NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2022年12月24日土曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(2) 金融機関からの借入でM&Aを行う場合のスケジュール

企業や事業の買収を、負債として調達した資金で行うことの良し悪しは意見が分かれるところです。投資は余裕資金で行いましょう、というのも正しいと考えられますし、負債でレバレッジを効かせて投資効率を高めましょう、というのも一定の条件下では正しいと考えられます。ただ、常に余裕資金があるわけではない中小企業が買い手となるM&Aにおいては、多くの場合、金融機関からの借入資金をそれに充てることになりますし、ある程度余裕資金があったとしても、手元資金を減らしたくないという考えで、金融機関からの借入資金を充てることも少なくないでしょう。

金融機関からの借入資金で中小M&Aを行う場合、
  • デューデリの結果
  • 買収対象企業の事業計画(デューデリで判明した事項を反映したもの)
  • 買収対象企業から親会社(買収を行う側)にもたらされるキャッシュフローによる返済計画
だけでなく、
  • 買い手側の事業計画や資金計画
も金融機関の審査対象となります。SPC(特別目的会社)を活用するM&Aは、中小M&Aではまだ特殊な事例かと考えられますので、この記事では「買い手側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合の買い手側の立場を前提としています。

さて、金融機関からの実際の審査内容ももちろん重要ですが、同じくらい重要なのがスケジュールです。
  1. 自社(買い手)の希望するクロージング(株式譲渡及び代金決済)日
  2. 売り手側の希望するクロージング日
  3. デューデリのスケジュール
  4. 金融機関の審査のスケジュール
といったことを調整していく決定していく必要があります。

通常、買い手側と売り手側の希望クロージング日(12)をまず調整します。買い手側はM&Aはゴールではなく、クロージング後に対象会社の経営をしていく必要があり、その準備の進捗なども考慮に入れる必要があり、必ずしも最短スケジュールで進めようとは考えていないかもしれません。一方で売り手はM&Aで得た資金を別の投資に回す計画があったりと、できるだけ短いスケジュールで進めることを希望するかもしれません。それぞれ逆の場合もあるでしょう。そういった点を調整する必要があります。

本来望ましいのは、そのようにして上記1と2を調整して定めたクロージング日から逆算して34のスケジュールを決める、という流れですが、そう簡単にはいかないケースが多くあります。

3のデューデリのスケジュールですが、買い手側は経験のある税理士・会計士・弁護士に依頼したり、M&Aアドバイザーにプロジェクトリーダー的に動いてもらったりすることで「プロの手を借りる」ことができる場合が多いのでそれほど問題とはなりませんが、売り手や対象会社は買い手側からの開示依頼資料を準備したりインタビューに対応したりしないといけません。M&Aアドバイザーがいたとしても準備・対応は社内で行わざるを得ないでしょう。そして当然ながら、初めてのことなので予め資料の準備ができているとは限りません。そうして「資料の準備・提出が遅れる→デューデリス全体が遅れる」ことにより、他の項目のスケジュールに影響を与える、ということが起きてしまいます。もちろん、デューデリ結果がなければ買い手側の意思決定が行えない、という大きな問題もあります。

4の金融機関のスケジュールですが、買い手側の対応力・説明力、3のデューデリのスケジュール、金融機関側の体制・フローや経験値などの影響を受けます。買い手側が先述のような資料を用意して金融機関へ説明を行うのですが、すでに経験があったり適切なフォローをしてくれるM&Aアドバイザーなどがいる場合以外は、その説明に苦戦するかもしれません。また、様々な資料の提出を求められますが、最終的に必ず必要となる書類のひとつに「デューデリ報告書」があります。デューデリを行った税理士・会計士・弁護士等の専門家が依頼主である買い手に提出するものです。ですので上記3のデューデリが遅れている場合、金融機関への資料提出が遅れ、借入日も遅れ、結果としてクロージング日も遅れるということとなります。

では一体どうやってM&Aのスケジュールを決めていけば良いでしょうか。買い手側の立場では、
  • まず金融機関に一般論としてのM&A資金融資の審査に必要な期間を確認する。
  • 次にデューデリ専門家にデューデリに必要な期間を確認する。
  • それらの情報を得た上で、売り手側とスケジュール調整する(もしくはM&Aアドバイザーにスケジュール調整を依頼する)。
という流れが良いかと考えます。

その際の注意点としては、
  • 金融機関には、金融機関内の審査や、決裁を得る手順を教えてもらえる範囲で細かく聞いて、どのタイミングでどういった資料や情報が必要になるか、それぞれの手順にどの程度の時間を見込んでおけば良いか、などを確認することが重要です。また先に提出できる書類もあるかもしれませんので、早めに「必要となる(であろう)書類」一式を確認しておきましょう。
  • デューデリ専門家との間では、デューデリの範囲をどうすべきかを相談しながらスケジュールを確認していきましょう。不必要な範囲までデューデリ範囲としてしまうことは、時間的にも費用的にも無駄で終わってしまう可能性もあります。
  • 売り手側とのスケジュール調整の中で、買い手側の希望よりも短い期間での対応を要することとなる場合もあるでしょう。そういった場合には、売り手や対象会社からの資料の提出を前倒ししてもらうことでデューデリ期間を少しでも短くできるようにしたりする工夫が必要となります。

以上、「買収する側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合のM&Aスケジュール調整の例を解説しました。M&Aの経験が複数回あったり、適切な動きをしてくれるM&Aアドバイザーがいる場合はそれほど苦労せずにできそうなことでも、初めての経験で適切な助言者もいない場合だと苦労することとなります。

ところで、この記事で「適切に助言をしてくれるM&Aアドバイザー」という趣旨の言葉を何回か使用しましたが、前回の記事でも少しご紹介したとおり、全てのM&Aアドバイザーが適切な助言をしてくれるわけではないことには注意が必要です。
  • M&Aが早くクロージングした方がM&Aアドバイザーが早く成功報酬を得られる場合。
  • 仲介の立場でも何等かの理由で売り手重視の対応をとる場合。
  • M&Aアドバイザーの担当者の経験値が高くない場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の総合的な経験値は低くはないが、金融機関対応など個別のテーマでは苦手分野がある場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の経験値に関係なく、「こういうスケジュールで進められるはずだ」という思い込み先行となってしまっている場合。
といった例においては、M&Aアドバイザー自身が買い手の立場にたってスケジュール策定をしてくれない可能性もあります。ですので、M&Aアドバイザー側にスケジュールの根拠などを細かく確認したり、セカンドオピニオンを得たりすることも大切です。

以上、私がセカンドオピニオン的立場にたって助言をしていた際のトラブルを元にまとめました。この記事が参考になれば幸いです。

2022年12月14日水曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(1) M&A仲介会社等との関係

現在、NGCパートナーズではM&Aアドバイザリー業務単体での新規受託は停止していますが、セカンドオピニオン業務を行う場面は少なからずあります。主には経営・財務コンサルティングの既存クライアント事業者様が、M&A仲介専業会社から持ち込まれた案件の買収検討を行う場合に、当該クライアント事業者様から助言を求められる、というかたちです(案件情報元のM&A仲介専業会社が「仲介」の立場、私共がセカンドオピニオン提供者という立場です)。

M&A仲介専業会社の多くは、さすが専業だけあって、案件情報量や、業界特化している場合はその業界の専門知識も豊富で感心させられます。また、多くの場合、買い手と売り手にとっての利益を第一に考えM&Aを成功裏に着地させようと努力をしてくれます。一方で、疑問に感じる対応も見受けられる場合もあります。今回の記事では中小M&Aのセカンドオピニオン業務で出会った事例の内、少なからず散見される問題事例、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者が気を付けておくべき事項などをご紹介します。

[事例]

  1. M&A仲介会社が会社としては中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っているが、現場の担当者(M&Aコンサルタントなど)はそれを知らない、ファイナンシャルアドバイザリー(FA)契約がガイドラインに対応していない。
  2. デューデリジェンス実施に関する助言はM&A仲介業務の範囲外として、専門家紹介やデューデリのとりまとめを行わない。しかもそれをFA契約締結前に説明しない。
  3. デューデリジェンスの日程や、その結果を受けての買い手側の検討時間を無理に短く設定する、など強引なスケジュール設定を行う。
  4. デューデリジェンスの実施範囲について、買い手に不適切な助言をしたり、相談せずに勝手に決めてしまう。
  5. デューデリジェンスで判明した事実の中で、M&A価額に反映させるべきか検討を要する事項があった場合も、M&A価額を変えない方針の下、強引に話を進めようとする。
  6. 買い手側がM&A資金を借入で調達しようとしている場合でも、そのことへの助言や支援を行わない。
  7. 売り手や対象会社から説明を受けていた重要な事実を、適切なタイミングで買い手に伝えない。

[解説]
  1. 多くのM&A仲介会社やFA事業者は、中小企業庁(経済産業省)の「M&A支援機関登録制度」で支援機関として登録を行っており、登録した者は中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っています。多くの者はガイドラインに沿ったかたちでFA業務を行っているはずですが、中には現場の担当者まで徹底されておらず、また雛形として利用しているFA契約がガイドラインに全く対応していない、などの事例が見受けられます。M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は、FA契約を顧問弁護士等にチェックしてもらうのは当然として、中小M&Aガイドラインに対応しているか、も合わせて必ずご確認ください。
  2. M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は多くの場合はM&Aの経験は初めてです。その中でもデューデリジェンスについては、どういったものを実施すべきか、どういった専門家に依頼すべきか、出てきた報告書をどう判断に活かすべきか、と疑問がつきない場面のひとつです。多くのM&A仲介会社はそれらの助言を行いますが、それらの助言をほぼ放棄しているM&A仲介会社もあります。言い分としては、成功報酬を低く抑えているので実施するサービスの範囲も限定している、といったものが多いようです。しかし実際にはフルサービスを提供してくれる他社と比べ特に成功報酬が低額な訳でもありません。他にも同様の事例があり、例えば売り手企業の情報をコンパクトにまとめた企業概要書を作成しない、初期段階で買い手に提供する資料は売り手側作成且つ、M&A仲介会社のチェックも入っていない資料を転送してくるだけ、といった手抜き事例も見受けられます。少なくともFA契約締結後にそれに類するような事態となることを避けるためにも、M&A仲介会社が実施するサービスの詳細について必ずご確認ください。
  3. M&A仲介会社は多くの場合、M&A成約後に売り手と買い手から受領する成功報酬が自社の売上利益となります。また、担当者へのインセンティブもそれを元に計算する場合が少なくないようです。そのためか、売り手も買い手も求めていないにも関わらずタイトなスケジュールを設定しようとしてくる事例が見受けられます。もちろん、何かしらの必要性があったり、やむを得ない事情でそうなっているのかもしれません。いずれにせよ、M&A仲介会社が提示してきたスケジュールはその理由を必ず確認し、変更を希望する場合はその旨をはっきりと伝えるようにしましょう。
  4. M&A仲介会社の中にはデューデリジェンス実施範囲を不当に限定されたものにしようとする助言を行う事業者もいるようです。ひどい事例になると、デューデリジェンスは必要ない旨助言したり、最低限の財務税務のデューデリだけ実施し他のデューデリは行わないよう助言したりする事例です。M&A仲介会社はM&Aが成約し決済されるまでが仕事ですが、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者はM&A成約・決済後が本番と言え、その本番を迎えるにあたってデューデリ報告書の内容はとても重要です。デューデリはM&A価額算定のためだけに行うものではありませんので、M&A後を見据え、どういったデューデリを行うべきか慎重に検討するようにしましょう。
  5. M&A仲介会社は買い手と売り手の間に立って両社の利害を調整しつつM&Aを成約させるのが役割ですし、中小M&Aの場合、デューデリで何かしら問題が発見されたら即M&A価額を下げる、といったことが行いにくい場合があるのは事実です。しかし、それは例えばデューデリ報告書の内容を精査し、その後の売り手側との調整にどう織り込むか、などを買い手が十分に考えてから対応すべき事柄であり、M&A仲介会社が強引に話を進めて良い類のものではありません。
  6. M&A資金を負債で調達することが適切かどうかは意見が分かれるところですが、中小M&Aでは実際にはよく行われる方法です。その場合、M&Aの検討と、金融機関との折衝が同時並行で行われ、しかも金融機関に対しどのように説明していくかは、なかなか難しい場面もあります。守秘義務があったり、デューデリが終わるまでは買い手側も情報量が不足していたりと通常の借入とは異なる面が多いからです。そのため、多くのM&A仲介会社はその金融機関対応についても助言を行います。金融機関からの融資がないとM&Aが成立しないこととなるのですし、当然とも言えます。しかし、そこを苦手としているM&A仲介会社もあり、その場合、全く助言が期待できません。M&A資金を負債で調達する必要がある場合は、そこへの支援や助言をしてもらえるか、事前に必ず確認しましょう。
  7. これについてはなかなか対策のしようがないのですが、デューデリも終わって、最終契約(株式譲渡契約など)の内容もほぼ合意したタイミングくらいで「実は・・・・」と言って悪い情報を買い手に伝えてくるM&A仲介会社があります。M&A仲介会社自身は必ずしもそのタイミングでその情報を知ったわけではなく、売り手からはかなり前の段階で話を聞いていることもあるようです。買い手側としては今更M&Aを破談にするわけにもいかないということで対応に困ってしまう場合もあります。
以上、いくつかの事例をご紹介しました。セカンドオピニオンを別の専門家に依頼していたとしても全てを防ぐことができるわけではありませんが、M&A自体が初めて、という場合だけでなく、そのM&A仲介会社に依頼するのが初めて、という場合もセカンドオピニオンを得ることは選択肢として検討の価値があるかと考えます。


2022年3月12日土曜日

事業計画の作り方28 後継者の方向け(16) 中期経営計画策定の手順と体制(上)

事業計画を作る際に、後継者・アトツギの方と起業前の方で大きく異なるのは社内にすでに部門責任者や事業責任者がいるか否か、ということです。

起業前の方であれば、まだそういった存在がいないことがほとんどでしょうし、起業後もそういう状況が続くかもしれません(起業家の最も重要な役割としてチームづくりがありますので、きっとそういった存在が増えていくことでしょう)。一方で、後継者・アトツギの方であれば、先代を支えた部門責任者や事業責任者がいることが多いでしょう。肩書がどうかではなく、実質的にそういう役割を担っているか否かで考える必要があります。キーパーソンという呼び方でも良いかもしれません。事業承継においては、先代を支えた幹部役職員をどう遇するか、ということが大きな論点になることも少なくありませんが、ここではそれについてあまり触れないことにします。

後継者・アトツギの方が自分の中でアイデアを練っているだけ、というのであれば別として、実際の経営や事業運営ではそれら各責任者の協力を得ていく必要があります。「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」でも説明したとおり、事業計画には「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」という機能もあります。「特定の人」の具体例としては金融機関や投資家などを想定しがちですが、当然ながら社内の役職員もそれに該当します。さらには、事業計画の検討・策定の段階から(もっと言えば現状分析の段階から)社内の責任者やキーパーソンに加わってもらうことで、「自分たちが作った事業計画」とすることにより、経営や事業がより一層自分事となって計画実現・達成の可能性が高まります。さらには、事業計画検討・策定の過程で責任者やキーパーソンの資質ややる気を深く知ることができ、今後、経営を共に担い得る存在なのかを考えることができます。

それらの理由で、後継者やアトツギは「巻き込み型の事業計画検討・策定」について知っておくべきと考えます。そこで参考になるのが、株式上場準備の中で作り上げていく中期経営計画検討の手順や体制です。それを基礎として自社なりの手順や体制を見出していくと良いと考えます。

次回は「株式上場準備の中で作り上げていく中期経営計画検討の手順や体制」について解説します。

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2022年3月5日土曜日

事業計画の作り方27 後継者の方向け(15) 長期ロードマップの検討

さて今回から事業計画検討・策定の段階に入ります。ほぼゼロからのスタートとなる「起業前後の方」と違い、後継者やアトツギの方々はすでに一定の歴史がある会社の事業計画を考える立場ですので、現状分析について回を重ねて説明してきました。一方で事業計画の検討・策定の段階に入ると、あくまでも将来の話ですので基本的な考え方は同じです。ですので後継者の方にも「起業前の方向け」の回にぜひお目通しいただきたいと思います。そして、当シリーズでは特に後継者・アトツギの方に知っておいていただきたいテーマ(つまりは「起業前の方向け」ではカバーできていないテーマ)について取り上げていくことにします。

今回は「長期ロードマップの検討」について解説します。

1.長期ロードマップとは?

長期ロードマップとは、一般的な名称ではなく私が勝手に命名して活用しているものなのですが、下のイメージのように中期経営計画(中計。一般的には3年程度の計画)×数回についての大枠を考え、整理しておくための表です。
長期ロードマップのイメージ図
横に時間軸を、縦に各項目を並べます。上記イメージはあくまでもイメージですので、各項目は自社にふさわしいものを考える必要があります。横軸もケースバイケースですが、中期経営計画の2回分以上の期間にしておくと良いと思います。そして両軸が交わる各セルには、どういったことを行うか、どういった状況になっておきたいか、といったことを簡潔に記入していきます。A3縦一枚にしてタブレット端末や紙で持ち歩いておくと、ちょっとした空き時間に自社の長期の計画をまとめるのに活用しやすいでしょう。

2.長期ロードマップの活用

こういった長期のことを考える話をすると必ず反論として挙げられるのが「環境は変化するものであり、このようなロードマップは環境適応への妨げとなる」、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」などといった意見です。

しかし環境に適応するとは、環境に流されるという意味ではありません。自社なりに将来の環境予想をしておかないと事業の方向性すら考えることができなくなります。長期ロードマップは将来の環境や、環境変化の方向性を考えるきっかけとして活用してください。また、長期ロードマップは中計の元となるものではありますが、それ自体は計画ではありませんので、その内容は定期・不定期に見直していくつもりでいれば良いのです。

また、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」という考えは、多くの場合、「将来こうなっているだろう」ということを考える、やや受け身の発想が背景にあるように見受けられます。長期ロードマップを考える際には「将来、こうなっていたい」を発想のベースにするようにしましょう。

3.長期ロードマップを考えるポイント

(1)単年度ごとに考える必要はない

 上記イメージ図ではセルを単年度ごとに区切っていたり、3年ごとに区切っていたりしています。そのように必ずしも単年度ごとに考える必要はありません。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などは毎年変わることの方が少ないでしょうし、数値計画のようなものでも3年後には売上いくら、6年後には売上いくら、といったように3年区切りで決めることでも問題ありません(但し、直近の中計を検討する段階では単年度に落とし込むことになるはずです)。

(2)全てのセルを記入する必要はない

 ある項目もともと取組の時間軸が長く、6年後や9年後についてはまで考えることができる一方、別のある項目についてはせいぜい2年後までしか考えることができない、といったことがあると思います。それは当然のことですので、全てのセルを最初から記入しなくてはならない、とは考える必要はありません。考えがまとまったタイミングで随時記入していきましょう。

(3)株式上場計画や事業承継計画を起点にすると考えやすい

 株式上場の計画や、事業承継計画がある企業の場合、それも長期ロードマップに組み込んでしまいましょう。そうすることにより、上場スケジュールを実現するためには、事業面でこういう状態になっておく必要がある、など、長期ロードマップの他の項目を考えやすくなります。事業承継計画も同様に活用可能です。上場スケジュールに事業が振り回されるのは少し違うのではないか、との考えもありますが、実際には上場スケジュールを決めて、それを実現できるよう事業を推進する、ということで取り組みをしている会社も少なくはありません。

(4)新規事業についても大枠を考えておく

 長期ロードマップも中計と同様、全社→事業ごと、と考えるのが基本ですが、新規事業についても大枠を考えておきましょう。すでに具体的アイデアがあるものはもちろんですが、そうでない場合でも、既存事業が一定の時期で縮小傾向になる可能性が高いので、それまでに新規事業を軌道に乗せておく必要がある、などを書いておくのです。そのことにより、バックキャスティングで、いつまでにどういう取組が必要となる、といったことを考えることができるようになります。

(5)将来の組織図も考えておく

 数年ごとのあるべき組織図についても予め考えておくことで、どのポジションで人財が不足するとか、こういった強みのある人財が新たに必要になるということを予め見通すきっかけとなります。近年では人財不足は多くの業界で起きていますし、ポジションによっては数年単位での採用活動が必要なることもあります。


単年度の事業計画(≒予算)はどうしても数字面で達成するかしないか、だけに関心が向きがちです。しかし、経営者がそれだけを考えていては将来の事業の土台を作っていくことはできません。長期ロードマップを活用して、長期的な会社・事業の方針や施策を考えてみることをおすすめします。

次回は「中計の組織的な検討の仕方」について解説予定です。
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2022年2月26日土曜日

事業計画の作り方26 後継者の方向け(14) 現状分析の総仕上げとしてのSWOT分析9 クロスSWOT分析のポイントや注意点

今回は「現状分析の総仕上げとしてのSWOT分析」の解説の最後としてクロスSWOT分析について解説します。クロスSWOT分析自体は事業計画策定の段階のフレームワークであり、本来であれば現状分析の一環として解説するのではなく、次の計画検討の一環として解説するのが良いのかもしれませんが、SWOT分析と一体で活用する事例が多いことや、現状分析と計画策定とを有機的に接続するためのツールとも言えることなどから、ここで解説することにしました。


図をご覧いただけるとわかるとおり、SWOT分析の結果を活用して次の戦略を考えるのがクロスSWOT分析です。

(1)機会✕強み

 積極戦略と呼ばれ、事業機会に対し、自社の強みを最大限に生かすにはどうしたらいいか?を考えます
 中小企業の場合、真っ先に検討すべき象限であり且つ最も重要な象限です。最優先で取り組むべき戦略が挙げられるでしょうし、すぐに実行できる具体的な戦略を考える必要があります。また、投資を行ったり、費用をかけてでも取り組むべき戦略が求められます。

(2)脅威✕強み

 重要度としては積極戦略と撤退戦略の次に位置づけられます。教科書的には、脅威を強みで克服することを考える象限なのですが、大企業やベンチャー企業の場合は当てはまるかもしれませんが、中小企業の場合は本当にそれで良いか慎重な検討が必要です。「強み」と言えども中小企業の場合は限られた経営資源の上にあるものだからです(大企業は経営資源は比較的豊富ですし、ベンチャー企業は外部からの積極調達が前提です)。であれば、あえて脅威に挑まずに機会に強みを集中的に投入する、つまりはこの象限でも撤退戦略を考えた方が良い場面もあるはずです。

(3)機会✕弱み

 事業機会に対し、自社の弱みで取り逃がしてしまったことを改善・回復するにはどうしたらいいか?を考える、改善戦略や段階的施策と呼ばれる象限です。教科書的には中期的な時間軸で改善を目指したり、段階的施策を実施したりすることを考える象限なのですが、これも本当にそれで良いかは慎重な検討が必要です。時間をかけているうちに機会が機会でなくなってしまう可能性が高いからです。M&Aや提携などで弱みを克服する目途が立たない場合、撤退も選択肢となります。

(4)脅威✕弱み

 脅威と弱みが最悪の事態を招かないようにするにはどうするか?を考えます。専守防衛と呼ばれる象限ですが、おそらく専守防衛の本来の定義と異なる意味合いになっており分かりにくいですので撤退戦略と呼ぶべき象限です。経営資源が限られた中小企業の場合、撤退・縮小をいかに追加の損失なく迅速に行うか、を考えるべき象限です。

多くの解説などでは大企業やベンチャー企業を前提として各種フレームワークの解説がなされていることが多く、今回は「経営資源が限られており、且つ積極的な調達を必ずしも前提としていない中小企業」の視点でクロスSWOT分析を考えてみました。フレームワークとしてはとても有用ですので、柔軟に活用いただければと思います。

長らく続いた「現状分析」に関する解説は今回で終了です。
次回以降、いよいよ計画策定の段階の解説を開始する予定です。


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2022年2月19日土曜日

事業計画の作り方25 後継者の方向け(13) 現状分析の総仕上げとしてのSWOT分析8 SWOT分析のポイントや注意点

「現状分析の総仕上げとしてのSWOT分析」として7回にわたって解説してきました。今回と次回でSWOT分析とクロスSWOT分析の解説を行い「現状分析」に関する解説は一旦終了予定です。

今回はSWOT分析についてですが、SWOT分析の概略はすでに解説済ですので、今回はSWOT分析を実際に行う際のポイントや注意点についてご紹介します。

まず、大前提ですが、記事のタイトルにもしているように「SWOT分析は様々な現状分析の総仕上げ」という位置づけで行うものです。前回までにご紹介してきたような他のフレームワークを活用するなどして各種現状分析をやっていないと、ただ思いついた事項を並べたり、抽象的な事項しか挙がらなかったりしてほとんど意味のない分析で終わってしまいます。またSWOT分析だけで終わってしまっても意味はありません。クロスSWOT分析まで実施するようにしましょう。現状分析はあくまでも将来の計画を考える際の準備のひとつにすぎません。SWOT分析までで終わってしまうと将来の計画を立てることにつながっていきません。

さて、SWOT分析の基本的な考えは「様々な機会に対し、自社の強みをぶつける」というものです。機会が先に来て、そこに投じることができる強みが次に来るということを忘れないでください。「自社の強み」が物事を考えるスタートになり勝ちですが、そもそも機会がないと強みを十分に活かすことはできないのです。

その「機会」ですが、「機会だという勘違い」に気を付けましょう。よくある例が「先行者がいない(ので自社にとって機会だ)」、「競合がいない(ので自社にとって機会だ)」というものです。こういった場合は「それは何故だろうか?」と考え直してみる必要があります。

先行者がいないと思う場合は焦って結論を出さずに以下の問いを考えてみましょう。
  • 先行者がいないのはなぜでしょう?
  • 自社以外の誰もそこに市場がある(であろう)ことに気が付かなかったから?
  • 気が付いていたが参入しなかった?
  • 参入したもののすでに撤退しているから?
  • 参入しなかったり撤退した理由は?

競合がいないと思う場合も同様に以下の問いを考えてみましょう。
  • 競合がいないのはなぜでしょう?
  • そもそも競合をちゃんと探した?
  • 競合か否かの判断は「顧客の視点」で行った?

こういったかたちで深掘りしておかないと、実際には市場がない、他社はそれを知っている、自社はそれを知らず先行者も競合もいない状態つまりは機会だと捉えてしまった、ということになりかねません。

また「強み」ですが社内メンバーだけで考えると考え付かないことも少なくありません。そういったときは「顧客が自社を選んでくれた理由」からスタートすると良いです。実際にヒアリングしてみましょう。

今回は短めですが、以上です。次回はクロスSWOT分析について解説予定です。


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2022年1月1日土曜日

新年のご挨拶(2022年)

新年あけましておめでとうございます。

当ブログ「NGC Partners Weblog」の2021年1月から12月末までの記事別のアクセス数順位は以下のとおりとなりました。ご覧くださった皆様、ありがとうございました。

第1位
 事業計画の作り方17 後継者の方向け(5) ROICツリー(現状分析の補足)
 (2020年9月27日投稿)

第3位
 M&Aの基礎知識:FA形式と仲介形式
 (2021年10月25日投稿)

ありがたいことに前年に引き続き「事業計画の作り方シリーズ」へ多くのアクセスをいただきました。第1位の記事については、「ROIC」や「バリュードライバー」などの用語で検索して当ブログまでお越しくださった方の割合が多かったのが特徴です。ROICは経営管理指標の枠組みとして採用する企業も増えていますので、Web上で検索されることが多いのかもしれません。

ところで、事業計画の作り方シリーズは、後継者の方向けのものの連載を再開しています。また、起業前の方向けの記事についても単発ものを掲載していく予定ですので、ぜひご覧ください。

事業計画の作り方シリーズまとめ
起業前の方向け
後継者の方向け 

第3位の記事については、M&A関連のテーマとしては定番のひとつで、M&A専門事業者の方々などが解説記事を多く書かれていらっしゃいますが、多面的に知りたい・調べたいとお考えの方が当ブログにお越しくださったのかもしません。もちろん、M&Aを新たに検討される事業者が増えているという理由もあるでしょう。

M&A関連の記事まとめ

それでは本年もよろしくお願い申し上げます。
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