NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2022年12月24日土曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(2) 金融機関からの借入でM&Aを行う場合のスケジュール

企業や事業の買収を、負債として調達した資金で行うことの良し悪しは意見が分かれるところです。投資は余裕資金で行いましょう、というのも正しいと考えられますし、負債でレバレッジを効かせて投資効率を高めましょう、というのも一定の条件下では正しいと考えられます。ただ、常に余裕資金があるわけではない中小企業が買い手となるM&Aにおいては、多くの場合、金融機関からの借入資金をそれに充てることになりますし、ある程度余裕資金があったとしても、手元資金を減らしたくないという考えで、金融機関からの借入資金を充てることも少なくないでしょう。

金融機関からの借入資金で中小M&Aを行う場合、
  • デューデリの結果
  • 買収対象企業の事業計画(デューデリで判明した事項を反映したもの)
  • 買収対象企業から親会社(買収を行う側)にもたらされるキャッシュフローによる返済計画
だけでなく、
  • 買い手側の事業計画や資金計画
も金融機関の審査対象となります。SPC(特別目的会社)を活用するM&Aは、中小M&Aではまだ特殊な事例かと考えられますので、この記事では「買い手側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合の買い手側の立場を前提としています。

さて、金融機関からの実際の審査内容ももちろん重要ですが、同じくらい重要なのがスケジュールです。
  1. 自社(買い手)の希望するクロージング(株式譲渡及び代金決済)日
  2. 売り手側の希望するクロージング日
  3. デューデリのスケジュール
  4. 金融機関の審査のスケジュール
といったことを調整していく決定していく必要があります。

通常、買い手側と売り手側の希望クロージング日(12)をまず調整します。買い手側はM&Aはゴールではなく、クロージング後に対象会社の経営をしていく必要があり、その準備の進捗なども考慮に入れる必要があり、必ずしも最短スケジュールで進めようとは考えていないかもしれません。一方で売り手はM&Aで得た資金を別の投資に回す計画があったりと、できるだけ短いスケジュールで進めることを希望するかもしれません。それぞれ逆の場合もあるでしょう。そういった点を調整する必要があります。

本来望ましいのは、そのようにして上記1と2を調整して定めたクロージング日から逆算して34のスケジュールを決める、という流れですが、そう簡単にはいかないケースが多くあります。

3のデューデリのスケジュールですが、買い手側は経験のある税理士・会計士・弁護士に依頼したり、M&Aアドバイザーにプロジェクトリーダー的に動いてもらったりすることで「プロの手を借りる」ことができる場合が多いのでそれほど問題とはなりませんが、売り手や対象会社は買い手側からの開示依頼資料を準備したりインタビューに対応したりしないといけません。M&Aアドバイザーがいたとしても準備・対応は社内で行わざるを得ないでしょう。そして当然ながら、初めてのことなので予め資料の準備ができているとは限りません。そうして「資料の準備・提出が遅れる→デューデリス全体が遅れる」ことにより、他の項目のスケジュールに影響を与える、ということが起きてしまいます。もちろん、デューデリ結果がなければ買い手側の意思決定が行えない、という大きな問題もあります。

4の金融機関のスケジュールですが、買い手側の対応力・説明力、3のデューデリのスケジュール、金融機関側の体制・フローや経験値などの影響を受けます。買い手側が先述のような資料を用意して金融機関へ説明を行うのですが、すでに経験があったり適切なフォローをしてくれるM&Aアドバイザーなどがいる場合以外は、その説明に苦戦するかもしれません。また、様々な資料の提出を求められますが、最終的に必ず必要となる書類のひとつに「デューデリ報告書」があります。デューデリを行った税理士・会計士・弁護士等の専門家が依頼主である買い手に提出するものです。ですので上記3のデューデリが遅れている場合、金融機関への資料提出が遅れ、借入日も遅れ、結果としてクロージング日も遅れるということとなります。

では一体どうやってM&Aのスケジュールを決めていけば良いでしょうか。買い手側の立場では、
  • まず金融機関に一般論としてのM&A資金融資の審査に必要な期間を確認する。
  • 次にデューデリ専門家にデューデリに必要な期間を確認する。
  • それらの情報を得た上で、売り手側とスケジュール調整する(もしくはM&Aアドバイザーにスケジュール調整を依頼する)。
という流れが良いかと考えます。

その際の注意点としては、
  • 金融機関には、金融機関内の審査や、決裁を得る手順を教えてもらえる範囲で細かく聞いて、どのタイミングでどういった資料や情報が必要になるか、それぞれの手順にどの程度の時間を見込んでおけば良いか、などを確認することが重要です。また先に提出できる書類もあるかもしれませんので、早めに「必要となる(であろう)書類」一式を確認しておきましょう。
  • デューデリ専門家との間では、デューデリの範囲をどうすべきかを相談しながらスケジュールを確認していきましょう。不必要な範囲までデューデリ範囲としてしまうことは、時間的にも費用的にも無駄で終わってしまう可能性もあります。
  • 売り手側とのスケジュール調整の中で、買い手側の希望よりも短い期間での対応を要することとなる場合もあるでしょう。そういった場合には、売り手や対象会社からの資料の提出を前倒ししてもらうことでデューデリ期間を少しでも短くできるようにしたりする工夫が必要となります。

以上、「買収する側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合のM&Aスケジュール調整の例を解説しました。M&Aの経験が複数回あったり、適切な動きをしてくれるM&Aアドバイザーがいる場合はそれほど苦労せずにできそうなことでも、初めての経験で適切な助言者もいない場合だと苦労することとなります。

ところで、この記事で「適切に助言をしてくれるM&Aアドバイザー」という趣旨の言葉を何回か使用しましたが、前回の記事でも少しご紹介したとおり、全てのM&Aアドバイザーが適切な助言をしてくれるわけではないことには注意が必要です。
  • M&Aが早くクロージングした方がM&Aアドバイザーが早く成功報酬を得られる場合。
  • 仲介の立場でも何等かの理由で売り手重視の対応をとる場合。
  • M&Aアドバイザーの担当者の経験値が高くない場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の総合的な経験値は低くはないが、金融機関対応など個別のテーマでは苦手分野がある場合。
  • M&Aアドバイザー担当者の経験値に関係なく、「こういうスケジュールで進められるはずだ」という思い込み先行となってしまっている場合。
といった例においては、M&Aアドバイザー自身が買い手の立場にたってスケジュール策定をしてくれない可能性もあります。ですので、M&Aアドバイザー側にスケジュールの根拠などを細かく確認したり、セカンドオピニオンを得たりすることも大切です。

以上、私がセカンドオピニオン的立場にたって助言をしていた際のトラブルを元にまとめました。この記事が参考になれば幸いです。

2022年12月14日水曜日

M&Aの基礎知識:注意すべき事例(1) M&A仲介会社等との関係

現在、NGCパートナーズではM&Aアドバイザリー業務単体での新規受託は停止していますが、セカンドオピニオン業務を行う場面は少なからずあります。主には経営・財務コンサルティングの既存クライアント事業者様が、M&A仲介専業会社から持ち込まれた案件の買収検討を行う場合に、当該クライアント事業者様から助言を求められる、というかたちです(案件情報元のM&A仲介専業会社が「仲介」の立場、私共がセカンドオピニオン提供者という立場です)。

M&A仲介専業会社の多くは、さすが専業だけあって、案件情報量や、業界特化している場合はその業界の専門知識も豊富で感心させられます。また、多くの場合、買い手と売り手にとっての利益を第一に考えM&Aを成功裏に着地させようと努力をしてくれます。一方で、疑問に感じる対応も見受けられる場合もあります。今回の記事では中小M&Aのセカンドオピニオン業務で出会った事例の内、少なからず散見される問題事例、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者が気を付けておくべき事項などをご紹介します。

[事例]

  1. M&A仲介会社が会社としては中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っているが、現場の担当者(M&Aコンサルタントなど)はそれを知らない、ファイナンシャルアドバイザリー(FA)契約がガイドラインに対応していない。
  2. デューデリジェンス実施に関する助言はM&A仲介業務の範囲外として、専門家紹介やデューデリのとりまとめを行わない。しかもそれをFA契約締結前に説明しない。
  3. デューデリジェンスの日程や、その結果を受けての買い手側の検討時間を無理に短く設定する、など強引なスケジュール設定を行う。
  4. デューデリジェンスの実施範囲について、買い手に不適切な助言をしたり、相談せずに勝手に決めてしまう。
  5. デューデリジェンスで判明した事実の中で、M&A価額に反映させるべきか検討を要する事項があった場合も、M&A価額を変えない方針の下、強引に話を進めようとする。
  6. 買い手側がM&A資金を借入で調達しようとしている場合でも、そのことへの助言や支援を行わない。
  7. 売り手や対象会社から説明を受けていた重要な事実を、適切なタイミングで買い手に伝えない。

[解説]
  1. 多くのM&A仲介会社やFA事業者は、中小企業庁(経済産業省)の「M&A支援機関登録制度」で支援機関として登録を行っており、登録した者は中小M&Aガイドライン遵守宣言を行っています。多くの者はガイドラインに沿ったかたちでFA業務を行っているはずですが、中には現場の担当者まで徹底されておらず、また雛形として利用しているFA契約がガイドラインに全く対応していない、などの事例が見受けられます。M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は、FA契約を顧問弁護士等にチェックしてもらうのは当然として、中小M&Aガイドラインに対応しているか、も合わせて必ずご確認ください。
  2. M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者は多くの場合はM&Aの経験は初めてです。その中でもデューデリジェンスについては、どういったものを実施すべきか、どういった専門家に依頼すべきか、出てきた報告書をどう判断に活かすべきか、と疑問がつきない場面のひとつです。多くのM&A仲介会社はそれらの助言を行いますが、それらの助言をほぼ放棄しているM&A仲介会社もあります。言い分としては、成功報酬を低く抑えているので実施するサービスの範囲も限定している、といったものが多いようです。しかし実際にはフルサービスを提供してくれる他社と比べ特に成功報酬が低額な訳でもありません。他にも同様の事例があり、例えば売り手企業の情報をコンパクトにまとめた企業概要書を作成しない、初期段階で買い手に提供する資料は売り手側作成且つ、M&A仲介会社のチェックも入っていない資料を転送してくるだけ、といった手抜き事例も見受けられます。少なくともFA契約締結後にそれに類するような事態となることを避けるためにも、M&A仲介会社が実施するサービスの詳細について必ずご確認ください。
  3. M&A仲介会社は多くの場合、M&A成約後に売り手と買い手から受領する成功報酬が自社の売上利益となります。また、担当者へのインセンティブもそれを元に計算する場合が少なくないようです。そのためか、売り手も買い手も求めていないにも関わらずタイトなスケジュールを設定しようとしてくる事例が見受けられます。もちろん、何かしらの必要性があったり、やむを得ない事情でそうなっているのかもしれません。いずれにせよ、M&A仲介会社が提示してきたスケジュールはその理由を必ず確認し、変更を希望する場合はその旨をはっきりと伝えるようにしましょう。
  4. M&A仲介会社の中にはデューデリジェンス実施範囲を不当に限定されたものにしようとする助言を行う事業者もいるようです。ひどい事例になると、デューデリジェンスは必要ない旨助言したり、最低限の財務税務のデューデリだけ実施し他のデューデリは行わないよう助言したりする事例です。M&A仲介会社はM&Aが成約し決済されるまでが仕事ですが、M&A仲介会社にアドバイザリー業務を委託する側の事業者はM&A成約・決済後が本番と言え、その本番を迎えるにあたってデューデリ報告書の内容はとても重要です。デューデリはM&A価額算定のためだけに行うものではありませんので、M&A後を見据え、どういったデューデリを行うべきか慎重に検討するようにしましょう。
  5. M&A仲介会社は買い手と売り手の間に立って両社の利害を調整しつつM&Aを成約させるのが役割ですし、中小M&Aの場合、デューデリで何かしら問題が発見されたら即M&A価額を下げる、といったことが行いにくい場合があるのは事実です。しかし、それは例えばデューデリ報告書の内容を精査し、その後の売り手側との調整にどう織り込むか、などを買い手が十分に考えてから対応すべき事柄であり、M&A仲介会社が強引に話を進めて良い類のものではありません。
  6. M&A資金を負債で調達することが適切かどうかは意見が分かれるところですが、中小M&Aでは実際にはよく行われる方法です。その場合、M&Aの検討と、金融機関との折衝が同時並行で行われ、しかも金融機関に対しどのように説明していくかは、なかなか難しい場面もあります。守秘義務があったり、デューデリが終わるまでは買い手側も情報量が不足していたりと通常の借入とは異なる面が多いからです。そのため、多くのM&A仲介会社はその金融機関対応についても助言を行います。金融機関からの融資がないとM&Aが成立しないこととなるのですし、当然とも言えます。しかし、そこを苦手としているM&A仲介会社もあり、その場合、全く助言が期待できません。M&A資金を負債で調達する必要がある場合は、そこへの支援や助言をしてもらえるか、事前に必ず確認しましょう。
  7. これについてはなかなか対策のしようがないのですが、デューデリも終わって、最終契約(株式譲渡契約など)の内容もほぼ合意したタイミングくらいで「実は・・・・」と言って悪い情報を買い手に伝えてくるM&A仲介会社があります。M&A仲介会社自身は必ずしもそのタイミングでその情報を知ったわけではなく、売り手からはかなり前の段階で話を聞いていることもあるようです。買い手側としては今更M&Aを破談にするわけにもいかないということで対応に困ってしまう場合もあります。
以上、いくつかの事例をご紹介しました。セカンドオピニオンを別の専門家に依頼していたとしても全てを防ぐことができるわけではありませんが、M&A自体が初めて、という場合だけでなく、そのM&A仲介会社に依頼するのが初めて、という場合もセカンドオピニオンを得ることは選択肢として検討の価値があるかと考えます。


2021年12月14日火曜日

M&Aの基礎知識:中小M&Aにおけるセカンドオピニオンとは?

M&Aについては本日現在、バリュエーションについての記事を連載中ですが、それとは別に単発テーマを取り扱う「M&Aの基礎知識」のコーナーも不定期で掲載しています。前回の「FA形式と仲介形式」には多くのアクセスをいただき、ありがとうございました。

さて、2020年3月に経済産業省から発表された「中小M&Aガイドライン」で取り上げられたことをきっかけに「中小M&Aにおけるセカンドオピニオン」のニーズが高まっています。今回は中小M&Aにおけるセカンドオピニオンとはどういったものかまとめました。

1.セカンドオピニオンのそもそもの意味は?

もともとは医療の用語として普及したもので、以下のような意味の言葉です。
セカンドオピニオンを簡単に説明すると、日本語では「第二の意見」と呼ばれるように、患者がある病気で診断を下された際に診断結果やその後の治療方針や治療方法について、主治医以外の医師から意見を聞くことを言います。主治医以外の意見を聞くことで、現在の治療が適切なのか、他に良い治療がないのかなど、患者がより納得のいく治療を受けることが可能になります。
(出典:セカンドオピニオン.com Webサイト)

医療の用語としての「セカンドオピニオン」は、自身が大きな病気を患ったり、ご家族を含む親しい方にそういった方がいらっしゃったりする方はご存知であることが多いのではないでしょうか。医療の世界ではセカンドオピニオンを取得することは普通の風景になっているようで、まともな医師であれば自分が担当する患者が他の医師に意見を聞くことになる主治医の立場でも、患者やセカンドオピニオンを取得することに対してネガティブな反応をすることはないそうです。

 

2.M&Aにおけるセカンドオピニオンとは?

中小M&Aガイドラインでは以下のように定義されています。
セカンド・オピニオンとは、中小M&Aを行おうとしている者が支援機関と契約を締結する際や、支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、他の支援機関から意見を求めることをいう。
同ガイドライン用に定義されている言葉が含まれますので、より一般的な用語で書き直すと以下のとおりです。

中小企業のM&Aにおけるセカンドオピニオンとは、
  • 事業を譲り渡す側(いわゆる売り手)や事業を譲り受ける側(いわゆる買い手)が、
  • M&A助言業務を行うFA事業者M&A仲介事業者などのM&A専門家
  • ファイナンシャルアドバイザリー契約(FA契約)仲介契約を締結する際や、
  • それらのM&A専門家によるM&Aのストラクチャーやバリュエーションなどを含む専門的な助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、
  • 他のM&A専門家に意見を求めること
をいう。

先述のとおり、セカンドオピニオンという言葉は、もともとは医療の用語として普及したもので、患者が主治医から説明された診断結果や治療方針・方法について、主治医以外の医師から意見を得ることを意味します。今後の治療などについて、患者自身がより判断しやすくなったり、納得感を高めたりすることが可能になると言われています。その意味合いが転用され、中小M&Aでも使われるようになりました。

3.中小M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性

以下のようなことが言えるため中小M&Aにおいてもセカンドオピニオンが必要です。
  1. M&Aはほとんどの中小企業にとって極めて少ない回数しか経験しないものであるため、日々忙しい経営者や企業オーナーが理解を深めていくことは容易ではない。
  2. 専門家の質やその助言内容がどうかを、その分野の専門ではない者が判断するのはM&Aに限らず容易ではない
  3. 加えて、M&A助言業務は医療行為とは違い資格や免許が不要なため、専門家が保有する専門性が一定水準以上であることが客観的には担保されていない
補足すると、まず「1」についてですが、特に「売り手」についてそう言えます。グループ会社をいくつも所有している場合、連続起業家などである場合など、複数の会社を所有しているような例はまだまだ稀ですので、M&Aを経験するとしてもそれは1回きりであるという場合が大半ではないでしょうか。「買い手」の場合は複数回経験することがあり得ますが、それでも回数はそれほど多くはないと言えるでしょう。

「3」についても注意が必要です。たとえ士業専門家がM&Aの助言を行っている場合と言えども当てはまります。その士業専門家は確かに士業資格を保有してはいますすが、M&A助言業務そのものが士業としての本来の業務ではないことが多い(つまりは多くの士業専門家にとってM&A助言サービスは新規事業であったり、付帯サービスであったりする)ため、士業の資格を保有していることが、M&Aについての専門性が一定水準以上であることを担保しているわけではない、というわけです。士業専門家でもそう言えるのですから、それ以外の場合は猶更と言えるでしょう。

これらを解消するために、国も事業承継ガイドライン中小M&Aガイドラインを定め、中小企業経営者や企業オーナーの理解を促進したり、M&Aに関わる専門家にもガイドラインに沿った一定水準以上の活動を求めてたりしていますし、日本M&Aアドバイザー協会のように専門性向上活動や職業人としての倫理の啓発活動を行っている例もあります。セカンドオピニオンもそういった問題を解消するためのひとつの方法といえます。

4.どういった場合にセカンドオピニオンがあると良いか?

では、M&Aにおけるセカンドオピニオンはどういった場合にどのようなことを確認するために活用すると良いのでしょうか?先述の中小M&Aガイドラインではいくつかの例が紹介されています。
  • M&A助言業務を行うFA事業者やM&A仲介事業者とFA契約や仲介契約を締結する際に、業務の具体的内容や報酬の妥当性について意見を求める
  • 最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約など)を締結・調印する前に、その契約内容について意見を求める
同ガイドライン記載以外の事項でも
  • バリュエーション(企業価値算定)の結果や、その前提条件、算出過程の妥当性について意見を求める
  • デューデリジェンスの結果や、その調査過程・範囲について意見を求める
  • その他、専門的且つ中立的・第三者的立場からの各種意見を求める
といったことが考えられます。

FA事業者やM&A仲介事業者へ支払う報酬は高額になることが多いですし、そもそも会社や事業を譲り渡したり、譲り受けたりすることは多くの利害関係者の人生をも左右する大きな事柄です。事業を譲り渡す側、事業を譲り受ける側、どちらの場合でもセカンドオピニオンの活用が望まれます。

5.その他の重要な注意点 

FA事業者やM&A仲介事業者とのFA契約や仲介契約では専任条項と呼ばれる条項で、実質的にセカンドオピニオン取得が禁止されている場合があります。ほとんどの場合は、M&Aで極めて重要な秘密保持の観点から設けられている条項ですが、そういった場合を含め、まずはFA契約や仲介契約を締結する前に当該専門家に必ず相談しましょう。「中小M&Aガイドラインに記載されていたセカンドオピニオンを活用する可能性も残しておきたい」と伝えれば、ほとんどの専門家が対応してくれるはずです。対応してくれない場合は、他の専門家に切り替えるべきです。特に、M&A支援機関登録制度に登録しているM&A専門家は、「依頼者(売り手や買い手)がセカンドオピニオンを取得することを許容すべきである」としている中小M&Aガイドラインを遵守することを宣言しています。それにも関わらずセカンドオピニオンを取得することを忌避するようであれば中小企業庁の情報提供窓口への相談や、FA契約・仲介契約締結の取りやめなどを行うべきです。

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2021年12月13日月曜日

【再・追加開催】「事業承継などを理由とする会社や事業の譲り渡し」を検討中の長崎県所在企業の方々を対象とした無料相談会(オンライン)

内容を更新する場合がありますので、お申込みにあたっては必ずPeatixのページをご確認ください。


「事業承継などを理由とする会社や事業の譲り渡し」を検討中の方々を対象とした無料相談会の開催日時を再度追加することとなりましたのでお知らせします。以下、開催概要です。

-------

M&Aについてのお悩みについて無料相談を承ります(1日2社まで。1社当たり30~60分を想定)。
お申込みいただいた方の中から先着順で対応させていただきます。

双方のニーズが合致すれば、具体的なM&Aの相手方候補となりうる第三者とのお引き合わせも可能です。お引き合わせの日時は別途の調整とさせてください。また、お引き合わせを確約するものではありませんのでご了承ください。

■お申込みはこちらから

https://www.ngc-partners.biz/cmeeting

■開催日

2021年内開催分については申込受付を終了しております。

■当日のタイムスケジュール(予定)

13:00~ 1社目の企業様の相談時間
14:00~ 2社目の企業様の相談時間

■無料相談会の対象

以下の両方に該当する方を対象としています。
  1. 本社や本店が長崎県内の中小企業で、
  2. 上記企業のオーナー(株主等)、代表者(代表取締役等)もしくは後継者(候補含む)の方

■対応可能なご相談

(1)以下のようなM&Aに関することについて、「まずは何をすればよいか」、「本格的に検討・推進する場合にはどこに相談したら良いか」といった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。
後継者が親族・社内にいないため、現在の経営方針を尊重した上で会社を承継してくれる第三者を探したい。一部の事業について、自社で運営するのではなく、第三者に運営を受け渡したい。有力な他社のグループに入り営業力や企画開発力などの強化を行い、事業を拡大したい。同業他社と経営統合を行い、管理部門などの重複機能の効率化を行うなど企業体力を増強したい。事業承継ファンドに会社を承継することについて検討したい。

(2)すでにM&Aアドバイザーがいらっしゃる方でも、「M&Aのセカンドオピニオン」を得たいが、どう進めていいか分からないといった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。


■遵守事項

  • 無料相談会でお預かりした内容は、秘密情報として取り扱い、御相談者様の方の事前の承諾なく第三者に開示することは致しません。
  • 御相談対象の企業様の具体的な承継先・受け渡し先となりうる企業様とお引き合わせをさせていただくことも可能ですが、その際も相談者の方のご希望や事前の承諾なく当該企業様に情報を開示することは致しません。

■お断り事項

  • Web会議の録画・録音は固くお断り申し上げます。
  • 代理の方のご出席はご遠慮ください。
  • M&Aアドバイザー等の同席はご遠慮ください。
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2021年11月15日月曜日

【追加開催】「事業承継などを理由とする会社や事業の譲り渡し」を検討中の長崎県所在企業の方々を対象とした無料相談会(オンライン)

内容を更新する場合がありますので、お申込みにあたっては必ずPeatixのページをご確認ください。

「事業承継などを理由とする会社や事業の譲り渡し」を検討中の方々を対象とした無料相談会の開催日時を追加することとなりましたのでお知らせします。以下、開催概要です。

-------

M&Aについてのお悩みについて無料相談を承ります(1日2社まで。1社当たり30~60分を想定)。
お申込みいただいた方の中から先着順で対応させていただきます。

双方のニーズが合致すれば、具体的なM&Aの相手方候補となりうる第三者とのお引き合わせも可能です。お引き合わせの日時は別途の調整とさせてください。また、お引き合わせを確約するものではありませんのでご了承ください。

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■開催日

■当日のタイムスケジュール(予定)

13:00~ 1社目の企業様の相談時間
14:00~ 2社目の企業様の相談時間

■無料相談会の対象

以下の両方に該当する方を対象としています。
  1. 本社や本店が長崎県内の中小企業で、
  2. 上記企業のオーナー(株主等)、代表者(代表取締役等)もしくは後継者(候補含む)の方

■対応可能なご相談

(1)以下のようなM&Aに関することについて、「まずは何をすればよいか」、「本格的に検討・推進する場合にはどこに相談したら良いか」といった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。
後継者が親族・社内にいないため、現在の経営方針を尊重した上で会社を承継してくれる第三者を探したい。一部の事業について、自社で運営するのではなく、第三者に運営を受け渡したい。有力な他社のグループに入り営業力や企画開発力などの強化を行い、事業を拡大したい。同業他社と経営統合を行い、管理部門などの重複機能の効率化を行うなど企業体力を増強したい。事業承継ファンドに会社を承継することについて検討したい。

(2)すでにM&Aアドバイザーがいらっしゃる方でも、「M&Aのセカンドオピニオン」を得たいが、どう進めていいか分からないといった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。

■NGCパートナーズについて

概要 https://www.ngc-partners.biz/about
事業 https://www.ngc-partners.biz/business

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■お断り事項

  • Web会議の録画・録音は固くお断り申し上げます。
  • 代理の方のご出席はご遠慮ください。
  • M&Aアドバイザー等の同席はご遠慮ください。

2021年11月6日土曜日

「M&Aによる事業承継をご検討中」の長崎県所在企業の方々を対象とした無料相談会(オンライン)を開催

内容を更新する場合がありますので、お申込みにあたっては必ずPeatixのページをご確認ください。

「M&Aによる事業承継をご検討中」の長崎県所在企業の方々を対象とした無料相談会をオンラインで開催しますのでお知らせします。以下、開催概要です。

-------
M&Aについてのお悩みについて無料相談を承ります(1日2社まで。1社当たり30~60分を想定)。
お申込みいただいた方の中から先着順で対応させていただきます。

双方のニーズが合致すれば、具体的なM&Aの相手方候補となりうる第三者とのお引き合わせも可能です。お引き合わせの日時は別途の調整とさせてください。また、お引き合わせを確約するものではありませんのでご了承ください。

■お申込みはこちらから

https://www.ngc-partners.biz/cmeeting

■開催日時と当日のタイムスケジュール(予定)

・開催日
 2021年11月13日(土)、同20日(土)、同27日(土)
・開催時間(全日程共通)
 13:00~ 1社目の企業様の相談時間
 14:00~ 2社目の企業様の相談時間

■無料相談会の対象

以下の両方に該当する方を対象としています。
  1. 本社や本店が長崎県内の中小企業で、
  2. 上記企業のオーナー(株主等)、代表者(代表取締役等)もしくは後継者(候補含む)の方

■対応可能なご相談

(1)以下のようなM&Aに関することについて、「まずは何をすればよいか」、「本格的に検討・推進する場合にはどこに相談したら良いか」といった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。
後継者が親族・社内にいないため、現在の経営方針を尊重した上で会社を承継してくれる第三者を探したい。一部の事業について、自社で運営するのではなく、第三者に運営を受け渡したい。有力な他社のグループに入り営業力や企画開発力などの強化を行い、事業を拡大したい。同業他社と経営統合を行い、管理部門などの重複機能の効率化を行うなど企業体力を増強したい。事業承継ファンドに会社を承継することについて検討したい。

(2)すでにM&Aアドバイザーがいらっしゃる方でも、「M&Aのセカンドオピニオン」を得たいが、どう進めていいか分からないといった疑問・お悩みのご相談に乗ることができます。

■遵守事項

  • 無料相談会でお預かりした内容は、秘密情報として取り扱い、御相談者様の方の事前の承諾なく第三者に開示することは致しません。
  • 御相談対象の企業様の具体的な承継先・受け渡し先となりうる企業様とお引き合わせをさせていただくことも可能ですが、その際も相談者の方のご希望や事前の承諾なく当該企業様に情報を開示することは致しません。

■お断り事項

  • Web会議の録画・録音は固くお断り申し上げます。
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2021年11月1日月曜日

M&Aバリュエーション基礎5 基本用語解説四回目 DCF法

引き続き、バリュエーションの基本用語の解説です。今回は、DCF法に関連する用語について解説します。

■DCF法

「Discounted Cash Flow」の頭文字をとったもので、未上場企業のバリュエーションの際に利用される最も一般的な方法のひとつです。企業の価値は、その企業が将来生み出すキャッシュフローの現在価値の合計であるという企業ファイナンスの基本的な考え方に則った方法です。

なお、表記ですが実務上は「DCF法」や「ディスカウント・キャッシュフロー法」などが使われます。英語表記をそのまま日本語読みした「ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法」が使われることもありますし、稀に「割引キャッシュフロー法」が使われることもあります。

対象会社の将来キャッシュフロー予測(事業計画等から計算します)や、算定の過程で利用する株式市場の係数(βやリスクプレミアム)などの多くの前提条件の下計算を行う方法であるため、計算結果の利用方法については慎重に検討する必要があります。理論としては綺麗なのですが、前提条件次第で計算結果が大きく異なってしまうからです。

また、専門家に依頼してDCF法でバリュエーションを行ってもらった場合、専門家ごとの癖のようなものがあり、βリスクプレミアムは精緻に計算しているにも関わらず将来キャッシュフローの予測値は結構いい加減、ということもあります。依頼する側の企業オーナーや経営者は逆に将来キャッシュフローの予測の方に重きを置く傾向がありますので、齟齬が生じやすい場面でもあります。

算出の手順を簡単にまとめると、
  1. 対象会社の事業計画(損益計画や予想貸借対照表など)から将来キャッシュフローを計算します。事業計画はすでに策定されているものがそのまま使用されることはあまり多くはなく、経営の実態や、すでに決定されている将来の事項に関することなどを反映し修正されたものを使用します。
  2. 上記将来キャッシュフローと、上場している類似会社のβ(ベータ)及び日本の株式市場のリスクプレミアムの数値等を元に対象会社の将来キャッシュフローの現在価値の合計値(=事業価値)を算出します。
  3. 当該事業価値に投融資(事業に関係のない資産の時価)と現預金額を加算し、有利子負債を差し引くことで株主価値を計算します。
という流れとなります。詳細は計算式を含め後日解説します。

■実効税率

株式会社の実質的な法人税等の税率のことを意味します。地方税が含まれるため、都道府県ごとに異なる可能性があります。また、外形標準課税の対象となる企業かそれ以外か、などの条件により異なる可能性もあります。そのように各種前提で変動するので実務上は40%や35%などの簡素化した数値が採用されることもあります。ある程度正確に知りたい場合は、顧問税理士の先生にご確認ください。

■NOPAT

税引き後営業利益」を指す「Net Operating Profit After Taxes」の頭文字をとったものです。定義が違い用語としてはNOPLATというものもありますが、この連載の前提の下では両者は同じ意味とお考えいただいて問題ありません。
NOPATは後述のフリーキャッシュフロー算定の前提となる指標です。
計算式は
  NOPAT=営業利益×(1-実効税率)
が一般的に利用されます。

■FCF

FCFはフリー・キャッシュ・フローの頭文字をとったものです。先述のNOPATに非資金費用である減価償却費及びのれん償却費をプラス、設備投資額をマイナス、運転資本増減を加算・減算して算出します。企業は自由に使えるお金、という意味の言葉であり、バリュエーションの世界では、企業の目的はこのFCFを稼ぐこと、増やすことを通じて株主価値を向上させること、となっています(あくまでも、バリュエーションの世界では、の話です)。
  FCF=NOPAT+減価償却費+のれん償却額-設備投資額±運転資本増減
運転資本増減はある期の運転資本と、その前の期の運転資本の金額を比較して算出します。運転資本は、「売上債権+棚卸資産-仕入債務」で計算します。運転資本が増加するということは手元資金(つまりはFCF)が減ることを意味し、運転資本が減少するということは手元資金(つまりはFCF)が増えることを意味します。

■割引率

現在の10,000円と、1年後の10,000円が等価ではないことを例に説明されます。低金利の世の中では例として少し実感しにくくなってしまいましたが、現在の10,000円は運用して増やすことができますので、例えば1%の利回りで運用した場合、1年後には10,100円となっています。ですので、ファイナンスの世界では現在の10,000円と等価なのは1年後の10,100円と考えます。逆に1年後の10,000円と等価なのは、10,000円を101%で割った約9,900円と考えます。この1%のことを割引率と呼びます。そして、9,900円のことを10,000円の割引現在価値と呼びます。

教科書的な定義は、「将来の価値を現在の価値で表すために用いる率のことを割引率と言い、その現在の価値のことを割引現在価値と言う」です。

DCF法ではほとんどの場合、「加重平均資本コスト(Weightted Average Cost of Capital)」が採用されます。株主資本の調達コストと負債の調達コストが、それぞれ株主や債権者から期待されている割引率であると考え、それを金額割合で調整した加重平均資本コストが企業全体の割引率である、と考えます。実務上はアルファベットの頭文字をとって「WACC」と表記し、「ワック」と読みます。

計算式は
  WACC₌D/(D+E)×rD×(1-T)+E/(D+E) × rE
が使われます。Dは有利子負債額、Eは株主資本額、Tは実効税率、rDは有利子負債の利子率、rEは株主資本コストを意味します。詳細は具体的計算過程の解説の際にご説明します。

■リスクプレミアム

リスクのある資産(典型的な例は株式です)に期待される収益率と、無リスク資産(日本では一般的には10年物国債です)の収益率の差を意味します。通常、投資家はリスクのある資産にはリスクのない資産よりも大きなリターンを期待しますので、リスクプレミアムは多くの場合、正の数値となります。減る可能性がある資産にはその分増える可能性があることを期待し、減る可能性が低い資産には増える可能性を求めない、ということです。

専門家でな限り、自分でリスクプレミアムを算出することは難しいため、各国のリスクプレミアムを測定し公表しているニューヨーク大学ダモダラン教授による調査結果を利用します。なお、同調査結果によると日本の株式投資のリスクプレミアムは「5.40%」ですので、投資家が日本で株式投資を行う際には、国債利回りに5.4%を加算した数字よりも大きなリターンを期待していると理解できます。

■β(ベータ)

株式市場の平均株価等が1%変化したときに、ある特定の業種の平均株価や、ある特定の企業の株価がどの程度変化するかを表す指標です。たとえば東証株価指数(TOPIX)が1%上昇したときに、ある特定の企業の株価が0.7%上昇した場合はその特定の企業のβは0.7である、と表します。

全ての上場企業にはβが存在するため、DCF法の計算過程で選んだ類似会社のβを利用するのですが、専門家でない限り自分で算出する必要はなく、金融系ニュースサイトや証券会社の投資情報ページから情報を入手して利用します。よく使われるのがReutersのWebサイトです。個別銘柄名で検索した後、「指標」のページを見ると「ベータ値」として掲載されています。

また、各国の業種ごとのβ値を測定し公表しているニューヨーク大学ダモダラン教授による調査結果を利用することもあります。


次回は、その他のバリュエーションの方法の基本用語について解説予定です。

2021年10月25日月曜日

M&Aの基礎知識:FA形式と仲介形式

M&Aについては本日現在、バリュエーションについての記事を連載中ですが、それとは別に単発テーマを取り扱う「M&Aの基礎知識」のコーナーも不定期で掲載します。

今回は、中小M&Aにおける論点として「FA形式と仲介形式」について取り上げます。

なお、NGCパートナーズでは、中小M&Aガイドライン遵守宣言にも記載したとおり「利益相反リスクを完全には排除できないため、原則として仲介契約は締結しない」という方針ですので、仲介形式には若干否定的な立場です。

ですが、仲介形式にはFA形式にはないメリットもあるのも事実ですので、仲介形式に肯定的な解説や、中立な立場の解説など含め、同様の記事にいくつか目を通したり、実際にM&Aアドバイザーを活用したことがある経営者に話を聞いたりすることをお勧めします。

1.M&Aアドバイザーとは?

 ファイナンシャル・アドバイザー(FA)や、M&Aコンサルタントと呼ぶこともあります。
 M&Aに必要な専門知識やネットワークを保有していて、それを活用してM&Aの当事者である買い手や売り手に対し、助言やサポートを行います。「代理」という用語が使用されることもありますが民法上の代理権はない事例が大半です。

 以下、日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトからの抜粋です。
「M&Aアドバイザー」とは、M&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担うM&Aのスペシャリスト(専門家)を意味し、「M&Aコンサルタント」や「ファイナンシャルアドバイザー(FA)」等とも呼ばれます。
   (中略)
「M&Aアドバイザーの仕事は財務会計・税務・法律のるつぼ」と表現される様に、その業務範囲は広く、幅広い知識と能力を必要とします。また、M&Aアドバイザーとしてプロフェッショナルになる為には、財務会計・税務・法律の他に、経営を理解し、交渉やファシリテーション等のコミュニケーション能力の高さも必要となります。
   (中略)
顧客の経営戦略という重要課題のサポートを行い、日本経済を支える企業経営における重要な部分のお手伝いをするのがM&Aアドバイザーです。(以下、略)
なお、そもそも「M&Aアドバイザー」は利用した方が良いのか?メリットは?とお悩みの方は、同協会の以下のページをご覧ください。
 買収を検討されている方はこちら
 売却・譲渡を検討されている方はこちら

2.FA形式と仲介形式の概要

 M&Aアドバイザーが買い手や売り手に助言やサポートを行うにあたって、形式が大きく二つに分かれます。日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトには以下のように記述されています。
通常、企業がM&Aを実行する場合、M&Aアドバイザーに契約成立までの一連のサポートを依頼しますが、アドバイザーの関わり方には、主に「アドバイザリー形式」と「仲介形式」という二つの着任形式があります。アドバイザリー形式の場合には、売り手と買い手それぞれにM&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手と買い手、それぞれの立場で助言を行います。一方、仲介形式の場合には、売り手と買い手の間に、M&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手、買い手の間に立って、中立的な立場で助言を行い、媒介とも呼ばれることもあります。
分かりやすく図示すると以下のようになります。

左図のような、買い手側と売り手側それぞれに異なるM&Aアドバイザーが付く形式が「FA形式」(上記協会の引用文は「アドバイザー形式」となっていますが同じ意味)です。FAはファイナンシャル・アドバイザーの頭文字をとったものです。キーワードは「交渉」です。FAは依頼主の利益のために活動する、という形式であるため、依頼主の利益を最大化することができるというメリットがあります。

一方で、右図のように、買い手側と売り手側の間にM&Aアドバイザーが付く形式が「仲介形式」です。キーワードは「調整」です。買い手のことも売り手のことも理解している仲介会社が介在することで、M&Aが円満に進んだり、成約に至りやすいというメリットがあります。

3.FA形式と仲介形式を比較した際の主な論点

(1)FA形式は日本の中小M&A文化に合わないというのは本当か

 先述のとおり、FA形式のキーワードは「交渉」です。買い手・売り手それぞれにM&Aアドバイザーが就任し、買い手のアドバイザーは買い手の利益のために活動する、売り手のアドバイザーは売り手の利益のために活動する、という原則の下、両者間で「交渉」が行われます。依頼主の利益のために交渉するというのは当たり前のことではあるのですが、中小M&Aの場合、「交渉」が行き過ぎると後々災いを呼び込む可能性が高いということが言われます。

M&Aというのは手続きとしては株式譲渡などによる経営権の移転で終了ですが、経営権の移転というのはその後の経営によりシナジーの実現など、M&Aの目的を達成するためのスタートでしかありません。そして、シナジーの実現のためには、当事者間の協力体制を築くことが必要不可欠です。しかし、M&Aの段階で「交渉」が行き過ぎた結果、当事者間にしこりが残り、その後の協力体制構築に悪影響が出る場合があります。キーパーソンが退職するといったこともあります。事業の実務を遂行するにあたって「仕組み」の割合が比較的大きな大企業の場合は影響が少ないかもしれませんが、「人」の割合が大きな中小企業では致命的な影響になりかねません。

といったことがFA形式の懸念点としてよく挙げられるのですが、FA形式→交渉が主→軋轢を産む可能性大、という流れはかなり短絡的であると私は考えます。結局のところ、FAであろうと仲介会社であろうと、依頼主の希望を叶えるために活動する立場ですから、その活動姿勢にも依頼主の考えや想いが反映されます。「徹底的に安く買いたい(高く売りたい)」という考えで且つM&A後の経営を考慮しないタイプの依頼主であれば、FA形式であろうと仲介形式であろうと、軋轢を産む可能性があるでしょう。逆にM&A後の経営も考慮している依頼主の下であればFA形式であってもそうそう軋轢を産むことにはなりません。

以上のことから、「FA形式は日本の中小M&A文化に合わない」可能性はあるものの、より重要なのは依頼主の考えや姿勢である、と言えると考えます。

(2)仲介会社は中立な助言をしてくれるのか

 仲介形式は上図のとおり、買い手と売り手の間にたって、両者の利益や思惑の「調整」を行います。「交渉」がキーワードとなるFA形式よりも、円満な合意に至りやすいとも言われています。一方で、必ず付きまとうのが「利益相反」というキーワードです。

上記のとおり、FAや仲介会社は法律上の代理人ではないのですが、それに近しい立場であるため、民法第108条第2項の趣旨である「利益相反行為の制限」の考えと取り入れ、M&Aでも仲介形式は避けるべきである、と言われることが少なくありません。
民法第108条(自己契約・双方代理)
1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
具体的な利益相反としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。
  • 買い手と売り手との間で、株式譲渡額が論点となっている際、仲介会社がどちらか一方に有利な株式譲渡額を提案する。
  • 対象会社に何かしらの問題が発見された場合に、仲介会社が買い手側に適切にそのことを伝えない。
といったことが考えられます。また、
  • 多くの場合、「売り手は一度会社を売ってしまえば、仲介会社のリピーター顧客にはなりにくい(売り手が何社も会社を保有しているような事例を除いて)」、一方で「M&Aに積極的な買い手は、また別のM&Aの場面で仲介会社のリピーター顧客となることがありうる」ため、仲介会社は構造的に売り手側よりも買い手側の意向を重視しやすい傾向がある。
といったことも言われます。

仲介形式を採用する以上、「利益相反」のリスクは完全には排除することができません。依頼主側としては、M&A仲介会社やその経営者の実績や姿勢、担当コンサルタントの人柄などを見極める、任せっきりにしないで意思決定をしていくなどの方法でリスクを低減していくべきです。

なお、NGCパートナーズでは、「経営・財務コンサルティング先の事業者の成長戦略や事業承継に必要な場合のみM&Aアドバイザーを引き受ける」という方針であるため、原則としてFA形式のみ対応しており、利益相反を回避できない仲介契約は締結しないこととしています。当事者一方と従前から経営・財務コンサルティングに関する契約を締結している以上、仲介契約を締結しても、中立な立場でM&Aアドバイザー業務を行うことは難しいからです。

(3)仲介形式の方が低コストというのは本当か

 中小M&Aにおいて、FA形式は仲介形式に比べコストが高く、採用しずらいと考えられています。FA形式ではM&Aアドバイザーが2社(者)関与する一方、仲介形式はM&Aアドバイザーが1社(者)しか関与しないため、仲介形式の方が低コストと見られているようです。

多くの場合、そうであるかもしれません。しかし、中には仲介会社が買い手からも売り手からもFA形式と同水準の報酬を受け取る事例も少なくないようです。もちろん、それに見合った活動をしてくれたら問題はないのですが、FA形式=高コスト、仲介形式=低コスト、と短絡的に考えるのではなく、個別具体的に見極めることが重要です。

2021年10月21日木曜日

コンテンツ紹介:公開可能な買収希望情報

NGCパートナーズのWebサイトでは、受託しているM&Aアドバイザリー業務の中から、公開可能な「買収希望」情報の一部を掲載しています(買収希望とは、会社や事業を買収したいという希望、を意味しています)。

注意点としては
  1. 加入している日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)のデータベースのページに詳細を掲載している。
  2. クライアントの意向によりそもそも掲載していない案件や、JMAAの正会員のみに限定して詳細情報を公開している案件も含まれる。
  3. 経営・財務コンサルティングの一環としてM&Aアドバイザリーを行っているので、買い手側FAとして活動している事例が大半である(また、同様の理由で仲介業務は原則として行っていない)。
などがあります。

本日時点の案件は以下のとおりです。会社の譲渡・売却等をお考えの企業オーナーの方、該当するクライアントがいらっしゃるM&Aアドバイザーの方、ぜひこちらからご連絡ください。
1.福岡県内での食品製造業、木材・木製品製造業等の買収希望
 JMAA正会員のみに公開。
 JMAAの案件管理システムからご確認ください(買収希望ID349)。

2.長崎県内での食品製造業、木材・木製品製造業等の買収希望
 JMAA正会員のみに公開。
 JMAAの案件管理システムからご確認ください(買収希望ID348)。

3.福岡県内でのビルメンテナンス業の買収希望
 一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

4.福岡県内での洗濯業の買収希望
一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

5.福岡県内での麺類製造業の買収希望
一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

情報の更新などの可能性ありますので、最新情報はこちらからご確認ください。

2021年10月19日火曜日

M&Aバリュエーション基礎4 基本用語解説三回目 マルチプル法

引き続き、バリュエーションの基本用語の解説です。
今回は、EV/EBITDA倍率法に代表されるマルチプル法(類似会社比較法)に関連する用語について解説します。

■マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法は、他の方法に比べ比較的簡便であることから、未上場企業のバリュエーションの際に利用される最も一般的な方法のひとつで、類似会社比較法とも呼ばれます。バリュエーションの対象となる会社と類似の事業を行う上場企業を複数選定し、それらの企業の企業価値に関する指標を参考にして、対象となる会社の株主価値を算出しようとする方法です。マルチプル法にも複数の方法があり、M&AのバリュエーションではEV/EBITDA倍率法が最もよく使われます。
算出の手順を簡単にまとめると、
  1. 類似会社(上場企業)の財務数値と株価から、当該類似会社の事業価値がEBITDAの何倍になっているかを算出し、その平均値を計算します(EV/EBITDA倍率)。
  2. 対象会社の修正EBITDAEV/EBITDA倍率を乗ずることでその事業価値を計算します。
  3. 当該事業価値に投融資(もしくは非事業用資産、事業に関係のない資産の時価のこと)と現預金額を加算し、有利子負債を差し引くことで株主価値を計算します。
という流れとなります。詳細は計算式を含め後日解説します。

■類似会社

バリュエーションの対象会社と同様の事業を行っている上場企業のことです。ただし、多くの上場企業は複数の事業を行っているため、対象会社と売上構成が一致している例はあまりありません。そのため、類似セグメントの売上割合や利益の割合なども勘案し選定します。

■EBITDA

「利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益」のことで、「earnings before interest, tax, depreciation, and amortization」の頭文字をとったものです。中小M&Aのバリュエーション上での計算式は「EBITDA=営業損益+減価償却費+のれん償却額」を使用します。費用発生時点でのキャッシュアウトがない減価償却費とのれん償却額を営業損益に足し戻すことで、簡易な営業キャッシュフロー(つまりは本業で稼ぎ出すキャッシュフロー)として捉えられるという理由や、企業ごとの会計処理に違いがあることが多い減価償却費などの影響を排除することで企業間での数値比較をしやすくする意味などがあり、EBITDAを使用します。多くの解説文では「EBITDA=営業損益+減価償却費」と記載されているのですが、M&Aが一般的になったこともありのれんの償却が発生している企業も増えたので、「EBITDA=営業損益+減価償却費+のれん償却額」と覚えておく方がより正確です。

■類似会社(上場企業)の株主価値

株式時価総額のことです。上場企業である類似会社は日々株式市場で株価が推移していますので、その株価を利用し、「株主価値=時価総額=株価×発行済株式総数」という計算式で算出します。株価は証券会社のWebサイトやYahoo!ファイナンスなどを利用して調べます。発行済株式総数は当該類似会社の有価証券報告書などで確認します。

■EV/EBITDA倍率

事業価値がEBITDAでの何倍であるかということを表す指標です。倍率のことをマルチプルと呼ぶことからここでの企業価値算定方法は実務上、マルチプル法と呼ばれます。

■非流動性ディスカウント

上場企業の株式は理論上は上場市場を通じていつでも売買ができることになっています。そのことを「流動性がある」と言います。一方で未上場企業の株式は日々取引がされているわけではなく、売買の機会は限られているので「流動性がない」と言います。このように両者の株式の換金のしやすさには差があるため、それを調整するための項目として非流動性ディスカウントが使われます。

■有価証券報告書

主に上場企業が金融商品取引法(以前の証券取引法)で開示を義務付けられている資料で、投資家がその上場企業の株式へ投資を行うか否かの判断に利用します。企業や事業の概要や、決算数値の詳細が載っているため、上場会社である類似会社の詳細な情報を調べる際に使用します。当該類似会社のWebサイトや金融庁のEDINETからダウンロードが可能です。

次回はディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)に関連する用語を取り扱う予定です。


2021年10月8日金曜日

M&Aバリュエーション基礎3 基本用語解説二回目 企業財務の基本バランスシート2

前回に引き続き、バリュエーションの基本用語の解説です。
今回は、前回ご紹介した「企業財務の基本バランスシート」に関連する用語について解説します。


■投融資

非事業用資産」と表記することもあります。いずれにせよ、事業に使用していない資産はすべてここに含まれると考えて実務上は差し支えありません。ほとんどの保有有価証券、他社への融資・貸付などが該当します。役職員用の保養施設などは利用実態や事業への貢献度合いに合わせて、ここに含める含めないを判断します。

■現預金

文字どおり現金と預金の合計を意味するのですが、短期売買目的の株式等を保有している場合は、短い時間で確実に現金化できると考え、現預金に含む取り扱いにすることがあります。

■事業価値

M&Aのバリュエーションで最も肝となる用語です。教科書的な定義は「その企業が稼ぎ出す将来のFCFの現在価値の合計」ですが、まずは「その会社が現在から将来にわたって稼ぎ出す(予想・計画の)キャッシュフローや利益を元に、一定の計算方法で算出される、事業そのものの価値」と理解しておいてください。「一定の計算方法」というのが、本連載での説明の中心となる類似会社比較法ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)などのことを意味しています。
なお、エンタープライズ・バリュー(EV)はこの事業価値のことを指します。EV=企業価値、との誤解がよく見受けられますのでご注意ください。

■企業価値

事業価値に、非事業用資産である投融資及び現預金を足し合わせたものです。貸借対照表の総資産に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。

■有利子負債

文字どおり、利払いが必要な負債、を意味します。金融機関からの借入、リース債務が典型例です。役員借入金はバリュエーション上の有利子負債には含まないことが一般的です。中にはしっかりと金銭消費貸借契約を締結して、利払いもしている例もあり、その場合は一見して有利子負債と考えられなくもないですが、資本金に近い性質を持つものとして、実務上は有利子負債には含まずに計算します。

■純有利子負債(NetDebt)

有利子負債から、現預金を差し引いたものを意味します。現預金の方が多い場合は「NetCash」と呼びます。日本語にすると「純現預金」ですが、実務上は「ネットキャッシュ」ということが一般的です。

■株主価値

企業価値から、有利子負債を差し引いたものを意味します。貸借対照表の純資産・株主資本に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。
なお、株式上場に関わるバリュエーションで採用されるPER倍率法・PBR倍率法・PSR倍率法は、この株主価値に該当する株式時価総額を直接的に計算する方法です。

次回も基本用語の解説を続けます。次回はEV/EBITDA倍率法に代表されるマルチプル法(類似会社比較法)に関連する用語を取り扱う予定です。


2021年9月27日月曜日

M&Aバリュエーション基礎2 基本用語解説一回目 企業財務の基本バランスシート1

今回から数回の間、バリュエーションの基本用語についての解説を行います。実際の計算方法などの中で説明すると文字数が多くなりすぎ分かりにくくなるため、先に解説するものです。まずはザッと読んでいただき、実際の計算方法などの解説回を読む際に適宜用語解説に戻り読み返していただければと思います。

■基本用語解説:「貸借対照表」と「企業財務の基本バランスシート」

前回説明したとおり、バリュエーションとは一般的に「企業価値算定」のことを意味しており、さらに言うと多くの場合、「株主価値(株式価値や時価総額とも言います)を算出すること」を意味します。そして、株主価値はその企業の価値や資産額から負債を差し引いた概念で表すことができるため、一般的な「貸借対照表」と「企業財務の基本バランスシート」を図のかたちで理解しておくことが必要です。

(1)貸借対照表

一般的な貸借対照表は「簿価純資産法」や「時価純資産法」でのバリュエーションを行う際の前提となる図です。


簿価純資産法
は企業の貸借対照表の数値をそのまま使用するもの(つまりは純資産額を株主価値と捉えるもの)で、実際の中小M&Aではほぼ利用されることはありません。ほとんどの中小企業の貸借対照表上の資産の数値はその資産の現在における実際の価値(時価)を反映しておらず、それをそのまま採用して行われたバリュエーションの結果はM&Aなどの場面で利用するには不適切であるからです。

一方で、時価純資産法は中小M&Aでは最もよく利用されるバリュエーションの方法です。貸借対照表上の資産を個別に時価に置き換えことで時価の総資産額を把握し、そこから負債を差し引いて時価純資産を計算し、時価純資産を株主価値と考える方法です。直感的にも納得しやすい方法であると言えます。

(2)企業財務の基本バランスシート

企業財務の基本バランスシートは一般的な貸借対照表を、バリュエーションの考え方にもとづき組み替えたもので、下図のようなかたちをしています。中小M&Aでは簡略化されたものが利用されることが多いようです。バリュエーションの方法として有名な「ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)」や、EV/EBITDA倍率法などを考える前提として覚えておく必要があります。



今の段階では、上記内容をざっくりと理解しておいていただければと思います。詳細は個別の用語解説や計算方法解説で触れていきます。

次回は企業財務の基本バランスシートの図の中に登場する用語について解説します。


2021年9月8日水曜日

M&Aバリュエーション基礎1 売り手自身によるバリュエーション実施の必要性

バリュエーションとは一般的に「企業価値算定」のことを意味しており、さらに言うと多くの場合、「株主価値(株式価値や時価総額とも言います)を算出すること」を意味します。

このシリーズでは、中小M&A(未上場株式である前提です)でのバリュエーションを「売り手自身」で(ある程度まで)行えるようになることを目指します。第一回の今回は「売り手自身によるバリュエーション実施の必要性」をご紹介します。ここでの売り手とは、M&Aの対象となる会社の株主等のオーナー(場合によっては経営者も含みます)を意味します。なお、新規上場や、ベンチャーキャピタル(VC)等からの資金調達の際のバリュエーションはこのシリーズでは範囲外としていますのでご注意ください。

多くのM&Aの実務では公認会計士、監査法人やバリュエーションの専門会社が行いますし、中小M&Aの場合ですとファイナンシャルアドバイザー(FA)、仲介会社が行うことも少なくありません。ですので、売り手自身が行う必要性はないのでは?とお考えの方もいらっしゃると思います。確かに精緻なバリュエーションはそれらの専門家に任せた方が良いですが、それでも以下のとおり売り手自身がバリュエーションを実施する必要性や、実施した方が良い理由があります。

1.「自社(対象会社)の実態」を知ることができる

バリュエーションの過程では、
  • 自社(対象会社)の資産や負債を精査してその実態を数値化する
  • 売上や原価・費用を修正してその実態を数値化する
といったことを行います(理由は別記事で解説予定です)。
そして、実態値や修正後の値は売り手が把握・想定していた数値と乖離があることが普通です。売り手はその乖離の理由や金額が見えるようになることを通じて自社(対象会社)の実態を知ることができるのです。
実態を知ることができれば、自社の企業価値を向上させる方法を検討したり、急に経営判断を求められた際により適切に判断ができたりする可能性が高まります。

2.M&Aのプロセスにおいて早い段階から、根拠がある「自社(対象会社)の価額」の目線を持つことができる

多くの中小M&Aの場合、売り手側は、
  1. 自分たちの手元に必要な金額をそのまま売却希望額の根拠にしてしまう
  2. 「できるだけ高く売りたい」といったような曖昧な目線のまま話を進めてしまう
  3. 自社(対象会社)の価値を過大に評価してしまう(そのことによってM&Aプロセスがとん挫してしまう)
  4. 自社(対象会社)の価値を過少に評価してしまう(そのことによってM&Aが成約した場合でも、後日後悔をしてしまう)
といったトラブルや失敗をしてしまうことがあります。しかし、売り手が自分自身でバリュエーションを実施していると、(一定の)根拠がある「自社(対象会社)の価値」の目線を持つことができるため、それらのトラブルや失敗を回避できる可能性が高まります。

3.専門家とバリュエーションのプロセスや結果について議論できるようになる

今後、「M&Aバリュエーション基礎」シリーズで詳細を解説していきますが、未上場株式のバリュエーションの具体的計算方法にはいろいろな方法があり、かつ同じ方法でも計算の前提をどう考えるかによって計算結果が大きく変わってくることがあります。もちろん、信頼できる専門家は詳細を説明してくれたり、分かりやすい報告書を用意してくれたりするでしょう。しかし、当事者自身がバリュエーションを行っていないと、専門家の実施したバリュエーションのプロセスや結果について適切な質問を投げかけたり議論したりすることは難しいと考えられます。売り手自身がバリュエーションを実施していると、そういった議論等の過程を踏むことができ、理解が深まったり、場合によっては専門家がバリュエーションの修正を行ったりすることで、売り手の納得感も高まります。

上記の「1~3」を通じて、より良いM&Aの実現可能性が高まるのです。

次回は、M&Aのバリュエーションを学ぶ前提となる用語の解説を行います。