NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2021年12月30日木曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 資金調達で知っておくべきこと

本記事は過去の記事の内容を「事業計画の作り方」シリーズ向けに加筆・修正したものです。

今回は、資金調達で知っておくべきことについて解説します。本編の資金調達に関する記事も併せてご覧ください。

1.資金調達を行う理由と、資金調達の種類

まず、会社はなぜ資金調達を行うのでしょうか?資金調達をしなければ事業を推進できない、パーパスを実現できない、成長できない、などの理由が挙げられます。増資に限って言えば、著名人や有名企業に株主になってもらい会社の信用性を高める狙いなどもありえます。

さらには応用編として、経営に規律を設けるという意味もあります。金融機関から借入をすると、契約に従って毎月返済や利払を行う必要があります。そのため、毎月しっかりと資金を用意できるよう、経営に規律を持たせようという動機が強まるのです。社内体制の整備のきっかけとするといった側面もあります。株主や債権者に対して経営の状況を説明するためには、会社の体制を整備して、社内の情報をしっかりと管理できるようになる必要があるからです。

ところで、「資金調達」とはそもそもどういったものがあるのでしょうか?主に以下のように分けられます。
  1. デットファイナンス : 金融機関からの借入が典型例です。
  2. エクイティファイナンス : エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルやCVCからの資金調達が例に挙げられます。
  3. アセットファイナンス : 会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを活用して資金を得る方法を指します。ファクタリングもここに該当します。
  4. 事業で得られる儲けを蓄積する
本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を前提として進めたいと思います。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と適宜読み替えてください。


2.資金調達を行うために必要なこと

それでは次に資金調達を行うために必要なことをいくつかご紹介していきます。


(1)起業を考え始めたら預金を始めましょう

あくまでも預金であって、株式などでの運用は含みません。そもそも、株式などのリスクのある金融商品は「余裕資金」、言い換えると、なくなっても困ることはない資金で行うものです。起業のために使う、という目的がある以上、株式などではなく預金が正解です。起業の際によく言われるのが、起業の後、2年間全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということです。これはとても大切で、起業した後から営業活動を開始すると、毎日のように減り続ける通帳残高を見て焦りながら営業活動をする羽目になるため、良い結果を生むことができないことが多いと言われます。だからこそ、本来は起業前にいくつか受注確実な仕事を見つけておくことがベストではありますが、なかなかそうもいかないので、次善の策として貯金をしておくのです。

また、自分で資金を用意するかどうかは、その後の資金調達にも大きく影響します。考えてみてください。みなさんの知人が起業したとします。でもその知人自身はお金を出さず、周りの人にお金を出してくれと言っているのを見たらどう思いますか?「まずは自分で出そうよ」と思う方が多いのではないでしょうか。起業家自身が資金を用意することは、その起業家の覚悟の現れや、事前の準備の度合いとも見られるのです。


(2)会社のお金の流れ、事業でのお金の流れを理解し、予測・計算できるようにしておきましょう

ここでは詳しくは説明しませんが、利益が出たからといって、手元にお金が残るわけではありません。利益が出ているのにお金が減ることもあります。逆に、利益が出ていなくてもお金が手元にある限りは、会社は存続できます。

「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるかと思います。読んで字のごとく、利益は出ているのに、会社が倒産してしまうことを意味します。これは経営者が自分の事業のお金の流れを理解していない、もしくは予測に失敗したことが理由で起きます。そんなことになりそうな会社には、金融機関や投資家も怖くて資金を出せないはずです。また、お金の流れを予測できていないと、お金が足りなくなって慌てて資金調達を行うことになります。しかし、資金調達には一定の時間がかかるのです。また、自分が焦っていると、自分にとって不利な条件での資金調達という結果にもなりかねません。こういった話のときによくあるのが、会計や経理のことは全て顧問税理士に任せているので、自分は詳しくは分からない、という事例です。しかし、任せていることと経営者自身が理解することは全く別の話といえます。それに、会社を大きくしていきたいとお考えの場合は、会計や経理はできるだけ社内で行うべきです。その方がリアルタイムに資金や利益の状況を把握できるし、経営に活かすこともできます。最近ではアウトソーシングも一般的になっていますが、自社で理解した後、アウトソーシングという順番が良いと考えます。


(3)自分の事業や会社どういう段階にあるか理解しておきましょう

会社には、成長のステージ=段階があります。一般的には、シード、スタートアップ、ミドルステージやレイターステージなどに分けられます。日本語でも、創業期、揺籃(ようらん)期、成長期、安定期などの言葉があります。

なぜそれを理解する必要があるかと言えば、ステージごとに適した資金調達の方法があるからだ。業種によっても様々なので一概には言えませんが、たとえば起業したばかりの頃の資金調達に関する「3F」という有名な言葉があります。Founder(起業家自身)、Family(起業家の家族)、Friend(起業家の友人)からの資金調達が良い、というものです。しかし、たまたまそれらの人が大金持ちでもない限り、事業を拡大するときに必要となる資金は準備できないでしょう。だから、次のステージでは、金融機関や投資家などから資金を集め、さらにステージが進むと株式上場をして株式市場から広く資金を集めるようになるのです。


(4)事業に再現性を持たせる仕組みを作りましょう

再現性とは、わかりやすく言えば、成功の要因が分かっていて、それを別の機会にも一定以上の確率で実現できることを意味します。球技で例えてみると、自分のシュートの成功率を高めるには、ゴールの左側から、このくらいの距離でシュートを打つ必要があると理解していること。そして、それを実行できることを意味します。「なぜホームランを打てるか分からない」と言っている野球選手と、「自分はこういう場面ではホームランを狙えるから、その場面では積極的に狙っていく」と言っている野球選手、どちらをスカウトしたいと思うでしょうか?再現性を持たせるということはスポーツでも決して簡単なことではないですが、事業においても実は難しいことです。なぜお客様が自社の製品を選んで買ってくれるのかを正確に理解していない会社は少なくありません。みなさんはそうならないよう、再現性を持たせる仕組みづくりを考えて欲しいと思います。


(5)集中すべきことを決めましょう

集中すべきことを決める。言い換えると、「何をしないかを決める」ということです。起業家の特徴にも色々ありますが、多くの起業家に共通しているのは「アイデアが豊富」という点。それ自体は素晴らしいことですが、一方ではマイナスに働き、「特定の事業に集中できない」とか、「すぐに諦めて他の事業に興味を持ってしまう」となりやすいのも事実です。しかも、起業したての頃は、社内のあらゆる資源が不足しています。人もお金も時間も足りません。そういったときにあれもこれもやりたい、というわけにはいきません。資金提供者も「経営が散漫になり、どの事業も結果がでない」という事態は望んではいません。常に選択と集中が必要であることを覚えておいてください。


(6)経営チームをつくりましょう

会社は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、ひとりで全部やろうとすると、どれもいまいちな結果となってしまうでしょう。資金提供者も、起業家がスーパーマンであることを求めてはいません。むしろ、起業家自身の強みに集中し、それ以外のことはチームとして対応して欲しいと考えていますし、そういったことができる会社の方を高く評価するでしょう。みなさんは優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。


(7)最後にもう一度、必要な資金調達かを考えましょう 

 「お金は多ければ多いほどよい」という考えもありますが、それが当てはまる局面と、そうではない局面とがあります。リーマン・ショックやコロナ禍においては、「Cash is king」という言葉がよく使われました。これから先どうなるか分からないという不確実性が高まったので、「チャンスがあれば、可能な限り多額の資金を調達しておこう、そうでないと次の資金調達の機会はずっと先かもしれない」と考えざるをえなかったのです。

逆に、資金調達環境が良い時期もあります。景気は悪くないのに低金利のような時期が例として挙げられます。そのような時期には、ある程度の資金的余裕を持つということは良いとしても、必要額をはるかに上回る資金を調達すべきではありません。借入であれば利息がかさむという問題もありますし、もっと重大なこととしては、経営の規律が緩むという問題があります。資金調達をした直後、その資金を事業に使わず、高級車を購入してしまうような経営者も残念なことに珍しくはありません。資金調達の際には、常に、本当に必要な資金調達か考えるようにしましょう。

3.資金供給側の目線・考え方

さて、次は資金提供側の目線や考え方について整理します。

起業間もない段階での資金提供側の視点は主に、「融資候補先や投資候補先の起業家が信頼に足るかどうか」、「実現可能性や将来性のある事業計画であるかどうか」のふたつです。


(1)起業家が信頼に足るか

まずは、信頼に足る起業家かどうかですが、起業家や経営者としての資質、人柄、初対面時の印象などが重要です。事業がうまく行きだすと天狗になる起業家は、当然ながら信頼されません。逆に、うまく行っているときにこそ、次の手を考え実行していく起業家は高く評価されます。貧すれば鈍すると言いますが、事業が苦しくなってから「どうすればいいだろうか」などと考え始めるのでは遅すぎるのです。それに、そんなことを考える前に、今日を生き残ることで手一杯になってしまいます。経験豊富な資金提供者は、それぞれ独自の起業家評価ポイントを持っています。そういった方々との面談などの場で急に取り繕っても見抜かれてしまいます。ぜひ、起業家や経営者のあるべき姿について、多く学んで、自分なりに考え、実践していってください。そういったことを真面目に取り組んでいればきっと評価してくれる人に出会えるはずです。


(2)事業計画の実現可能性や将来性はあるか

次に、事業計画の実現可能性や将来性ですが、実はそれを判断する際にもっとも重要な要素は「起業家はどういった人物か」、「誰が経営者であるか」なのですが、もちろんそれだけで良いわけではありません。事業計画の作り方の勉強会に参加したり、自分なりに考えることによって、実現可能性や将来性を資金提供者に納得してもらえるよう努力を積み重ねましょう。あと、必ず覚えておいて欲しいのは、事業計画は、資金提供者と起業家との間の大切な約束だということです。起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

2021年12月29日水曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 起業に必要な覚悟とはどういったものか

本記事は過去の記事の内容を「事業計画の作り方」シリーズ向けに加筆・修正したものです。

今回は、起業に必要な覚悟とはどういったものか、を考えてみたいと思います。

さて最初に「起業」の意味について考えてみましょう。

「起業」と一言で言っても、
  • 最初から会社を設立して事業規模の拡大を目差すパターン
  • 個人事業主から開始して段階を踏んで事業規模拡大を目差すパターン
  • 事業規模の拡大を前提としていないフリーランサーやクリエイターのパターン
  • 他のフリーランサーやクリエイターとネットワーク型の連携をして仕事の幅を広げるパターン
など様々なパターンがあります。

Web関連事業やコンサルティング業のようにパソコンひとつで起業できる業種もあります。最近ではスマートフォン1つあれば十分だという意見を聞くこともあります。私の場合でも開業に際しては、ひとまずパソコン、スマートフォン及び名刺を用意し、コワーキングスペースに入会しただけです。一方でものづくり、農業や店舗運営のように一定の資金や施設が必要とされる業種もあります。

しかし、いずれにしても「覚悟」が必要とされない「起業」はありません。人とは違うこと、一定のリスクを負うことなので当たり前と言えるかもしれません。では、どういった覚悟が必要とされるのでしょうか?これからいくつかの質問をします。ひとつひとつ、自分に問いかけてみてください。これらの質問は、ベンチャーキャピタルでの活動や、起業相談を受ける中で整理していったものです。

大きな失敗をする覚悟、そこから再起する覚悟はありますか?

まずは、みなさんの過去の経験の中で、大きな失敗をしたことがあるか、それは何だったか、それをどう乗り切ったか、どう克服したかを思い出してノートに書き出してみてください。次に、みなさんがやろうと考えているビジネスで想定される大きな失敗とは何でしょうか?それも書き出してみてください。

この質問は、失敗=悪いこと、という意味合いでしたものではありません。どんなに優秀な人でも、挑戦する人は必ず失敗します。失敗をしたことがない人は、挑戦してこなかっただけです。失敗を想定していない人は、自分の能力を過信している傲慢な人にすぎません。一方で挑戦して失敗する人は、その仮説検証や試行錯誤の中で大きく成長していきます。失敗経験を活かすことで、次の成功確率を高めていくことができるのです。事業はその連続ともいえるものです。また、成功に法則を見出すことは難しいですが、失敗には法則を見出すことはできる、ということもいえます。

繰り返しになりますが、挑戦する以上、失敗は避けられません。失敗から学ぶことなしに成長もできません。つまりは、失敗する覚悟、それを乗り越える覚悟が「起業」には必ず必要となるのです。

本当の意味での人脈を活用する覚悟はありますか?

そもそも人脈とは何でしょうか?交換した名刺の数や、有名人と知り合いであることを自慢するタイプの方もいらっしゃいますが、それは人脈といえるのでしょうか?広い意味ではそうかもしれません。しかし、「起業」における「人脈」とは、あなたを信じて仕事を出してくれる人、あなたを信じてお金を出してくれる人、このような人たちとの関係を指します。きっとみなさんの周りにはみなさんの起業を応援してくれる方々が大勢いると思います。そういった方々との関係も当然ながら大切しなければなりません。一方で、応援だけでは事業は成り立たないのも事実です。起業における本当の人脈を持っているかどうか考えてください。そして、その人脈を活用する覚悟が自分にあるか問うことが大切です。

人のお金を使う責任を負う覚悟はありますか?

どんな方法で資金調達したとしても、人のお金を使って事業をする上では、様々な義務が生じます。そしてほとんどの場合、返済する金額やリターンとして戻す金額は借りたり投資を受けたりした金額よりも大きくする必要があります。もしくはそういった目標設定をします。また、知人や友人からお金を出してもらうということは、万が一事業が失敗したときに、同時に人間関係も損なわれる可能性があるということでもあります。そういったことを理解した上で、人のお金を使う責任を負う覚悟はありますか?

仲間をはじめとする関係者との関係で苦労し、苦悩する覚悟はありますか?

日常生活であれば、不都合のある相手とは距離をとったり、自分が引くことにより特に問題を表面化させずに済ませることができます。しかし、起業すれば自分が代表者であり最終責任者であるため、逃げることは許されません。どんなことも、どんな人に対しても何かしらの判断のもと、対処していく必要があります。

社内でも同様です。起業家自身と他の創業メンバーの間には覚悟や意識の大きな差があります。場合によっては、創業メンバーのサラリーマン精神が表面化することも。そのときには、創業メンバーと言えどもお互いのことを本当の意味で理解していないことにショックを受けると思います。それでも事業は一緒に行っていく必要があります。

友人と一緒に会社を経営する場合には、友人を解雇する必要に迫られるかもしれません。友人に連帯保証をお願いする必要が生じるかもしれません。家族との関係で苦悩することもあるかもしれません。

起業家はある段階では、ワークライフバランスなどと言ってはいられない場面にも直面します。運悪く、配偶者との関係がうまくいっていないタイミングと重なれば、離婚をつきつけられる可能性もあるのです。

最初は支援者だった人が、何かのきっかけで最大の敵対者になることだって少なくはありません。そうなると大変です。相手は「せっかく応援してやったのに裏切りやがって」と、普通では考えられないほどの嫌がらせをしてくるような事例もあります。

良くない可能性の話ばかりをしてしまいましたが、どれもが起こりうることです。そういったことに苦労し、苦悩することへの覚悟も必要です。

事業計画を人に見せる覚悟、そして厳しい意見をもらう覚悟はありますか?

どんなにじっくり考えた事業計画でも、人の真剣な批判にさらされていない計画は十分ではありません。特に先輩起業家の意見はとても貴重なものです。その方の話を聞くことで失敗の疑似体験もできるはずです。

事業計画を人に見せることに強い抵抗感を持つ方も多いかと思います。しかし、安心してください。人に見せたり話したりしたくらいで成り立たなくなる事業は、はじめから長持ちはしません。真似されることを恐れるよりも、人の批判にさらされていない不完全な事業計画であることを恐れて欲しいと思います。もちろん、見せる相手は選ばなくてなりませんが、多くの人に見せて厳しい意見をもらうことで事業計画はより良いものになります。一人ひとつの意見でも、100人に見せることで100個の改善点に気がつくことができるのです。

ぜひ、事業計画を人に見せる覚悟、事業計画が批判される覚悟を持って欲しいと思います。

環境の変化に対応していく覚悟はありますか?

会社を経営していくうちに必ず環境の変化に遭遇します。そのときに生き残ることができるのは、ダーウィンが言うように「環境に適応した者」だけです。環境の変化に対応するというのは思いの外苦痛や苦労を伴います。環境の変化への適応は、誰もがその必要性に気が付いたときでは遅いことが大半です。多くの人が環境の変化にも、変化への適応の必要性にも気が付いていない時期、そして、旧来の仕組みなどが何の不都合も生じさせていない時期から行う必要があります。そして、多くの人は一度出来上がったものを変化させたり、作り変えたいすることに強い拒否感を持ちます。そのような中で環境の変化に対応していくのは、環境の変化に気が付けることよりも重要で、且つ覚悟を要することなのです。

自社・自分に独自性があるとの思い込みを断ち切る覚悟はありますか?

ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に対し、残念ながら投資は行わないという判断をすることも少なくはありません。しかし、その中にも実は、直感的に素晴らしいと感じる事業も多くあるのです。では、投資をしないという判断をしたのはなぜでしょうか。もちろん理由はひとつではありませんが、多い理由のひとつに「情報軽視、誤った情報分析」というものがあります。「私の事業はとてもユニークであり、世界に同じことをやっている企業は存在しない。」という思い込みが典型的な例です。事業計画の検討には、「競合分析」という項目を必ず盛り込むべきですが、その際、次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。

競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人、同じ視点を持った人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、顧客から見た場合、顧客自身のニーズが満たされたり、ペインが解消されたりするのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「顧客のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。

次こそはうまくいくという考えを振り切る覚悟はありますか?

起業前後というのは、ひたすら前向きなことを考え、良くない可能性には目を向けたくない時期です。しかし、撤退の可能性を考えないのは、目を背けていれば撤退するような状況には陥らないと考える、非科学的な姿勢ともいえます。どういう場合に撤退すべきか、撤退する際にはどれほどの損害が発生するのかを考えておく必要があります。

また、起業家というのは多くの人が諦めてしまう場面でも、粘り強く事業を推進する力がある方が多いのですが、事業を営む中ではそれが裏目に出てしまう場面もあります。失敗を繰り返す中でも「次こそはうまくいく」と考え、撤退のタイミングを逃してしまう、というのが典型例です。

まずは撤退を合理的に判断できる知識を身につけておきましょう。経済学やファイナンスの知識です。「サンクコスト」という言葉があります。日本語にすると「埋没費用」です。実はこの言葉を知っているだけで、撤退の判断をより合理的に下せる可能性が高まります。みなさんの周りでも「今までかけた時間と資金が無駄になるから、中止なんてできない。」という話を聞いたりすることはないでしょうか?こういう場合に、サンクコストの考え方を応用すると、「過去に投資した資金や労力は一旦脇に置き、これから必要となる投資額とその効果を再度計算しなおして、投資継続か否かを判断しよう。」と考えられます。ぜひ、経済学とファイナンスの基礎的な知識は身につけておいてください。

越境する覚悟はありますか?

越境とは、例えば自分が経験のない分野の仕事に就いてみたり、全く文化の違う外国に飛び込んだり、自分の従来の枠を飛び越えることを意味します。新しい価値観とぶつかり合うことは人が最も成長できる場面のひとつです。「新しい価値を生み出すことができるのは、越境した人だけ」と言われることもあります。会社を変革できるのは「若者、馬鹿者、よそ者だけ」という言葉とも通じるところがあるのではないでしょうか。


本稿では「自分に問いかけて欲しい質問」を通じて、起業を「覚悟」という面から考えてみました。当然ながら、他にもたくさん覚悟する必要があることは少なくありません。また、起業後の事業の段階ごとに覚悟すべき事項も変わってきます。起業の段階は主に始める覚悟ですし、仲間を増やす段階では、人の人生(の一部)を背負う覚悟が求められます。事業を拡大させる時期には、波に乗る覚悟、組織をつくる覚悟、社員などに背中を見られる覚悟が求められます。会社が安定成長に入っても、安定が衰退の始まりだと考えると、経営を変えていく覚悟が必要となるでしょう。起業前のみなさんから見ると、少し将来の話もありますが、まずは「あなたは覚悟ある起業家か?」という問いに少しでも自信を持って回答できるようになれると素晴らしいと考えます。

また、これから起業をする方々には、起業や事業を行うことを楽しんで欲しい、と心から思います。本記事では「覚悟」という一見重たいキーワードが多かったですが、それを上回る楽しさを起業や事業に見いだせる人こそが起業家なのです。ワクワクすることが起業家にとっての最大のご褒美でありモチベーションの源です。ぜひ起業や事業を楽しんでください。

2021年12月27日月曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 営業についてどう考えるべきか

本記事は過去の記事の内容を「事業計画の作り方」シリーズ向けに加筆・修正したものです。

今回は「営業」について考えます。事業計画の作り方シリーズ本編の営業に関する記事と合わせてご覧ください。

営業に関するありがちな勘違い

起業前後の方が意外と軽視もしくは楽観視する事項として「営業」があります。次のようなことに思い当たる節はないでしょうか?

  1. 私の製品は最先端な技術、他に例を見ない技術が元になっており、競争力がある(ので売れるはず)。
  2. ターゲット顧客にヒアリングした結果、評判が良かった(ので売れるはず)。
  3. 大きな会社が販売代理店になることになっている(ので売れるはず)。
  4. 全国に代理店網を構築できる(ので売れるはず)。
  5. マーケティングは完璧である(ので売れるはず)。
  6. 当社の製品は競合他社の製品よりはるかに安い(ので売れるはず)。
他にも自社商品やサービスが売れるはずであるという理由をたくさん聞くことがありますが、これらは実は「営業」を知らない(営業経験がない)起業予定者にありがちな勘違いです。

もちろん上記の事項は製品やサービスが売れるために望ましい事項ではあります。ただ、それだけでは足りません。そこには「営業」の機能が足りないもしくは存在していません。良い製品やサービスであれば顧客の方から探し出してくれるかのような勘違いも耳にすることが多いですが、ほとんどの場合、何等かの営業活動を行わなければ顧客に知ってもらうことができず、結果として売上は増えません。これは取り扱う製品やサービスが本当に日本一・世界一でも同様です。日本は経済が停滞しているとはいえ、やはりすごい国で、世界有数の製品やサービスを広めようとしている企業は多くあります。しかし、そのような企業でも多くの場合は苦戦し、中には事業継続を断念する事例もあるのです。理由は様々ですが、「営業」の機能が足りないもしくは存在していない、という理由によるものの割合は大きいと考えます。

戦略がなく敗れ去った国家や軍隊の話は歴史でもよく登場しますが、起業間もない事業者の売上が伸び悩むのは、実はそれとは逆で戦略しかないことが原因であることが少なくないと考えています(戦略すらない事例も残念ながらあります)。私はそれを「戦略あって兵隊なし」と表現しています。本当は「戦略あって実行なし」や「戦術なし」でも構わないのですが、分かりやすい言葉として「兵隊なし」としています。ここでは「兵隊=実行策」であり、その中で最も重要なもののひとつが営業なのです。

起業家の中での営業の位置付け

まずは、多くの起業家にとっての営業の位置付けについて見てみましょう。繰り返しになりますが、実は営業を軽視する起業家は多いのです。起業家は、プログラマー、コンサル、技術者やマーケターなど様々な背景を持っていますが、意外に少ないのが営業出身者。そのため、営業について軽視もしくは楽観視している事例が多く見受けられますし、たとえ営業にも意識が向いていてもその役割は重視されていないことも多くあります。しかし、起業後、製品やサービスが販売できる状態になる以前に営業を重視した社内体制を構築すべきです。

マーケティングの究極の目的は、製品やサービスが「売れる」状態を作り出すことですが、それを実現できている企業は決して多くはありません。また、製品やサービスは常に顧客の声を聞いて改良していく必要があります。今では「顧客開発モデル」などの優れた手法もありますが、実際の販売開始以降は、顧客の声は営業部門に一番多く集まります。どんなビジネスでも「顧客」がスタートラインなのです。そこに一番近い場所にいる営業部門を重視しなくて良いなどと言ったことはありえません。

早速今から営業の位置付けについて考えてみて欲しいと思います。

まずは「直販」からはじめる

営業や営業部門の重要性を理解している場合、まずは「直販」と呼ばれる営業方法から開始することが望ましいと考えられます。これは「現場主義」の営業場面での体現といえます。

直販を行うことは営業担当者がいなくても実施可能です。営業は重要なものなので経営者自身が行うに十分に値します。

そこで知るべきは本当の顧客のニーズだけではなく、どうやったら顧客の感動を得られるか、どのような流れ、方法やステップで顧客の感動を得たか、その中で重要なポイントはどの部分か、などです。直販を最初に行うべき理由はここにあります。

営業経験のない経営者が、自社の商品やサービスの販売を開始する際、いきなり代理店網を構築しようとすることがあります。はっきり言ってしまうとそれは成功する可能性が極めて低いです。代理店は一度契約すれば後は黙って製品やサービスを販売してくれる存在ではありません。代理店となる企業はほとんどの場合、あなたの会社以外とも代理店契約を結んでいるのです。そして、取り扱う製品やサービスは多岐にわたります。そういった中、代理店自身の利益を考えた場合、代理店は当然ながら、売りやすいもの、利益率が高いものを優先して販売していきます。あなたは代理店に対し、自社の製品やサービスの販売を強化してもらえるよう働きかけるでしょう。そのときに重要になるのが、あなたの会社が直販で培ったノウハウなのです。代理店に対しそのノウハウを提供していくことで、あなたの会社の製品やサービスは、代理店にとって売りやすいものとなっていきます。こういった取り組みがあって初めて代理店網が活きてくるのです。

代理店の活用は掛け算に似ています。あなたの会社の営業力がゼロであれば、どんなに立派な代理店網を構築しても、掛け算した結果は変わらずゼロになるにすぎません。必ず、まずは直販からはじめましょう!

営業は仕組みづくり

営業活動を強化する際にありがちな間違いが、いわゆる「スーパー営業マン」を採用したり育てたりしようとすることです。営業の世界にはそういった方達が少なくないですし、そういった方達は尊敬すべき対象です。ですが、そういった方達の営業ノウハウはその方達にしかできないことが多く、営業ノウハウはブラックボックスになりやすいと言われることもあります。そのため、会社を継続的に成長させるためには、スーパー営業マンにしかできない方法を追い求めるのではなく、教育訓練さえすれば誰にでも実施可能な方法の積み上げで構築された営業組織を作る必要があります。つまりは、属人的な営業ではなく、組織的な営業を行う体制が望ましいといえます。組織的な営業活動を行うために最低限必要となるのがたとえば次の機能です。
  • 営業のステップ化とKPI目標設定
  • 営業力強化目的とした営業会議(ただの報告や情報共有を目的としない)
  • インセンティブ制度
  • 営業力強化の取り組み(教育)
KPIはいろいろ定義や使われ方がありますが、ここでは「先行指数」として捉えたいと思います。売上や利益を営業の管理指標にしている例が少なくありませんが、売上利益は結果であって、それを管理しても営業の観点では意義に乏しいと言えます(もちろん経営の観点では重要です)。売上利益をあげるための営業活動をステップ化し、それぞれのステップに目標となるKPIを設定しましょう。分かりやすい例としては訪問数やキーパーソンへの提案数などです。そういったことを先行指数として管理していくことが営業の結果につながっていきます。

また、インセンティブ制度も重要です。営業結果を出した担当者には何かしらのかたちできちんと報いる制度を作ることが営業力強化にもつながります。

成長している企業での取締役会、経営会議そして営業会議でも、戦略に関する事項に議論が集中する場面を多々見てきました。しかし、結果を出していく企業は必ず兵隊=実行策についてもしっかりと議論し仕組みを作っています。そして実行策の代表格のひとつが「営業」です。私は営業なくして成長なし、と考えています。

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2021年12月20日月曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 優れた起業家に共通する事項とは?


さて今回は、優れた起業家に共通する事項について考えてみたいと思います。なお、本記事では「経営者」と「起業家」という言葉をあえて区別せずに使用しています。ご了承ください。

優れた起業家とは?大きなビジョンや夢がある、経験豊富、若くて行動的、MBAホルダー、営業力がある、数字に強い……など挙げればキリがありません。今回は起業家の資質として以下の6項目を挙げました。優れた起業家の条件として、多くの場合、経験、知識、スキルや人脈などが挙げられますが、それらは必要条件であっても十分条件ではありません。今回挙げた以下の項目は、捉えようによっては精神論的に聞こえるかもしれませんが、これらが備わっていてはじめて、経験、知識、スキルや人脈が活きてくるものと考えます。


(1)実現したい夢や目標がある

いくら経験豊富で、能力が高くとも、実現したい夢や理想がなければ事を成し遂げられません。私の好きな言葉をを引用します。引用中、敬称略。
夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。吉田松陰

夢しか実現しない。福島正伸

起業を志しているみなさんには、これらを「夢なき起業家に成功なし」と読み替えていただきたいと思います。成し遂げたいことがあるからこそ、手段として起業を選んでいる方から見たら当然のことと思えるかもしれません。しかし実際には起業が目的化している事例も少なくありません。


(2)決断力がある

いくら大きな夢や高い理想があっても、貫き通す「強い心」がなければ成し遂げることはできません。では強い心とはどういう意味でしょうか?ここでは「決断力」と読み解きたいと思います。

起業家が備えるべき決断力とは「失敗を恐れない心」とも言い換えることができます。起業家にとって決断力が重要なのは言うまでもありませんが、ここで言う決断力は、「正しい決断を下す力」とは少し違います。まず「決断する力」があり、その上で「正しい決断を下す力」が活きるのです。この順番を間違えると正しい決断をする力はあるものの、そもそも決断する力がない、ということになりかねません。

失敗を恐れる者は「正しさの追求」を言い訳にして決断を下さなかったり、先延ばししたりします。情報をもっと集めよう、様子を見よう、もっと考えたいなどの言い訳が典型的です。旧日本軍の失敗を見てもわかるとおり、情報はとても大切ですので軽視してはなりません。ただ、ほぼ全ての場面で必要な情報が満足いく程度まで集まるようなことはありません。常にいくつかの情報は不足するものです。また、そもそも「熟慮すれば正しい判断ができる」と考えている時点で、それは多くの場合、傲慢にすぎないのです。

決断を先延ばしにして立ち止まる癖がついた者よりも、意思決定を積極的に行う仮説検証・試行錯誤型の者こそ、起業家の資質を持っていると言えます。

もし失敗したら?大丈夫、「世の中に失敗というものはない。チャレンジしているうちは失敗はない。あきらめた時が失敗である。(稲盛和夫)」


(3)自省する力がある

次に、「自省する力」を取り上げたいと思います。自らの言動や行動を反省し、己の力不足を認めずして成長はありえません。まずは自分が「知らない」ことを知る。ソクラテスの「無知の知」、論語の「これを知るをこれを知るとなし、知らざるを知らざるとなせ。これ知るなり」など、繰り返し説かれてきたことです。

そして「うまくいったらみんなのおかげ、失敗したら自分のせい」を心得ましょう。起業家自身を「褒めて伸ばす」のは単なる甘えです。優れた起業家は、自省する習慣を持っています。もちろん、役職員に対してはぜひ「褒めて伸ばす」を実践して欲しいと思います。


(4)学びと実践を繰り返す

「実践主義者」と呼ばれる人がいます。机上で考えているだけで実際の行動に移せないのはたしかに良くありませんが、実践主義の人が陥りがちなのが、経験のみを重視しすぎる点です。起業家には経験や実践だけでは足りません。経営学と実際の経営は違うと考え、経営学をきちんと学ばない起業家も少なくありませんが、非常にもったいないことです。

優れた起業家は、学びと実践、その間を行ったり来たりして、自分が経験したことの本当の意味を知ったり、事前に得た知識をもとに経験をより充実させたりしています。


(5)考えの枠組みや軸を持っている

アニマルスピリットを持つからか、野性的勘を発揮する起業家も多いようです。世の中、すべてが理屈で片付くわけではないので、鋭い勘も重要です。しかし、優れたは自分の勘も大切にしつつ、自分なりの考え方に「枠組み」や「軸」を持っています。判断に迷ったときの寄る辺となるものです。

考えの枠組みや軸とは、経営関連書籍ではいわゆる「フレームワーク」として解説されているものもそれに当たります。「目標から遡って考える」、「趣旨から考える」、「原則と例外」、「正攻法と奇策の組み合わせ」、「選択と集中」、「論理と直感」など、経営の様々な場面で活用することができます。


(6)したたかである

夢が大きく失敗を恐れず、自身を省みながら、勉強熱心で考え方に軸もある。実はこれでも優れた起業家とは必ずしも言えません。そこには「したたかさ」が足りないことが多いからです。

優れた起業家のしたたかさとは?まずは「役割を演じられる」ことです。素のままの自分が起業家に向いている、という人もいるとは思います。しかしそれは極めて限られた人だけに言えることです。起業家は思い通りにはいかない事柄に多い環境の中で、「起業家たるものこうあるべきだ」という考えの下に、その場に応じた役割を演じなければなりません。

次に「愛情深いが、冷酷にもなれる」二面性です。綺麗ごとしか言えない起業家は成功しません。二面性という意味では、人に見せない「欲」も重要な原動力です。夢だって欲のひとつと言えます。したたかな起業家は表には出さない一面を持ち、そのこと自体が人間としての魅力を高めることにもつながっていたりします。


優れた起業家に共通する事項はこれだけではありませんし、逆にこれが全て揃っている必要があるわけでもありません。しかしそれでも多くの起業家に共通すると私は考えています。起業家予備軍のみなさんのお役に立てば幸いです。

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2021年12月4日土曜日

事業計画の作り方・番外編 起業前の方向け 個人事業主の屋号と独自ドメインはどうすべきか

久しぶりに起業前の方向けの記事です。

今回は「事業計画の作り方」とは少しズレるのですが、起業前の準備として重要且つ少し悩むテーマとして「屋号と独自ドメインはどうすべきか」について解説します。本記事自体は個人事業主として起業する予定の方向けの書き方にしています。なお、屋号とは「ビジネス上の名称」くらいの意味でお考えください。

さて、Web上で検索すると屋号や独自ドメインの問題について解説している記事が多く見つかります。屋号をどうするかという点については、ご自身が屋号にどういう意味を見出すか次第ですのでそれについて解説してくれている記事を見つけ参考にするのが一番です。ここでは「起業後のビジネスのやりやすさ」に絞って解説します。

個人事業主として開業する際に税務署に届け出る開業届に屋号を記入する欄があるのですが、屋号を設けることは必須事項ではありません。ですので必要に応じて屋号を決めるということで問題ない、というのが結論ですが、それだと何の参考にもなりませんので、屋号を設けるか否か、は以下の基準で決めるかたちをおすすめしています。あくまでも屋号に特に思い入れがない場合の話です。私の場合は、屋号に自分なりの想いを込めましたので、最初から屋号を設けていました。
  1. 当面の間、業務を受注する先がすでに既知の事業者のみの場合、屋号は必ずしも必要はない。
  2. 新規開拓営業を行う、新規先からの受注を目指すなどする場合は屋号がある方が良い。
分かりやすい基準かと思いますが、特に「2」について日々の業務に地味に響いてきます。日本の場合は組織に属して働いている方の割合のが多いため、ビジネス上では「〇〇社の〇〇です。」というかたちで、所属組織名→氏名、という順番で名乗ることが一般的です。屋号があると「〇〇(屋号)の〇〇です。」と名乗ることができ、たとえば営業先に電話するときの名乗りとして活用できます。屋号がないとただ自分の氏名を名乗るだけとなってしまい、必要な方に取り次いでもらえなかったり、「どちらの〇〇様ですか?」などと聞き返されてしまい、説明の手間を要することになったりします。同様の理由で、屋号は名乗りやすく聞き取り安いものがbetterかと思います。

独自ドメインや事業用のWebサイトを設けるか、についても同様です。
知り合いのみから仕事を受けるのであればいずれも必要はないと思います。ビジネス上はGmailなどは好ましくない、といった解説記事をよく見かけますが、情報の取り扱いに慎重さを要する場合を除き、知り合いとのやりとりであれば大きな支障はそれほどないでしょう。

しかし、新規開拓を考えている場合はいずれもあった方が良いです。独自ドメインのメールアドレスがないと、ビジネスを行う事業体としての体制などを疑われてしまいますし、Webサイトがない場合でも同様です。ですので、新規開拓を考えている場合は、コストも安いですので独自ドメインとWebサイトは用意した方が良いです。
なお、それらはWeb上での受注を目指す、という位置づけより、「自分が営業した先の事業者がWeb上で自分のことを調べた際に、必要な情報を参照できる。」くらいの位置づけで十分です。Web上で新規受注をしたいのであればプラットフォームなどを利用しましょう。独自ドメインやWebサイトを設けるか否かについて悩む方の場合は、そもそも事業上の必要性が高くない方と考えられますので、自分のWebサイトのコンテンツを必要以上に充実させたり、SEO対策に労力や資金を投入するよりも、プラットフォームを活用する方が効果的です。ただし、事業の拡大などを目指し始める場合は別です。
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2020年8月10日月曜日

事業計画の作り方12 起業前の方向け(11) まとめ

「事業計画の作り方シリーズ 起業前の方向け」の具体的内容は前回で終了しました。今回はまとめとして、起業をお考えの方にお伝えしたいことを記載します。

今回のシリーズの内容は、ある地域で開催された起業セミナーで私が講師を担当させていただいた際の講義内容を、大幅に加筆修正したものです。その起業セミナーは、「講義+実践(事業計画作り)+個別相談」で構成されており、今回のシリーズはあくまでもその「講義」の部分だけです。インプットはアウトプットを伴ってこそのものですし、実際にアウトプットしてみないと個別具体的な疑問も湧いてきません。一方である程度のインプットがないと意味があるアウトプットができないという面もあります。ですので、今回のシリーズの内容は、事業計画つくりのために十分とは言えないが必要なものと言えると思います。

そういう意味もあり、スモールビジネスの起業をお考えの方にはぜひ地元で開催されている起業セミナーに参加してみることをおすすめします。また違った視点での知識や考え方のインプットもできますし、アウトプット(事業計画作成)の実践もできます。そして何よりも、起業家仲間(同期の起業家や、先輩起業家など)ができることが良いところです。起業家には同じ起業家仲間にしか分からない悩みがあります。そういうことを相談しあえる起業家仲間は本当に得難い存在です。

また、起業に向けていろいろ勉強していくうちに、起業のリスクについても理解が深まり、その結果起業することに及び腰になってしまうこともあるかもしれません。しかし、リスクをとらずして事業の成功はありえません。また、起業をすることはみなさんの夢を叶えるため手段かと思います。夢ばかり見ていてはリスクに足をすくわれかねませんし、リスクばかり見ていては夢を叶えることができません。夢とリスク、どちらか一方だけに気を取られることなく意思決定していただければと思います。

2020年8月7日金曜日

事業計画の作り方11 起業前の方向け(10) 資金調達

今回は資金調達についての説明です。資金調達を行うにあたっては、コーポレートファイナンス(企業財務)の勉強をしておくことを奨められることも多いですが、スモールビジネスの起業を考えている今の段階では難しいことには深入りしすぎず、まずは今回説明することを理解しておきましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(5)資金調達


(A)資金調達を行うことで生じる責任について理解する
 当ブログの記事である「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」、「起業の覚悟、資金調達の責任(下)」をぜひご一読ください。

大切なことばかりをまとめた記事なのですが、特に以下の引用箇所はとても大切です。

起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

この引用箇所の文章は、主に投資家や金融機関から資金調達を行うことを想定して書いたものですが、投資家や金融機関ではなく、それが家族であったり友人であったり補助金であったりしても資金調達を行う際には責任が生じることに変わりはありません。いずれの場合も、起業家に何かの期待をしているからこそ資金を出してくれたのだと思います。その期待とは金銭的なものばかりとは限りません。資金提供者の期待は何かということと、その期待に応えるための最大限の努力をする責任が生じたことを正しく理解しましょう。


(B)資金調達の選択肢について理解する
 起業前後での資金調達の方法としては、
  • 自己資金
  • 配偶者や親族からの出資金や借入金
  • 友人や知人からの出資金や借入金
が大半で、3F(Founder, Family, Friends)と呼ばれています。

「起業を考えたら貯金を始める!」というのが大原則です。あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません(株式投資などは余裕資金で行うのが原則です。将来使う予定がある資金で株式投資などを行うことはおすすめできません)。起業の後、1年以上全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということも起業の心得としてよく言われます。

3Fに続くのが、
  • 公的機関からの助成金
  • 政府系金融機関からの借入金
  • クラウドファンディング
  • 創業支援ファンド(地域金融機関)からの投資資金
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの投資資金
といったものです。

公的機関(国、地方自治体やその外郭団体など)からの助成金は充実している一方、種類が多く分かりくい面もありますので、窓口に行って相談してみましょう。窓口は「創業支援センター」や「中小企業振興公社」などといった名称であることが多いようです。

政府系金融機関については、日本政策金融公庫の創業支援のWebページや資料を一読しておきましょう。創業を具体的に考えたらまずは相談に行くところ、と言っても過言ではありません。

クラウドファンディングは多くの個人から資金を募る方法です。Makuakeなどが有名です。単なる資金調達というだけでなく、ファンづくりやマーケティングの一環としても活用できます。

創業支援ファンドというのは、一部の地域金融機関が運営している創業支援に特化したファンドです。そういったファンドを運営している金融機関は創業支援に熱心な金融機関とも言えます。

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の活用はスモールビジネスではあまり見かけません。ベンチャーキャピタルは業として未上場企業への投資育成を行っている会社ですが、主に株式上場やM&Aでの会社売却を考えている企業が支援対象で、幅広く資金供給を行う存在ではありません。エンジェル投資家は過去に同じ起業家として成功し、その経験を活かして後輩起業家を応援する存在ですが、日本ではまだまだ数も少なく、質も玉石混交という状態です。


次回は「起業前の方向け事業計画の作り方」の最終回として、簡単なまとめを行います。

2020年8月3日月曜日

事業計画の作り方10 起業前の方向け(9) 設備資金

今回は設備資金についての説明です。そもそも事業に必要な設備とは何か、そこで必要となる資金についてどう考えておく必要があるかをみていきます。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)設備資金


(A)設備
 ソフトウェア・Web系の事業やコンサルティング事業であれば、パソコンとスマートフォンがあればひとまずは事業を行うことが可能ですが、多くの事業では「設備」が欠かせません。みなさんの事業にはどういった設備が必要になるでしょうか?以下、代表的な設備と、資金面での手当について列挙します。

・店舗
 モノを販売したり、サービスを提供したりする場所として必要です。いわゆる居抜き物件(同業他社が撤退した後の店舗をそのままに近い状態で賃借できる物件)であれば初期投資は抑えることができますが、反対にスケルトン物件に一から内装外装を行うのであれば大きな額の資金が必要です。

・備品
 業務を行う際の道具などとして使用するもの全般です。飲食店であれば厨房機器、調理道具やホール備品などが考えられます。サービス業でもお客様を迎えるためのスペースに置く必要がある椅子やデスクなどが考えられます。備品も居抜き物件であれば安価に入手できるかもしれませんが、一から購入となると大きな額の資金が必要なこともあります。中古品の活用も検討しましょう。

・事務所
 役職員(特に内勤者)が働く場所です。物件を賃借すると毎月固定費としての地代家賃が発生します。入居前にはまとまった額の敷金も必要でしょう。コロナ禍の前ですとコワーキングスペースやシェアオフィスを借りるという手段をとる企業も増えていました。初期費用も毎月の家賃(会費という名目の場合もあります)も通常の物件を賃借するよりも低額ですませることができます。今後、在宅勤務が根付いていくのであればそもそも事務所は必要かということも考えておくべきです。

・工場
 モノを製造する場所です。当シリーズで想定しているスモールビジネスでは製造業は極めて少ないと考えられますが、もしモノの製造販売をお考えの場合、製造を外注する方法も検討しましょう。

・車両
 製品を運んだり、顧客を訪問したりする際に使用します。事業を推進する場面を想像して、車両の稼働率がどのくらいになるかは事前に計算しておきましょう。また、たとえば営業活動に使用する場合でも、本当に訪問営業が必要か、インサイドセールスの活用が可能ではないかといったことを考えるなど、車両の必要性はしっかりと考えておいた方が良いです。営業活動中の交通事故というリスクも無視はできません。

どの設備であれ、イニシャルコスト(導入時に発生する費用)だけでなく、ランニングコスト(定期・不定期に発生する費用)が必要となります。一部の設備ではランニングコストの考慮をを忘れてしまうことも少なくはありません。見落としがないようにしましょう。

近年は、「持たざる経営」というキーワードで、「設備を持たない」選択肢も増えています。上記のいずれの設備も購入する場合は高額となりますので、レンタル・リースやシェアリングサービスを利用することも合わせて検討しましょう。

(B)固定費と変動費
 設備資金の解説の中で、レンタル、リースやシェアリングサービスについて触れましたが、レンタルやリースを活用すると、イニシャルコストが必要がなくなるというメリットがある一方、ランニングコストであるレンタル料やリース代を支払う必要がでます。こういった料金は、売上や利益の金額に関係なく支払う必要があるため「固定費」と呼ばれます。地代家賃を考えると分かりやすいですが、店舗を借りて家賃を支払う約束をしている場合、一般的には売上がなくても家賃は支払わなければいけません。

反対に、営業活動や売上に比例する費用を「変動費」と呼びます。店舗売上に対する比率として家賃を支払う場合、必要なときだけ自動車を借りるカー・シェアリングなどが典型例です。

会社の経営にとって、固定費と変動費、どちらの費用がいいかというのはシチュエーションによって異なるため正解はありません。しかしスモールビジネスの場合はできるだけ固定費を抑えることが大切です。スモールビジネスは外部環境・内部環境の影響を受けやすく、何かの拍子に売上が大きく減少することを覚悟しておく必要があります。そのときに、売上に関係なく発生する固定費が多いと途端に資金不足に陥ってしまう可能性があります。

設備が必要となった際には、
  • 購入する方がいいか、借りる方がいいか。
  • 固定費を抑えたり、変動費化したりする方法はないか。
を必ず検討しましょう。

次回は「資金調達」について説明を行います。

2020年8月2日日曜日

事業計画の作り方9 起業前の方向け(8) 運転資金

今回は運転資金についての説明です。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(3)運転資金


運転資金とは日々の事業を継続していくために必要となるお金のことです。今回説明するように事業を行う場面では、個人の日常生活とはお金の動きが「タイミング」という面で大きく異なります。そのため運転資金と呼ばれる手元に日頃から用意しておく資金が必要となります。この運転資金についてよく理解した上で、日々の事業の中で適切に対応しておかないと、資金繰りに追われて事業に集中できない状態に陥ってしまう可能性があります。資金繰りは経営者の仕事だと言われることがあります。しかしそれは資金繰りに追われる状態を是としたものではなく、そもそも資金繰り対応に追われなくて良い状態を維持しておくことこそが経営者の仕事であるという意味合いです。

本シリーズでは、
運転資金=日々の事業を継続していくために必要となる(使う予定のある)お金
手元資金=社内の金庫及び金融機関口座に預けてある資金の内、いざとなったらすぐに使える資金
という定義で進めていきます。

(A)支払いと受け取り
 前述のとおり、事業上のお金の流れと個人の日常生活ではお金の動くタイミングが大きく異なります。まず最初に理解しておく必要があるのが「支払いと受け取りのタイミング」です。事業では自社がお金を受け取るよりも、お金を支払うタイミングが先行することが一般的です。このことは、販売よりも仕入が先に来ることを考えれば理解できます。

例)10/1 果物100個を単価90円で仕入れた。 
    仕入代金の支払いは、仕入の30日後という約束となっている。
  10/5 その果物100個を単価100円で、地元のパフェ店に販売した。 
    販売した代金は、翌月末に支払を受けることとなっている。
  10/31 仕入代金9,000円を支払った。
  11/30 販売代金10,000円を受け取った。

この例の場合、9,000円で仕入れたものを10,000円で売っているのですから利益は1,000円あがっています。しかし、仕入代金9,000円の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ていることに注目してください。手元に予め資金を用意しておかないと仕入代金9,000円の支払いができませんし、11月は月末まで手元に資金がない状態となってしまいます。

一方でこれが掛取引(後日まとめてお金の受け渡しを行うかたちの取引)ではなく、現金取引だったとしたらどうでしょう?その場合でも、やはり仕入代金の支払いが、販売代金の受け取りより先に来ることが分かります。やはり予め手元に資金が必要です。

上記の例のように利益があがっているにも関わらず、手元資金が足りなくなってしまい事業が継続できなくなることを「黒字倒産」と呼びます。

(B)先行する経費
 さらには、販売した代金を受け取る前にも、事業としては経費が発生しています。先ほどの例でいうと、11/30に販売代金を受け取る前にも、

 10/25 従業員への給料の支払い
 10/27 店舗家賃の支払い

といった支払いが必要だと考えてみてください。また、他にも、取引先が倒産して支払を受けられなくなる、取引先が単純ミスで代金の振込を忘れる、などのトラブルがあるかもしれません。 


上記(A)(B)で出てきた、
  • 支払いと受け取りのタイムラグを埋めるための手元資金
  • 先行する経費の支払いに当てるための手元資金
  • トラブルに備えるための手元資金
を合わせて「運転資金」と呼びます。

事業内容によっても異なりますが、事業が軌道に乗ってきた後でも、少なくとも3か月程度の間売上がなくとも資金に困らないくらいの手元資金が必要と言われています(創業時にはさらに多くの資金があることが望まれます。「資金調達」の回で説明します)。一般的に、飲食店のようないわゆる日銭商売(ひぜにしょうばい)と呼ばれる業種では、掛取引主体の業種よりも少ない運転資金で事業運営が可能と言われていますが、2020年のコロナ禍の中での飲食店の苦境を見ると、どんな業種でも手元には通常必要となる運転資金以上の資金を、少しでも多く用意しておくことが必要な時期があることも分かります(Cash is King.)。

本シリーズを読んでくださっている皆さんは、「事業計画の作り方3 起業前の方向け(2) 営業循環図」で営業循環図、つまりは取引の流れを図で示す方法をすでに学んでいますので、そこにさらにお金の流れるタイミングを記入してみましょう。さらには「事業計画の作り方8 起業前の方向け(7) 売上高・原価、経費」で考えた発生する経費の支払いタイミングを調べてみましょう。その際、売上に関係なく発生する固定費についても忘れずにお願いします。

運転資金や資金繰りについてより具体的に考えたり、予測したりしたい方は、次のステップとして「資金繰り表」を活用されることをおすすめします。

 資金繰り表の例:日本政策金融公庫Webページ(ZIPファイル)


次回は「設備資金」から説明を行います。

2020年7月26日日曜日

事業計画の作り方8 起業前の方向け(7) 売上高・原価、経費

今回から数値計画の説明に入ります。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

2.数値計画


「数値計画」では、できるだけ簿記や会計の知識がない方でも分かるように一定程度単純化して説明します。そのため会計の決まりごととは若干異なる箇所もありますが、スモールビジネスの事業計画を作る段階では特に問題ありません(現実的には「運転資金・資金繰り」ということを深く理解する必要がありますが、その点に関しては次回以降説明します)。

会計や簿記についてこの機会に少し触れておきますと、それらは経営の共通言語ですので、経営者が早い段階で一定の知識を身に付けておくことに越したことはありません。簿記の勉強をしたり、良い税理士の先生を見つけて「経営者に必要な簿記・会計の知識」という視点で教わったりしていくことを強くおすすめします。その際、「経営者に必要な」という言葉を絶対に忘れないようにもしてください。ここで経営者に求められるのは簿記や会計の必要以上に詳細な知識ではなく、管理会計資料や財務会計資料などから情報を読み取り、事業の意思決定をする力です。自社の数字に対する理解を深めるために経理の業務を一時的に経営者が行うことはありえますが、それでもできるだけ早く経理担当者などに任せることが望まれます。

(1)売上高・原価


(A)単価×個数=売上・原価
 このシリーズでは何度か、数字を分析する際は数字を分解しようというお話をしてきました。たとえば「売上は販売単価×個数に分解できる」といった具合です。売上計画を考える際はその逆で「単価と個数を掛け合わせたものが売上である」と考えます。「販売単価×個数=売上」ということですね。原価計画も同様で「仕入単価×個数=原価」ということになります。「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」と覚えておくと良いです。

ところで、売上は商品を販売するビジネスでも、サービスを提供するビジネスでも分かりやすいですが、原価はどうでしょう。原価は「売上をあげるためにかかった直接的なコスト」を意味します。商品を販売するビジネスの場合、その販売する商品を仕入れる価格が原価と言えます。一方でサービスを提供するビジネスの場合、数値計画作成上は原価は外注費だけと考えましょう。会計の決まりごととしては、本当であれば原価と考えなければならないコストもあるのですが、そこを厳密にやってしまうととても複雑になってしまうので、今の段階では将来の宿題としておきましょう。原価と考えるべきコストを原価としておかなくとも、後で説明する「経費」にその分計上されますので、実務上の問題も特にはありません。

(B)販路ごと
 売上計画については「販路ごと」にも考えておく必要があります。

具体的な場面を考えると分かりやすいのですが、全く同じ商品が店頭とWeb通販では異なる値段で販売されていることは珍しくありません。店頭とWeb通販では必要となる地代家賃などの水準が異なります。店舗はお客様に来店していただけるよう良い立地=高い地代家賃が必要となりますが、Web通販で必要となる倉庫やコールセンターは店舗ほど良い立地である必要はなく、地代家賃を低く抑えることができます。そういった理由で店頭価格よりもWeb通販の方が安い値段であったりします。

また、メーカー直販サイトと小売店の店頭価格も異なる値段であることもあります。小売店での店頭価格は製造にかかった費用に加え、メーカーの利益、卸売業者の利益、小売店の利益などが上乗せされている一方、メーカー直販サイトでは卸売業者や小売店も必要ないため、その利益を価格に上乗せする必要がないからです。

数値計画を考える際にも同様に販路ごとに違う価格設定をする可能性を考えておきましょう。例えば、原価70円で、消費者価格は100円の商品の場合、

・直接販売(例えば店頭販売)
 単価100円 × 10個 = 1,000円

・代理店販売(代理店が店頭販売するような場合)
 単価80円 × 20個 = 1,600円
 代理店側は単価100円では買ってくれないでしょう。消費者価格100円の商品なので、代理店は単価100円で仕入れて消費者価格100円で販売しても利益は出ませんし、100円より高い値段では今度は消費者が買ってくれません。

・Web販売(自社サイトで販売する場合)
 単価90円 × 30個 = 2,700円
 Web販売も直接販売と言えますが、自社店舗の店頭価格と同じ価格にする必要はありません。販売にかかるコストが少ない、価格の比較がしやすいので他社よりも安くしないと売れないといった理由で店頭価格と異なる価格設定をすることもありえます。
 
一方で、原価は「仕入価格」ですので、上記販路の違いの影響は受けないことが一般的です。

(2)経費


ここで言う経費は、会計上は「販売費及び一般管理費(販管費)」と呼ばれるものと、本来であれば原価と考えなければならないものの内、簡便さ優先のため原価に計上しなかった項目を合わせたものです。
実際のところ、「これから事業を開始する」前にすべてを漏れなく予想・計画することは簡単ではありません。一方で、予想していなかった経費が発生した場合、売上が計画どおりでも、結果として赤字となったり、資金不足となったりする恐れがありますので、予想・計画をしっかりと行うことはとても重要です。

予想・計画をより適切に行う方法の例は以下のとおりです。

(A)主な経費一覧から自社にもかかりそうなものを探す
 主な経費一覧は以下のとおりです。
役員報酬、給与手当・労務費、法定福利費(社会保険料など)、福利厚生費、通勤交通費、営業交通費、通信費、地代家賃、業務委託費、水道光熱費、保険料、交際費、広告宣伝費、販売促進費、販売手数料、荷造運送費、減価償却費など
それぞれの経費の詳細をWebなどで調べてみると良いです。

(B)変動費と固定費に分けて考える
 経費の分類の仕方にはいろいろありますが、覚えておいた方が良い分類の仕方として、変動費と固定費という考え方があります。売上に比例にして発生する費用が変動費、売上と関係なく発生する費用が固定費です。この分類に沿って、自社にどういった経費がかかるのか考えてみましょう。

(C)他社・他事業を参考にする
 自分の事業と類似の事業を行っている事例を探し、どういう経費がかかっているかを知り、参考にしましょう。全ての経費を網羅するような情報は少ないかもしれませんが、同業他社の事例の情報収集の中で、どういった経費が発生しているのかにも目を光らせておくことをおすすめします。多くの会社を見ている税理士の先生や金融機関の担当者に相談してみるのもいいかもしれません。

(D)想像力を高める
 事業上の行動や商品・サービスの流れや提供場面などの具体的場面を想像しましょう。想像が具体的であればあるほど、そこで発生するであろう経費も具体的に気がつくことができます。


次回は「運転資金」についての説明から開始します。

2020年7月23日木曜日

事業計画の作り方7 起業前の方向け(6) 事業の重要指数

今回は「事業の重要指数」について説明していきます。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(8)事業の重要指数


このブログでは重要指数は一般的に「KPI」と呼ばれるものとかなり近い意味で使用しています。一般にKPIは「企業目標の達成度を評価するための主要業績評価指標」と定義されますが、日本語化した「重要指数」はより分かりやすく単純に「売上利益の先行指数」とお考えください。このシリーズが想定しているスモールビジネスの場面では、経営=営業と言っていいほど、日々の営業現場で何を行うかが大切です(急成長を目指す企業や大企業でも当然大切ですが、経営に占める営業の重要性はスモールビジネスの方が高いことが多いです)。そして売上利益は何もせずにあがるものではなく、何かしらの事前の行動が必要です。その事前の行動の中で日々追いかける数字として設定するのが重要指数です。そのため「売上利益の先行指数」という表現をしています。定義の議論だけではイメージが湧きにくいので重要指数の例を見ていきましょう。


(A)売上を分解した数字

 最も基本となるものです。以前の記事「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」のギャップ分析の説明の中で、分析には数字の分解が重要である旨の説明をしました。重要指数でも同様で、売上は「個数×単価」のように掛け算で計算されるものであり、その裏を返せば売上を分解した数字こそが売上をつくるための重要な数字、つまりは重要指数ということになります。
典型的なものとしては「販売個数、サービス提供回数、会員数、単価」などが挙げられます。


(B)売上を作り出す前提となる数字

 営業活動は当然ながら、toCであろうとtoBであろうと、直販であろうと代理店販売であろうとWeb販売であろうと、いきなりお客さんに買ってくださいというのではなく、いくつかの営業のステップを踏んでいきます。toCであれば、消費者に気づいてもらい、覚えてもらって、好きになってもらい、より深く知ってもらって、そして選んでもらう=買ってもらうといったステップを踏みます。toBであれば先方担当者に説明し、上席にプレゼンする機会をもらったり、稟議を社内であげてもらったり、決済者に最終プレゼンをしたりするステップを踏んで、購買の意思決定をしてもらうというステップを踏みます。Webでの販売であれば、広告を目にしてもらったり、自社サイトにアクセスしてもらったり、自社サイトのコンテンツを見て購買意欲を高めてもらったりするステップを踏むことになります。営業活動がそういったステップに分解できるということは、それぞれの回数などを目標値にしたり測定したりすることで、売上利益につながる活動を行っているかを知ることができるため、そういった数字も重要指数と言えます。お客様に最初に接するところから、購買・入金に至るまでの流れをステップとして可視化して、どのステップが重要かを考え、重要指数として設定しましょう。


(C)確率を示す数字

 上記(B)とも密接に関係するのですが、営業ステップごとの回数だけでなく、ある営業ステップから次の営業ステップに進む確率を重要指数として捉えることも大切です。たとえば、「接点を持った顧客の内、次回訪問や販売につながる率」が挙げられます。ある営業担当者はその率が高く、他の営業担当者はその率が低いということが生じている場合、そこには改善の余地があるかもしれませんし、そもそもリソースが限られているスモールビジネスの場合、ただ闇雲なだけの営業活動は実態にそぐいません。他には「上席プレゼンへ至る率」といったことも挙げられます。ただ先方の窓口担当者に頼るだけの場合と、先方担当者がその上席を説得する材料をこちら側で用意する場合とではその率も変わってくるでしょう。Web販売であれば「Webサイトへのアクセス数の内、購入につながる率」といったかたちで率を見ていくことが可能です。アクセス数が多いのに購入に至らないというのであれば、Webサイトの内容に何か要改善点があるのかもしれません。

また、営業ステップとは別の観点でも確率が重要となることがあります。分かりやすい例では会員ビジネスの場合の「会員の内、稼働している会員の率」が挙げられます。会員となってもらってもさらにそこから購入してもらわないことには売上があがらないモデルの場合は、如何に購入してもらう率=稼働率を高めるかが重要です。サブスクリプションモデルのように毎月一定の会費などが発生する場合でも、休会=会費が発生しない会員が増えてしまうといったことが生じるかもしれません。そこでも如何に休会から復帰してもらい休会率(稼働率の裏返し)を下げるかが重要となります。他には継続率や退会率なども重要指数と考えることができますね。


これらの重要指数は先行する同業他社が公開している場合などを除き、自分で事業をやりながら測定していくことが先に必要となることも多いですが、どういった指数を測定しておき、次年度から目標値として設定するかなどを予め考えておかないと長い時間を無駄にしてしまうこととなります。事業計画を策定する際に、大切な項目のひとつとしてぜひ重要指数も考えてみてください。

次回からは数値計画策定の方法に入っていきます。

2020年7月12日日曜日

事業計画の作り方6 起業前の方向け(5) 組織・チーム、社外パートナー

今回は「組織・チーム、社外パートナー」について説明します。組織・チームは主に社内の仲間の話、社外パートナーは文字どおり社外の仲間の話です。

事業は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、どれもいまいちな結果となってしまいます。起業家は優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。


(7)組織・チーム、パートナー



(A)事業に必要な機能

最初に、事業を運営するために必要な様々な機能とは何かを知っておきましょう。一般的には以下のような機能が必要と考えられます。簡単ではありますが、それぞれの言葉が何を意味するかも合わせて記載します。

・マネジメント
 直訳すると「管理」ですが、ここでは「経営そのもの」とお考えください。会社の目標などを設定し、目標達成に向けた仕組みを作り運営していくこと全体を意味します。

・経営企画
 企業によって経営者の参謀的位置付けであったり、秘書的な位置付けであったり、部門調整機関であったり、特定プロジェクト対応組織であったりと様々ですが、いずれにせよ経営者や経営陣を直接サポートする位置付けの機能です。スモールビジネスでは設けられないことも多いです。

・経理財務
 経理は財務会計資料や管理会計資料を適切に作成し、会社の状況を数字で明らかにする役割を担っています。財務は資金の調達・運用などを行う機能です。スモールビジネスの場合ですと資金繰り、入出金、金融機関対応などが実際の主な活動です。

・総務(庶務、法務、広報)
 総務という機能の範囲はとても広く、他の機能に含まれないものは全て総務が担当する、という企業も多くあります。ここでは法務と広報も含めていますが、これらも本来は専門性が高く重要であるため、企業規模が大きくなると総務とは別の独立した機能と考える必要が出てきます。

・人事労務(採用、給与計算、人事評価)
 企業は人なり、というように事業運営にあたって人に関することはとても重要です。「人事」は人の採用、教育、評価などが主な役割です。「労務」は勤怠管理や給与計算などが主な役割です。スモールビジネスですと「人事」は経営者自身の仕事であることも少なくありません。

・企画、マーケティング、営業、顧客管理、店舗運営
 企画は製品やサービスの企画などを意味します。マーケティングは本来は 「顧客やクライアント、パートナー、さらには広く社会一般にとって価値のあるオファリングスを創造・伝達・提供・交換するための活動とそれに関わる組織・機関、および一連のプロセスのことを指す」(アメリカマーケティング協会)といったようにかなり幅広い意味合いなのですが、実際には営業企画や市場調査、販売方法の検討などかなり狭い意味合いで使われています。

ここまでに挙げた機能はどの業種でも必要となります。

他には例えば製造業であれば「製造、購買・仕入、品質管理、研究開発」なども必要と考えられますが、本シリーズで想定している読者の方々の中に今から製造業を立ち上げようと考えていらっしゃる方は少ないと考えられますのでここでは割愛します。


(B)事業に必要なプレイヤー

次に、事業を運営するために必要なプレイヤー=登場人物を考えてみましょう。

・経営者、経営陣
・自社雇用の従業員(フルタイム、パートタイムいずれも含む)
・外部人財(専門家、顧問、フリーランスなど)
・デジタルツール

ここでは外部人財やデジタルツールの活用がここ数年で大きく注目されているテーマです。

外部人財の活用では、従来の専門家(たとえば士業専門家)だけではなく、大手企業での経験豊富な人財を顧問として招聘したり、専門的スキルを保有しているフリーランスの方を一時的にチームに迎えたりとしたりすることが注目されています。「人財=自社雇用」が当たり前ではなくなったということですね。顧問活用についてはパーソルキャリア社のWebサイトが分かりやすいのでご参照ください。また、フリーランスの活用については経済産業省がレポートを出していますので、そちらもご参照ください。

デジタルツールでは例えば、RPA、MA、SFA、CRM、グループウェアといった言葉を聞かれたことがあるのではないでしょうか。それらを活用すると、従来は手作業で行っていた作業がかなりの程度自動化できるようになっていたり、あたかも書くことが目的化していた営業日報がデジタル化や可視化することで営業力強化の貴重なツールになったり、従来は紙と口頭で行っていた情報共有がWebで完結したりします。費用面においてもSaaSモデルのものですと、専任の人財を雇用するよりも安く利用できることが多いようです。


(C)どの機能を誰が担うのが望ましいか

 そして、以下のことも整理します。
・経営者・起業家自身ができること、できないこと
・経営者・起業家自身がやるべきこと、人に任せるべき
・直接雇用している人財に任せるべきか、一時的に仲間を募って任せるべきか

 自社、自分の事業の強みに直結する業務は経営者自身か直接雇用している人財に任せるべきでしょう。そうではない業務はそこを内製化しても自社の強みにはつながらない可能性が高いので、専門家やフリーランスの方などに任せてしまった方がお互いの強みに集中できて効率的だと考えられます。


(D)どのようか価値観を持った仲間を、どのように募るか

 説明の順番としては最後になりましたが、これが一番重要です。ほとんどの場合、事業立ち上げ直後は少数精鋭で事業を運営する必要があります。スモールビジネスであれば、その後の事業運営も少数の仲間と行っていくことになるでしょう。そういった際に、どのような価値観を持った仲間を募るかはとても重要です。たとえば社会貢献重視の事業運営をしたいと経営者が考えていても、儲けしか考えないメンバーがいた場合は経営者が望みとは異なる言動をとるかもしれません。仮説検証・試行錯誤型で事業の可能性を開こうと考えている従業員がいても、失敗を過度に恐れる経営者であれば、その従業員のことを適切に評価できないかもしれません。そうならないよう、自社でこの事業に関わる仲間は経営者も含め、何々の価値観を共有できる人物であること、といったこと考えておく必要があります。

また、そういった仲間をどうやって募るかも考えておきましょう。待ちの姿勢ではほぼ間違いなく良い出会いはありません。

次回は「事業の重要指数」について説明します。

2020年6月29日月曜日

事業計画の作り方5 起業前の方向け(4) 営業、競合・代替品

今回は「顧客」にどのように到達してどのようにモノやサービスを購入してもらうのかということを考える営業と、「顧客」から見た場合に他の選択肢となる競合・代替品について説明します。営業については本シリーズとは別に「スタートアップにとっての営業」という記事もアップしていますので、そちらも合わせてご覧ください。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

前回説明した「顧客との関係」との違いがやや分かりにくいですが、「顧客との関係」がサービスの提供場面、「営業」は文字通り販売の場面、と考えると区別が分かりやすくなります。

(5)営業


本シリーズで想定しているスモールビジネスの場合、販売の場面で顧客に到達するための方法としては、

  • 個人営業 or 法人営業
  • 直接販売 or 代理店販売 or Web販売
  • プッシュ(積極営業)型 or プル(店舗)型
  • 他力(提携先)活用、人脈活用

があり、提供するモノ・サービスに応じた選択と組み合わせが必要です。例えば、
「法人営業、直接販売型で、プッシュ型、人脈活用」という組み合わせであれば、リスト化した見込み顧客に他社・他者を介さずに自社側から積極的にアプローチする。見込み顧客リストは人脈を可視化したものを活用する。
といった具合です。最近では多くの広告宣伝費を投入し見込み顧客リストを作ったり、外回り営業ではなくインサイドセールスと呼ばれる営業のフローをWeb上で完結させようとする方法が一般的になってきたりなどのトレンドもありますが、多額の広告宣伝費を投じるビジネスモデルは本シリーズで想定しているスモールビジネスにはそぐいませんし、インサイドセールスは上記方法をより具体化したものであり、矛盾したりするものではありません。

自分の事業にとってどのような営業方法の組み合わせが適切かを考えた後、次には選択した方法ごとに、それを実現させるために必要な事項を考える必要があります。

・直接販売+プッシュ型
 この組み合わせの場合先程も触れたとおり、見込み顧客リストの作成方法を考える必要があります。法人営業であれば探せば自分がアプローチしたい属性の企業リストが見つかることもあります。個人の場合はきっと簡単ではありません。Webを活用したり、昔ながらのチラシ配布→無料体験→リスト化などの方法をとったりします。また、見込み顧客リストができても実際にアプローチを行う営業部隊の構築が必要です。目指す売上規模によっては最初は経営者のみで営業を行うこともありますが、いずれ営業専任者が必要となるでしょう。どういった経験を持った人物を採用するか、営業の成績をどう評価しどう報いるのか、営業担当者は日々どういった数字を追いかけ行動するのか、などを考える必要があります。

・代理店販売→代理店開拓方法、代理店稼働率向上方法
 代理店を活用する場合でも、そもそもどういった存在が代理店に相応しいか、そしてどうやって開拓するか、代理店契約締結後にどうやって代理店に動いてもらうかなどを考える必要があります。

・Web販売→広告の出し方 等
 Webでも同様です。販売サイトをただ開設しただけでは売上はあがりません。どのように販売サイトに来てもらうか、販売サイトを見るだけではなくいかに購入してもらうか、などを考える必要があります。Webの場合、他の販売方法よりも見込み顧客の動きを数字で捉えやすい面があるので、数字を見ながらの試行錯誤も重要です。

(6)競合・代替品


文字通り、自社の事業の競争相手になる存在や、自社の製品やサービスの代わりとなりうる他社の製品やサービスを意味します。

競合と代替品の区別は今はあまり深く考える必要はありません。後ほど説明するように自社の事業の位置付けをどう捉えるかによって変わってくる相対的な違いだからです。自社を鉄道事業と捉えている企業から見ると他の鉄道会社が競合で、航空会社や自動車は代替品に相当しますが、自社を鉄道会社ではなく顧客運送業と捉えると航空会社は代替品ではなく競合に相当するようになる、といった具合で相対的な違いしかありません。

競合・代替品について考えるとき、調べるときは以下の点が重要です。

  • 競合・代替品が存在しないという発想は捨てる。
  • 競合・代替品か否かは顧客の視点で考える(製品やサービスレベルではなく、提供価値のレベルで考える)。

記事「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」の「情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?」の項で競合分析の重要性について説明していますので、そこから以下引用します。
次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。 
ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。 
競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。
例えば、CDプレイヤーを販売する事業の場合、自社の事業や製品をCDを聴くためのデバイスと考えるか、音楽を楽しむための手段と考えるか、安らぎを得るための方法と考えるかで競合も代替品も変わってきます。

また、「営業」は顧客との関係の中だけではなく、競合企業の動きによっても変わってくる可能性がありますのでその観点でも競合や代替品の分析は重要です。

今回は以上です。
次回は「組織・チーム、社外パートナー」の説明から開始します。

2020年6月2日火曜日

事業計画の作り方4 起業前の方向け(3) 顧客

今回はビジネスプランで最も大切な項目である「顧客」について、(A)顧客は誰か、(B)顧客のニーズ、(C)顧客へ提供する価値、(D)顧客との関係、に分けて説明します。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)顧客


(A)顧客は誰か

顧客がいなくては、あらゆる事業は成り立ちません。
また、顧客の数が多い方がビジネスは行いやすいようにも思えますが、実際には顧客が多岐にわたるほど共通するニーズを見出すことは困難です。若者と高齢者が共通して必要とするモノを見出すよりも、若者だけが必要とするモノを見出す方が簡単であることを考えるとよく分かります。逆に若者にも高齢者にも求められることを目指した製品やサービスは若者にも高齢者にも必要とされない結果となりかねません。

よって、共通のニーズを持つ消費者などをグループ化し、どのグループを自社の顧客層としたいのかを絞り込むことが求められます。

そのことを整理するフレームワークとして、少なくともポジショニングマップを作れるようになりましょう。

ポジショニングマップとは、自社の製品やサービスの差別化や競争優位性を考えるためのフレームワークのひとつで、自社のポジショニングを考える際に使う、言い換えると、どういうニーズを持った消費者グループが自社の製品やサービスを選び、自社の顧客層になるのかということを他社製品やサービスと比べながら考える際に使用します。

Google画像検索でポジショニングマップを検索してみてください。いろいろな事例が出てきます。ポジショニングマップは縦軸と横軸の二軸を考える必要があるのですが、これを一から考えるのは大変なため、まず最初は同じ業界のポジショニングマップをいくつか探し出し参考にしながら考えてみてください。

注意点としては、縦軸と横軸はお互い連動しないようなものを考えましょう。たとえば「高級感」と「価格帯」は連動することが多く、連動してしまう場合は軸が2つではなく1つしかないことになり、それらを同時に評価軸として採用するのは不適切ということになります。


(B)顧客のニーズ

一番勘違いが多い項目です。特に、起業家自身がその業界経験が長いので顧客のことを分かっているつもり、起業家自身が顧客層と同じ属性なので顧客のことを分かっているつもり、などといった例が多く見られます。

実際に、少しでも多くの「想定顧客層」の方にヒアリングを行いましょう。特にBtoCのビジネスの場合、個人である想定顧客へのヒアリングは必須です。その際に注意すべきは、「こんな製品・サービスがあったら良いと思うか否か」ではなく、「実際にお金を出して買うか否か」のレベルまで把握することです。顧客のニーズを、「大変困っている問題(切実な問題)」、「困っている問題」、「それ以外」に分けて、重要度・緊急度を考えると参考になります。顧客が実際にお金を出して買うのは「大変困っている問題(切実な問題)」を解決してくれる製品やサービスだけであり、単に「困っている問題」レベルだとお金を出して買ってくれるとは限りません。

顧客が法人や団体の場合、同様に切実なニーズがあるか否かを把握することに加え、「顧客がそのモノ・サービスを購入できない理由」も把握するようにしましょう。「あなたのサービスは素晴らしいけど、すでに●●社のサービスを利用していて、変更するのに手間がかかるので、今回は見送ります。」といったなどです。ここでは「変更を簡単に」というのも顧客のニーズと言えます。

想定顧客へのヒアリングを行う際は、以下の点に留意・注意しましょう。
  • 自分の考えている製品・サービスのイメージが具体的に湧く、いわゆるプロトタイプ(Minimum Viable Product)を作成し、それを見せながら行いましょう。モノなら紙や粘土で作成、Webサービスならユーザーインターフェイス画面を紙に書く、など。
  • 顧客からの「それ、いいね」で満足することなく、「それ、本当に困っている」、「本当に欲しい」、「いますぐ欲しい」というレベルになって初めて顧客のニーズと呼べることを理解しておきましょう。
顧客へのヒアリングは以下のようなメリットがあります。
  • 顧客の本当のニーズに近づくことができます。
  • 自分の考えているモノやサービスの誤り、もっと根本的にはビジネスプランの誤りに事前に気が付くことができ、変更を行うこと(ピボット)ができます。


(C)顧客へ提供する価値

価値提案(バリュー・プロポジション)と呼ばれています。考える際には、以下の2点を自分に問いかけてみましょう。

問:あなたの製品やサービスは顧客にどんな価値を提供するのでしょうか?
 キーワードは「新規性、意外性、性能、カスタマイズ、仕事を肩代わりする、デザイン、ブランド、価格、コスト削減、リスクの低減、利用のしやすさ、購入のしやすさ、快適さ、満足感」などです(参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)。

問:自社は何者なのか?という自社の定義(自社の事業の定義)は明確ですか?
 たとえば自社の事業がレンガで教会を建てることである場合、自社は何者と言えますか?レンガを積む事業者でしょうか?、教会を建てる事業者でしょうか?、地域に安らぎの場を用意する事業者でしょうか?


(D)顧客との関係

顧客とのコミュニケーションをどのようにとるか、を考えます。後述する「チャネル」が販売の場面に近いのに比べ、「顧客との関係」はサービスの提供場面に近いものです。この項目についてはイメージを持っている方が多いと思いますが、それをより明確化しておきましょう。

(例)参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)
  • 顧客と担当者の個別かつ直接のやりとりでの関係
  • 専任担当者による関係
  • セルフサービス(直接のやりとりが生じない)
  • 自動サービス(セルフサービスの進化系)
  • SNSなどのコミュニティ内でのやりとり(顧客同士のやりとりも含む)
  • 共創(顧客にも価値創造に加わってもらう)

さて、ここまで来ると「顧客」についてより明確になってきたのではないでしょうか。

次回は「営業」の説明から行います。


以下、より学んでみたい方向けの書籍(ご参考まで)

2020年5月29日金曜日

事業計画の作り方3 起業前の方向け(2) 営業循環図

引き続き「起業前の方」向けの事業計画の作り方について説明していきます。

最初に、事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(3)営業循環図

営業循環図とは、事業に登場するプレイヤー、モノ(製品・商品など)やサービスの流れ、お金の流れを分かりやすく図で整理したものです。これらの説明は文字にすると長く複雑になってしまいますが、図にすることでとても分かりやすくなります。貴方の事業計画書を見る方は、エグゼクティブ・サマリーに加えて営業循環図を見たら、貴方の事業の概要をほとんど理解することができるでしょう。

先に例をお見せします。以下の営業循環図は、ECモールを活用して消費者向けに物販を行う事業の場合のものです。図をクリックすると拡大できます。

図:営業循環図の例

図中央上の「自社」が貴方の経営する会社や個人事業を指します。
右下の「お客様」は貴方の事業の最終顧客である個人消費者を指します。
この営業循環図の場合は、お客様は右上にある「ECモール運営会社」に対して支払いを行っていますが、事業によっては貴方の会社に対して支払うこともあるでしょう。
左下には「製造元」があるということは、貴方の事業はいわゆる仕入れ販売であり、製造元から運送業者を介してお客様に矢印が伸びていることから、製造元から製品が直送されるモデルである場合の図であると言えます。貴方の事業が自社内で製造を行うモデルであったり、自社配送を行うモデルであったりすると、当然登場するプレイヤーも矢印も変わってきます。

プレイヤーですが、主だったものは以下のとおりです。「自社」と「お客様」以外は事業内容によって登場したりしなかったりすることもあります。
  • お客様 最終顧客を意味します。
  • 製造元 モノの場合は製造業者を意味します。あなたの事業が他社サービスの販売代理店である場合は、そのサービス提供元事業者を意味します。
  • 仕入元 モノの場合、製造元と自社との間にいる事業者である卸売の会社などを意味します。
  • 中間業者 お客様と自社との間にいる事業者のこと、運送会社、倉庫会社、小売店、仕入型代理店などがあります。
  • 提携先 広告会社、手数料型代理店などを意味します。
また、矢印を良く見ていただくと、モノの流れを表す矢印は点線で描かれており、お金の流れを表す矢印は実線で描かれていることが分かります。この例の図は比較的シンプルですが、より複雑な営業循環図の場合、このように矢印の使い分けをしていないと図を見ただけでは理解できないようになってしまいます。加えて、矢印は原則として片方から片方で伸びる矢印だけを利用するようにしましょう。両方向きの矢印だと、どちらが発注する側でどちらが受注する側なのか、などが分からなくなってしまいます。また、この図では省略しましたが、お金とモノの流れに加えて、情報の流れ(伝票などの流れも含む)を記載することもありますがくれぐれも図が複雑になりすぎないようご注意ください。

図で物事を説明することに興味を持った方は「ピクト図解」の書籍を読んでみることをおすすめします。

次の「顧客」の説明は少し長くなりますので、今回はここまでとします。


2020年5月28日木曜日

事業計画の作り方2 起業前の方向け(1) エグゼクティブサマリー、起業のきっかけや想い

今回からの数回は「起業前の方」向けの事業計画の作り方を説明していきます。

第1回の記事で触れたとおり、主にスモールビジネスや、急成長を前提としない事業をお考えの方が対象です。各地で開催されている起業塾に参加する前に予習的に活用いただいたりすることを想定しています。

実際に私が講師を担当させていただいた起業家養成講座での講義内容をベースとした内容です。また、かなり参考にさせていただいているのが「ビジネスモデルキャンバス」です。以下で説明する個別の項目では、ビジネスモデルキャンバスの考え方をそのまま採用させていただいたものもあれば、僭越ながら除外させていただいたり、追加させていただいている項目があります。「ビジネスモデルキャンバス」はとても有用ですのでそちらもぜひ勉強してみてください。

まだの方は第2回の記事「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」もぜひ先にご一読ください。

起業時に作成する事業計画の項目は以下のとおりです。このまま事業計画書の目次としてご活用いただけます。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
また、事業計画策定の事前準備として、みなさんが起業しようとしている事業や今考えている事業が、一般的にはどういった業種に分類されるか、どういった企業が事業を行っているかを調べてみることをおすすめします。新しい事業といえども、世の中には必ずと言っていいほど先輩企業があります。その情報を上記項目を考える際に参考にしない手はありません。以下のような情報源には、市場の動向はどうか、顧客の趣味嗜好はどのようになってきているか、利益やコストの構造はどうなっているか、競合企業の動きはどうかなどなど活用できる情報が豊富にあります。
  • 経済紙・経済誌の記事
  • 証券会社等のアナリストレポート
  • 上場企業の有価証券報告などの開示資料
  • シンクタンクの記事やコラム
  • 信用調査会社の調査レポート
  • 業界団体のレポート
  • 同業他社の事業計画
それらの情報源からデータ等を得る際の注意点としては、
  • データはいつ時点のものか(古いものは避けましょう)
  • データの出所は信用できるか
  • さらにデータの加工が必要ではないか
などを必ず確認することが挙げられます。なお、事業計画書そのものに引用する際には出典を記載することも忘れてはいけません。

では、いよいよ個別項目に入っていきます。

1.ビジネスプラン


ビジネスプランとは、ここでは事業計画のうち数値計画以外の箇所とお考えください。


(1)エグゼクティブ・サマリー

ビジネスプランの概要を端的に説明するために用意するものです。

事業計画書は数ページから数十ページにもなることもあり、その全てを丁寧に読み込まないと内容が理解できないとなってしまうと、第二回で触れた「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」といった事業計画を作る目的が達成できない可能性が高くなります。忙しいなどの理由で全てを読んでもらえるとは限らないからです。

そこで、あなたのビジネスプランに関心を持ってもらったり、簡潔に理解してもらったりするために、事業計画書の冒頭に要約のページを設ける必要があります。その要約のページのことをエグゼクティブ・サマリーと言います。

実際に事業計画を作る際にはエグゼクティブ・サマリーのページは最初に作っても最後に作ってもどちらでも問題ありませんが、事業計画書では必ず表紙や目次の次のページ、詳細なビジネスプランの内容を説明するページよりも前のページに位置づけてください。エグゼクティブ・サマリーは「事業計画書の冒頭」にあることに意味があります。

実際にビジネスプランの概要を端的に説明することは結構難しく感じられるはずです。まだまだ考えが頭の中で整理できていなかったり、事業への熱い思い入れがあったりと、ついつい説明が長くなってしまうものです。また、場数も踏むまでは、事業計画書を読む側が特に知りたいポイントや、関心を惹きつけるために説明すべきポイントなどがよく分からないことも多いかと思います。

そこで登場するのが「エレベーターピッチ」です。これは自分のビジネスプランの魅力を短時間で効果的に説明する方法としてシリコンバレーで生まれた方法と言われています。エレベータピッチが産まれた際の面白いエピソードがあります。以下のようなものです。

某スタートアップの創業者Aがある著名な投資家Bから投資を受けたいと考えていました。
しかしBは超がつくほど多忙でありアポイントが入りません。
ですがAは諦めず、いくら忙しいBでもエレベーターに乗っている間くらいは話をする時間はあるだろうと考えました。
そこでAはBがエレベーターに乗る際に偶然を装って同乗し、ひょっとして著名な投資家Bさんではありませんか、話しかけました。
Aはエレベーターの中の数十秒でBに自分のビジネスプランの魅力を伝え、Bの興味を惹くことができました。

こういったエピソードがあるため、エレベーターピッチと名付けられたそうです。この話のポイントは、ビジネスプランを説明する時間はエレベーターが目的階に着くまでのせいぜい数十秒しかなかった、というところにあります。

そのエレベーターピッチは以下のようなものです。
私の製品(サービス)は、
(A)「 (切実に困っていること) 」 で問題を抱えている、
(B)「 (ターゲット顧客) 」 向けの
(C)「 (製品のカテゴリー) 」 の製品であり、
(D)「 (具体的な問題) 」 を解決することができる。そして、
(E)「 (従来の一般的な製品) 」 とは違って、この製品には
(F)「 (差別化の特徴) 」 が備わっている。
括弧には自分のビジネスプランに沿った言葉を入れていきます。Googleの画像検索で具体例がいろいろ出てきますので、一度時間を取っていろいろ見てみると面白いと思います。

(A)には、顧客が本当に困っていること、本当に解決したいと思っていることを記入します。いわゆる「顧客のニーズ」や「ペイン」に該当する箇所です。ポイントは「切実な」という言葉で、顧客が実はそこまで困っていないとか、解決したいと思っていない事項はここには当てはまりません。
(b)には主に想定している顧客層を記入します。絞り込むことが重要です。
(c)には、あなたの提供する製品やサービスが一般的にはどういう分野に分類されるかを記入します。
(d)には、あなたのサービスや製品が顧客のどういう問題を解決できるかを具体的に記入します。
(E)有名だったり、先行していたり、あなたが注目していたりする他社のサービスや製品を記入します。
(F)他社サービスや製品と比べた際の顧客視点での特徴、強みを記入します。

何を記入すべきかは事業計画の各項目を考える中でより明確になってきます。

エレベーターピッチをうまく作れると、それがそのままエグゼクティ・サマリーとなりますので挑戦してみてください。そして、作ったエレベーターピッチを周囲のいろいろな人に説明して多くのフィードバックを受けて改善していくとより素晴らしいエレベーターピッチになっていきます。


(2)起業のきっかけや想い

本気で起業をお考えの方でこの項目に書くことがないと言っている方とお会いしたことはありません。文章化するのに苦労されている方はいらっしゃいましたが。

この項目は起業家の方の思いの丈をぶつける箇所なので、書き方に決まりはありませんが、なぜ明文化するのかは知っておいてください。代表的なのは以下のような理由です。
  • ビジネスプランを作るとき、他の項目に反映させるため。
  • 将来、思い返すため。
  • 本当の仲間を集めるため。
  • 事業の中で悩んだときの判断軸とするため。
  • 事業の中で苦しい場面に遭遇したとき自分のモチベーションを維持するため。
起業前後では「起業のきっかけや想い」は常に頭の中にあり忘れることはありませんが、事業を開始して時間が少しずつ過ぎると、日々の忙しさの中で忘れたり見失ったりすることがあります。そういったときや上記のような場面では明文化されている「起業のきっかけや想い」は起業家を力づけたり、起業家が判断を誤ることを防いだりしてくれるはずです。

「起業のきっかけや想い」を明文化する際のポイントをいくつかご紹介します。
  • 素直に書きましょう。格好をつけたりする必要はありません。また、起業の想いに貴賤はありません。
  • 「世の中の問題を解決したい!」という想いがある場合、それに加え、自分自身がその事業を楽しいと思えるか、も考えましょう。
  • 「自分の好きなことを事業化したい!」と想いがある場合、それに加え、それがどう世の中・地域に貢献できるか、も考えましょう。
  • 自分以外の人に読んでもらうためのものということを忘れないようにしましょう。


次回は「営業循環図」を説明していきます。