NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年5月25日月曜日

事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方

事業計画の具体的な策定の仕方についてのご説明を開始する前に、事業計画の全体像や基本的な考え方について触れておきたいと思います。事業計画を作る目的はいろいろあるのですが、最も重要な目的のひとつに「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」ことがあります。よって、事業計画は一方通行なものではだめであり、最終的には一般的なフォーマットに落とし込んだり、事業計画を見る側が求めている事項の説明に注力したりするなど、見せ方にも気を配る必要があるのですが、そういったこともすべて、事業計画策定の第一歩である「どんな枠組みで計画を考えるか」があってこそのものです。今回はその枠組み(全体像、基本的な考え方とも言いかえることができるかもしれません)を考えていきましょう。

ところで、前回の記事でご説明したとおり、この「事業計画の作り方」シリーズは
  1. 起業前の方
  2. 事業承継をしようとしている後継者の方
  3. 急成長を目指して資金調達を考えている経営者の方
を主な読者層と想定しています。今回の記事の内容も、上記1~3のいずれの方にも参考になるものだと考えていますが、1と3の方は今回の記事そのままではなく応用していただくイメージで読んでいただければ幸いです。例えば、今回の記事では将来の目標と現状とのギャップをいかに埋めていくか、ということについて説明していますが、上記1や3の方から見れば、現状分析の対象が限られる、と感じられるかもしれません。しかし、よく考えたらギャップを分析しそこを埋めていく方策を考える、という枠組みそのものはいくらでも応用可能です。私の記事に限らず同様の記事はいずれもそっくりそのまま実践しないと意味がない、というものはきっと少数派ですので、納得できる箇所だけ応用してみようといった感じで読んでいただければ幸いです。

1.全体図

 さて、今回ご紹介したい内容、そして次回以降の「事業計画の作り方」シリーズを読む中でときどき思い出していただきたい事項は、以下の図にすべて含まれています。下図をご覧ください。図をクリックすると拡大できます。

図:事業計画策定の全体図

これは私が事業計画の作り方について説明する際に最初に掲げる図です。バックキャスティングやアンゾフのギャップ分析の応用版とお考えください。全体を簡単に説明します。

(1)ありたい姿
 たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
(2)あるべき姿
 10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
(3)現状(現状分析)
 今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
(4)ギャップ(ギャップ分析)
 あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
(5)実行案
 ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。

それぞれの項目を考える際のフレームワークなども多くあるため、そういったものを活用しない手はありませんが、そもそも上記項目のいずれかを欠いていると個別には素晴らしいフレームワークを活用したとしても全体としては意味のある事業計画は作るのは困難です。

では、上記(1)~(5)の解説をしていきます。

2.ありたい姿

たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
経営者の方とお会いして最近感心するのが、自社や自身のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)をよく考えていらっしゃることです。MVVは人によって言葉の定義にかなり差異があるので定義そのものについてはあまり考えすぎない方が良いですが、「ありたい姿」はMVVでいうとビジョンに当たるかと考えます。「経営理念に基づいて示される会社の(具体的な)将来像」ですね。「具体的な」の箇所は、上場企業や上場準備中の企業は別として、それ以外の企業は必要以上に拘る必要はなく、象徴的な数字を示すことができれば良いと考えます。この「ありたい姿」がない事業計画も実際には多く存在しますが、「ありたい姿」が示されないと、以下で説明する事項を具体化することが困難になり、毎日目の前のことだけ一生懸命に取り組んでいるけれども、どこに向かっているか分からない、という会社になりかねません。

3.あるべき姿

10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
「ありたい姿」は言い換えると夢や願望であり、多くの場合10年後(場合によっては20年後)などの姿を示したものであり具体性はあまり求められません。一方で「あるべき姿」は多くの場合5年後(変化の激しい業界ではたとえば3年後)の姿を示したものであり、いわゆる中長期計画の最終年度の姿にあたります。そのために具体性が求められます。たとえば、「ありたい姿」が「10年後に日本1位」だったとしたら、5年後には市場の成長性、顧客の購買活動や競合の活動状況から考えて5年後の販売量はこのくらいを達成しておく必要がある、製造原価はこのくらいまで低減しておく必要がある、といった具合です。
ここで大切なのは具体性だけではなく、あくまでも「ありたい姿を至るために具体的に落とし込んだものがあるべき姿である」ということです。現状から積み上げ方式に計算して出てきた5年後の数字、では決してありません。

4.現状(現状分析)

今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
現状分析のツールとしては優れたフレームワークがあります。有名なものは以下のとおりです(詳細は当シリーズの今後の記事やMBAや中小企業診断士のテキストなどをご参照ください)。

・SWOT分析
 企業の現状を外部環境(機会、驚異)と内部環境(強み、弱み)という視点で分析するフレームワークです。「現状分析」の総仕上げの位置付けであり、将来の方針検討の第一歩といえます。

・PEST分析
 マクロ環境をPolitics(政治的要因)、Economics(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)という切り口で分析するフレームワークです。

・ファイブフォース分析
 業界の収益性を決める以下の5つの競争要因を分析するフレームワークです。
競合(業者間の競争関係)、サプライヤー(供給業者)の交渉力、バイヤー(直接顧客または最終顧客)の交渉力、新規参入業者の驚異、代替製品またはサービスの驚異

・VRIO分析
 企業の経営資源を以下の4つの事項で分析するフレームワークです
  経済価値(Value) 顧客にとっての価値は何か?
  希少性(Rareness) 希少性はあるか?
  模倣可能性(Imitability)真似されにくいか?
  組織(Organization) 組織がきちんと整備されているか?

他にも、財務分析、3C分析、コアコンピタンス分析、事業ライフサイクルの分析、バリューチェーン分析、営業ステップ分析、事業の経済性分析などなど多くのフレームワークがあります。

また通常はM&Aの場面などでしか実施しないことが多いですが、M&Aのデューディリジェンス(DD)のやり方は企業のステージ次第では「現状分析」でも活用できます(業歴が長めの企業向きです)。DDとは直訳すると「当然の努力」であり、実務上は「買収監査」と訳します。企業買収後の経営を成功に導くことが最終的な目的であり、「現状分析」で応用する場合には補完的位置づけ(経営者の考え、社内スタッフの分析に続く手段)と考えられます。

意外と多いのが、古典に書いてある組織論を「現状分析」に応用している例です。たとえば孫子による「組織の優劣」の構成要素も現状分析に活用可能です。以下のようなものです。
 道 経営者と従業員の一体感
 天 時間的条件、国際・国内情勢、経済情勢
 地 地理的条件、立地条件
 将 経営者の器量
   智 勉強好きか、物事を明察できる知力はあるか
   信 信用第一に努めているか
   仁 愛情深く部下の心情をつかみとることができるか
   勇 いざというときの決断力はあるか、困難にくじけない勇気を持っているか
   厳 組織規律維持のために厳正な信念をもって禁欲的な態度を率先垂範できるか
 法 規程、制度、組織原則

現状分析の重要性の例としては旧日本軍と米軍の対比が語られることがあります。
・旧日本軍の場合
 勝利のための方法について、科学的な分析ではなく経験から偶然気づく
 (体験的学習、察知)
  →勝利に内在する指標を理解せず、勝利の再現性がない。
   もしくはそもそも間違った戦略をとってしまう。
・米軍の場合
 敵と味方の行動と結果を分析し、勝利につながる効果的戦略を構築した
  →常に戦略があることで勝利の再現性がある。追うべき指標が的確。
少し分かりにくい説明になってしまいましたが、つまりは、体験的学習のみ(不十分な現状分析を象徴)では「勝った理由」(自社の本当の現状)は分からず、その後の適切な戦略構築へ至ることができないということです(参考文献:失敗の本質超入門失敗の本質)。

5.ギャップ(ギャップ分析)

あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
ギャップ分析のキーワードは「分解」と「深堀り」です。

まず「分解」ですが、例としてはアプリ開発の事業計画で、あるべき姿と現状の間には利益額10倍というギャップがあったとします。つまりはあるべき姿達成のためには利益額を10倍にする必要があるという場合です。その際に「ギャップ=利益額10倍」で終わっていてはほとんど意味はありません。そこには「分解」が必要です。「利益額向上=売上増or利益率改善」と分解できますし、さらには「売上増=単価向上or数量増」、「利益率改善=原価低減or技術力向上」と分解できるかもしれません。他の例としては、飲食店経営の事業計画で、あるべき姿と現状の間には店舗売上10倍というギャップがあったとします。つまりは店舗売上を10倍にしないとあるべき姿には到達できないという場合です。その際に「ギャップ=店舗売上10倍」だけではなくやはり「分解」が必要です。店舗売上はいろいろなかたちに分解できるかと思いますが、もっとも一般的なのは「店舗売上=客数×単価」でしょう。たったこれだけでも客数を10倍にする必要があるのか、単価を10倍にする必要があるのかを考えることができます(単価10倍というのは現実的でないとしても)。客数についてもいろいろなかたちで分解できます。「客数=商圏人口×来店率」かもしれませんし、「客数=席数×回転率」かもしれません。

次に「深堀り」ですが、これはトヨタの「なぜ?を5回繰り返す」と同じことですね。表面的なギャップに対してそれを解消するための行動計画を考えても、それこそ対症療法であり意味がありません。「深堀り」について私がよく例に挙げるのが腹痛です。お腹が痛いときに、お腹が痛い理由を考えずにすぐに胃腸薬を飲んでも、そのときは痛みが治まるかもしれませんがまた繰り返してしまう可能性もあります。そのときにもう少し深堀りして腹痛の原因を探ってみたらどうでしょう?お腹を冷やしていたり、冷蔵庫の中のものが腐りかけていたりするかもしれません。それが分かるとお腹が冷えない服を着る、食べ物の賞味期限などを確認するといったよりよい対策を考えることができます。さらに深堀りしてみると、いつも買い物をするお店に陳列されている商品は賞味期限間近のものが多いといったことが分かるかもしれません。そうしたら他のお店で購入するという手を打つことができます。このように少し深堀りするだけでもより良い対策を考えることができることが分かります。

6.実行案

ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。
将来像(ありたい姿、あるべき姿)を描き、現状の己を知り、その間のギャップを深堀りできたら、後はギャップを解消する行動計画を考え実行するだけです。行動計画を考える際のキーワードは「ステップ」です。たとえばTOEIC500点の人物が3年後にTOEIC900点を目指すとします。その際に、「目標は一つ!TOEIC900点!」一本槍でやってしまうと、その意気や良しではありますが、あまりの目標の高さに気が萎えてしまったり、まずは次回は何点を目指せばいいのかが曖昧になってしまったりします。そこで登場するのがステップです。次回の試験までに点数を伸ばしやすい箇所を集中的に勉強し少し高めの700点を目指す、その次は得意分野をさらに伸ばし800点、そしてその次は全体の底上げを行い900点を!といった具合にステップを行動計画と数値目標のセットで定めていくのです。人は計画未達成ということを経験しすぎると負け癖がついてしまい、計画未達成が当たり前の状態になってしまいます。900点目標一本槍で900点を取ることができない、という状況が続くことが例です。ですので、成功体験を積みつつ事業を推進できるようステップを決め、そのステップは一気に三段飛びを目指す時期と、確実に一段一段進んでいく時期などをうまく組み合わせていくと良いと考えます。

以上、長文になってしまいましたが、以上が私の考える事業計画策定の枠組みです。ギャップ分析というフレームワークも応用可能性が高いものですので、ぜひ他の場面でも活用してみてください。

次回からは、「起業前の方」向けの事業計画の作り方をご紹介します。

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