NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2022年12月24日土曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(2) 金融機関からの借入でM&Aを行う場合のスケジュール

企業や事業の買収を、負債として調達した資金で行うことの良し悪しは意見が分かれるところです。投資は余裕資金で行いましょう、というのも正しいと考えられますし、負債でレバレッジを効かせて投資効率を高めましょう、というのも一定の条件下では正しいと考えられます。ただ、常に余裕資金があるわけではない中小企業が買い手となるM&Aにおいては、多くの場合、金融機関からの借入資金をそれに充てることになりますし、ある程度余裕資金があったとしても、手元資金を減らしたくないという考えで、金融機関からの借入資金を充てることも少なくないでしょう。

金融機関からの借入資金で中小M&Aを行う場合、
  • デューデリの結果
  • 買収対象企業の事業計画(デューデリで判明した事項を反映したもの)
  • 買収対象企業から親会社(買収を行う側)にもたらされるキャッシュフローによる返済計画
だけでなく、
  • 買い手側の事業計画や資金計画
も金融機関の審査対象となります。SPC(特別目的会社)を活用するM&Aは、中小M&Aではまだ特殊な事例かと考えられますので、この記事では「買い手側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合の買い手側の立場を前提としています。

さて、金融機関からの実際の審査内容ももちろん重要ですが、同じくらい重要なのがスケジュールです。
  1. 自社(買い手)の希望するクロージング(株式譲渡及び代金決済)日
  2. 売り手側の希望するクロージング日
  3. デューデリのスケジュール
  4. 金融機関の審査のスケジュール
といったことを調整していく決定していく必要があります。

通常、買い手側と売り手側の希望クロージング日(1と2)をまず調整します。買い手側はM&Aはゴールではなく、クロージング後に対象会社の経営をしていく必要があり、その準備の進捗なども考慮に入れる必要があり、必ずしも最短スケジュールで進めようとは考えていないかもしれません。一方で売り手はM&Aで得た資金を別の投資に回す計画があったりと、できるだけ短いスケジュールで進めることを希望するかもしれません。それぞれ逆の場合もあるでしょう。そういった点を調整する必要があります。

本来望ましいのは、そのようにして上記1と2を調整して定めたクロージング日から逆算して3と4のスケジュールを決める、という流れですが、そう簡単にはいかないケースが多くあります。

3のデューデリのスケジュールですが、買い手側は経験のある税理士・会計士・弁護士に依頼したり、M&Aアドバイザーにプロジェクトリーダー的に動いてもらったりすることで「プロの手を借りる」ことができる場合が多いのでそれほど問題とはなりませんが、売り手や対象会社は買い手側からの開示依頼資料を準備したりインタビューに対応したりしないといけません。M&Aアドバイザーがいたとしても準備・対応は社内で行わざるを得ないでしょう。そして当然ながら、初めてのことなので予め資料の準備ができているとは限りません。そうして「資料の準備・提出が遅れる→デューデリス全体が遅れる」ことにより、他の項目のスケジュールに影響を与える、ということが起きてしまいます。もちろん、デューデリ結果がなければ買い手側の意思決定が行えない、という大きな問題もあります。

4の金融機関のスケジュールですが、買い手側の対応力・説明力、3のデューデリのスケジュール、金融機関側の体制・フローや経験値などの影響を受けます。買い手側が先述のような資料を用意して金融機関へ説明を行うのですが、すでに経験があったり適切なフォローをしてくれるM&Aアドバイザーなどがいる場合以外は、その説明に苦戦するかもしれません。また、様々な資料の提出を求められますが、最終的に必ず必要となる書類のひとつに「デューデリ報告書」があります。デューデリを行った税理士・会計士・弁護士等の専門家が依頼主である買い手に提出するものです。ですので上記3のデューデリが遅れている場合、金融機関への資料提出が遅れ、借入日も遅れ、結果としてクロージング日も遅れるということとなります。

では一体どうやってM&Aのスケジュールを決めていけば良いでしょうか。買い手側の立場では、
  • まず金融機関に一般論としてのM&A資金融資の審査に必要な期間を確認する。
  • 次にデューデリ専門家にデューデリに必要な期間を確認する。
  • それらの情報を得た上で、売り手側とスケジュール調整する(もしくはM&Aアドバイザーにスケジュール調整を依頼する)。
という流れが良いかと考えます。

その際の注意点としては、
  • 金融機関には、金融機関内の審査や、決裁を得る手順を教えてもらえる範囲で細かく聞いて、どのタイミングでどういった資料や情報が必要になるか、それぞれの手順にどの程度の時間を見込んでおけば良いか、などを確認することが重要です。また先に提出できる書類もあるかもしれませんので、早めに「必要となる(であろう)書類」一式を確認しておきましょう。
  • デューデリ専門家との間では、デューデリの範囲をどうすべきかを相談しながらスケジュールを確認していきましょう。不必要な範囲までデューデリ範囲としてしまうことは、時間的にも費用的にも無駄で終わってしまう可能性もあります。
  • 売り手側とのスケジュール調整の中で、買い手側の希望よりも短い期間での対応を要することとなる場合もあるでしょう。そういった場合には、売り手や対象会社からの資料の提出を前倒ししてもらうことでデューデリ期間を少しでも短くできるようにしたりする工夫が必要となります。

以上、「買収する側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合のM&Aスケジュール調整の例を解説しました。M&Aの経験が複数回あったり、適切な動きをしてくれるM&Aアドバイザーがいる場合はそれほど苦労せずにできそうなことでも、初めての経験で適切な助言者もいない場合だと苦労することとなります。

ところで、この記事で「適切に助言をしてくれるM&Aアドバイザー」という趣旨の言葉を何回か使用しましたが、前回の記事でも少しご紹介したとおり、全てのM&Aアドバイザーが適切な助言をしてくれるわけではないことには注意が必要です。
  • M&Aが早くクロージングした方がM&Aアドバイザーが早く成功報酬を得られる場合。
  • 仲介の立場でも何等かの理由で売り手重視の対応をとる場合。
  • M&Aアドバイザーの担当者の経験値が高くない場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の総合的な経験値は低くはないが、金融機関対応など個別のテーマでは苦手分野がある場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の経験値に関係なく、「こういうスケジュールで進められるはずだ」という思い込み先行となってしまっている場合。
といった例においては、M&Aアドバイザー自身が買い手の立場にたってスケジュール策定をしてくれない可能性もあります。ですので、M&Aアドバイザー側にスケジュールの根拠などを細かく確認したり、セカンドオピニオンを得たりすることも大切です。

以上、私がセカンドオピニオン的立場にたって助言をしていた際のトラブルを元にまとめました。この記事が参考になれば幸いです。

2022年12月14日水曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(1) M&A仲介会社等との関係

現在、NGCパートナーズではM&Aアドバイザリー業務単体での新規受託は停止していますが、セカンドオピニオン業務を行う場面は少なからずあります。主には経営・財務コンサルティングの既存クライアント事業者様が、M&A仲介専業会社から持ち込まれた案件の買収検討を行う場合に、当該クライアント事業者様から助言を求められる、というかたちです(案件情報元のM&A仲介専業会社が「仲介」の立場、私共がセカンドオピニオン提供者という立場です)。

M&A仲介専業会社の多くは、さすが専業だけあって、案件情報量や、業界特化している場合はその業界の専門知識も豊富で感心させられます。また、多くの場合、買い手と売り手にとっての利益を第一に考えM&Aを成功裏に着地させようと努力をしてくれます。一方で、疑問に感じる対応も見受けられる場合もあります。今回の記事では中小M&Aのセカンドオピニオン業務で出会った事例の内、少なからず散見される問題事例、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者が気を付けておくべき事項などをご紹介します。

[事例]

  1. M&A仲介会社が会社としては中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っているが、現場の担当者(M&Aコンサルタントなど)はそれを知らない、ファイナンシャルアドバイザリー(FA)契約がガイドラインに対応していない。
  2. デューデリジェンス実施に関する助言はM&A仲介業務の範囲外として、専門家紹介やデューデリのとりまとめを行わない。しかもそれをFA契約締結前に説明しない。
  3. デューデリジェンスの日程や、その結果を受けての買い手側の検討時間を無理に短く設定する、など強引なスケジュール設定を行う。
  4. デューデリジェンスの実施範囲について、買い手に不適切な助言をしたり、相談せずに勝手に決めてしまう。
  5. デューデリジェンスで判明した事実の中で、M&A価額に反映させるべきか検討を要する事項があった場合も、M&A価額を変えない方針の下、強引に話を進めようとする。
  6. 買い手側がM&A資金を借入で調達しようとしている場合でも、そのことへの助言や支援を行わない。
  7. 売り手や対象会社から説明を受けていた重要な事実を、適切なタイミングで買い手に伝えない。

[解説]
  1. 多くのM&A仲介会社やFA事業者は、中小企業庁(経済産業省)の「M&A支援機関登録制度」で支援機関として登録を行っており、登録した者は中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っています。多くの者はガイドラインに沿ったかたちでFA業務を行っているはずですが、中には現場の担当者まで徹底されておらず、また雛形として利用しているFA契約がガイドラインに全く対応していない、などの事例が見受けられます。M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は、FA契約を顧問弁護士等にチェックしてもらうのは当然として、中小M&Aガイドラインに対応しているか、も合わせて必ずご確認ください。
  2. M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は多くの場合はM&Aの経験は初めてです。その中でもデューデリジェンスについては、どういったものを実施すべきか、どういった専門家に依頼すべきか、出てきた報告書をどう判断に活かすべきか、と疑問がつきない場面のひとつです。多くのM&A仲介会社はそれらの助言を行いますが、それらの助言をほぼ放棄しているM&A仲介会社もあります。言い分としては、成功報酬を低く抑えているので実施するサービスの範囲も限定している、といったものが多いようです。しかし実際にはフルサービスを提供してくれる他社と比べ特に成功報酬が低額な訳でもありません。他にも同様の事例があり、例えば売り手企業の情報をコンパクトにまとめた企業概要書を作成しない、初期段階で買い手に提供する資料は売り手側作成且つ、M&A仲介会社のチェックも入っていない資料を転送してくるだけ、といった手抜き事例も見受けられます。少なくともFA契約締結後にそれに類するような事態となることを避けるためにも、M&A仲介会社が実施するサービスの詳細について必ずご確認ください。
  3. M&A仲介会社は多くの場合、M&A成約後に売り手と買い手から受領する成功報酬が自社の売上利益となります。また、担当者へのインセンティブもそれを元に計算する場合が少なくないようです。そのためか、売り手も買い手も求めていないにも関わらずタイトなスケジュールを設定しようとしてくる事例が見受けられます。もちろん、何かしらの必要性があったり、やむを得ない事情でそうなっているのかもしれません。いずれにせよ、M&A仲介会社が提示してきたスケジュールはその理由を必ず確認し、変更を希望する場合はその旨をはっきりと伝えるようにしましょう。
  4. M&A仲介会社の中にはデューデリジェンス実施範囲を不当に限定されたものにしようとする助言を行う事業者もいるようです。ひどい事例になると、デューデリジェンスは必要ない旨助言したり、最低限の財務税務のデューデリだけ実施し他のデューデリは行わないよう助言したりする事例です。M&A仲介会社はM&Aが成約し決済されるまでが仕事ですが、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者はM&A成約・決済後が本番と言え、その本番を迎えるにあたってデューデリ報告書の内容はとても重要です。デューデリはM&A価額算定のためだけに行うものではありませんので、M&A後を見据え、どういったデューデリを行うべきか慎重に検討するようにしましょう。
  5. M&A仲介会社は買い手と売り手の間に立って両社の利害を調整しつつM&Aを成約させるのが役割ですし、中小M&Aの場合、デューデリで何かしら問題が発見されたら即M&A価額を下げる、といったことが行いにくい場合があるのは事実です。しかし、それは例えばデューデリ報告書の内容を精査し、その後の売り手側との調整にどう織り込むか、などを買い手が十分に考えてから対応すべき事柄であり、M&A仲介会社が強引に話を進めて良い類のものではありません。
  6. M&A資金を負債で調達することが適切かどうかは意見が分かれるところですが、中小M&Aでは実際にはよく行われる方法です。その場合、M&Aの検討と、金融機関との折衝が同時並行で行われ、しかも金融機関に対しどのように説明していくかは、なかなか難しい場面もあります。守秘義務があったり、デューデリが終わるまでは買い手側も情報量が不足していたりと通常の借入とは異なる面が多いからです。そのため、多くのM&A仲介会社はその金融機関対応についても助言を行います。金融機関からの融資がないとM&Aが成立しないこととなるのですし、当然とも言えます。しかし、そこを苦手としているM&A仲介会社もあり、その場合、全く助言が期待できません。M&A資金を負債で調達する必要がある場合は、そこへの支援や助言をしてもらえるか、事前に必ず確認しましょう。
  7. これについてはなかなか対策のしようがないのですが、デューデリも終わって、最終契約(株式譲渡契約など)の内容もほぼ合意したタイミングくらいで「実は・・・・」と言って悪い情報を買い手に伝えてくるM&A仲介会社があります。M&A仲介会社自身は必ずしもそのタイミングでその情報を知ったわけではなく、売り手からはかなり前の段階で話を聞いていることもあるようです。買い手側としては今更M&Aを破談にするわけにもいかないということで対応に困ってしまう場合もあります。
以上、いくつかの事例をご紹介しました。セカンドオピニオンを別の専門家に依頼していたとしても全てを防ぐことができるわけではありませんが、M&A自体が初めて、という場合だけでなく、そのM&A仲介会社に依頼するのが初めて、という場合もセカンドオピニオンを得ることは選択肢として検討の価値があるかと考えます。


2021年12月30日木曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 資金調達で知っておくべきこと

本記事は過去の記事の内容を「事業計画の作り方」シリーズ向けに加筆・修正したものです。

今回は、資金調達で知っておくべきことについて解説します。本編の資金調達に関する記事も併せてご覧ください。

1.資金調達を行う理由と、資金調達の種類

まず、会社はなぜ資金調達を行うのでしょうか?資金調達をしなければ事業を推進できない、パーパスを実現できない、成長できない、などの理由が挙げられます。増資に限って言えば、著名人や有名企業に株主になってもらい会社の信用性を高める狙いなどもありえます。

さらには応用編として、経営に規律を設けるという意味もあります。金融機関から借入をすると、契約に従って毎月返済や利払を行う必要があります。そのため、毎月しっかりと資金を用意できるよう、経営に規律を持たせようという動機が強まるのです。社内体制の整備のきっかけとするといった側面もあります。株主や債権者に対して経営の状況を説明するためには、会社の体制を整備して、社内の情報をしっかりと管理できるようになる必要があるからです。

ところで、「資金調達」とはそもそもどういったものがあるのでしょうか?主に以下のように分けられます。
  1. デットファイナンス : 金融機関からの借入が典型例です。
  2. エクイティファイナンス : エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルやCVCからの資金調達が例に挙げられます。
  3. アセットファイナンス : 会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを活用して資金を得る方法を指します。ファクタリングもここに該当します。
  4. 事業で得られる儲けを蓄積する
本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を前提として進めたいと思います。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と適宜読み替えてください。


2.資金調達を行うために必要なこと

それでは次に資金調達を行うために必要なことをいくつかご紹介していきます。


(1)起業を考え始めたら預金を始めましょう

あくまでも預金であって、株式などでの運用は含みません。そもそも、株式などのリスクのある金融商品は「余裕資金」、言い換えると、なくなっても困ることはない資金で行うものです。起業のために使う、という目的がある以上、株式などではなく預金が正解です。起業の際によく言われるのが、起業の後、2年間全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということです。これはとても大切で、起業した後から営業活動を開始すると、毎日のように減り続ける通帳残高を見て焦りながら営業活動をする羽目になるため、良い結果を生むことができないことが多いと言われます。だからこそ、本来は起業前にいくつか受注確実な仕事を見つけておくことがベストではありますが、なかなかそうもいかないので、次善の策として貯金をしておくのです。

また、自分で資金を用意するかどうかは、その後の資金調達にも大きく影響します。考えてみてください。みなさんの知人が起業したとします。でもその知人自身はお金を出さず、周りの人にお金を出してくれと言っているのを見たらどう思いますか?「まずは自分で出そうよ」と思う方が多いのではないでしょうか。起業家自身が資金を用意することは、その起業家の覚悟の現れや、事前の準備の度合いとも見られるのです。


(2)会社のお金の流れ、事業でのお金の流れを理解し、予測・計算できるようにしておきましょう

ここでは詳しくは説明しませんが、利益が出たからといって、手元にお金が残るわけではありません。利益が出ているのにお金が減ることもあります。逆に、利益が出ていなくてもお金が手元にある限りは、会社は存続できます。

「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるかと思います。読んで字のごとく、利益は出ているのに、会社が倒産してしまうことを意味します。これは経営者が自分の事業のお金の流れを理解していない、もしくは予測に失敗したことが理由で起きます。そんなことになりそうな会社には、金融機関や投資家も怖くて資金を出せないはずです。また、お金の流れを予測できていないと、お金が足りなくなって慌てて資金調達を行うことになります。しかし、資金調達には一定の時間がかかるのです。また、自分が焦っていると、自分にとって不利な条件での資金調達という結果にもなりかねません。こういった話のときによくあるのが、会計や経理のことは全て顧問税理士に任せているので、自分は詳しくは分からない、という事例です。しかし、任せていることと経営者自身が理解することは全く別の話といえます。それに、会社を大きくしていきたいとお考えの場合は、会計や経理はできるだけ社内で行うべきです。その方がリアルタイムに資金や利益の状況を把握できるし、経営に活かすこともできます。最近ではアウトソーシングも一般的になっていますが、自社で理解した後、アウトソーシングという順番が良いと考えます。


(3)自分の事業や会社どういう段階にあるか理解しておきましょう

会社には、成長のステージ=段階があります。一般的には、シード、スタートアップ、ミドルステージやレイターステージなどに分けられます。日本語でも、創業期、揺籃(ようらん)期、成長期、安定期などの言葉があります。

なぜそれを理解する必要があるかと言えば、ステージごとに適した資金調達の方法があるからだ。業種によっても様々なので一概には言えませんが、たとえば起業したばかりの頃の資金調達に関する「3F」という有名な言葉があります。Founder(起業家自身)、Family(起業家の家族)、Friend(起業家の友人)からの資金調達が良い、というものです。しかし、たまたまそれらの人が大金持ちでもない限り、事業を拡大するときに必要となる資金は準備できないでしょう。だから、次のステージでは、金融機関や投資家などから資金を集め、さらにステージが進むと株式上場をして株式市場から広く資金を集めるようになるのです。


(4)事業に再現性を持たせる仕組みを作りましょう

再現性とは、わかりやすく言えば、成功の要因が分かっていて、それを別の機会にも一定以上の確率で実現できることを意味します。球技で例えてみると、自分のシュートの成功率を高めるには、ゴールの左側から、このくらいの距離でシュートを打つ必要があると理解していること。そして、それを実行できることを意味します。「なぜホームランを打てるか分からない」と言っている野球選手と、「自分はこういう場面ではホームランを狙えるから、その場面では積極的に狙っていく」と言っている野球選手、どちらをスカウトしたいと思うでしょうか?再現性を持たせるということはスポーツでも決して簡単なことではないですが、事業においても実は難しいことです。なぜお客様が自社の製品を選んで買ってくれるのかを正確に理解していない会社は少なくありません。みなさんはそうならないよう、再現性を持たせる仕組みづくりを考えて欲しいと思います。


(5)集中すべきことを決めましょう

集中すべきことを決める。言い換えると、「何をしないかを決める」ということです。起業家の特徴にも色々ありますが、多くの起業家に共通しているのは「アイデアが豊富」という点。それ自体は素晴らしいことですが、一方ではマイナスに働き、「特定の事業に集中できない」とか、「すぐに諦めて他の事業に興味を持ってしまう」となりやすいのも事実です。しかも、起業したての頃は、社内のあらゆる資源が不足しています。人もお金も時間も足りません。そういったときにあれもこれもやりたい、というわけにはいきません。資金提供者も「経営が散漫になり、どの事業も結果がでない」という事態は望んではいません。常に選択と集中が必要であることを覚えておいてください。


(6)経営チームをつくりましょう

会社は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、ひとりで全部やろうとすると、どれもいまいちな結果となってしまうでしょう。資金提供者も、起業家がスーパーマンであることを求めてはいません。むしろ、起業家自身の強みに集中し、それ以外のことはチームとして対応して欲しいと考えていますし、そういったことができる会社の方を高く評価するでしょう。みなさんは優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。


(7)最後にもう一度、必要な資金調達かを考えましょう 

 「お金は多ければ多いほどよい」という考えもありますが、それが当てはまる局面と、そうではない局面とがあります。リーマン・ショックやコロナ禍においては、「Cash is king」という言葉がよく使われました。これから先どうなるか分からないという不確実性が高まったので、「チャンスがあれば、可能な限り多額の資金を調達しておこう、そうでないと次の資金調達の機会はずっと先かもしれない」と考えざるをえなかったのです。

逆に、資金調達環境が良い時期もあります。景気は悪くないのに低金利のような時期が例として挙げられます。そのような時期には、ある程度の資金的余裕を持つということは良いとしても、必要額をはるかに上回る資金を調達すべきではありません。借入であれば利息がかさむという問題もありますし、もっと重大なこととしては、経営の規律が緩むという問題があります。資金調達をした直後、その資金を事業に使わず、高級車を購入してしまうような経営者も残念なことに珍しくはありません。資金調達の際には、常に、本当に必要な資金調達か考えるようにしましょう。

3.資金供給側の目線・考え方

さて、次は資金提供側の目線や考え方について整理します。

起業間もない段階での資金提供側の視点は主に、「融資候補先や投資候補先の起業家が信頼に足るかどうか」、「実現可能性や将来性のある事業計画であるかどうか」のふたつです。


(1)起業家が信頼に足るか

まずは、信頼に足る起業家かどうかですが、起業家や経営者としての資質、人柄、初対面時の印象などが重要です。事業がうまく行きだすと天狗になる起業家は、当然ながら信頼されません。逆に、うまく行っているときにこそ、次の手を考え実行していく起業家は高く評価されます。貧すれば鈍すると言いますが、事業が苦しくなってから「どうすればいいだろうか」などと考え始めるのでは遅すぎるのです。それに、そんなことを考える前に、今日を生き残ることで手一杯になってしまいます。経験豊富な資金提供者は、それぞれ独自の起業家評価ポイントを持っています。そういった方々との面談などの場で急に取り繕っても見抜かれてしまいます。ぜひ、起業家や経営者のあるべき姿について、多く学んで、自分なりに考え、実践していってください。そういったことを真面目に取り組んでいればきっと評価してくれる人に出会えるはずです。


(2)事業計画の実現可能性や将来性はあるか

次に、事業計画の実現可能性や将来性ですが、実はそれを判断する際にもっとも重要な要素は「起業家はどういった人物か」、「誰が経営者であるか」なのですが、もちろんそれだけで良いわけではありません。事業計画の作り方の勉強会に参加したり、自分なりに考えることによって、実現可能性や将来性を資金提供者に納得してもらえるよう努力を積み重ねましょう。あと、必ず覚えておいて欲しいのは、事業計画は、資金提供者と起業家との間の大切な約束だということです。起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

2020年8月7日金曜日

事業計画の作り方11 起業前の方向け(10) 資金調達

今回は資金調達についての説明です。資金調達を行うにあたっては、コーポレートファイナンス(企業財務)の勉強をしておくことを奨められることも多いですが、スモールビジネスの起業を考えている今の段階では難しいことには深入りしすぎず、まずは今回説明することを理解しておきましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(5)資金調達


(A)資金調達を行うことで生じる責任について理解する
 当ブログの記事である「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」、「起業の覚悟、資金調達の責任(下)」をぜひご一読ください。

大切なことばかりをまとめた記事なのですが、特に以下の引用箇所はとても大切です。

起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

この引用箇所の文章は、主に投資家や金融機関から資金調達を行うことを想定して書いたものですが、投資家や金融機関ではなく、それが家族であったり友人であったり補助金であったりしても資金調達を行う際には責任が生じることに変わりはありません。いずれの場合も、起業家に何かの期待をしているからこそ資金を出してくれたのだと思います。その期待とは金銭的なものばかりとは限りません。資金提供者の期待は何かということと、その期待に応えるための最大限の努力をする責任が生じたことを正しく理解しましょう。


(B)資金調達の選択肢について理解する
 起業前後での資金調達の方法としては、
  • 自己資金
  • 配偶者や親族からの出資金や借入金
  • 友人や知人からの出資金や借入金
が大半で、3F(Founder, Family, Friends)と呼ばれています。

「起業を考えたら貯金を始める!」というのが大原則です。あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません(株式投資などは余裕資金で行うのが原則です。将来使う予定がある資金で株式投資などを行うことはおすすめできません)。起業の後、1年以上全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということも起業の心得としてよく言われます。

3Fに続くのが、
  • 公的機関からの助成金
  • 政府系金融機関からの借入金
  • クラウドファンディング
  • 創業支援ファンド(地域金融機関)からの投資資金
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの投資資金
といったものです。

公的機関(国、地方自治体やその外郭団体など)からの助成金は充実している一方、種類が多く分かりくい面もありますので、窓口に行って相談してみましょう。窓口は「創業支援センター」や「中小企業振興公社」などといった名称であることが多いようです。

政府系金融機関については、日本政策金融公庫の創業支援のWebページや資料を一読しておきましょう。創業を具体的に考えたらまずは相談に行くところ、と言っても過言ではありません。

クラウドファンディングは多くの個人から資金を募る方法です。Makuakeなどが有名です。単なる資金調達というだけでなく、ファンづくりやマーケティングの一環としても活用できます。

創業支援ファンドというのは、一部の地域金融機関が運営している創業支援に特化したファンドです。そういったファンドを運営している金融機関は創業支援に熱心な金融機関とも言えます。

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の活用はスモールビジネスではあまり見かけません。ベンチャーキャピタルは業として未上場企業への投資育成を行っている会社ですが、主に株式上場やM&Aでの会社売却を考えている企業が支援対象で、幅広く資金供給を行う存在ではありません。エンジェル投資家は過去に同じ起業家として成功し、その経験を活かして後輩起業家を応援する存在ですが、日本ではまだまだ数も少なく、質も玉石混交という状態です。


次回は「起業前の方向け事業計画の作り方」の最終回として、簡単なまとめを行います。

2020年5月25日月曜日

事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方

事業計画の具体的な策定の仕方についてのご説明を開始する前に、事業計画の全体像や基本的な考え方について触れておきたいと思います。事業計画を作る目的はいろいろあるのですが、最も重要な目的のひとつに「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」ことがあります。よって、事業計画は一方通行なものではだめであり、最終的には一般的なフォーマットに落とし込んだり、事業計画を見る側が求めている事項の説明に注力したりするなど、見せ方にも気を配る必要があるのですが、そういったこともすべて、事業計画策定の第一歩である「どんな枠組みで計画を考えるか」があってこそのものです。今回はその枠組み(全体像、基本的な考え方とも言いかえることができるかもしれません)を考えていきましょう。

ところで、前回の記事でご説明したとおり、この「事業計画の作り方」シリーズは
  1. 起業前の方
  2. 事業承継をしようとしている後継者の方
  3. 急成長を目指して資金調達を考えている経営者の方
を主な読者層と想定しています。今回の記事の内容も、上記1~3のいずれの方にも参考になるものだと考えていますが、1と3の方は今回の記事そのままではなく応用していただくイメージで読んでいただければ幸いです。例えば、今回の記事では将来の目標と現状とのギャップをいかに埋めていくか、ということについて説明していますが、上記1や3の方から見れば、現状分析の対象が限られる、と感じられるかもしれません。しかし、よく考えたらギャップを分析しそこを埋めていく方策を考える、という枠組みそのものはいくらでも応用可能です。私の記事に限らず同様の記事はいずれもそっくりそのまま実践しないと意味がない、というものはきっと少数派ですので、納得できる箇所だけ応用してみようといった感じで読んでいただければ幸いです。

1.全体図

 さて、今回ご紹介したい内容、そして次回以降の「事業計画の作り方」シリーズを読む中でときどき思い出していただきたい事項は、以下の図にすべて含まれています。下図をご覧ください。図をクリックすると拡大できます。

図:事業計画策定の全体図

これは私が事業計画の作り方について説明する際に最初に掲げる図です。バックキャスティングやアンゾフのギャップ分析の応用版とお考えください。全体を簡単に説明します。

(1)ありたい姿
 たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
(2)あるべき姿
 10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
(3)現状(現状分析)
 今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
(4)ギャップ(ギャップ分析)
 あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
(5)実行案
 ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。

それぞれの項目を考える際のフレームワークなども多くあるため、そういったものを活用しない手はありませんが、そもそも上記項目のいずれかを欠いていると個別には素晴らしいフレームワークを活用したとしても全体としては意味のある事業計画は作るのは困難です。

では、上記(1)~(5)の解説をしていきます。

2.ありたい姿

たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
経営者の方とお会いして最近感心するのが、自社や自身のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)をよく考えていらっしゃることです。MVVは人によって言葉の定義にかなり差異があるので定義そのものについてはあまり考えすぎない方が良いですが、「ありたい姿」はMVVでいうとビジョンに当たるかと考えます。「経営理念に基づいて示される会社の(具体的な)将来像」ですね。「具体的な」の箇所は、上場企業や上場準備中の企業は別として、それ以外の企業は必要以上に拘る必要はなく、象徴的な数字を示すことができれば良いと考えます。この「ありたい姿」がない事業計画も実際には多く存在しますが、「ありたい姿」が示されないと、以下で説明する事項を具体化することが困難になり、毎日目の前のことだけ一生懸命に取り組んでいるけれども、どこに向かっているか分からない、という会社になりかねません。

3.あるべき姿

10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
「ありたい姿」は言い換えると夢や願望であり、多くの場合10年後(場合によっては20年後)などの姿を示したものであり具体性はあまり求められません。一方で「あるべき姿」は多くの場合5年後(変化の激しい業界ではたとえば3年後)の姿を示したものであり、いわゆる中長期計画の最終年度の姿にあたります。そのために具体性が求められます。たとえば、「ありたい姿」が「10年後に日本1位」だったとしたら、5年後には市場の成長性、顧客の購買活動や競合の活動状況から考えて5年後の販売量はこのくらいを達成しておく必要がある、製造原価はこのくらいまで低減しておく必要がある、といった具合です。
ここで大切なのは具体性だけではなく、あくまでも「ありたい姿を至るために具体的に落とし込んだものがあるべき姿である」ということです。現状から積み上げ方式に計算して出てきた5年後の数字、では決してありません。

4.現状(現状分析)

今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
現状分析のツールとしては優れたフレームワークがあります。有名なものは以下のとおりです(詳細は当シリーズの今後の記事やMBAや中小企業診断士のテキストなどをご参照ください)。

・SWOT分析
 企業の現状を外部環境(機会、驚異)と内部環境(強み、弱み)という視点で分析するフレームワークです。「現状分析」の総仕上げの位置付けであり、将来の方針検討の第一歩といえます。

・PEST分析
 マクロ環境をPolitics(政治的要因)、Economics(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)という切り口で分析するフレームワークです。

・ファイブフォース分析
 業界の収益性を決める以下の5つの競争要因を分析するフレームワークです。
競合(業者間の競争関係)、サプライヤー(供給業者)の交渉力、バイヤー(直接顧客または最終顧客)の交渉力、新規参入業者の驚異、代替製品またはサービスの驚異

・VRIO分析
 企業の経営資源を以下の4つの事項で分析するフレームワークです
  経済価値(Value) 顧客にとっての価値は何か?
  希少性(Rareness) 希少性はあるか?
  模倣可能性(Imitability)真似されにくいか?
  組織(Organization) 組織がきちんと整備されているか?

他にも、財務分析、3C分析、コアコンピタンス分析、事業ライフサイクルの分析、バリューチェーン分析、営業ステップ分析、事業の経済性分析などなど多くのフレームワークがあります。

また通常はM&Aの場面などでしか実施しないことが多いですが、M&Aのデューディリジェンス(DD)のやり方は企業のステージ次第では「現状分析」でも活用できます(業歴が長めの企業向きです)。DDとは直訳すると「当然の努力」であり、実務上は「買収監査」と訳します。企業買収後の経営を成功に導くことが最終的な目的であり、「現状分析」で応用する場合には補完的位置づけ(経営者の考え、社内スタッフの分析に続く手段)と考えられます。

意外と多いのが、古典に書いてある組織論を「現状分析」に応用している例です。たとえば孫子による「組織の優劣」の構成要素も現状分析に活用可能です。以下のようなものです。
 道 経営者と従業員の一体感
 天 時間的条件、国際・国内情勢、経済情勢
 地 地理的条件、立地条件
 将 経営者の器量
   智 勉強好きか、物事を明察できる知力はあるか
   信 信用第一に努めているか
   仁 愛情深く部下の心情をつかみとることができるか
   勇 いざというときの決断力はあるか、困難にくじけない勇気を持っているか
   厳 組織規律維持のために厳正な信念をもって禁欲的な態度を率先垂範できるか
 法 規程、制度、組織原則

現状分析の重要性の例としては旧日本軍と米軍の対比が語られることがあります。
・旧日本軍の場合
 勝利のための方法について、科学的な分析ではなく経験から偶然気づく
 (体験的学習、察知)
  →勝利に内在する指標を理解せず、勝利の再現性がない。
   もしくはそもそも間違った戦略をとってしまう。
・米軍の場合
 敵と味方の行動と結果を分析し、勝利につながる効果的戦略を構築した
  →常に戦略があることで勝利の再現性がある。追うべき指標が的確。
少し分かりにくい説明になってしまいましたが、つまりは、体験的学習のみ(不十分な現状分析を象徴)では「勝った理由」(自社の本当の現状)は分からず、その後の適切な戦略構築へ至ることができないということです(参考文献:失敗の本質、超入門失敗の本質)。

5.ギャップ(ギャップ分析)

あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
ギャップ分析のキーワードは「分解」と「深堀り」です。

まず「分解」ですが、例としてはアプリ開発の事業計画で、あるべき姿と現状の間には利益額10倍というギャップがあったとします。つまりはあるべき姿達成のためには利益額を10倍にする必要があるという場合です。その際に「ギャップ=利益額10倍」で終わっていてはほとんど意味はありません。そこには「分解」が必要です。「利益額向上=売上増or利益率改善」と分解できますし、さらには「売上増=単価向上or数量増」、「利益率改善=原価低減or技術力向上」と分解できるかもしれません。他の例としては、飲食店経営の事業計画で、あるべき姿と現状の間には店舗売上10倍というギャップがあったとします。つまりは店舗売上を10倍にしないとあるべき姿には到達できないという場合です。その際に「ギャップ=店舗売上10倍」だけではなくやはり「分解」が必要です。店舗売上はいろいろなかたちに分解できるかと思いますが、もっとも一般的なのは「店舗売上=客数×単価」でしょう。たったこれだけでも客数を10倍にする必要があるのか、単価を10倍にする必要があるのかを考えることができます(単価10倍というのは現実的でないとしても)。客数についてもいろいろなかたちで分解できます。「客数=商圏人口×来店率」かもしれませんし、「客数=席数×回転率」かもしれません。

次に「深堀り」ですが、これはトヨタの「なぜ?を5回繰り返す」と同じことですね。表面的なギャップに対してそれを解消するための行動計画を考えても、それこそ対症療法であり意味がありません。「深堀り」について私がよく例に挙げるのが腹痛です。お腹が痛いときに、お腹が痛い理由を考えずにすぐに胃腸薬を飲んでも、そのときは痛みが治まるかもしれませんがまた繰り返してしまう可能性もあります。そのときにもう少し深堀りして腹痛の原因を探ってみたらどうでしょう?お腹を冷やしていたり、冷蔵庫の中のものが腐りかけていたりするかもしれません。それが分かるとお腹が冷えない服を着る、食べ物の賞味期限などを確認するといったよりよい対策を考えることができます。さらに深堀りしてみると、いつも買い物をするお店に陳列されている商品は賞味期限間近のものが多いといったことが分かるかもしれません。そうしたら他のお店で購入するという手を打つことができます。このように少し深堀りするだけでもより良い対策を考えることができることが分かります。

6.実行案

ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。
将来像(ありたい姿、あるべき姿)を描き、現状の己を知り、その間のギャップを深堀りできたら、後はギャップを解消する行動計画を考え実行するだけです。行動計画を考える際のキーワードは「ステップ」です。たとえばTOEIC500点の人物が3年後にTOEIC900点を目指すとします。その際に、「目標は一つ!TOEIC900点!」一本槍でやってしまうと、その意気や良しではありますが、あまりの目標の高さに気が萎えてしまったり、まずは次回は何点を目指せばいいのかが曖昧になってしまったりします。そこで登場するのがステップです。次回の試験までに点数を伸ばしやすい箇所を集中的に勉強し少し高めの700点を目指す、その次は得意分野をさらに伸ばし800点、そしてその次は全体の底上げを行い900点を!といった具合にステップを行動計画と数値目標のセットで定めていくのです。人は計画未達成ということを経験しすぎると負け癖がついてしまい、計画未達成が当たり前の状態になってしまいます。900点目標一本槍で900点を取ることができない、という状況が続くことが例です。ですので、成功体験を積みつつ事業を推進できるようステップを決め、そのステップは一気に三段飛びを目指す時期と、確実に一段一段進んでいく時期などをうまく組み合わせていくと良いと考えます。

以上、長文になってしまいましたが、以上が私の考える事業計画策定の枠組みです。ギャップ分析というフレームワークも応用可能性が高いものですので、ぜひ他の場面でも活用してみてください。

次回からは、「起業前の方」向けの事業計画の作り方をご紹介します。

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2020年5月22日金曜日

「事業計画の作り方」シリーズ開始!

新しいパソコンも届いたので心機一転、当ブログの更新にも力を入れていきます。

定番ではあるものの重要なテーマとして、「事業計画策定」に関するシリーズから開始していきたいと思います。今回は全体のイメージをお話しします。

まず対象(想定する読者層)ですが、以下のとおり考えています。
  1. 起業前の方
  2. 事業承継をしようとしている後継者の方
  3. 急成長を目指して資金調達を考えている経営者の方
COVID-19の直接・間接の影響を受けて、事業の見直しや建て直しが必要だったり、緊急での資金調達が必要だったりする方向けには少し不向きな内容であったり記事の更新ペースが遅すぎたりするかもしれません。そういったことでお悩みの方は私宛に直接ご連絡いただくか、すでにそういった動きに対応していらっしゃる他のコンサルタントや支援者の方にご相談いただく方が良いかと存じます。

さて上記1~3の方々ですが、状況が異なる以上、当然ながら事業計画を作る目的も作り方も異なります。よって、当シリーズでも分けて解説していきます。

まず「1.起業前の方」向けですが、主にスモールビジネスや、急成長を前提としない事業をお考えの方が対象です。各地で開催されている起業塾に参加する前に予習的に活用いただいたりすることを想定しています。実際に私が講師を担当させていただいた起業家養成講座での講義内容をベースとした内容です。

次に「2.事業承継をしようとしている後継者の方」向けは、すでに一定程度(数年以上)の期間営まれている事業についての事業計画の作り方をご紹介します。ベンチャー型事業承継で会社を継ぐ予定の方も、既存事業側の事業計画の作り方としてご参考にしていただけるかと考えます。新規事業の計画の立て方については、「事業計画の作り方」というシリーズの中で扱ってしまうとミスリードしてしまう可能性があるので、後日別シリーズで解説できたら良いなと考えています。新規事業について早く学びたい方は、守屋実さんや麻生要一さんの書籍や動画がオススメです。

最後に「3.急成長を目指して資金調達を考えている経営者の方」向けですが、事業計画の作り方を一からご説明するのではなく、事業計画及び資本政策の重要な論点や考え方をご紹介しているかたちを取りたいと考えます。「事業計画の作り方」として解説していくと、ややもすれば事業計画書の穴埋め的内容になってしまいますが、特にスタートアップビジネスには穴埋め的事業計画はふさわしくないと考えるからです(もちろん、起業段階でも事業承継段階でもただ事業計画のフォーマットに記入していくだけ、は好ましくありませんが)。

なお、
  • もっと実践的な内容を学びたい
  • 事業計画を考え際の壁打ち相手を探している
などございましたら個別にご連絡いただけますと幸いです。当ブログトップにある「Contact」からご連絡いただけます。


2019年12月27日金曜日

NGCパートナーズのコンサルティング事業について


NGCパートナーズは、経営・財務コンサルティング事業を行っており、当ブログでも随時紹介させていただいています。
個別の記事では、
などに記載していますし、ラベルの「NGCパートナーズ」にまとめています。

ただ、ブログだと過去記事はどんどん埋もれてしまって分かりにくくなってしまったり、そもそものアクセス数がまだ少なかったりするので、ビザスクにもう少しわかりやすくまとめています。ビザスクでは、同サイトの登録フォームに従うかたちで、より具体的な内容になっていますので、お目通しいただければ幸いです。
本日時点では主に、
  1. これから株式上場を目指す企業の財務戦略、資本政策についてお話ができます
  2. アーリー・ミドルステージ前後のスタートアップの株式上場準備実務を実施できます
  3. 売上数億円から数十億円クラスの成長志向企業からのM&Aアドバイザリー業務受託が可能です
  4. 協働型コンサルタントとして未上場企業の経営参画~実務に幅広く対応できます
といったことを相談対応可能事項として登録しています。
ビザスク経由でもお問い合わせをいただいていますが、やりとりもスムーズにできる仕組みがあり、大変便利です。
もちろん、直接のご連絡も承っています。

2019年11月18日月曜日

VCからの資金調達の際の注意点~専門家編~

ベンチャーキャピタル(以下、VC)からの資金調達を行う際の注意点の内、今回は「専門家への相談」の際の注意点を取り上げたいと思います。

「VCからの資金調達のメリット・デメリット」のような記事がWeb上には多くありますので、是非事前にそういった記事にも目を通しておいてください。

さて、VCとの間でいろいろやりとり(資料提出、ヒアリングや投資審査)を行って、そのVCとの間では資金調達についてほぼほぼ合意できたという段階にたどりついたにも関わらず、経営者にとっては身近な存在の反対によってVCからの資金調達を行えない、もしくは断念するという場合があります。

特に、
  • 東京以外の地域のスタートアップ
  • VCに限らず外部株主を初めて受け入れるスタートアップ
にその事例が多いようです。

ではその「経営者にとっては身近な存在」とは誰のことでしょうか?
  1. 金融機関の支店長や担当者
  2. 顧問税理士
  3. 他の既存株主
  4. その他
実はどの選択肢も程度の差はあれ当てはまるのですが、私の経験上、特に多いのは顧問税理士です。

私がVCで東京以外の地域のスタートアップへ投資検討をしている際、投資候補先企業の経営者が顧問税理士の反対にあってVCからの資金調達を中止する、という事例をチラホラと見かけましたし、そういった話を聞くことも少なからずありました。

顧問税理士というのは、ほとんどの未上場企業の経営者にとっては最も身近な専門家でもありますし、何かあったら顧問税理士に相談する、顧問税理士の意見は尊重するという経営者も多いのではないでしょうか。

税理士側も、税務顧問だけにとどまらず、経営コンサルティング機能を強化されている事務所が多くあります。そういった税理士であれば良いのですが、昔ながらの税務顧問業務しか行っていない、顧問先が外部から資金調達をしたような経験がない、といった税理士の場合、要注意です。

そういった税理士が
  • よく分からないからといって慎重論を唱えたり反対したりする
  • VCをハゲタカファンドと同類と誤解している
  • 自分たちの領分を侵されたくないので反対する
などして、経営者の考えに大きな影響を与えた結果、VCからの資金調達が中止されることが意外なことに少なくありません。
もちろん、VC側の言い分だけを鵜呑みにするのもよくありませんが、税理士の意見についても鵜呑みにするのはよくありません。

自社の顧問税理士がどんな専門分野や経験を持っているかを把握した上で、事前に相談するなどの対応が必要です。

スタートアップにとって顧問税理士はとても重要な存在です。VCが投資検討をする際、
  • 審査資料の用意がスムーズなスタートアップ
  • 経営者が自社の数字を把握できているスタートアップ
などは、経営者やCFOの存在だけでなく、顧問税理士のコンサルティングの賜物だったりします。VCからの資金調達を検討するタイミングというのは、顧問税理士との関係を深める、見直すなどの良い機会とも言えると思います。

2019年9月25日水曜日

起業の覚悟、資金調達の責任(下)

前回は起業を「覚悟」というキーワードで考えました。後半の今回は、資金調達を「責任」というキーワードで考えましょう。

まず、資金調達はなぜ行うのでしょうか?直接的には、資金調達をしなければ事業を推進できない、会社を大きくできないなどの理由が挙げられます。他には、株主に著名人や有名企業に入ってもらい、会社の信用性を高める狙いなどもありえます。

さらには応用編として、経営に規律を設けるという意味もあります。金融機関から借入をすると、契約に従って毎月返済や利払を行う必要があります。そのため、毎月しっかりと資金を用意できるよう、経営に規律を持たせようという動機が生まれるのです。社内体制の整備といった側面もあります。株主や債権者に対して経営の状況を説明するためには、会社の体制を整備して、社内の情報をしっかりと管理できるようになる必要があるからです。

それでは次に資金調達を行うために必要なことをいくつかご紹介していきます。

  • 起業を考え始めたら貯金を始めましょう
あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません。そもそも、株式などのリスクのある金融商品は「余裕資金」、言い換えると、なくなっても困ることはない資金で行うものです。起業のために使う、という目的がある以上、株式などではなく預貯金が正解です。起業の際によく言われるのが、起業の後、2年間全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということです。これはとても大切で、起業した後から営業活動を開始すると、毎日のように減り続ける通帳残高を見て焦りながら営業活動をする羽目になるため、良い結果を生むことができないことが多いと言われます。だからこそ、本来は起業前にいくつか受注確実な仕事を見つけておくことがベストではありますが、なかなかそうもいかないので、次善の策として貯金をしておくのです。

また、自分で資金を用意するかどうかは、その後の資金調達にも大きく影響します。考えてみてください。みなさんの知人が起業したとします。でもその知人自身はお金を出さず、周りの人にお金を出してくれと言っているのを見たらどう思いますか?「まずは自分で出そうよ」と思う方が多いのではないでしょうか。起業家自身が資金を用意することは、その起業家の覚悟の現れとも見られるのです。

  • 資金調達を行う前に、自分の事業でのお金の流れを理解し、予測できるようにしておきましょう
ここでは詳しくは説明しませんが、利益が出たからといって、手元にお金が残るわけではありません。利益が出ているのにお金が減ることもあります。逆に、利益が出ていなくてもお金が手元にある限りは、会社は存続できます。

「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるかと思います。読んで字のごとく、利益は出ているのに、会社が倒産してしまうことを意味します。これは経営者が自分の事業のお金の流れを理解していない、もしくは予測に失敗したことが理由で起きます。そんな会社には、金融機関や投資家も怖くて資金を出せないはずです。また、お金の流れを予測できていないと、お金が足りなくなって慌てて資金調達を行うことになります。しかし、資金調達には一定の時間がかかるのです。また、自分が焦っていると、自分にとって不利な条件での資金調達という結果にもなりかねません。こういった話のときによくあるのが、会計や経理のことは全て顧問税理士に任せているので、自分は詳しくは分からない、という事例です。しかし、任せていることと経営者自身が理解することは全く別の話といえます。それに、会社を大きくしていきたいとお考えの場合は、会計や経理はできるだけ社内で行うべきです。その方がリアルタイムに資金や利益の状況を把握できるし、経営に活かすこともできます。最近ではアウトソーシングも一般的になっていますが、まずは内製化し、理解した後、アウトソーシングという順番が良いと考えます。

  • 自分の事業や会社のステージ=段階を知りましょう
会社には、成長のステージ=段階があります。一般的には、シードやスタートアップ、ミドルステージ、レイターステージなどに分けられます。日本語でも、創業期、揺籃(ようらん)期、成長期、安定期などの言葉があります。

なぜそれを理解する必要があるかと言えば、ステージごとに適した資金調達の方法があるからだ。業種によってもマチマチなので一概には言えませんが、たとえば起業したばかりの頃の資金調達に関する「3F」という有名な言葉があります。Founder(起業家自身)、Family(起業家の家族)、Friend(起業家の友人)からの資金調達が良い、というものです。しかし、たまたまそれらの人が大金持ちでもない限り、事業を拡大するときに必要となる資金は準備できないでしょう。だから、次のステージでは、金融機関や投資家などから資金を集め、さらにステージが進むと株式上場をして株式市場から広く資金を集めるようになるのです。

  • 事業に、再現性を持たせる仕組みを作りましょう
再現性とは、わかりやすく言えば、成功の要因が分かっていて、それを別の機会にも一定以上の確率で実現できることを意味します。球技で言えば、自分のシュートの成功率を高めるには、ゴールの左側から、このくらいの距離でシュートを打つ必要があると理解していること。そして、それを実行できることを意味します。「なぜホームランを打てるか分からない」と言っている野球選手と、「自分はこういう場面ではホームランを狙えるから、その場面では積極的に狙っていく」と言っている野球選手、どちらをスカウトしたいと思うでしょうか?再現性を持たせるということはスポーツでも決して簡単なことではないですが、事業においても実は難しいことです。なぜお客様が自社の製品を選んで買ってくれるのかを正確に理解していない会社は少なくありません。みなさんはそうならないよう、再現性を持った事業を行って欲しいと思います。

  • 集中すべきことを決めましょう
集中すべきことを決める。言い換えると、「何をしないかを決める」ということです。起業家の特徴にも色々ありますが、多くの起業家に共通しているのは「アイデアが豊富」という点。それ自体は素晴らしいことですが、一方ではマイナスに働き、「特定の事業に集中できない」とか、「すぐに諦めて他の事業に興味を持ってしまう」となりやすいのも事実です。しかも、起業したての頃は、社内のあらゆる資源が不足しています。人もお金も時間も足りないのです。そういったときにあれもこれもやりたい、というわけにはいきません。資金提供者も「経営が散漫になり、どの事業も結果がでない」という事態は望んではいません。常に選択と集中が必要であることを覚えておいてください。

  • チームをつくりましょう
会社は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、どれもいまいちな結果となってしまう可能性が高いです。資金提供者も、起業家がスーパーマンであることを求めてはいません。むしろ、起業家自身の強みに集中し、それ以外のことはチームとして対応して欲しいと考えていますし、そういったことができる会社の方を高く評価するでしょう。みなさんは優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。

  • 最後にもう一度、必要な資金調達かを考えましょう  
「お金は多ければ多いほどよい」という考えもありますが、それが当てはまる局面と、そうではない局面とがあります。平成に起きたリーマン・ショックの後、ベンチャーキャピタルの間では「Cash is king」という言葉がよく使われました。世界的に資金調達が難しくなっていたので、「チャンスがあれば、可能な限り多額の資金を調達しておこう、そうでないと次の資金調達の機会はずっと先かもしれない」と考えざるをえなかったのです。

逆に、資金調達環境が良い時期もあります。景気は悪くないのに低金利のような時期が例として挙げられます。そのような時期には、ある程度の余裕を持たせるということは別としても、必要額をはるかに上回る資金を調達すべきではありません。借入であれば利息がかさむという問題もありますし、もっと重大なこととしては、経営の規律が緩むという問題があります。資金調達をした直後、その資金を事業に使わず、高級車を購入してしまう経営者も残念なことに珍しくはありません。資金調達の際には、常に、本当に必要な資金調達か考えるようにしましょう。

さて、次は資金提供側の目線や考え方について整理します。

起業間もない段階での資金提供側の視点は主にふたつです。融資候補先や投資候補先の経営者が信頼に足るかどうか、実現可能性や将来性のある事業計画であるかどうか。

まずは、信頼に足る起業家かどうかですが、起業家や経営者としての資質、人柄、初対面時の印象などが重要です。事業がうまく行きだすと天狗になる起業家は、当然ながら信頼されません。逆に、うまく行っているときにこそ、次の手を考え実行していく起業家は高く評価されます。貧すれば鈍すると言いますが、事業が苦しくなってから、どうすればいいか、などと考えるのは遅すぎるのです。そんなことを考える前に、今日を生き残ることで手一杯になってしまうからです。経験豊富な資金提供者は、それぞれ独自の起業家評価ポイントを持っています。そういった方々との面談などの場で急に取り繕っても見抜かれてしまいます。ぜひ、起業家や経営者のあるべき姿について、多く学んで、自分なりに考え、実践していってください。そういったことを真面目に取り組んでいればきっと評価してくれる人に出会えるはずです。

次に、事業計画の実現可能性や将来性ですが、実はそれを判断する際にもっとも重要な要素は、「誰が経営者であるか」なのですが、もちろんそれだけで良いわけではありません。事業計画の作り方の勉強会に参加したり、自分なりに考えることによって、実現可能性や将来性を資金提供者に納得してもらえるよう努力を積み重ねましょう。あと、必ず覚えておいて欲しいのは、事業計画は、資金提供者と起業家との間の大切な約束だということです。起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

本稿では最後にみなさんにふたつのことをお伝えします。

ひとつめは、起業や事業を行うことを楽しんで欲しい、ということです。本記事では「覚悟」や「責任」と一見重たいキーワードが多かったが、それを上回る楽しさを起業や事業に見いだせる人こそが起業家なのです。ワクワクすることが起業家にとっての最大のご褒美でありモチベーションの源です。ぜひ起業や事業を楽しんでください。

ふたつめは、「地域貢献のための起業」を最初から必ずしも考える必要はない、ということです。もちろん、明確に地域貢献をしたいと考えている方を否定しているわけではありません。すでに考えている方はとても素敵なことなので、ぜひ実行してください。逆に地域貢献を具体的に考えてはいない方も、自信を持ってください。真っ当な事業でありさえすれば、それを真剣に行うことで自然と地域貢献ができるのです。事業が大きくなれば、地域に雇用を産み、税金を納めることになる。それはとても立派な地域貢献なのです。

起業の覚悟、資金調達の責任(上)

今回と次回は、起業ということを「覚悟」というキーワードで、そして資金調達を「責任」というキーワードで考えてみたいと思います。いずれも、「起業する前」のみなさんが起業や資金調達についてより深く考えるきっかけとなれば幸いです。

なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。

さて最初に「起業」と「資金調達」の意味について考えてみましょう。

「起業」と一言で言っても、
・最初から株式会社を設立して事業規模の拡大を目差すパターン
・個人事業主から開始して段階を踏んで事業規模拡大を目差すパターン
・事業規模の拡大を前提としていないフリーランサーやクリエイターのパターン
など様々なパターンがあります。

Web関連事業やコンサルティング業のようにパソコンひとつで起業できる業種もあります。実際に私は開業に際しては、パソコン、スマートフォン及び名刺を用意し、コワーキングスペースに入会しただけです。一方でものづくり、農業や店舗運営のように一定の資金が必要とされるものもあります。

しかし、いずれにしても「覚悟」が必要とされない「起業」はありません。今回と次回では「起業」の中でも、自分以外の人からも何かしらの方法で資金調達を行う必要がある、言い換えれば人のお金を預かる覚悟が求められる「起業」を前提として話を進めたいと思います。

次に「資金調達」ですが、この言葉にもさらに分解できます。
  1. デットファイナンス : 金融機関からの借入が典型例です。
  2. エクイティファイナンス : エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルやCVCからの資金調達が例に挙げられます。
  3. アセットファイナンス : これは「起業」の段階ではほとんど関係ないためこれ以降は触れませんが、会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを活用して資金を得る方法を指します。
  4. 事業で得られる儲けを蓄積する

本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を前提として進めたいと思います。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と適宜読み替えてください。

では、ここからが本題です。「覚悟から考える起業」ということで、これからいくつかの質問をします。ひとつひとつ、自分に問いかけてみてください。これらの質問は、ベンチャーキャピタルでの活動や、起業相談を受ける中で整理していったものです。

  • 大きな失敗をしても、また挑戦する覚悟はありますか?
まずは、みなさんの過去の経験の中で、大きな失敗をしたことがあるか、それは何だったか、思い出してノートに書き出してみてください。次に、みなさんがやろうと考えているビジネスで想定される大きな失敗とは何だろうか?それも書き出してみてください。。

この質問は、失敗=悪いこと、という意味合いでしたものではありません。どんなに優秀な人でも、挑戦する人は必ず失敗します。失敗をしたことがない人は、挑戦してこなかっただけです。失敗を想定していない人は、自分の能力を過信している傲慢な人にすぎません。一方で挑戦して失敗する人は、その試行錯誤の中で大きく成長していきます。そして失敗経験を活かすことで、次の成功確率を高めていくことができます。事業はその連続ともいえるものです。また、成功から法則を見出すことは難しいですが、失敗から法則を見出すことはできる、ということもいえます。

繰り返しになりますが、挑戦する以上、失敗は避けられません。失敗から学ぶことなしに成長もできません。つまりは、失敗する覚悟、それを乗り越える覚悟が「起業」には必ず必要となるのです。

  • 本当の「人脈」を活用する覚悟はありますか?
そもそも人脈とは何でしょうか?交換した名刺の数や、有名人と知り合いであることを自慢するタイプの方もいらっしゃいますが、それは人脈といえるのでしょうか?広い意味ではそうかもしれません。しかし、「起業」における「人脈」とは、あなたを信じて仕事を出してくれる人、あなたを信じてお金を出してくれる人、このような人たちとの関係を指します。きっとみなさんの周りにはみなさんの起業を応援してくれる方々が大勢いると思います。そういった方々との関係も当然ながら大切しなければなりません。一方で、応援だけでは事業は成り立たないのも事実です。起業における本当の人脈を持っているかどうか考えてください。そして、その人脈を活用する覚悟が自分にあるか問うことが大切です。

  • 人のお金を使う覚悟はありますか?
どんな方法で資金調達したとしても、人のお金を使って事業をする上では、様々な義務が生じます。そしてほとんどの場合、返済する金額は借りたり投資を受けたりした金額よりも大きくなります。もしくはそういった約束や目標設定をします。また、知人や友人からお金を出してもらうということは、万が一事業が失敗したときに、同時に人間関係も崩れる可能性があるということでもあります。そういったことを理解した上で、人のお金を使う覚悟はありますか?

  • 様々な人との関係で苦労し、苦悩する覚悟はありますか?
日常生活であれば、不都合のある相手とは距離をとったり、自分が引くことにより特に問題を表面化させずに済ませることができます。しかし、起業すれば自分が代表者であり最終責任者であるため、逃げることは許されません。どんなことも、どんな人に対しても何かしらの判断のもと、対処していく必要があります。

社内でも同様です。起業家自身と創業メンバーの間には覚悟や意識の大きな差があります。場合によっては、創業メンバーのサラリーマン精神が表面化することも。そのときには、創業メンバーと言えどもお互いのことを本当の意味で理解していないことにショックを受けると思います。それでも事業は一緒に行っていく必要があります。

友人と一緒に会社を経営する場合には、友人を解雇する必要に迫られるかもしれません。友人に会社の借入の連帯保証をしてもらう必要が生じるかもしれません。家族との関係で苦悩することもあるかもしれません。

起業家はある段階では、ワークライフバランスなどと言ってはいられない場面にも直面します。運悪く、配偶者との関係がうまくいっていないタイミングと重なれば、離婚をつきつけられる可能性もあるのです。

最初は支援者だった人が、何かのきっかけで最大の敵対者になることだって少なくはありません。そうなると大変です。相手は「せっかく応援してやったのに裏切りやがって」と、普通では考えられないほどの嫌がらせをしてくるような事例もあります。

良くない可能性の話ばかりをしてしまいましたが、どれもが起こりうることです。そういったことに苦労し、苦悩することへの覚悟も必要です。

  • 事業計画を、事業経験者を含め多くの人に見てもらい、厳しい意見をもらう覚悟はありますか?
どんなにじっくり考えた事業計画でも、人の批判にさらされていない計画は十分ではありません。特に類似の事業を経験している方の意見はとても貴重なものです。その方の話を聞くことで失敗の疑似体験もできるはずです。

事業計画を人に見せることに強い抵抗感を持つ方も多いかと思います。しかし、安心してください。人に見せたり話したりしたくらいで成り立たなくなる事業は、はじめから長持ちはしません。真似されることを恐れるよりも、人の批判にさらされていない不完全な事業計画であることを恐れて欲しいと思います。もちろん、見せる相手は選ばなくてなりませんが、多くの人に見せて厳しい意見をもらうことで事業計画はより良いものになります。一人ひとつの意見でも、100人に見せることで100個の改善点に気がつくことができるのです。

ぜひ、自分の事業計画が批判される覚悟を持って欲しいと思います。

  • 自分を理解して、環境の変化に対応していく覚悟はありますか?
会社を経営していくうちに必ず環境の変化に遭遇します。そのときに生き残ることができるのは、ダーウィンが言うように「環境に適応した者」だけです。「自分は○○な性格だから……」と自分の限界を自分で決めてしまう人は、自分だけでは環境の変化に適応できません。その場合、自分の弱いところを補ってくれるパートナーが必要となります。

しかし、どんなに素晴らしいパートナーがいる場合でも、自分自身の変化が必要な場面もあります。その際に試されるのが、「自分の限界を超えるほどの努力をしたことがあるか」ではないでしょうか。学生の方であれば、「人生でこんなに勉強したことはない」と言えるほどの勉強を今からでもして欲しいと思います。

  • 情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?
ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に対し、残念ながら投資は行わないという判断をすることも少なくはありません。しかし、その中にも実は、直感的に素晴らしいと感じる事業も多くあるのです。では、投資をしないという判断をしたのはなぜでしょうか。もちろん理由はひとつではありませんが、最も多い理由のひとつに「情報軽視、誤った情報分析」というものがあります。「私の事業はとてもユニークであり、世界に同じことをやっている企業は存在しない。」という思い込みが典型的な例です。事業計画の検討には、「競合分析」という項目を必ず盛り込むべきですが、その際、次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。

ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。

競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。

  • 撤退する勇気はありますか? 合理的に判断できる自信はありますか?
起業前後というのは、ひたすら前向きなことを考え、良くない可能性には目を向けたくない時期です。しかし、撤退の可能性を考えないのは、目を背けていれば撤退するような状況には陥らないと考える、非科学的な姿勢ともいえます。どういう場合に撤退すべきか、撤退する際にはどれほどの損害が発生するのかを考えておく必要があります。

まずは撤退を合理的に判断できる知識を身につけておきましょう。経済学やファイナンスの知識です。「サンクコスト」という言葉があります。日本語にすると「埋没費用」です。実はこの言葉を知っているだけで、撤退の判断をより合理的に下せる可能性が高まります。みなさんの周りでも「今までかけた時間と資金が無駄になるから、中止なんてできない」という話を聞いたりすることはないでしょうか?こういう場合に、サンクコストの考え方を応用すると、「過去に投資した資金や労力は一旦脇に置き、これから必要となる投資額とその効果を再度計算しなおして、投資継続か撤退かを判断しよう」と考えられます。ぜひ、経済学とファイナンスの基礎的な知識は身につけておいてください。

  • 越境することを楽しめますか?
越境とは、例えば自分が経験のない分野の仕事に就いてみたり、全く文化の違う外国に飛び込んだり、自分の従来の枠を飛び越えることを意味します。新しい価値観とぶつかり合うことは人が最も成長できる場面のひとつです。「新しい価値を生み出すことができるのは、越境した人だけ」と言われることもあります。会社を変革できるのは「若者、馬鹿者、よそ者だけ」という言葉とも通じるところがあるのではないでしょうか。

本稿では「自分に問いかけて欲しい質問」を通じて、起業を「覚悟」という面から考えてみました。当然ながら、他にもたくさん覚悟する必要があることは少なくありません。また、起業後の事業の段階ごとに覚悟すべき事項も変わってきます。起業の段階は主に始める覚悟ですし、仲間を増やす段階では、人の人生を背負う覚悟が求められます。事業を拡大させる時期には、波に乗る覚悟、組織をつくる覚悟、社員などに背中を見られる覚悟が求められます。会社が安定成長に入っても、安定が衰退の始まりだと考えると、経営を変えていく覚悟が必要となるでしょう。起業前のみなさんから見ると、少し将来の話もありますが、まずは「あなたは覚悟ある起業家か?」という問いに少しでも自信を持って回答できるようになれると素晴らしいと考えます。

次回は、資金調達を「責任」というキーワードで考えます。