M&Aについては本日現在、バリュエーションについての記事を連載中ですが、それとは別に単発テーマを取り扱う「M&Aの基礎知識」のコーナーも不定期で掲載しています。前回の「FA形式と仲介形式」には多くのアクセスをいただき、ありがとうございました。
1.セカンドオピニオンのそもそもの意味は?
もともとは医療の用語として普及したもので、以下のような意味の言葉です。
セカンドオピニオンを簡単に説明すると、日本語では「第二の意見」と呼ばれるように、患者がある病気で診断を下された際に診断結果やその後の治療方針や治療方法について、主治医以外の医師から意見を聞くことを言います。主治医以外の意見を聞くことで、現在の治療が適切なのか、他に良い治療がないのかなど、患者がより納得のいく治療を受けることが可能になります。(出典:セカンドオピニオン.com Webサイト)
医療の用語としての「セカンドオピニオン」は、自身が大きな病気を患ったり、ご家族を含む親しい方にそういった方がいらっしゃったりする方はご存知であることが多いのではないでしょうか。医療の世界ではセカンドオピニオンを取得することは普通の風景になっているようで、まともな医師であれば自分が担当する患者が他の医師に意見を聞くことになる主治医の立場でも、患者やセカンドオピニオンを取得することに対してネガティブな反応をすることはないそうです。
2.M&Aにおけるセカンドオピニオンとは?
中小M&Aガイドラインでは以下のように定義されています。
セカンド・オピニオンとは、中小M&Aを行おうとしている者が支援機関と契約を締結する際や、支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、他の支援機関から意見を求めることをいう。(出典:中小M&Aガイドライン)
同ガイドライン用に定義されている言葉が含まれますので、より一般的な用語で書き直すと以下のとおりです。
中小企業のM&Aにおけるセカンドオピニオンとは、
- 事業を譲り渡す側(いわゆる売り手)や事業を譲り受ける側(いわゆる買い手)が、
- M&A助言業務を行うFA事業者やM&A仲介事業者などのM&A専門家と
- ファイナンシャルアドバイザリー契約(FA契約)や仲介契約を締結する際や、
- それらのM&A専門家によるM&Aのストラクチャーやバリュエーションなどを含む専門的な助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、
- 他のM&A専門家に意見を求めること
をいう。
先述のとおり、セカンドオピニオンという言葉は、もともとは医療の用語として普及したもので、患者が主治医から説明された診断結果や治療方針・方法について、主治医以外の医師から意見を得ることを意味します。今後の治療などについて、患者自身がより判断しやすくなったり、納得感を高めたりすることが可能になると言われています。その意味合いが転用され、中小M&Aでも使われるようになりました。
3.中小M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性
以下のようなことが言えるため中小M&Aにおいてもセカンドオピニオンが必要です。
- M&Aはほとんどの中小企業にとって極めて少ない回数しか経験しないものであるため、日々忙しい経営者や企業オーナーが理解を深めていくことは容易ではない。
- 専門家の質やその助言内容がどうかを、その分野の専門ではない者が判断するのはM&Aに限らず容易ではない。
- 加えて、M&A助言業務は医療行為とは違い資格や免許が不要なため、専門家が保有する専門性が一定水準以上であることが客観的には担保されていない。
補足すると、まず「1」についてですが、特に「売り手」についてそう言えます。グループ会社をいくつも所有している場合、連続起業家などである場合など、複数の会社を所有しているような例はまだまだ稀ですので、M&Aを経験するとしてもそれは1回きりであるという場合が大半ではないでしょうか。「買い手」の場合は複数回経験することがあり得ますが、それでも回数はそれほど多くはないと言えるでしょう。
「3」についても注意が必要です。たとえ士業専門家がM&Aの助言を行っている場合と言えども当てはまります。その士業専門家は確かに士業資格を保有してはいますすが、M&A助言業務そのものが士業としての本来の業務ではないことが多い(つまりは多くの士業専門家にとってM&A助言サービスは新規事業であったり、付帯サービスであったりする)ため、士業の資格を保有していることが、M&Aについての専門性が一定水準以上であることを担保しているわけではない、というわけです。士業専門家でもそう言えるのですから、それ以外の場合は猶更と言えるでしょう。
これらを解消するために、国も事業承継ガイドラインや中小M&Aガイドラインを定め、中小企業経営者や企業オーナーの理解を促進したり、M&Aに関わる専門家にもガイドラインに沿った一定水準以上の活動を求めてたりしていますし、日本M&Aアドバイザー協会のように専門性向上活動や職業人としての倫理の啓発活動を行っている例もあります。セカンドオピニオンもそういった問題を解消するためのひとつの方法といえます。
4.どういった場合にセカンドオピニオンがあると良いか?
では、M&Aにおけるセカンドオピニオンはどういった場合にどのようなことを確認するために活用すると良いのでしょうか?先述の中小M&Aガイドラインではいくつかの例が紹介されています。
- M&A助言業務を行うFA事業者やM&A仲介事業者とFA契約や仲介契約を締結する際に、業務の具体的内容や報酬の妥当性について意見を求める。
- 最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約など)を締結・調印する前に、その契約内容について意見を求める。
同ガイドライン記載以外の事項でも
- バリュエーション(企業価値算定)の結果や、その前提条件、算出過程の妥当性について意見を求める。
- デューデリジェンスの結果や、その調査過程・範囲について意見を求める。
- その他、専門的且つ中立的・第三者的立場からの各種意見を求める。
といったことが考えられます。
FA事業者やM&A仲介事業者へ支払う報酬は高額になることが多いですし、そもそも会社や事業を譲り渡したり、譲り受けたりすることは多くの利害関係者の人生をも左右する大きな事柄です。事業を譲り渡す側、事業を譲り受ける側、どちらの場合でもセカンドオピニオンの活用が望まれます。
5.その他の重要な注意点
FA事業者やM&A仲介事業者とのFA契約や仲介契約では専任条項と呼ばれる条項で、実質的にセカンドオピニオン取得が禁止されている場合があります。ほとんどの場合は、M&Aで極めて重要な秘密保持の観点から設けられている条項ですが、そういった場合を含め、まずはFA契約や仲介契約を締結する前に当該専門家に必ず相談しましょう。「中小M&Aガイドラインに記載されていたセカンドオピニオンを活用する可能性も残しておきたい」と伝えれば、ほとんどの専門家が対応してくれるはずです。対応してくれない場合は、他の専門家に切り替えるべきです。特に、M&A支援機関登録制度に登録しているM&A専門家は、「依頼者(売り手や買い手)がセカンドオピニオンを取得することを許容すべきである」としている中小M&Aガイドラインを遵守することを宣言しています。それにも関わらずセカンドオピニオンを取得することを忌避するようであれば中小企業庁の情報提供窓口への相談や、FA契約・仲介契約締結の取りやめなどを行うべきです。
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