NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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キーワード:ベンチャー・スタートアップ / アトツギ・後継者 / M&A・事業承継 / セミナー・社内研修
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2020年8月30日日曜日

ハンズオンとコンサルティング


一般に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)のような投資家が投資先企業に行う経営支援は「ハンズオン」と呼ばれています。一方で、経営支援を業として行っている存在の代表格と言えば経営コンサルタントである、とのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。今回の記事では、ハンズオンとコンサルティングを比較することで、両者への理解を深めていきたいと思います。

内容に入る前に、以下4点を先に述べておきたいと思います。
  1. まず、今回の記事はあくまでも「私が考えるハンズオンとコンサルティング」だとお考えください。言ってしまえば独断と偏見に基づいています。両方の言葉とも、通説と言われるような定義が定まってはいません。全く違うお考えをお持ちVC関係者や経営コンサルタントの方もいらっしゃると思います。
  2. 私個人としては、「和魂洋才」のように、ハンズオンのスタンスとコンサルティングのノウハウをうまく融合したいと考えていますので、今回の記事もそういったバイアスがあるかもしれません。なお、NGCパートナーズの事業内容については「経営・財務コンサルティング」と記載していますが、これは投資ありきではないこと、言葉の分かりやすさを優先させたことが理由です。
  3. プライベート・エクイティファンド(以下、PEファンド)も同様の活動を行っており、その活動のこともハンズオンと呼ぶ場合もありますが、VCや経営コンサルタントと異なりPEファンドが経営の最終意思決定権限を持つことも多いので、あくまでも経営支援であるハンズオンやコンサルティングとは同列に論じることができないと私は考えます。よって、今回の記事のハンズオンはPEファンドのそれではなくVCが行う経営支援のことを意味するものとします。
  4. 本文中で「支援先企業」という言葉を使用していますが、これはVCにとっては投資先企業、経営コンサルにとってはコンサル先企業を意味します。経営コンサルがコンサル先企業に資金を投じる(出資する)事例が多いのかは勉強不足で知りませんが、そういった事例や、VCが投資先企業ではない企業に対しコンサルを行うこともありますが、そういった事例などは説明の都合上、今回の記事の対象外です。
さて、それではハンズオンとコンサルティングを比較していきましょう。

(1)立ち位置

・ハンズオン
 VCと支援先企業とは株主と発行体と関係であり、運命共同体(On the same boat)です。そのため、VCの投資担当者は支援先企業の内部関係者として、支援先企業もしくは経営者とできるだけ近い立ち位置に自分たちを位置づけようとします。但し、運命共同体であっても目指すべき方向が一致しているとは限りませんし、投資と出口(EXIT)の場面では利害が一致しない可能性があります。

・経営コンサル
 経営コンサルタントはあくまでも支援先企業からの業務委託を受けた立場であり、形式上は支援先企業の外部関係者です。支援先企業もしくは経営者とは対面で接することが大半です。

(2)経営支援の実施方法

・ハンズオン
 VCは支援先企業もしくはその経営者と共に考え行動します。一部の分野については「教える」というかたちも取ります。正解がないスタートアップの世界で求められるスタンスとも言える一方、別に述べるとおりVCは経営支援の専門性が高くないことが多いためにそういった方法を取らざるを得ないという側面もあります。

・経営コンサル
 支援先の担当者に「教える」というのが基本的方法です。また、あくまでも経営の一部分(戦略、財務、会計、営業、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を持っているが故に教えるという方法になりがちであり、また高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。

(3)経営支援の範囲

・ハンズオン
 経営全般が対象です。資金を投じている株主であるため、経営のあらゆる面について関心があるからです。別に説明するとおり、VCは支援先企業の株主価値向上が儲けの源泉であり、支援先企業のあらゆる事象が株主価値に影響を与える以上、経営支援の範囲も経営全般とならざるを得ません。ハンズオンを標榜するVCの投資担当者がしばしば支援先企業の社外取締役などに就任することを考えると分かりやすいかもしれません。但しこのことは、全ての支援先企業の経営全般に常に関わることを意味するわけではありません。

・経営コンサル
 あくまでも経営の一部分(戦略、会計、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。但し経営コンサルタントが支援先企業の取締役などに就任することが稀にありますが、その際は経営全般に対する助言を行うこともあるでしょう。

(4)視点

この点に関しては、他の項目と比べてもかなりバイアスがかかった見方になってしまっているかもしれません。

・ハンズオン
 「ありたい姿」「あるべき姿」にいかに近づけていくかを軸とし、個別の戦略や戦術については仮説検証を繰り返すことが一般的です。確立されたノウハウがあるわけではないものの将来性のある産業や事業に投資し経営支援を行うのがVCの役割ですから、そうならざるをえないとも言えます。

・経営コンサル
 「システム」や「フレームワーク」ありきなことが少なくありません。経営コンサル会社自身が開発したシステムやフレームワークを持っていることもあり、支援のための手段にすぎないはずのそれらがいつの間にか目的化してしまっているのを見ることもあります。また最近は変わりつつあるようですが「論理的に正しいかどうか」がまだまだ他のことよりも優先されます。

(5)専門性

・ハンズオン
 高くはありません。ハンズオンの能力を高めるために組織的研修や訓練を行っているVCは日本ではほぼ皆無ですし、ハンズオンの内容の妥当性を組織的に検証する仕組みがあるVCも日本ではほぼ皆無ですので、良い意味でも悪い意味でもハンズオンの専門性は投資担当者次第になってしまっています。

・経営コンサル
 少なくともVCよりは圧倒的に高いことが多いです。組織的研修や訓練も充実していますし、経営支援に関する勉強量全体で見ても圧倒的です。

(6)結果責任

・ハンズオン
 経営支援の結果が、支援先企業の企業価値や株主価値を通じて、VCの損益に影響します。そういった意味で経営支援の結果責任を支援先企業と共有していると言えます。

・経営コンサル
 あくまでも業務委託契約の関係であり経営支援の結果責任を経営コンサルは負いません。もちろん、経営支援の結果が出ないと業務委託契約を更新してもらえない、評判悪化により新規契約が獲得できないなどの影響はありえます。

(7)位置づけと儲けの源泉

・ハンズオン
 VCは「経営支援を行う投資家」ですので、株式などに投資を行い、それが投資時より高い株価で売却することによる差額つまりはキャピタルゲインが儲けの源泉です。経営支援はキャピタルゲインを大きくしたり、確度を高めたりするための手段のひとつです。

・経営コンサル
 経営コンサルは支援先企業からの業務委託料などが儲けの源泉ですので、経営コンサルは目的そのものと言えます。

(8)ノウハウの開示

・ハンズオン
 支援先企業に対してという意味合いでは、VCは経営支援のノウハウを隠す必要がありませんので、必要に応じて全て開示することが一般的です。但し、開示できるほどの専門性がない、体系化がなされていないといったことはありえます。

・経営コンサル
 経営支援のノウハウそのものが経営コンサルの強みですので、全てを開示するのは難しいことも多いようです。

(9)ネットワーク・人脈

・ハンズオン
 VCのネットワークや人脈は広いことが多いです。VCの日常の活動の中で最も重視されるのは「将来有望な未上場企業を探し出してくる」ことであり、そのためにネットワークや人脈を構築することに多くの時間を割いています。

・経営コンサルティング
 VCほどネットワークや人脈を構築することに時間を割けませんので、VCよりは狭いことが一般的です。

(10)担当者の質、経営に関わった経験、実務経験など

 これはいずれも担当者次第と言えますが、組織的な研修や訓練の仕組みが脆弱なVCの方が当たり外れが多いと考えられます。実務経験に関して言うとVCの投資担当者はないことが大半です。最近は出身業界が多様になりつつありますが、業界全体で見ると新卒採用や金融機関出身者が多く、実務経験は期待できません。両業界とも、若手はやる気にあふれており、優秀で勉強熱心な人物が多いです。

以上を総括すると、VCは経営コンサルのノウハウを学ぶべきと考えますし、経営コンサルは支援先企業に対する出資機能を持つとより理想的な環境で経営支援が行えるのではないかと考えます。

また別の機会にVCの投資担当者とPEファンドの投資担当者の比較も行ってみたいと思います。

2020年8月23日日曜日

事業計画の作り方13 後継者の方向け(1) 解説の前提

今回からは、後継者の方向けに事業計画の作り方を説明していきます。初回となる今回は次回以降の解説の前提に触れておきたいと思います。

事業承継は、まず
  • 経営の承継
  • 財産・資産の承継
に分けられます。中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、経営の承継をさらに「人の承継」と「知的資産の承継」に分けていますが、理解しやすい方の分類を使っていただいて問題ありません。本シリーズは「事業計画の作り方」ですので取り扱うのは「経営(人+知的資産)の承継」の範囲です。

さて、事業承継は他に、
  • 親族内承継
  • 親族外承継
という分け方もでき、親族外承継はさらに
  • 役職員への承継(MBO、EBOなど)
  • 社外の第三者への承継(M&A、プロ経営者招聘など)
に分けることもできます。本シリーズでは「親族内承継」もしくは「役職員への承継」で会社を引き継いだ(もしくは引き継ぐ)後継者を想定読者層と考えています。

ところで後継者の方は、ある方は別の会社でビジネスパーソンとしての経験を積んだり、会社経営について学んだりしてきたかもしれません。ある方は早い段階で事業承継する会社に入社し現場経験を積んだり、後継者候補として経営の一端を担ったりしてきたかもしれません。どんな経験を積んできたとしても、いざ実際に後継者と決定してときには、やらなければならないことの多さにいい意味でも悪い意味でも驚かれているのではないでしょうか。
  • 事業は順調だが今ままでのやり方では少しずつ厳しくなってくるのは分かっており改革したいが、事業が順調なため改革の必要性の理解が得にくい。
  • 事業が厳しい状況となっており、改革の必要性ではコンセンサスがとれているが、まずは目の前の赤字や資金不足を解消させなければならない。
  • 既存事業が順調なうちに新規事業に取り組みたい。
  • これからも大切にしていきたい理念や事業もある一方、新たに取り入れたい考え方や新たに開始したい事業もあり、日々の業務もある中頭の整理も追いつかず、手も回らない。
などなど。

何から開始していけばいいか、残念ながらすべての場合に当てはまる方程式のようなものはなく、個別具体的に考えていく必要があるかと思います。このシリーズでは、以下のようなパターンを想定して解説を行っていきます。

<解説の前提としての想定>
  • 後継者は先代経営者の親族かもともと会社の役職員(つまりはM&Aやプロ経営者招聘ではない)
  • 後継者がようやく経営の意思決定を任せられ始めたタイミング
  • 既存事業は昔は大きな利益を上げていたが、現在は決して順風満帆ではない(市場は縮小傾向、売上は営業努力で何とか水平飛行、損益は若干の黒字か赤字)
  • 資金の余力はない(従業員や取引先への支払いが遅れることはないが、運転資金と返済資金でギリギリであり余裕資金は少ない)
  • 事業を推進するために必要なデータは先代経営者やベテラン役職員の頭の中にあり、可視化に取り組み始めたところ
  • 後継者はやる気も体力もあり、既存事業のテコ入れと新規事業の開始により、企業を再び成長軌道に戻したいと考えている
私が今までの何らかのかたちでコンサルをさせていただいた事業承継事例も、このようなパターンが大きな割合を占めていました。上記のような前提だけで後継者の取り組み方やコンサルの仕方が一義的に決まるわけではありません。次回以降の解説を読んでいただける後継者の方は、自分の場合はどうすべきだろうと考えながら目を通していただければ幸いです。


2020年8月10日月曜日

事業計画の作り方12 起業前の方向け(11) まとめ

「事業計画の作り方シリーズ 起業前の方向け」の具体的内容は前回で終了しました。今回はまとめとして、起業をお考えの方にお伝えしたいことを記載します。

今回のシリーズの内容は、ある地域で開催された起業セミナーで私が講師を担当させていただいた際の講義内容を、大幅に加筆修正したものです。その起業セミナーは、「講義+実践(事業計画作り)+個別相談」で構成されており、今回のシリーズはあくまでもその「講義」の部分だけです。インプットはアウトプットを伴ってこそのものですし、実際にアウトプットしてみないと個別具体的な疑問も湧いてきません。一方である程度のインプットがないと意味があるアウトプットができないという面もあります。ですので、今回のシリーズの内容は、事業計画つくりのために十分とは言えないが必要なものと言えると思います。

そういう意味もあり、スモールビジネスの起業をお考えの方にはぜひ地元で開催されている起業セミナーに参加してみることをおすすめします。また違った視点での知識や考え方のインプットもできますし、アウトプット(事業計画作成)の実践もできます。そして何よりも、起業家仲間(同期の起業家や、先輩起業家など)ができることが良いところです。起業家には同じ起業家仲間にしか分からない悩みがあります。そういうことを相談しあえる起業家仲間は本当に得難い存在です。

また、起業に向けていろいろ勉強していくうちに、起業のリスクについても理解が深まり、その結果起業することに及び腰になってしまうこともあるかもしれません。しかし、リスクをとらずして事業の成功はありえません。また、起業をすることはみなさんの夢を叶えるため手段かと思います。夢ばかり見ていてはリスクに足をすくわれかねませんし、リスクばかり見ていては夢を叶えることができません。夢とリスク、どちらか一方だけに気を取られることなく意思決定していただければと思います。

2020年8月7日金曜日

事業計画の作り方11 起業前の方向け(10) 資金調達

今回は資金調達についての説明です。資金調達を行うにあたっては、コーポレートファイナンス(企業財務)の勉強をしておくことを奨められることも多いですが、スモールビジネスの起業を考えている今の段階では難しいことには深入りしすぎず、まずは今回説明することを理解しておきましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(5)資金調達


(A)資金調達を行うことで生じる責任について理解する
 当ブログの記事である「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」、「起業の覚悟、資金調達の責任(下)」をぜひご一読ください。

大切なことばかりをまとめた記事なのですが、特に以下の引用箇所はとても大切です。

起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

この引用箇所の文章は、主に投資家や金融機関から資金調達を行うことを想定して書いたものですが、投資家や金融機関ではなく、それが家族であったり友人であったり補助金であったりしても資金調達を行う際には責任が生じることに変わりはありません。いずれの場合も、起業家に何かの期待をしているからこそ資金を出してくれたのだと思います。その期待とは金銭的なものばかりとは限りません。資金提供者の期待は何かということと、その期待に応えるための最大限の努力をする責任が生じたことを正しく理解しましょう。


(B)資金調達の選択肢について理解する
 起業前後での資金調達の方法としては、
  • 自己資金
  • 配偶者や親族からの出資金や借入金
  • 友人や知人からの出資金や借入金
が大半で、3F(Founder, Family, Friends)と呼ばれています。

「起業を考えたら貯金を始める!」というのが大原則です。あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません(株式投資などは余裕資金で行うのが原則です。将来使う予定がある資金で株式投資などを行うことはおすすめできません)。起業の後、1年以上全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということも起業の心得としてよく言われます。

3Fに続くのが、
  • 公的機関からの助成金
  • 政府系金融機関からの借入金
  • クラウドファンディング
  • 創業支援ファンド(地域金融機関)からの投資資金
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの投資資金
といったものです。

公的機関(国、地方自治体やその外郭団体など)からの助成金は充実している一方、種類が多く分かりくい面もありますので、窓口に行って相談してみましょう。窓口は「創業支援センター」や「中小企業振興公社」などといった名称であることが多いようです。

政府系金融機関については、日本政策金融公庫の創業支援のWebページや資料を一読しておきましょう。創業を具体的に考えたらまずは相談に行くところ、と言っても過言ではありません。

クラウドファンディングは多くの個人から資金を募る方法です。Makuakeなどが有名です。単なる資金調達というだけでなく、ファンづくりやマーケティングの一環としても活用できます。

創業支援ファンドというのは、一部の地域金融機関が運営している創業支援に特化したファンドです。そういったファンドを運営している金融機関は創業支援に熱心な金融機関とも言えます。

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の活用はスモールビジネスではあまり見かけません。ベンチャーキャピタルは業として未上場企業への投資育成を行っている会社ですが、主に株式上場やM&Aでの会社売却を考えている企業が支援対象で、幅広く資金供給を行う存在ではありません。エンジェル投資家は過去に同じ起業家として成功し、その経験を活かして後輩起業家を応援する存在ですが、日本ではまだまだ数も少なく、質も玉石混交という状態です。


次回は「起業前の方向け事業計画の作り方」の最終回として、簡単なまとめを行います。

2020年8月3日月曜日

事業計画の作り方10 起業前の方向け(9) 設備資金

今回は設備資金についての説明です。そもそも事業に必要な設備とは何か、そこで必要となる資金についてどう考えておく必要があるかをみていきます。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)設備資金


(A)設備
 ソフトウェア・Web系の事業やコンサルティング事業であれば、パソコンとスマートフォンがあればひとまずは事業を行うことが可能ですが、多くの事業では「設備」が欠かせません。みなさんの事業にはどういった設備が必要になるでしょうか?以下、代表的な設備と、資金面での手当について列挙します。

・店舗
 モノを販売したり、サービスを提供したりする場所として必要です。いわゆる居抜き物件(同業他社が撤退した後の店舗をそのままに近い状態で賃借できる物件)であれば初期投資は抑えることができますが、反対にスケルトン物件に一から内装外装を行うのであれば大きな額の資金が必要です。

・備品
 業務を行う際の道具などとして使用するもの全般です。飲食店であれば厨房機器、調理道具やホール備品などが考えられます。サービス業でもお客様を迎えるためのスペースに置く必要がある椅子やデスクなどが考えられます。備品も居抜き物件であれば安価に入手できるかもしれませんが、一から購入となると大きな額の資金が必要なこともあります。中古品の活用も検討しましょう。

・事務所
 役職員(特に内勤者)が働く場所です。物件を賃借すると毎月固定費としての地代家賃が発生します。入居前にはまとまった額の敷金も必要でしょう。コロナ禍の前ですとコワーキングスペースやシェアオフィスを借りるという手段をとる企業も増えていました。初期費用も毎月の家賃(会費という名目の場合もあります)も通常の物件を賃借するよりも低額ですませることができます。今後、在宅勤務が根付いていくのであればそもそも事務所は必要かということも考えておくべきです。

・工場
 モノを製造する場所です。当シリーズで想定しているスモールビジネスでは製造業は極めて少ないと考えられますが、もしモノの製造販売をお考えの場合、製造を外注する方法も検討しましょう。

・車両
 製品を運んだり、顧客を訪問したりする際に使用します。事業を推進する場面を想像して、車両の稼働率がどのくらいになるかは事前に計算しておきましょう。また、たとえば営業活動に使用する場合でも、本当に訪問営業が必要か、インサイドセールスの活用が可能ではないかといったことを考えるなど、車両の必要性はしっかりと考えておいた方が良いです。営業活動中の交通事故というリスクも無視はできません。

どの設備であれ、イニシャルコスト(導入時に発生する費用)だけでなく、ランニングコスト(定期・不定期に発生する費用)が必要となります。一部の設備ではランニングコストの考慮をを忘れてしまうことも少なくはありません。見落としがないようにしましょう。

近年は、「持たざる経営」というキーワードで、「設備を持たない」選択肢も増えています。上記のいずれの設備も購入する場合は高額となりますので、レンタル・リースやシェアリングサービスを利用することも合わせて検討しましょう。

(B)固定費と変動費
 設備資金の解説の中で、レンタル、リースやシェアリングサービスについて触れましたが、レンタルやリースを活用すると、イニシャルコストが必要がなくなるというメリットがある一方、ランニングコストであるレンタル料やリース代を支払う必要がでます。こういった料金は、売上や利益の金額に関係なく支払う必要があるため「固定費」と呼ばれます。地代家賃を考えると分かりやすいですが、店舗を借りて家賃を支払う約束をしている場合、一般的には売上がなくても家賃は支払わなければいけません。

反対に、営業活動や売上に比例する費用を「変動費」と呼びます。店舗売上に対する比率として家賃を支払う場合、必要なときだけ自動車を借りるカー・シェアリングなどが典型例です。

会社の経営にとって、固定費と変動費、どちらの費用がいいかというのはシチュエーションによって異なるため正解はありません。しかしスモールビジネスの場合はできるだけ固定費を抑えることが大切です。スモールビジネスは外部環境・内部環境の影響を受けやすく、何かの拍子に売上が大きく減少することを覚悟しておく必要があります。そのときに、売上に関係なく発生する固定費が多いと途端に資金不足に陥ってしまう可能性があります。

設備が必要となった際には、
  • 購入する方がいいか、借りる方がいいか。
  • 固定費を抑えたり、変動費化したりする方法はないか。
を必ず検討しましょう。

次回は「資金調達」について説明を行います。

2020年8月2日日曜日

事業計画の作り方9 起業前の方向け(8) 運転資金

今回は運転資金についての説明です。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(3)運転資金


運転資金とは日々の事業を継続していくために必要となるお金のことです。今回説明するように事業を行う場面では、個人の日常生活とはお金の動きが「タイミング」という面で大きく異なります。そのため運転資金と呼ばれる手元に日頃から用意しておく資金が必要となります。この運転資金についてよく理解した上で、日々の事業の中で適切に対応しておかないと、資金繰りに追われて事業に集中できない状態に陥ってしまう可能性があります。資金繰りは経営者の仕事だと言われることがあります。しかしそれは資金繰りに追われる状態を是としたものではなく、そもそも資金繰り対応に追われなくて良い状態を維持しておくことこそが経営者の仕事であるという意味合いです。

本シリーズでは、
運転資金=日々の事業を継続していくために必要となる(使う予定のある)お金
手元資金=社内の金庫及び金融機関口座に預けてある資金の内、いざとなったらすぐに使える資金
という定義で進めていきます。

(A)支払いと受け取り
 前述のとおり、事業上のお金の流れと個人の日常生活ではお金の動くタイミングが大きく異なります。まず最初に理解しておく必要があるのが「支払いと受け取りのタイミング」です。事業では自社がお金を受け取るよりも、お金を支払うタイミングが先行することが一般的です。このことは、販売よりも仕入が先に来ることを考えれば理解できます。

例)10/1 果物100個を単価90円で仕入れた。 
    仕入代金の支払いは、仕入の30日後という約束となっている。
  10/5 その果物100個を単価100円で、地元のパフェ店に販売した。 
    販売した代金は、翌月末に支払を受けることとなっている。
  10/31 仕入代金9,000円を支払った。
  11/30 販売代金10,000円を受け取った。

この例の場合、9,000円で仕入れたものを10,000円で売っているのですから利益は1,000円あがっています。しかし、仕入代金9,000円の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ていることに注目してください。手元に予め資金を用意しておかないと仕入代金9,000円の支払いができませんし、11月は月末まで手元に資金がない状態となってしまいます。

一方でこれが掛取引(後日まとめてお金の受け渡しを行うかたちの取引)ではなく、現金取引だったとしたらどうでしょう?その場合でも、やはり仕入代金の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ることが分かります。やはり予め手元に資金が必要です。

上記の例のように利益があがっているにも関わらず、手元資金が足りなくなってしまい事業が継続できなくなることを「黒字倒産」と呼びます。

(B)先行する経費
 さらには、販売した代金を受け取る前にも、事業としては経費が発生しています。先ほどの例でいうと、11/30に販売代金を受け取る前にも、

 10/25 従業員への給料の支払い
 10/27 店舗家賃の支払い

といった支払いが必要だと考えてみてください。また、他にも、取引先が倒産して支払を受けられなくなる、取引先が単純ミスで代金の振込を忘れる、などのトラブルがあるかもしれません。 


上記(A)(B)で出てきた、
  • 支払いと受け取りのタイムラグを埋めるための手元資金
  • 先行する経費の支払いに当てるための手元資金
  • トラブルに備えるための手元資金
を合わせて「運転資金」と呼びます。

事業内容によっても異なりますが、事業が軌道に乗ってきた後でも、少なくとも3か月程度の間売上がなくとも資金に困らないくらいの手元資金が必要と言われています(創業時にはさらに多くの資金があることが望まれます。「資金調達」の回で説明します)。一般的に、飲食店のようないわゆる日銭商売(ひぜにしょうばい)と呼ばれる業種では、掛取引主体の業種よりも少ない運転資金で事業運営が可能と言われていますが、2020年のコロナ禍の中での飲食店の苦境を見ると、どんな業種でも手元には通常必要となる運転資金以上の資金を、少しでも多く用意しておくことが必要な時期があることも分かります(Cash is King.)。

本シリーズを読んでくださっている皆さんは、「事業計画の作り方3 起業前の方向け(2) 営業循環図」で営業循環図、つまりは取引の流れを図で示す方法をすでに学んでいますので、そこにさらにお金の流れるタイミングを記入してみましょう。さらには「事業計画の作り方8 起業前の方向け(7) 売上高・原価、経費」で考えた発生する経費の支払いタイミングを調べてみましょう。その際、売上に関係なく発生する固定費についても忘れずにお願いします。

運転資金や資金繰りについてより具体的に考えたり、予測したりしたい方は、次のステップとして「資金繰り表」を活用されることをおすすめします。

 資金繰り表の例:日本政策金融公庫Webページ(ZIPファイル)


次回は「設備資金」から説明を行います。