。見落としがないようにしましょう。

近年は、「持たざる経営」というキーワードで、「設備を持たない」選択肢も増えています。上記のいずれの設備も購入する場合は高額となりますので、レンタル・リースやシェアリングサービスを利用することも合わせて検討しましょう。

(B)固定費と変動費
 設備資金の解説の中で、レンタル、リースやシェアリングサービスについて触れましたが、レンタルやリースを活用すると、イニシャルコストが必要がなくなるというメリットがある一方、ランニングコストであるレンタル料やリース代を支払う必要がでます。こういった料金は、売上や利益の金額に関係なく支払う必要があるため「固定費」と呼ばれます。地代家賃を考えると分かりやすいですが、店舗を借りて家賃を支払う約束をしている場合、一般的には売上がなくても家賃は支払わなければいけません。

反対に、営業活動や売上に比例する費用を「変動費」と呼びます。店舗売上に対する比率として家賃を支払う場合、必要なときだけ自動車を借りるカー・シェアリングなどが典型例です。

会社の経営にとって、固定費と変動費、どちらの費用がいいかというのはシチュエーションによって異なるため正解はありません。しかしスモールビジネスの場合はできるだけ固定費を抑えることが大切です。スモールビジネスは外部環境・内部環境の影響を受けやすく、何かの拍子に売上が大きく減少することを覚悟しておく必要があります。そのときに、売上に関係なく発生する固定費が多いと途端に資金不足に陥ってしまう可能性があります。

設備が必要となった際には、
  • 購入する方がいいか、借りる方がいいか。
  • 固定費を抑えたり、変動費化したりする方法はないか。
を必ず検討しましょう。

次回は「資金調達」について説明を行います。

2020年8月2日日曜日

事業計画の作り方9 起業前の方向け(8) 運転資金

今回は運転資金についての説明です。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(3)運転資金


運転資金とは日々の事業を継続していくために必要となるお金のことです。今回説明するように事業を行う場面では、個人の日常生活とはお金の動きが「タイミング」という面で大きく異なります。そのため運転資金と呼ばれる手元に日頃から用意しておく資金が必要となります。この運転資金についてよく理解した上で、日々の事業の中で適切に対応しておかないと、資金繰りに追われて事業に集中できない状態に陥ってしまう可能性があります。資金繰りは経営者の仕事だと言われることがあります。しかしそれは資金繰りに追われる状態を是としたものではなく、そもそも資金繰り対応に追われなくて良い状態を維持しておくことこそが経営者の仕事であるという意味合いです。

本シリーズでは、
運転資金=日々の事業を継続していくために必要となる(使う予定のある)お金
手元資金=社内の金庫及び金融機関口座に預けてある資金の内、いざとなったらすぐに使える資金
という定義で進めていきます。

(A)支払いと受け取り
 前述のとおり、事業上のお金の流れと個人の日常生活ではお金の動くタイミングが大きく異なります。まず最初に理解しておく必要があるのが「支払いと受け取りのタイミング」です。事業では自社がお金を受け取るよりも、お金を支払うタイミングが先行することが一般的です。このことは、販売よりも仕入が先に来ることを考えれば理解できます。

例)10/1 果物100個を単価90円で仕入れた。 
    仕入代金の支払いは、仕入の30日後という約束となっている。
  10/5 その果物100個を単価100円で、地元のパフェ店に販売した。 
    販売した代金は、翌月末に支払を受けることとなっている。
  10/31 仕入代金9,000円を支払った。
  11/30 販売代金10,000円を受け取った。

この例の場合、9,000円で仕入れたものを10,000円で売っているのですから利益は1,000円あがっています。しかし、仕入代金9,000円の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ていることに注目してください。手元に予め資金を用意しておかないと仕入代金9,000円の支払いができませんし、11月は月末まで手元に資金がない状態となってしまいます。

一方でこれが掛取引(後日まとめてお金の受け渡しを行うかたちの取引)ではなく、現金取引だったとしたらどうでしょう?その場合でも、やはり仕入代金の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ることが分かります。やはり予め手元に資金が必要です。

上記の例のように利益があがっているにも関わらず、手元資金が足りなくなってしまい事業が継続できなくなることを「黒字倒産」と呼びます。

(B)先行する経費
 さらには、販売した代金を受け取る前にも、事業としては経費が発生しています。先ほどの例でいうと、11/30に販売代金を受け取る前にも、

 10/25 従業員への給料の支払い
 10/27 店舗家賃の支払い

といった支払いが必要だと考えてみてください。また、他にも、取引先が倒産して支払を受けられなくなる、取引先が単純ミスで代金の振込を忘れる、などのトラブルがあるかもしれません。 


上記(A)(B)で出てきた、
  • 支払いと受け取りのタイムラグを埋めるための手元資金
  • 先行する経費の支払いに当てるための手元資金
  • トラブルに備えるための手元資金
を合わせて「運転資金」と呼びます。

事業内容によっても異なりますが、事業が軌道に乗ってきた後でも、少なくとも3か月程度の間売上がなくとも資金に困らないくらいの手元資金が必要と言われています(創業時にはさらに多くの資金があることが望まれます。「資金調達」の回で説明します)。一般的に、飲食店のようないわゆる日銭商売(ひぜにしょうばい)と呼ばれる業種では、掛取引主体の業種よりも少ない運転資金で事業運営が可能と言われていますが、2020年のコロナ禍の中での飲食店の苦境を見ると、どんな業種でも手元には通常必要となる運転資金以上の資金を、少しでも多く用意しておくことが必要な時期があることも分かります(Cash is King.)。

本シリーズを読んでくださっている皆さんは、「事業計画の作り方3 起業前の方向け(2) 営業循環図」で営業循環図、つまりは取引の流れを図で示す方法をすでに学んでいますので、そこにさらにお金の流れるタイミングを記入してみましょう。さらには「事業計画の作り方8 起業前の方向け(7) 売上高・原価、経費」で考えた発生する経費の支払いタイミングを調べてみましょう。その際、売上に関係なく発生する固定費についても忘れずにお願いします。

運転資金や資金繰りについてより具体的に考えたり、予測したりしたい方は、次のステップとして「資金繰り表」を活用されることをおすすめします。

 資金繰り表の例:日本政策金融公庫Webページ(ZIPファイル)


次回は「設備資金」から説明を行います。