NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2019年10月8日火曜日

スタートアップにとっての営業

今回はスタートアップ企業にとっての営業について考えていきたいと思います。

なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。

スタートアップの経営の中での悩みはいろいろありますが、その中でも一番の悩みとして挙がることが多いのが売上が伸びない、ということではないでしょうか。

戦略がなく敗れ去った国家や軍隊の話は歴史でもよく登場しますが、スタートアップの売上が伸び悩むのは、実はそれとは逆で戦略しかないことが原因であることが少なくないと考えています。私はそれを「戦略あって兵隊なし」と表現しています。本当は「戦略あって実行なし」や「戦術なし」でも構わないのですが、分かりやすい言葉として「兵隊なし」としています。

今回は兵隊=実行策、その中でも最も重要なひとつである営業の必要性や基本的な考え方について触れてみたいと思います。

スタートアップ経営者にありがちな勘違い
  • 当社の製品は圧倒的な技術が元になっており、競争力がある(ので売れるはず)。
  • ターゲット顧客にヒアリングした結果、極めて評判が良かった(ので売れるはず)。
  • 総合商社が販売代理店になってくれた(ので売れるはず)。
  • 全国に代理店網を構築した(ので売れるはず)。
  • マーケティングは完璧である(ので売れるはず)。
  • 当社の製品は競合他社の製品よりはるかに安い(ので売れるはず)。

他にも自社商品やサービスが売れるはずであるという理由をたくさん聞くことがありますが、これらは実は「営業」を知らないスタートアップ経営者にありがちな勘違いです。

もちろんこれらは製品やサービスが売れるためには必要なことではあります。ただ、それだけでは足りません。そこには「営業」の機能が足りないもしくは存在していません。良い製品やサービスであれば顧客の方から探し出してくれるかのような勘違いも耳にすることが多いですが、ほとんどの場合、営業活動を行わなければ顧客に知ってもらうことができず、結果として売上は伸びません。

スタートアップでの営業の位置付け

まずは、多くのスタートアップでの営業の位置付けについて見てみましょう。実は営業を軽視するスタートアップ経営者は多いのです。それらの経営者は、プログラマー、コンサル、技術者やマーケターなど様々な背景を持っていますが、意外に少ないのが営業出身者。そのため、たとえ営業部門が社内にあってもその役割は重視されていないことも多くあります。しかし、すでに商品やサービスが販売できる状態であるならば、営業を重視した社内体制を構築すべきです。

マーケティングの究極の目的は、モノやサービスが「売れる」状態を作り出すことですが、それを実現できている企業は決して多くはありません。それにモノやサービスは常に顧客の声を聞いて改良していく必要があります。今では顧客開発モデルなどの優れた手法もありますが、実際の販売開始以降は、顧客の声は営業部門に一番多く集まります。どんなビジネスでも「顧客」がスタートラインなのです。そこに一番近い場所にいる営業部門を重視しないことはありえません。

早速今から営業部門の位置付けについて考えてみて欲しいと思います。

まずは「直販」からはじめる

営業や営業部門の重要性を理解している場合、まずは「直販」と呼ばれる営業方法から開始することが望ましいと考えられます。これは「現場主義」の営業場面での体現といえます。

直販を行うことは営業担当者がいなくても実施可能です。営業は重要なものなのだから経営者自身が行うべきなのです。

そこで知るべきは本当の顧客のニーズだけではなく、どうやったら顧客の感動を得られるか、どのような流れや方法で顧客の感動を得たか、です。実は直販を最初に行うべき理由はここにあります。

営業経験のない経営者が、自社の商品やサービスの販売を開始する際、いきなり代理店網を構築しようとすることがあります。はっきり言ってしまうとそれは成功する可能性が極めて低いです。営業代理店は一度契約すれば後は黙って商品やサービスを販売してくれる存在ではありません。代理店となる企業はほとんどの場合、あなたの会社以外とも代理店契約を結んでいるのです。そして、取り扱う商品やサービスは多岐にわたります。そういった中、代理店自身の利益を考えた場合、代理店は当然ながら、売りやすいもの、利益率が高いものを優先して販売していきます。あなたは代理店に対し、自社の商品やサービスの販売を強化してもらえるよう働きかけるでしょう。そのときに重要になるのが、あなたの会社が直販で培ったノウハウなのです。代理店に対しそのノウハウを提供していくことで、あなたの会社の商品やサービスは、代理店にとって売りやすいものとなっていきます。こういった取り組みがあって初めて代理店網が活きてくるのです。

代理店の活用は掛け算に似ています。あなたの会社の営業力がゼロであれば、どんなに立派な代理店網を構築しても、掛け算した結果は変わらずゼロになるにすぎません。必ず、まずは直販からはじめましょう!

営業は仕組みづくり

営業活動を強化する際にありがちな間違いが、いわゆる「スーパー営業マン」を採用したり育てたりしようとすることです。営業の世界にはそういった人達が少なくないし、そういった人達は尊敬すべき対象です。ですが、そういった人達の営業ノウハウはその人達にしかできないことが多く、営業活動はブラックボックスになりやすいと言われることもあります。そのため、会社を継続的に成長させるためには、属人的な営業ではなく、組織的な営業を行う体制が望ましいといえます。組織的な営業活動を行うために最低限必要となるのがたとえば次の機能です。
  • 営業のステップ化とKPI目標設定
  • KPI管理や営業力強化目的とした営業会議
  • インセンティブ制度
  • 営業力強化の取り組み(教育)
KPIはいろいろ定義や使われ方がありますが、ここでは「先行指数」として捉えたいと思います。売上や利益を営業の管理指標にしているスタートアップが少なくありませんが、売上利益は結果であって、それを管理しても営業の観点では意義に乏しいと言えます(もちろん経営の観点では重要です)。売上利益をあげるための営業活動をステップ化し、それぞれのステップに目標となるKPIを設定しましょう。分かりやすい例としては訪問数やキーパーソンへの提案数などです。そういったことを先行指数として管理していくことが営業の結果につながっていきます。

また、インセンティブ制度も重要です。営業結果を出した担当者には何かしらのかたちできちんと報いる制度を作ることが営業力強化にもつながります。

スタートアップでの取締役会、経営会議そして営業会議でも、戦略に関する事項に議論が集中する場面を多々見てきました。しかし、結果を出していくスタートアップは必ず兵隊=実行策についてもしっかりと議論し仕組みを作っています。そして実行策の代表格のひとつが「営業」です。私は営業なくして成長なし、と考えています。


2019年10月7日月曜日

官民ファンド(日経新聞)

官民ファンド、遠い累損解消 4機構 1年で6割増:日本経済新聞
スタートアップ企業などに投資して産業を振興する官民ファンドで......

ここで名前が挙がっている官民ファンドの内、中小機構とA-FIVEは私も関わりがありました。

中小機構は私が所属していたVCやPEが運営するファンドのLPとしてです。

A-FIVEとは間接的な関わりで、出資を受けるかどうかを検討している事業会社側にコンサルとして入った経験と、A-FIVEの仕組みを活用して6次化ファンドの設立を行った地方銀行にコンサルとして入った経験とがあります。

私見ですが、中小機構は当時すでに民間VC/PEのファンドへのLP出資経験が豊富で、GPに対する対応でも任せるところそうでないところ、GPに対してどう意見を言えばGPが納得して動くか、などの勘所を掴んでいるように見受けられました。場合によってはGPに無理難題を突きつけるLPに対し、同じLPとして違う意見を言ったりとGP側の立場であった私としてはファンド運営全般でおおいに助けられました。

一方のA-FIVEは知る限り「管理を徹底すればリスクは下がる」との考えに過度に偏っているように見受けられました。当時はA-FIVEが活動を開始したばかりの時期で試行錯誤中だったのかもしれませんが、まさに投資先企業の箸の上げ下げまで管理しようとする投資契約の内容で、首をかしげたのを覚えています。結局、私のコンサル先の内、事業会社側には出資受け入れをしない方が良いと提案し、その案が採用されました。今でも正しい判断だと思っています。

2019年10月2日水曜日

社外取締役の役割(日経新聞)

社外取締役、初の3割超 上場企業:日本経済新聞
上場企業の役員の顔ぶれが多彩になってきた。取締役に占める社外取締役の......
日経新聞その他の経済紙・経済誌には定期的に「日本の上場企業における社外取締役の割合」の記事がでます。内容は毎回お決まりで、社外取締役を設置している上場企業の割合は増えている、社外取締役が期待されている役割を果たせているかではまだまだ改善の余地がある、といったものです。

私は未上場企業の社外取締役を務めさせていただく機会もあり、監査役会が設置されている会社の場合は、監査役会にも一部の時間出席させていただき、監査役の方々と情報交換を行うこともあります。

上場or未上場、会社の機関設計の違いなどがあり、一概には言えないのですが、私の経験上、上場企業の社外取締役に関する論評や記事などを読んでいて感じるのが「社外取締役に多くを期待しすぎ」ということです。

今回の日経新聞の記事も、社外取締役に期待される役割について「異なった経験や知見を経営に生かす」と書いたかと思うと、不祥事を防ぐことがその役割と読めるような記載もあります。

実際の上場企業の取締役会の場でも、監査役との違いが全く分からない発言に終始するような社外取締役も見てきました。

只でも社外取締役に相応しい層が薄いことが指摘される日本なのですから、社外取締役に多くを求めるのではなく、ある程度期待する役割を限定すべきではないでしょうか。

実際には明確な線引ができるわけではないかとは思いますが
  1. 取締役(会)の判断がいわゆる経営判断の原則を逸脱していないかの監督は監査役の役割
  2. 取締役(会)が経営判断の原則の範疇で意思決定している前提で、より適正適切な意思決定ができるよう促していくのが社外取締役の役割
といったことが私の案です。