NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年8月30日日曜日

ハンズオンとコンサルティング


一般に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)のような投資家が投資先企業に行う経営支援は「ハンズオン」と呼ばれています。一方で、経営支援を業として行っている存在の代表格と言えば経営コンサルタントである、とのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。今回の記事では、ハンズオンとコンサルティングを比較することで、両者への理解を深めていきたいと思います。

内容に入る前に、以下4点を先に述べておきたいと思います。
  1. まず、今回の記事はあくまでも「私が考えるハンズオンとコンサルティング」だとお考えください。言ってしまえば独断と偏見に基づいています。両方の言葉とも、通説と言われるような定義が定まってはいません。全く違うお考えをお持ちVC関係者や経営コンサルタントの方もいらっしゃると思います。
  2. 私個人としては、「和魂洋才」のように、ハンズオンのスタンスとコンサルティングのノウハウをうまく融合したいと考えていますので、今回の記事もそういったバイアスがあるかもしれません。なお、NGCパートナーズの事業内容については「経営・財務コンサルティング」と記載していますが、これは投資ありきではないこと、言葉の分かりやすさを優先させたことが理由です。
  3. プライベート・エクイティファンド(以下、PEファンド)も同様の活動を行っており、その活動のこともハンズオンと呼ぶ場合もありますが、VCや経営コンサルタントと異なりPEファンドが経営の最終意思決定権限を持つことも多いので、あくまでも経営支援であるハンズオンやコンサルティングとは同列に論じることができないと私は考えます。よって、今回の記事のハンズオンはPEファンドのそれではなくVCが行う経営支援のことを意味するものとします。
  4. 本文中で「支援先企業」という言葉を使用していますが、これはVCにとっては投資先企業、経営コンサルにとってはコンサル先企業を意味します。経営コンサルがコンサル先企業に資金を投じる(出資する)事例が多いのかは勉強不足で知りませんが、そういった事例や、VCが投資先企業ではない企業に対しコンサルを行うこともありますが、そういった事例などは説明の都合上、今回の記事の対象外です。
さて、それではハンズオンとコンサルティングを比較していきましょう。

(1)立ち位置

・ハンズオン
 VCと支援先企業とは株主と発行体と関係であり、運命共同体(On the same boat)です。そのため、VCの投資担当者は支援先企業の内部関係者として、支援先企業もしくは経営者とできるだけ近い立ち位置に自分たちを位置づけようとします。但し、運命共同体であっても目指すべき方向が一致しているとは限りませんし、投資と出口(EXIT)の場面では利害が一致しない可能性があります。

・経営コンサル
 経営コンサルタントはあくまでも支援先企業からの業務委託を受けた立場であり、形式上は支援先企業の外部関係者です。支援先企業もしくは経営者とは対面で接することが大半です。

(2)経営支援の実施方法

・ハンズオン
 VCは支援先企業もしくはその経営者と共に考え行動します。一部の分野については「教える」というかたちも取ります。正解がないスタートアップの世界で求められるスタンスとも言える一方、別に述べるとおりVCは経営支援の専門性が高くないことが多いためにそういった方法を取らざるを得ないという側面もあります。

・経営コンサル
 支援先の担当者に「教える」というのが基本的方法です。また、あくまでも経営の一部分(戦略、財務、会計、営業、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を持っているが故に教えるという方法になりがちであり、また高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。

(3)経営支援の範囲

・ハンズオン
 経営全般が対象です。資金を投じている株主であるため、経営のあらゆる面について関心があるからです。別に説明するとおり、VCは支援先企業の株主価値向上が儲けの源泉であり、支援先企業のあらゆる事象が株主価値に影響を与える以上、経営支援の範囲も経営全般とならざるを得ません。ハンズオンを標榜するVCの投資担当者がしばしば支援先企業の社外取締役などに就任することを考えると分かりやすいかもしれません。但しこのことは、全ての支援先企業の経営全般に常に関わることを意味するわけではありません。

・経営コンサル
 あくまでも経営の一部分(戦略、会計、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。但し経営コンサルタントが支援先企業の取締役などに就任することが稀にありますが、その際は経営全般に対する助言を行うこともあるでしょう。

(4)視点

この点に関しては、他の項目と比べてもかなりバイアスがかかった見方になってしまっているかもしれません。

・ハンズオン
 「ありたい姿」「あるべき姿」にいかに近づけていくかを軸とし、個別の戦略や戦術については仮説検証を繰り返すことが一般的です。確立されたノウハウがあるわけではないものの将来性のある産業や事業に投資し経営支援を行うのがVCの役割ですから、そうならざるをえないとも言えます。

・経営コンサル
 「システム」や「フレームワーク」ありきなことが少なくありません。経営コンサル会社自身が開発したシステムやフレームワークを持っていることもあり、支援のための手段にすぎないはずのそれらがいつの間にか目的化してしまっているのを見ることもあります。また最近は変わりつつあるようですが「論理的に正しいかどうか」がまだまだ他のことよりも優先されます。

(5)専門性

・ハンズオン
 高くはありません。ハンズオンの能力を高めるために組織的研修や訓練を行っているVCは日本ではほぼ皆無ですし、ハンズオンの内容の妥当性を組織的に検証する仕組みがあるVCも日本ではほぼ皆無ですので、良い意味でも悪い意味でもハンズオンの専門性は投資担当者次第になってしまっています。

・経営コンサル
 少なくともVCよりは圧倒的に高いことが多いです。組織的研修や訓練も充実していますし、経営支援に関する勉強量全体で見ても圧倒的です。

(6)結果責任

・ハンズオン
 経営支援の結果が、支援先企業の企業価値や株主価値を通じて、VCの損益に影響します。そういった意味で経営支援の結果責任を支援先企業と共有していると言えます。

・経営コンサル
 あくまでも業務委託契約の関係であり経営支援の結果責任を経営コンサルは負いません。もちろん、経営支援の結果が出ないと業務委託契約を更新してもらえない、評判悪化により新規契約が獲得できないなどの影響はありえます。

(7)位置づけと儲けの源泉

・ハンズオン
 VCは「経営支援を行う投資家」ですので、株式などに投資を行い、それが投資時より高い株価で売却することによる差額つまりはキャピタルゲインが儲けの源泉です。経営支援はキャピタルゲインを大きくしたり、確度を高めたりするための手段のひとつです。

・経営コンサル
 経営コンサルは支援先企業からの業務委託料などが儲けの源泉ですので、経営コンサルは目的そのものと言えます。

(8)ノウハウの開示

・ハンズオン
 支援先企業に対してという意味合いでは、VCは経営支援のノウハウを隠す必要がありませんので、必要に応じて全て開示することが一般的です。但し、開示できるほどの専門性がない、体系化がなされていないといったことはありえます。

・経営コンサル
 経営支援のノウハウそのものが経営コンサルの強みですので、全てを開示するのは難しいことも多いようです。

(9)ネットワーク・人脈

・ハンズオン
 VCのネットワークや人脈は広いことが多いです。VCの日常の活動の中で最も重視されるのは「将来有望な未上場企業を探し出してくる」ことであり、そのためにネットワークや人脈を構築することに多くの時間を割いています。

・経営コンサルティング
 VCほどネットワークや人脈を構築することに時間を割けませんので、VCよりは狭いことが一般的です。

(10)担当者の質、経営に関わった経験、実務経験など

 これはいずれも担当者次第と言えますが、組織的な研修や訓練の仕組みが脆弱なVCの方が当たり外れが多いと考えられます。実務経験に関して言うとVCの投資担当者はないことが大半です。最近は出身業界が多様になりつつありますが、業界全体で見ると新卒採用や金融機関出身者が多く、実務経験は期待できません。両業界とも、若手はやる気にあふれており、優秀で勉強熱心な人物が多いです。

以上を総括すると、VCは経営コンサルのノウハウを学ぶべきと考えますし、経営コンサルは支援先企業に対する出資機能を持つとより理想的な環境で経営支援が行えるのではないかと考えます。

また別の機会にVCの投資担当者とPEファンドの投資担当者の比較も行ってみたいと思います。