今回は、前回ご紹介した「企業財務の基本バランスシート」に関連する用語について解説します。
■投融資
「非事業用資産」と表記することもあります。いずれにせよ、事業に使用していない資産はすべてここに含まれると考えて実務上は差し支えありません。ほとんどの保有有価証券、他社への融資・貸付などが該当します。役職員用の保養施設などは利用実態や事業への貢献度合いに合わせて、ここに含める含めないを判断します。■現預金
文字どおり現金と預金の合計を意味するのですが、短期売買目的の株式等を保有している場合は、短い時間で確実に現金化できると考え、現預金に含む取り扱いにすることがあります。■事業価値
M&Aのバリュエーションで最も肝となる用語です。教科書的な定義は「その企業が稼ぎ出す将来のFCFの現在価値の合計」ですが、まずは「その会社が現在から将来にわたって稼ぎ出す(予想・計画の)キャッシュフローや利益を元に、一定の計算方法で算出される、事業そのものの価値」と理解しておいてください。「一定の計算方法」というのが、本連載での説明の中心となる類似会社比較法やディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)などのことを意味しています。なお、エンタープライズ・バリュー(EV)はこの事業価値のことを指します。EV=企業価値、との誤解がよく見受けられますのでご注意ください。
■企業価値
事業価値に、非事業用資産である投融資及び現預金を足し合わせたものです。貸借対照表の総資産に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。■有利子負債
文字どおり、利払いが必要な負債、を意味します。金融機関からの借入、リース債務が典型例です。役員借入金はバリュエーション上の有利子負債には含まないことが一般的です。中にはしっかりと金銭消費貸借契約を締結して、利払いもしている例もあり、その場合は一見して有利子負債と考えられなくもないですが、資本金に近い性質を持つものとして、実務上は有利子負債には含まずに計算します。■純有利子負債(NetDebt)
有利子負債から、現預金を差し引いたものを意味します。現預金の方が多い場合は「NetCash」と呼びます。日本語にすると「純現預金」ですが、実務上は「ネットキャッシュ」ということが一般的です。■株主価値
企業価値から、有利子負債を差し引いたものを意味します。貸借対照表の純資産・株主資本に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。なお、株式上場に関わるバリュエーションで採用されるPER倍率法・PBR倍率法・PSR倍率法は、この株主価値に該当する株式時価総額を直接的に計算する方法です。
次回も基本用語の解説を続けます。次回はEV/EBITDA倍率法に代表されるマルチプル法(類似会社比較法)に関連する用語を取り扱う予定です。