NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2022年12月24日土曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(2) 金融機関からの借入でM&Aを行う場合のスケジュール

企業や事業の買収を、負債として調達した資金で行うことの良し悪しは意見が分かれるところです。投資は余裕資金で行いましょう、というのも正しいと考えられますし、負債でレバレッジを効かせて投資効率を高めましょう、というのも一定の条件下では正しいと考えられます。ただ、常に余裕資金があるわけではない中小企業が買い手となるM&Aにおいては、多くの場合、金融機関からの借入資金をそれに充てることになりますし、ある程度余裕資金があったとしても、手元資金を減らしたくないという考えで、金融機関からの借入資金を充てることも少なくないでしょう。

金融機関からの借入資金で中小M&Aを行う場合、
  • デューデリの結果
  • 買収対象企業の事業計画(デューデリで判明した事項を反映したもの)
  • 買収対象企業から親会社(買収を行う側)にもたらされるキャッシュフローによる返済計画
だけでなく、
  • 買い手側の事業計画や資金計画
も金融機関の審査対象となります。SPC(特別目的会社)を活用するM&Aは、中小M&Aではまだ特殊な事例かと考えられますので、この記事では「買い手側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合の買い手側の立場を前提としています。

さて、金融機関からの実際の審査内容ももちろん重要ですが、同じくらい重要なのがスケジュールです。
  1. 自社(買い手)の希望するクロージング(株式譲渡及び代金決済)日
  2. 売り手側の希望するクロージング日
  3. デューデリのスケジュール
  4. 金融機関の審査のスケジュール
といったことを調整していく決定していく必要があります。

通常、買い手側と売り手側の希望クロージング日(12)をまず調整します。買い手側はM&Aはゴールではなく、クロージング後に対象会社の経営をしていく必要があり、その準備の進捗なども考慮に入れる必要があり、必ずしも最短スケジュールで進めようとは考えていないかもしれません。一方で売り手はM&Aで得た資金を別の投資に回す計画があったりと、できるだけ短いスケジュールで進めることを希望するかもしれません。それぞれ逆の場合もあるでしょう。そういった点を調整する必要があります。

本来望ましいのは、そのようにして上記1と2を調整して定めたクロージング日から逆算して34のスケジュールを決める、という流れですが、そう簡単にはいかないケースが多くあります。

3のデューデリのスケジュールですが、買い手側は経験のある税理士・会計士・弁護士に依頼したり、M&Aアドバイザーにプロジェクトリーダー的に動いてもらったりすることで「プロの手を借りる」ことができる場合が多いのでそれほど問題とはなりませんが、売り手や対象会社は買い手側からの開示依頼資料を準備したりインタビューに対応したりしないといけません。M&Aアドバイザーがいたとしても準備・対応は社内で行わざるを得ないでしょう。そして当然ながら、初めてのことなので予め資料の準備ができているとは限りません。そうして「資料の準備・提出が遅れる→デューデリス全体が遅れる」ことにより、他の項目のスケジュールに影響を与える、ということが起きてしまいます。もちろん、デューデリ結果がなければ買い手側の意思決定が行えない、という大きな問題もあります。

4の金融機関のスケジュールですが、買い手側の対応力・説明力、3のデューデリのスケジュール、金融機関側の体制・フローや経験値などの影響を受けます。買い手側が先述のような資料を用意して金融機関へ説明を行うのですが、すでに経験があったり適切なフォローをしてくれるM&Aアドバイザーなどがいる場合以外は、その説明に苦戦するかもしれません。また、様々な資料の提出を求められますが、最終的に必ず必要となる書類のひとつに「デューデリ報告書」があります。デューデリを行った税理士・会計士・弁護士等の専門家が依頼主である買い手に提出するものです。ですので上記3のデューデリが遅れている場合、金融機関への資料提出が遅れ、借入日も遅れ、結果としてクロージング日も遅れるということとなります。

では一体どうやってM&Aのスケジュールを決めていけば良いでしょうか。買い手側の立場では、
  • まず金融機関に一般論としてのM&A資金融資の審査に必要な期間を確認する。
  • 次にデューデリ専門家にデューデリに必要な期間を確認する。
  • それらの情報を得た上で、売り手側とスケジュール調整する(もしくはM&Aアドバイザーにスケジュール調整を依頼する)。
という流れが良いかと考えます。

その際の注意点としては、
  • 金融機関には、金融機関内の審査や、決裁を得る手順を教えてもらえる範囲で細かく聞いて、どのタイミングでどういった資料や情報が必要になるか、それぞれの手順にどの程度の時間を見込んでおけば良いか、などを確認することが重要です。また先に提出できる書類もあるかもしれませんので、早めに「必要となる(であろう)書類」一式を確認しておきましょう。
  • デューデリ専門家との間では、デューデリの範囲をどうすべきかを相談しながらスケジュールを確認していきましょう。不必要な範囲までデューデリ範囲としてしまうことは、時間的にも費用的にも無駄で終わってしまう可能性もあります。
  • 売り手側とのスケジュール調整の中で、買い手側の希望よりも短い期間での対応を要することとなる場合もあるでしょう。そういった場合には、売り手や対象会社からの資料の提出を前倒ししてもらうことでデューデリ期間を少しでも短くできるようにしたりする工夫が必要となります。

以上、「買収する側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合のM&Aスケジュール調整の例を解説しました。M&Aの経験が複数回あったり、適切な動きをしてくれるM&Aアドバイザーがいる場合はそれほど苦労せずにできそうなことでも、初めての経験で適切な助言者もいない場合だと苦労することとなります。

ところで、この記事で「適切に助言をしてくれるM&Aアドバイザー」という趣旨の言葉を何回か使用しましたが、前回の記事でも少しご紹介したとおり、全てのM&Aアドバイザーが適切な助言をしてくれるわけではないことには注意が必要です。
  • M&Aが早くクロージングした方がM&Aアドバイザーが早く成功報酬を得られる場合。
  • 仲介の立場でも何等かの理由で売り手重視の対応をとる場合。
  • M&Aアドバイザーの担当者の経験値が高くない場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の総合的な経験値は低くはないが、金融機関対応など個別のテーマでは苦手分野がある場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の経験値に関係なく、「こういうスケジュールで進められるはずだ」という思い込み先行となってしまっている場合。
といった例においては、M&Aアドバイザー自身が買い手の立場にたってスケジュール策定をしてくれない可能性もあります。ですので、M&Aアドバイザー側にスケジュールの根拠などを細かく確認したり、セカンドオピニオンを得たりすることも大切です。

以上、私がセカンドオピニオン的立場にたって助言をしていた際のトラブルを元にまとめました。この記事が参考になれば幸いです。

2022年12月14日水曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(1) M&A仲介会社等との関係

現在、NGCパートナーズではM&Aアドバイザリー業務単体での新規受託は停止していますが、セカンドオピニオン業務を行う場面は少なからずあります。主には経営・財務コンサルティングの既存クライアント事業者様が、M&A仲介専業会社から持ち込まれた案件の買収検討を行う場合に、当該クライアント事業者様から助言を求められる、というかたちです(案件情報元のM&A仲介専業会社が「仲介」の立場、私共がセカンドオピニオン提供者という立場です)。

M&A仲介専業会社の多くは、さすが専業だけあって、案件情報量や、業界特化している場合はその業界の専門知識も豊富で感心させられます。また、多くの場合、買い手と売り手にとっての利益を第一に考えM&Aを成功裏に着地させようと努力をしてくれます。一方で、疑問に感じる対応も見受けられる場合もあります。今回の記事では中小M&Aのセカンドオピニオン業務で出会った事例の内、少なからず散見される問題事例、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者が気を付けておくべき事項などをご紹介します。

[事例]

  1. M&A仲介会社が会社としては中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っているが、現場の担当者(M&Aコンサルタントなど)はそれを知らない、ファイナンシャルアドバイザリー(FA)契約がガイドラインに対応していない。
  2. デューデリジェンス実施に関する助言はM&A仲介業務の範囲外として、専門家紹介やデューデリのとりまとめを行わない。しかもそれをFA契約締結前に説明しない。
  3. デューデリジェンスの日程や、その結果を受けての買い手側の検討時間を無理に短く設定する、など強引なスケジュール設定を行う。
  4. デューデリジェンスの実施範囲について、買い手に不適切な助言をしたり、相談せずに勝手に決めてしまう。
  5. デューデリジェンスで判明した事実の中で、M&A価額に反映させるべきか検討を要する事項があった場合も、M&A価額を変えない方針の下、強引に話を進めようとする。
  6. 買い手側がM&A資金を借入で調達しようとしている場合でも、そのことへの助言や支援を行わない。
  7. 売り手や対象会社から説明を受けていた重要な事実を、適切なタイミングで買い手に伝えない。

[解説]
  1. 多くのM&A仲介会社やFA事業者は、中小企業庁(経済産業省)の「M&A支援機関登録制度」で支援機関として登録を行っており、登録した者は中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っています。多くの者はガイドラインに沿ったかたちでFA業務を行っているはずですが、中には現場の担当者まで徹底されておらず、また雛形として利用しているFA契約がガイドラインに全く対応していない、などの事例が見受けられます。M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は、FA契約を顧問弁護士等にチェックしてもらうのは当然として、中小M&Aガイドラインに対応しているか、も合わせて必ずご確認ください。
  2. M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は多くの場合はM&Aの経験は初めてです。その中でもデューデリジェンスについては、どういったものを実施すべきか、どういった専門家に依頼すべきか、出てきた報告書をどう判断に活かすべきか、と疑問がつきない場面のひとつです。多くのM&A仲介会社はそれらの助言を行いますが、それらの助言をほぼ放棄しているM&A仲介会社もあります。言い分としては、成功報酬を低く抑えているので実施するサービスの範囲も限定している、といったものが多いようです。しかし実際にはフルサービスを提供してくれる他社と比べ特に成功報酬が低額な訳でもありません。他にも同様の事例があり、例えば売り手企業の情報をコンパクトにまとめた企業概要書を作成しない、初期段階で買い手に提供する資料は売り手側作成且つ、M&A仲介会社のチェックも入っていない資料を転送してくるだけ、といった手抜き事例も見受けられます。少なくともFA契約締結後にそれに類するような事態となることを避けるためにも、M&A仲介会社が実施するサービスの詳細について必ずご確認ください。
  3. M&A仲介会社は多くの場合、M&A成約後に売り手と買い手から受領する成功報酬が自社の売上利益となります。また、担当者へのインセンティブもそれを元に計算する場合が少なくないようです。そのためか、売り手も買い手も求めていないにも関わらずタイトなスケジュールを設定しようとしてくる事例が見受けられます。もちろん、何かしらの必要性があったり、やむを得ない事情でそうなっているのかもしれません。いずれにせよ、M&A仲介会社が提示してきたスケジュールはその理由を必ず確認し、変更を希望する場合はその旨をはっきりと伝えるようにしましょう。
  4. M&A仲介会社の中にはデューデリジェンス実施範囲を不当に限定されたものにしようとする助言を行う事業者もいるようです。ひどい事例になると、デューデリジェンスは必要ない旨助言したり、最低限の財務税務のデューデリだけ実施し他のデューデリは行わないよう助言したりする事例です。M&A仲介会社はM&Aが成約し決済されるまでが仕事ですが、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者はM&A成約・決済後が本番と言え、その本番を迎えるにあたってデューデリ報告書の内容はとても重要です。デューデリはM&A価額算定のためだけに行うものではありませんので、M&A後を見据え、どういったデューデリを行うべきか慎重に検討するようにしましょう。
  5. M&A仲介会社は買い手と売り手の間に立って両社の利害を調整しつつM&Aを成約させるのが役割ですし、中小M&Aの場合、デューデリで何かしら問題が発見されたら即M&A価額を下げる、といったことが行いにくい場合があるのは事実です。しかし、それは例えばデューデリ報告書の内容を精査し、その後の売り手側との調整にどう織り込むか、などを買い手が十分に考えてから対応すべき事柄であり、M&A仲介会社が強引に話を進めて良い類のものではありません。
  6. M&A資金を負債で調達することが適切かどうかは意見が分かれるところですが、中小M&Aでは実際にはよく行われる方法です。その場合、M&Aの検討と、金融機関との折衝が同時並行で行われ、しかも金融機関に対しどのように説明していくかは、なかなか難しい場面もあります。守秘義務があったり、デューデリが終わるまでは買い手側も情報量が不足していたりと通常の借入とは異なる面が多いからです。そのため、多くのM&A仲介会社はその金融機関対応についても助言を行います。金融機関からの融資がないとM&Aが成立しないこととなるのですし、当然とも言えます。しかし、そこを苦手としているM&A仲介会社もあり、その場合、全く助言が期待できません。M&A資金を負債で調達する必要がある場合は、そこへの支援や助言をしてもらえるか、事前に必ず確認しましょう。
  7. これについてはなかなか対策のしようがないのですが、デューデリも終わって、最終契約(株式譲渡契約など)の内容もほぼ合意したタイミングくらいで「実は・・・・」と言って悪い情報を買い手に伝えてくるM&A仲介会社があります。M&A仲介会社自身は必ずしもそのタイミングでその情報を知ったわけではなく、売り手からはかなり前の段階で話を聞いていることもあるようです。買い手側としては今更M&Aを破談にするわけにもいかないということで対応に困ってしまう場合もあります。
以上、いくつかの事例をご紹介しました。セカンドオピニオンを別の専門家に依頼していたとしても全てを防ぐことができるわけではありませんが、M&A自体が初めて、という場合だけでなく、そのM&A仲介会社に依頼するのが初めて、という場合もセカンドオピニオンを得ることは選択肢として検討の価値があるかと考えます。