なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。
さて最初に「起業」と「資金調達」の意味について考えてみましょう。
「起業」と一言で言っても、
・最初から株式会社を設立して事業規模の拡大を目差すパターン
・個人事業主から開始して段階を踏んで事業規模拡大を目差すパターン
・事業規模の拡大を前提としていないフリーランサーやクリエイターのパターン
など様々なパターンがあります。
Web関連事業やコンサルティング業のようにパソコンひとつで起業できる業種もあります。実際に私は開業に際しては、パソコン、スマートフォン及び名刺を用意し、コワーキングスペースに入会しただけです。一方でものづくり、農業や店舗運営のように一定の資金が必要とされるものもあります。
しかし、いずれにしても「覚悟」が必要とされない「起業」はありません。今回と次回では「起業」の中でも、自分以外の人からも何かしらの方法で資金調達を行う必要がある、言い換えれば人のお金を預かる覚悟が求められる「起業」を前提として話を進めたいと思います。
次に「資金調達」ですが、この言葉にもさらに分解できます。
- デットファイナンス : 金融機関からの借入が典型例です。
- エクイティファイナンス : エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルやCVCからの資金調達が例に挙げられます。
- アセットファイナンス : これは「起業」の段階ではほとんど関係ないためこれ以降は触れませんが、会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを活用して資金を得る方法を指します。
- 事業で得られる儲けを蓄積する
本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を前提として進めたいと思います。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と適宜読み替えてください。
では、ここからが本題です。「覚悟から考える起業」ということで、これからいくつかの質問をします。ひとつひとつ、自分に問いかけてみてください。これらの質問は、ベンチャーキャピタルでの活動や、起業相談を受ける中で整理していったものです。
- 大きな失敗をしても、また挑戦する覚悟はありますか?
この質問は、失敗=悪いこと、という意味合いでしたものではありません。どんなに優秀な人でも、挑戦する人は必ず失敗します。失敗をしたことがない人は、挑戦してこなかっただけです。失敗を想定していない人は、自分の能力を過信している傲慢な人にすぎません。一方で挑戦して失敗する人は、その試行錯誤の中で大きく成長していきます。そして失敗経験を活かすことで、次の成功確率を高めていくことができます。事業はその連続ともいえるものです。また、成功から法則を見出すことは難しいですが、失敗から法則を見出すことはできる、ということもいえます。
繰り返しになりますが、挑戦する以上、失敗は避けられません。失敗から学ぶことなしに成長もできません。つまりは、失敗する覚悟、それを乗り越える覚悟が「起業」には必ず必要となるのです。
- 本当の「人脈」を活用する覚悟はありますか?
- 人のお金を使う覚悟はありますか?
- 様々な人との関係で苦労し、苦悩する覚悟はありますか?
社内でも同様です。起業家自身と創業メンバーの間には覚悟や意識の大きな差があります。場合によっては、創業メンバーのサラリーマン精神が表面化することも。そのときには、創業メンバーと言えどもお互いのことを本当の意味で理解していないことにショックを受けると思います。それでも事業は一緒に行っていく必要があります。
友人と一緒に会社を経営する場合には、友人を解雇する必要に迫られるかもしれません。友人に会社の借入の連帯保証をしてもらう必要が生じるかもしれません。家族との関係で苦悩することもあるかもしれません。
起業家はある段階では、ワークライフバランスなどと言ってはいられない場面にも直面します。運悪く、配偶者との関係がうまくいっていないタイミングと重なれば、離婚をつきつけられる可能性もあるのです。
最初は支援者だった人が、何かのきっかけで最大の敵対者になることだって少なくはありません。そうなると大変です。相手は「せっかく応援してやったのに裏切りやがって」と、普通では考えられないほどの嫌がらせをしてくるような事例もあります。
良くない可能性の話ばかりをしてしまいましたが、どれもが起こりうることです。そういったことに苦労し、苦悩することへの覚悟も必要です。
- 事業計画を、事業経験者を含め多くの人に見てもらい、厳しい意見をもらう覚悟はありますか?
事業計画を人に見せることに強い抵抗感を持つ方も多いかと思います。しかし、安心してください。人に見せたり話したりしたくらいで成り立たなくなる事業は、はじめから長持ちはしません。真似されることを恐れるよりも、人の批判にさらされていない不完全な事業計画であることを恐れて欲しいと思います。もちろん、見せる相手は選ばなくてなりませんが、多くの人に見せて厳しい意見をもらうことで事業計画はより良いものになります。一人ひとつの意見でも、100人に見せることで100個の改善点に気がつくことができるのです。
ぜひ、自分の事業計画が批判される覚悟を持って欲しいと思います。
- 自分を理解して、環境の変化に対応していく覚悟はありますか?
しかし、どんなに素晴らしいパートナーがいる場合でも、自分自身の変化が必要な場面もあります。その際に試されるのが、「自分の限界を超えるほどの努力をしたことがあるか」ではないでしょうか。学生の方であれば、「人生でこんなに勉強したことはない」と言えるほどの勉強を今からでもして欲しいと思います。
- 情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?
ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。
競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。
- 撤退する勇気はありますか? 合理的に判断できる自信はありますか?
まずは撤退を合理的に判断できる知識を身につけておきましょう。経済学やファイナンスの知識です。「サンクコスト」という言葉があります。日本語にすると「埋没費用」です。実はこの言葉を知っているだけで、撤退の判断をより合理的に下せる可能性が高まります。みなさんの周りでも「今までかけた時間と資金が無駄になるから、中止なんてできない」という話を聞いたりすることはないでしょうか?こういう場合に、サンクコストの考え方を応用すると、「過去に投資した資金や労力は一旦脇に置き、これから必要となる投資額とその効果を再度計算しなおして、投資継続か撤退かを判断しよう」と考えられます。ぜひ、経済学とファイナンスの基礎的な知識は身につけておいてください。
- 越境することを楽しめますか?
本稿では「自分に問いかけて欲しい質問」を通じて、起業を「覚悟」という面から考えてみました。当然ながら、他にもたくさん覚悟する必要があることは少なくありません。また、起業後の事業の段階ごとに覚悟すべき事項も変わってきます。起業の段階は主に始める覚悟ですし、仲間を増やす段階では、人の人生を背負う覚悟が求められます。事業を拡大させる時期には、波に乗る覚悟、組織をつくる覚悟、社員などに背中を見られる覚悟が求められます。会社が安定成長に入っても、安定が衰退の始まりだと考えると、経営を変えていく覚悟が必要となるでしょう。起業前のみなさんから見ると、少し将来の話もありますが、まずは「あなたは覚悟ある起業家か?」という問いに少しでも自信を持って回答できるようになれると素晴らしいと考えます。
次回は、資金調達を「責任」というキーワードで考えます。