NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年9月27日日曜日

事業計画の作り方17 後継者の方向け(5) ROICツリー(現状分析の補足)

事業計画の作り方14にて「現状理解と現状分析」、その補足として事業計画の作り方15で「事業計画づくりのための財務分析」、事業計画の作り方16で「ローカルベンチマーク」について説明しました。今回も「現状理解と現状分析」の補足として、ROICツリーについて説明します。ROICツリーは会社ごと・事業ごとに応用が可能なこと、時系列で追いやすく、過去から現在までの推移だけでなく、将来においても定点観測を行うためのツールとして活用しやすいものです。

1.ROICとは?

 ROICは「Returen On Invested Capital」の頭文字をとったもので、「ローイック」と読みます。
事業に実際に活用した資産に対して、どのくらいの利益を上げることができているかを見る指標、というのが最も基本的な使い方を表しており、資金調達コストを表すWACC(荷重平均資本コスト)を上回っているか、下回っているかという使い方もされます。
ROIC>WACCの場合、投下資本を使って、資金調達コストを上回る利益を計上できている
ROIC<WACCの場合、投下資本を使った利益率が、資金調達コストすら稼げていない
ということですね。
ROICの計算式は、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
で、式の右辺は、
NOPAT=税引後営業利益=営業利益×(1-実効税率)
事業投資資本=総資産-非事業用資産(※)

(※)非事業用資産=運用目的の有価証券、持ち合い株式、役職員や取引先への貸付、ゴルフ会員権、オーナー個人用の社有車など本業とは直接関係ない資産
です。

なぜ「現状理解と現状分析」の項目でROICを紹介するかというと、それが「利益の構造を分析するためのツール」として活用することができるものだからです。

2.ROICツリーの展開

「ROICツリー」は、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
というROICの計算式を分解していって、企業の利益の構造を分析するためのもので下の図のようなかたちとなるので「ツリー」と呼ばれています。下図の内容については後ほど触れます。

ROICツリーは「バリュードライバー分析」とも呼ばれます。バリュードライバーとは、「企業の利益を生み出す源泉」、言い換えると「企業価値の源泉」を意味します。なお、より正確な表現をすると、企業価値の源泉はキャッシュフローであり、キャッシュフローの源泉は利益である、その利益はどこからどのようにどの水準で生み出されているかといったことを分析する方法、ということです。

では、ROICの計算式を分解していきましょう。ここから先は文字だけの説明では全体像や位置づけが分かりにくいので上記の図と見比べながら読んでいただければと思います。まず最初に、
ROIC=NOPAT/事業投下資本
NOPAT=営業利益×(1-実効税率)
でしたので、
ROIC=営業利益/事業投下資本×(1-実効税率)
と表すことができます。ここでの「営業利益/事業投下資本」は「税引前ROIC」と呼ばれます。よって、
ROIC=税引前ROIC×実効税率
となります。ここからは「税引前ROIC=営業利益/事業投下資本」をさらに分解していきます。
税引前ROIC=営業利益/事業投下資本
の右辺を分解すると、
税引前ROIC=(営業利益/売上高)×(売上高/事業投下資本)
と表すことができます。括弧書きは不要かとは思いますが、表記を分かりやすくするためあえて付けています。この式は、
税引前ROIC=売上高営業利益率×資本回転率
とも表記できます。ここからは、右辺の「売上高営業利益率」を分解していきながら収益性分析を、「資本回転率」を分解していきながら効率性分析を行っていきます。


(1)収益性分析

売上高営業利益率=営業利益/売上高
を原価面に着目すると
売上高原価率=原価/売上高
さらに原価の主な構成要素ごとに
売上高労務費率=労務費/売上高
売上高仕入率=仕入額/売上高
売上高外注費率=外注費/売上高
といったように分けることができます。なお、この分け方は決まりごとがあるのではなく、企業ごと・事業ごとに工夫できるものです。
そして、販管費でも同じように考えると
売上高販管費率=販管費/売上高
販管費の主な構成要素ごとに
売上高販売費率=販売費/売上高
売上高一般管理費率=一般管理費/売上高
売上高人件費率=人件費/売上高
売上高広告宣伝費率=広告宣伝費/売上高
売上高営業交通費率=営業交通費/売上高
原価・販管費、両方に関係する減価償却費でも
売上高減価償却費率=減価償却費/売上高
とすることができます。これらは全て、収益性を表す指標です。


(2)効率性分析

 ここからは、
資本回転率=売上高/事業投下資本
を分解しつつ、効率性分析を行っていきます。

資本回転率は、それぞれの資本の何倍の売上をあげたか、資本を有効に活用して売上をあげているかという効率性を見る指標です。

ところで、資本回転率の構成要素として「売上債権回転率」といった用語が出てきますが、事業計画の作り方15では似た用語として「売上債権回転期間」が出てきました。この両方の用語は同じ効率性を意味しており、売上債権回転率が高いと売上債権の回収までの期間が短いことを意味し、売上債権回転期間はそれがどのくらいの時間がかかっているかを意味しています。ROICツリーでは「回転率」の方を使うことが一般的ですので、以下「回転率」で説明していきます。ちなみに「率」と付いていますが、回転率の単位は「%」ではなく「回転」ですのでご注意ください。

資本回転率の計算式の右辺の分母は、事業に使用している資産であれば、どれでも当てはめることができます。
現預金回転率=売上高/現預金
運転資本回転率=売上高/運転資本
「運転資本=売上債権+棚卸資産-仕入債務」ということは「運転資本回転率」は以下の3つの要素で構成されます。
売上債権回転率=売上高/売上債権
棚卸資産回転率=売上高/棚卸資産
仕入債務回転率=売上高/仕入債務
また、
事業用有形固定資産回転率=売上高/事業用有形固定資産
事業用無形固定資産回転率=売上高/事業用無形固定資産
事業用その他資産回転率=売上高/その他資産
といったものもありますね。

3.ROICツリーの活用事例

 以上のようにROICツリーは「現状理解と現状分析」のツールとして、体系的な財務分析ができるのですが、そこからさらに数歩進んで先進的な企業では、ROICツリーの一番右側の項目について、KPI化して責任部署を決めたり、KSFまで落とし込んでいる事例もあります。以下、有名な事例ですので、ぜひリンク先の資料もご覧ください。

<ROICツリーの活用事例>
ヤマシンフィルタ(PDF) P19以降にROICツリーが出てきます。
日立(PDF) P16にROICツリーが出てきます。


2020年9月23日水曜日

事業計画の作り方16 後継者の方向け(4) ローカルベンチマークの活用(現状分析の補足)

事業計画の作り方14」にて現状理解と現状分析について触れ、「事業計画の作り方15」にて補足として財務分析について触れました。今回はさらなる補足として経済産業省が作成したツールである「ローカルベンチマーク」の活用について解説します。

さて、ローカルベンチマークとは経済産業省によると以下のように説明されています。読んでいただくとお分かりのとおり、事業計画作成のための現状分析と位置づけがほぼ同じです。
ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるものです。
具体的には、「参考ツール」を活用して、「財務情報」(6つの指標※1)と「非財務情報」(4つの視点※2)に関する各データを入力することにより、企業の経営状態を把握することで経営状態の変化に早めに気付き、早期の対話や支援につなげていくものです。

(※1)6つの指標;①売上高増加率(売上持続性)、②営業利益率(収益性)、③労働生産性(生産性)、④EBITDA有利子負債倍率(健全性)、⑤営業運転資本回転期間(効率性)、⑥自己資本比率(安全性)
(※2)4つの視点;①経営者への着目、②関係者への着目、③事業への着目、④内部管理体制への着目

今回の記事でローカルベンチマークを説明するのは、それが
  • 網羅性に優れている
  • 支援機関との対話の中で活用できるようになっている、もしくは支援機関との対話のきっかけとして活用できる
という特徴があるからです。

ローマルベンチマークは大項目として、
  1. 財務分析
  2. 商流・業務フロー
  3. 4つの視点
の3つの部分で構成されています。ひとつずつ内容について説明していきます。

1.財務分析

 予め用意されているExcelシートに数値を入力すると、
 (1)売上高増加率(売上持続性)
 (2)営業利益率(収益性)
 (3)労働生産性(生産性)
 (4)EBITDA有利子負債倍率(健全性)
 (5)営業運転資本回転期間(効率性)
 (6)自己資本比率(安全性)
について診断結果が表示され、業種の中での位置が指標化されます。同じ規模・業種の中で上位7%に入っていれば5点、その次の24%に入っていれば4点といった具合です。ぴったりと当てはまる業種分類がない可能性もありますが、参考になる情報が得られます。

ここでの財務分析では各指標は以下の計算式で算出されます。
売上高増加率(%)=(最新期売上高/前期売上高)-1
営業利益率(%)=最新期営業利益/最新期売上高
労働生産性(円)=営業利益/正社員数
EBITDA有利子負債倍率(倍)=(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費)
営業運転資本回転期間(ヶ月)=(売上債権+棚卸資産-買入債務)/(売上高/12)
自己資本比率(%)=純資産/負債・純資産合計
比較対象は帝国データバンク社が保有する企業の内、約10万社の財務指標とのことです。

2.非財務「商流・業務フロー」

 まず「業務フローでは、業務プロセスを分解し、価値を生み出すために行っている工夫・他社との差別化ポイントを記載します。」(引用元:ローカルベンチマークマニュアル)
企画に始まり、製造や仕入れ、営業、納品・サービス提供までを5程度のステップに分けて、それぞれに差別化ポイントを記載していくシートです。

次に「商流は取引先と取引理由を整理し、どのような流れで顧客提供価値が生み出されているかを把握します。」(引用元:ローカルベンチマークマニュアル)
商流を仕入先、協力先、得意先、エンドユーザーの4つに分類し、それぞれに選定理由を記載していくシートです。

3.非財務「4つの視点」

 項目が充実しています。まず、以下の(1)~(4)について対話を通じて確認していきます。

(1)経営者

・経営理念・ビジョン、経営哲学・考え・方針等
・経営意欲 ※成長志向・現状維持など
・後継者の有無、後継者の育成状況、承継のタイミング・関係

(2)事業

・企業及び事業沿革 ※ターニングポイントの把握
・強み・弱み 技術力・販売力等
・ITに関する投資・活用の状況、1時間当たり付加価値(生産性)向上に向けた取り組み

(3)企業を取り巻く環境・関係者

・市場動向・規模・シェアの把握、競合他社との比較
・顧客リピート率・新規開拓率、主な取引先企業の推移、顧客からのフィードバックの有無
・従業員定着率、勤続年数・平均給与
・取引金融機関数・推移、メインバンクとの関係

(4)内部管理体制

・組織体制、品質管理・情報管理体制
・事業計画・経営計画の有無、従業員との共有状況、社内会議の実施状況
・研究開発・商品開発の体制、知的財産権の保有・活用状況
・人材育成の取り組み状況、人材育成の仕組み

次に対話内容の総括として、

(5)現状認識
(6)将来目標

をまとめ、現状と目標のギャップを明らかにして、

(7)課題
(8)対応策

までまとめる、という流れです。

詳しくは、Youtubeでの動画解説と、引用元でもあるローカルベンチマークマニュアルなどをご確認ください。

事業計画づくりの前提となる現状理解や現状分析は様々な方法があります。ローカルベンチマークのその中のひとつとしてご活用ください。

NGCパートナーズではローカルベンチマーク活用の際の対話相手として協力させていただくことができます。ご関心がある方は当ブログ上部の「Contact」からお問い合わせください。

以下、Youtubeでの解説動画です(音が出ますのでご注意ください)。1本当たり2~5分程度の短い動画です。









2020年9月22日火曜日

事業計画の作り方・番外編 後継者の方向け 会社・業務のデジタル化

制度や事業に関する情報は変更や更新が生じている可能性がありますので、ご利用にあたってはそれぞれの制度や事業に関するWebページ等で最新の情報を必ずご確認ください。

今回は後継者、特に他の一般企業での勤務経験がある後継者の多くの方が感じていらっしゃるであろう、受け継ぐ会社のデジタル化の遅れにどう対応するか、ひとつの例をご紹介したいと思います。中小企業庁・中小企業基盤整備機構(中小機構)の制度を利用するものなのですが、単年度事業であるため「番外編」として先にご紹介するものです。早めの活用が好ましいため「番外編」として先に紹介するものです。(その後も制度が継続されているので修正しました。)

今回ご紹介するのは、「中小企業デジタル化応援隊事業」という事業です。以下、必要に応じて同事業のWebサイトや資料から引用もしくは一部改変してご紹介します。
(引用元:中小企業デジタル化応援隊事業Webサイト、中小企業向け手引書、IT専門家向け手引書、FAQ等)

まず、この事業は「全国の中小企業・小規模事業者のさまざまな経営課題を解決する一助として、デジタル化・IT活用の専門的なサポートを充実させるため、フリーランスや兼業・副業人材等を含めたIT専門家を『中小企業デジタル化応援隊』として選定し、その活動を支援する取り組みです。」

会社のデジタル化の遅れは、後継者が危機感を持つことが多い問題のひとつです。例えば、
  • 報告書や伝票類が手書き、紙ベースのままであり、集計や分析ができない
  • 社内での情報共有手段が会議と掲示板での周知しか方法がない
  • メールアドレスが会社や部署にひとつしかなく、メールを毎回プリントアウトしている
  • パソコンのセキュリティ対策がなされていない
  • データへのアクセス制限がなされておらず、悪い意味で情報がオープンになっている
  • 情報の一元管理や検索可能性向上がなされていない
  • 役職員がお互いのスケジュールは把握する方法が「直接聞く」しかない
等々、挙げだしたらキリがありません。

後継者が他社を経験していたり、デジタル化に詳しかったりする場合でも、デジタルツールの導入を作業レベルまで後継者自身が行うのが現実的ではないですし、詳しくない場合は問題意識はあってもさらにデジタル化を進めることが難しいでしょう。

そこで、「中小企業デジタル化応援隊事業」を通じてIT専門家と協力してデジタル化を進めてはどうでしょうか。

同事業の主な特徴を以下、箇条書きで記載します。記載している内容は「第1期時点での情報」ですので最新の情報や詳細は、中小企業デジタル化応援隊事業Webサイト、中小企業向け手引書、IT専門家向け手引書、FAQ等を必ずご確認ください。
  • デジタル化の対象として想定されているのは、「テレワーク、EC構築、ホームページ、RPA導⼊、グループウェア導⼊、セキュリティ強化、AI、インターネットバンキング、ERP導⼊、HR領域デジタル化、社内向け研修デジタル化、オンライン会議導⼊、オンラインイベント、各SaaS導⼊検討、IoTツール導⼊、ペーパーレス推進、DBサーバー、通信環境・サーバー、デジタルマーケティング、IP電話など」であり、デジタル化がこれからの中小企業に必要な事項が網羅されています。
  • IT専門家による支援領域は「デジタルツールの導⼊・推進にあたって必要な⽀援であり、準委任規約に基づく⽀援に関しては対象となり」、個別具体的に決めていくことになります。コンテンツ制作やデザイン作成等は対象になりません。
  • 対象となる中小企業等は、日本国内で登記・納税している等の条件を満たし、且つ業種ごとに資本金や従業員数で定められた範囲に該当する企業で、同事業事務局に登録した企業です。
  • IT専門家は主に「個人として本事業への参加を希望するフリーランス・副業・兼業の方」で、同事業事務局にIT専門家として登録した方です。登録にあたっては事務局が一定の審査を行っているとのことです。
  • IT専門家に対して、事業から謝金が支払われますので、中小企業側は直接依頼よりも事業を通じた依頼の方が出費が少なくてすみます(事業からの謝金は最大で3,500円/時間、中小企業の最低負担額は500円/時間です。例えばIT専門家の時間単価が5,000円であった場合、事業からの謝金3,500円を差し引いた1,500円が中小企業の負担額です)。
  • 期間は次のとおりです。受付期間:2020年9月1日(火)〜2021年1月31日(日)、支援事業実施期間:2020年9月1日(火)〜2021年2月28日(日)第2期以降のスケジュールは同事業のWebサイトでご確認ください。
  • 中小企業とIT専門家はお互いの間で契約を締結しますが、契約と合わせて両者間で合意する支援計画書に従い業務を進め、予め定められたタイミングで同事業事務局に進捗や状況を報告します。
NGCパートナーズでも最近、他の受託業務に付随するかたちでデジタルツール導入(グループウェア、SFA、CRM、Web会議システム、セキュリティ対応等)のお手伝いをさせていただきましたが、
  • 現状を理解した上で経営課題を認識し
  • その解決にデジタルツールが有効且つ必要か検証し
  • 現在・将来必要となる機能まで見越して情報収集・ツールの比較検討を行い(ツールの詳細はたまたま利用経験があるもの以外は毎回学ぶ必要があります)
  • ツールが使用できるよう、具体的な利用場面を想定しながら初期設定を行い(導入企業の業務詳細とシステムの仕組みを理解しながら、の作業です)
  • 社内での説明会開催、質問対応、場合によってはマニュアルを独自に用意するなどの定着化活動を行い(実際に導入企業の役職員に活用してもらわなければ意味はありませんし、デジタルツールに苦手意識がある役職員の方向けには実際に一緒に画面を見ながらの解説などを行う必要もあります)
  • 場合によっては同時に業務フローを見直す(デジタルツールを導入する際に合わせて業務フローを見直さないと効率化・適正化は不十分に終わります。例えば今まで紙ベースで行っていた業務をデジタル化しても業務フローを見直さなければ、良くてもせいぜい「原則紙ベース、必要に応じてデジタルツールの活用」と理解・認識されてしまい、結果としてデジタルツールが活用されず業務の効率化・適正化が達成できないということが起きます)
  • それらを一定の予算内で行う
のは思いの外時間がかかるものです。これをデジタル化に詳しい社内の人財に全て丸投げしたり、IT専門家に直接業務委託したりすると業務負担もコストもかかります。一方で、デジタル化を実現できると業務効率化・適正化に大きく貢献しますので、中小企業デジタル化応援隊事業をきっかけとして検討・推進することをおすすめします。

なお、私もIT専門家として「中小企業デジタル化応援隊」に登録されています。同事業の登録専門家としての活動は終了しました。


2020年9月21日月曜日

事業計画の作り方15 後継者の方向け(3) 事業計画作成のための財務分析(現状分析の補足)

前回の記事で事業計画を作るための「現状理解と現状分析」についていろいろな例示をしましたが、今回は前回の補足で「事業計画を作るための財務分析」について説明します。

財務分析は業種業態ごとに何をするかがある程度異なってくるのですが、今回ご紹介するのは事業計画を作るに当たってほとんどの業種で最低限、事前に財務分析をしておくべき事項です。財務分析はこれだけ行えば他の数値は分析しなくて良いという意味ではなく、来期以降の予想貸借対照表・損益計画・キャッシュフロー予想を行うに当たって、まずは最低限押さえておくべき事項のみ説明するものです。

1.貸借対照表と損益計算書に関する分析

 売上債権、棚卸資産や仕入債務については過去の決算書から回転期間を計算しておきましょう。事業計画を作る上では、今後の売上や仕入といった損益計画上の数値がどう予想貸借対照表に影響してくるか、さらにはどう予想キャッシュフローに影響してくるのかを計算するために使用します。

それぞれの用語の意味と計算式は以下のとおりです。なお、財務や会計に自信がない方は先にこちらの記事に目を通していただくと理解が進むと思います。

(1)売上債権回転期間の計算

 売上債権を回収するのに要する期間を表す指標です。

売上債権とは主に売掛金のことで、売上には計上しているものの、まだ資金回収・現金化が終わっていないものの残高を表しています。

売上債権回転期間が長いということは現金化まで時間を要しているということですし、逆に売上債権回転期間が短いということは現金化までの時間が短いということです。ですので、ほとんどの場合、売上債権回転期間が短い方が望ましいとされています。但し、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)で中小企業に対する支払い時期については規制がありますのでご注意ください。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
売上債権回転期間 = 売上債権 / ( 年間売上 ÷ 12 )
     = 売上債権 / 単月売上平均

(2)棚卸資産回転期間の計算

 何ヶ月分の棚卸し資産を保有しているかを表す指標です。

棚卸資産とは、将来販売する予定で保有している製品、商品、仕掛品、原材料のことです。

棚卸資産回転期間が長いということは過剰な在庫を抱えている可能性があるということですし、逆に棚卸資産回転期間が短いということは限られた在庫で事業を行っているということです。資金繰り上は棚卸資産回転期間は短い方が望ましいですが、在庫切れによる販売機会を逸失するという見方もあり、適正な在庫量を見極めていく必要があります。

財務分析にあたっては、過去の3期分の棚卸資産回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 棚卸資産 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で棚卸資産回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。棚卸資産の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

(3)仕入債務回転期間の計算

 仕入債務を支払うのに要した期間を表す指標です。

仕入債務とは主に買掛金のことで、将来販売するためにすでに仕入れているがまだ代金の支払いをしていないものの残高を表します。
 
仕入債務回転期間が長いということは支払いまでの期間が長い取引が多いということですし、逆に仕入債務回転期間が短いということは支払いまでの期間が短い取引が多いというこです。ですので一見、仕入債務回転期間は長い方が望ましいと思われますが、意図的に仕入債務回転期間を長くすることは慎重に検討する必要があります。仕入債務回転期間を長くするためには、取引先(仕入元)に対し、仕入れから支払いまでの期間を延ばして欲しいと相談・依頼することになりますが、そのことが貴方の会社がの資金繰りが厳しいのではないかという憶測を呼んでしまうなどのリスクもあるからです。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
仕入債務回転期間 = 仕入債務 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 仕入債務 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で仕入債務回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。仕入債務の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

2.貸借対照表に関する分析

(1)設備の確認

 正確には財務分析とは言えないですが、事業計画作成にあたっては現状の設備を点検しておきましょう。合わせて今後必要となる設備投資額の分析を行っておきましょう。新規に設備を購入する必要があるものだけでなく、既存設備の修繕も合わせて確認しておきます。将来、突然の出費に困ることがないよう、専門の事業者に見積もりをしてもらっておくべきです。なお、「必要な」設備投資と「できれば行いたい」設備投資はできるだけ分けておくことをおすすめします。

(2)有利子負債の返済予定一覧表の作成

 有利子負債とは、読んで時の如く利子を支払う必要がある負債のことで、多くの場合金融機関からの借入や社債のことを表します。取引先や自社の経営陣からの借入があり、且つ金銭消費貸借契約などでその借入に金利が付される場合は、その借入も有利子負債に含みます。

金融機関から借入を行ったら、その金融機関から返済予定表が送られてくると思います。しかし、同じ金融機関からでも借入が何本かあったり、複数の金融機関からの借入がある場合は、返済予定一覧表を作成しておくべきです。事業計画を作る上では将来のキャッシュフローを計算する際に使用します。

返済予定一覧表は以下の情報をとりまとめます。

まずは、以下の基本情報を記載しましょう。同じ金融機関からの借入でも別々の借入であれば以下の情報も別々に記載します。
  • 金融機関名(○○銀行)
  • 借入をした金額(○円)
  • 借入をした日付(○年○月○日)
  • 借入期間(○年○月○日~○年○月○日)
  • 返済月数(○ヶ月)
  • 利子率(○%)
  • 返済方法(元利均等返済 or 元金均等返済)
  • 返済猶予期間、据置期間(○ヶ月)
  • 借換の場合はどの借入の借換か
次に以下の情報を借入ごと・月ごとに記載しましょう。
  • 返済額(元本)
  • 利払額(利息)
  • 返済額合計(元本+利息)
  • 借入金残高(○円)
複数の借入がある場合は、この4つの項目はそれぞれの合計値も計算して記載しておきます。 

また利子率について、全ての借入の利子率を加重平均した利子率を合わせて計算しておきます。

(3)売却可能な資産の特定等

 もし売却可能な資産があればその特定とその売却予想額も調べておきましょう。

ここでの「売却可能」とは「事業で使用していない資産」という意味です。昔から保有しているものの事業には使用していない不動産や、取引などの付き合いとは関係ない運用目的の有価証券などが該当します。

事業に使用しているものの売却できる資産というものもありえますが、ほとんどの場合に売却した後、その資産を賃借する必要があります(セールス・アンド・リースバック取引)。よって売却した方が効率がいいか、保有し続けた方が効率がいいかの判断を慎重にする必要がありますので、事業で使用していない資産とは分けて数字を記録しておきます。

3.損益計算書

(1)売上の分解

 本シリーズの売上に関する説明の回で、「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」というフレーズをご紹介しました。売上計画を作るにあたっては、その根拠を示すためにも単価×個数といったように掛け算を行う必要があります。そしてそれを適切に行うには過去どうであったかも参考のひとつとしますので、過去の売上について分解作業をしておく必要があります。

粗利益率の計算も含めて、以下の計算は実施しておきましょう。
  • 販売数量と販売単価と粗利益率
  • 販路別の売上と粗利益率
  • 顧客別の売上と粗利益率
  • 製品商品・サービス別の売上と粗利益率

(2)原価・販管費の固変分解

 原価や販管費のような費用は、固定費と変動費に分けることができます。ただ、一般的な販管費一覧や製造原価報告書を見ただけでは、どの科目が固定費で、どの科目が変動費かはおおよそしか分かりません。そのため、それぞれの費用の内容や性質を見極めて固定費か変動費かを判定する必要があり、その作業のことを固変分解と呼びます。

事業計画をつくる上では、売上額を変動させた場合の利益額の変動度合い(弾力性)を見たり、損益分岐点売上高を計算したりするために使用します。

固定費とは売上の数字とは直接は連動しない費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な固定費:
人件費、労務費、法定福利費、地代家賃、水道光熱費、減価償却費、リース料など
但し、本当にそれらが固定費かどうかは内容や性質を個別に確認した上で決定しましょう。例えば地代家賃は固定費の代表格ではありますが、飲食店の地代家賃が固定部分と売上連動部分に分かれている例もあるようです。他にも製造原価内の労務費を変動費と見る場合や、人件費の内残業代だけを変動費と見る場合もあります。
変動費とは売上の数字と連動する費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な変動費:
原材料、販売手数料、リベート、外注費など

(3)人件費等の詳細確認

ほとんどの中小企業にとって、人件費が最も大きい費用項目のひとつです。事業計画をつくる上でも大切な項目ですので、財務分析と合わせて以下の計算をしておきましょう。
  • 退職率
  • 労務費・給与等の分解(従業員数と平均年収)
  • 一人あたりの給与増加率
  • 法定福利費の人件費に対する比率
  • 賞与支給の方針や計算式
事業計画をつくる上では、上記数値をそのまま採用するとは限りませんが、大きく乖離させるわけにはいかないことも多いため、しっかりと確認しておきます。

(4)減価償却費の詳細確認

 将来の数値を計算する上で地味にやっかいなのが減価償却費です。資産ごとに償却期間、償却方法が違いますし、教科書どおりに表計算ソフトに計算式を入れてもなかなかうまく計算できないこともあります。また、将来の設備投資に対する減価償却額を正確に計算することは、その設備投資の内容が決定していない限りは不可能です。そのため、事業計画を作る上では、既存設備に関する将来の減価償却費は顧問税理士に算出をお願いするか、固定資産額に対する比率として計算してしまうかの方法をとります。税理士事務所によっては将来の減価償却費を計算するソフトウェアが未導入である場合もありますので、その場合は固定資産額に対する割合として計算してしまう方法をとることになります。

財務分析の段階では以下の事項を確認しておきましょう。
  • 既存設備の今後の減価償却費の計算
  • 減価償却費の固定資産に対する率の計算
  • 過去に償却不足があればその額の確認

(5)同業種の財務指標の入手

 顧問税理士や金融機関に相談して、同業種の財務指標一覧をできるだけ入手しておきましょう。実際には業種分類がうまく自社に当てはまらなかったり、企業規模がうまく当てはまらなかったりして使用しにくい面もあるのですが、やはり他社の数値というのは参考になります。

以上、長くなりましたが、事業計画を作る前にやっておくべき最低限の財務分析についての説明でした。

2020年9月20日日曜日

事業計画の作り方14 後継者の方向け(2) 現状理解と現状分析

後継者の方向けに事業計画の作り方を解説していくシリーズですが、前回説明したとおり、一定の前提を設けています。読者層として想定しているのは、先代経営者の親族かもともと会社の役職員であった後継者の方です。詳しくはシリーズの前回の記事をご確認ください。

さて、本シリーズの「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」にて、事業計画の作り方の全体像を説明した際、「現状分析」について触れました。後継者の方もこれから何をするか、すべきかを考えたいと思います。しかし、その前に一端立ち止まって以下のようなことを考えてみてください。
  • 個々の役職員の仕事ぶり、得意な仕事、キャリアプランや性格についてどのくらい理解していますか?
  • 自社の製品商品やサービスについて詳細に説明できますか?なぜお客様に選ばれているか説明できますか?
  • ひとつの製品商品やサービス当たりの本当の利益額を把握していますか?粗利ではなく本当の利益です。
  • 自社のお客様について詳細に説明できますか?BtoBであれば個別のお客様の情報について理解できていますか?BtoCであれば顧客層の詳細について説明できますか?
  • 自社の決算書や月次試算表を見て、内容の詳細を説明できますか?例えば販管費の中にある雑費について説明できますか?
  • 会社全体の売上や利益だけでなく、お金の流れ=キャッシュフローを詳細に説明できますか?
  • 金融機関からの借り入れについて、毎月の返済額を把握していますか?支店長や担当者の名前を覚えていますか?
等々。

これらの情報のほとんどは自然に集まってくるものではなく、情報を集計する仕組みや、情報が報告される仕組みを構築しておかなければなりませんし、これらのことを人に説明できるくらい理解しておかなければ事業計画を適切に作ることはできません。会社の仲間達も現状や自分たちのことを理解しようとしない後継者にはついて行きたいとは思えないでしょう。また、現状分析などをすっ飛ばして新しい施策を行ってしまうと、必要以上に既存の役職員の反発を招く結果となってしまいます(もちろん、既存役職員の反発を覚悟で実施しなければならない施策というものはあります)。

では、現状分析はどのように行ったらよいでしょうか。

(1)まずは、現状を理解しましょう。

 一番良い現状理解の方法は「自分で実際にやってみる」、「自分の目で確かめる」ことです。時間がないと言い訳しても始まりません。

ファーストリテイリング社はどのような職種での入社でも、まずは実際の店舗での勤務から開始するそうです。製造業では昔から、現場・現物・現実と言われています。後継者の現状理解も同様かと思います。
  • 先代経営者の話を改めて丁寧に聞き、どのような想いで経営してきたか、どのような苦労を乗り越えてきたか、まだ乗り越えられていない問題点は何かを理解しましょう。いつも同じ話を聞かされていると考えてしまい、大切なことを聞き逃したりしていることもあります。
  • 役職員と一緒に働き、コミュニケーションをとりましょう。面談だけでは理解が不十分に終わります。
  • ものづくりを自分もやってみて、作り手の働きぶりを見てみましょう。
  • 原価や費用を決算書や月次試算表上の数字としてだけ理解するのではなく、総勘定元帳などに目を通し、さらには現場に行き原価や費用の発生の現場を実際に見て確認しましょう。
  • 外注先や業務委託先の現場にも行き、業務がどのように行われているのか理解しましょう。
  • 棚卸しを一緒に行い、どのような在庫がどのように保管・管理されているか理解しましょう。
  • 営業に行ったり、既存のお客様に会いに行ったりして、お客様はどういったことで困っておりどのような事情を抱えているか、自社の製品商品やサービスがなぜ選ばれているか、なぜ選ばれていないか、生の声を聞きましょう。また、自社の営業担当者がどのような状況で営業活動を行っているか確認しましょう。
  • 保守・メンテナンスに同行し、どういった活動が顧客満足度の維持向上につながっているのかを確認しましょう。
  • 役職員と同じ場所で働き、役職員から見た職場環境について理解しましょう。
  • 金融機関への説明に同行し、金融機関側がどう考えているか、何を知りたがっているかを理解しましょう。
  • 同業他社の経営者や後継者の話を聞き、その環境や言動を理解しましょう。
以上はあくまでも例示です。他にもたくさん理解すべき現状があるはずですので自分で考え、先代経営者にも教えを請い、現状理解のためのなすべきことをリストアップし、実行していってください。

自分は現状を理解できている!というのは思い込みにすぎないことが少なくありません。謙虚な気持ちで取り組むことをおすすめします。

(2)次に現状を分析しましょう。

 「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」では現状分析のフレームワークについて代表的なものを紹介しました。それ以外でも、現状理解で集めた情報についての分析、数字や営業に関する分析はご自身で分析をすることをおすすめします。

現状理解で例示したことだけでも、
  • 人に関することでは、適材適所が実現できているか、改善可能な理由にも関わらず退職をしてしまいそうな役職員はいないか、といったことが分析できます。
  • ものづくりの現場でも、生産効率向上の余地はないか、品質向上の余地はないか、外注先や業務委託先は適切かといったことを分析できます。
  • 営業と棚卸しを両方行えば、在庫量やその種類が適切か分析できるかもしれません。
  • お客様の声を元に、自社の製品商品やサービスがお客様の期待に応えられているか、改善の余地がないか分析できます。
  • 役職員と同じ場所で一緒に働けば、評価制度や職場環境の改善可能性について分析できるでしょう。
営業に関することでは、きっと営業担当者ごとに顧客の性質や営業担当者のキャラクターなどが理由で、様々な営業スタイルがあったかと思いますが、基本的な型としてはどのようなものか、営業担当者の行動のあるべき姿とかいったことが分析できるはずです。

数字に関しては、まずは月次試算表などを元に毎月の貸借対照表や損益計算書の数値を一覧表に自分で入力していきましょう。見ているだけでは気が付かなかったことが見つかるはずです。自分で入力した一覧表を常に手元に置いておいて時間があるときに見直してみるとまた気づきがあります。また、合わせて財務分析を行っていろいろな指標を計算してみるのも良いことです。財務分析の中で気がつくこともあれば、月次決算が適切に行われていないことが理由で、財務分析が行えない事項、つまりは月次決算の要改善点も判明するでしょう。

製品商品やサービスことの利益額も計算してみましょう。そもそも原価計算はどのレベルで行えているでしょうか。粗利の把握が適切にできていないことも珍しくありません。また、原価に含まれないコスト(主には販管費)も考慮した場合、製品商品やサービスをひとつ・一回提供する毎に本当の利益はどの程度出るのかも分析しましょう。一回の営業でどの程度売上を作る必要があるのか、営業担当者ひとりあたりどの程度の売上が必要か、自社の目標利益を達成するためにどの程度の売上をあげる必要があるのかが分かりやすくなります。

キャッシュフロー計算書を自分で作成してみることも良いかもしれません。その過程で貸借対照表、損益計算書とキャッシュフロー、それぞれの関係性やお金の流れを理解できるようにもなります。

主要メンバーの時間の使い方の分析も重要です。一生懸命に仕事に取り組んでいる役職員の中にも、重要度や緊急度に応じた時間の使い方になっていない例が多くあります。例えば、営業の基本である顧客接点回数の最大化のために営業に充てる時間が一番重要にも関わらず、実際には他の業務に時間を取られていたなどといったことです。

以上のこともあくまでも例示です。同業他社の現状分析の方法を模倣するところから始めても構いません。分析をすればするほど、また新たに分析すべきことが見つかると思います。

「べンチャー型事業承継」という言葉があるように今後の後継者には、起業家的なマインドが求められてくるのは間違いありません。

一方で既に一定の歴史がある企業を受け継ぐのですから、現状の良い面悪い面もしっかりと理解して必要に応じて打ち手を打つ必要があります。重ねてになりますが、後継者にとっての事業計画づくりはまずは現状理解と現状分析がとても重要です。

なお、経営コンサルタントに現状分析を依頼して、その報告を受けるという手段もありますが、後継者自身が目、耳や足を使って理解・分析したものと比べても後継者の血肉となりにくいので、できるだけ現状理解と現状分析は後継者自身で行うのが良いと考えます。

2020年9月11日金曜日

NGCパートナーズの「M&Aセカンドオピニオンサービス」について


2020年3月に発表された「中小M&Aガイドライン」でその重要性が強調されたからか、M&Aのセカンドオピニオンのニーズが高まっています。NGCパートナーズでも対応していますので、以下ご案内します。

1.セカンドオピニオンとは?

 もともとは医療の用語として普及したもので、以下のような意味の言葉です。
セカンドオピニオンを簡単に説明すると、日本語では「第二の意見」と呼ばれるように、患者がある病気で診断を下された際に診断結果やその後の治療方針や治療方法について、主治医以外の医師から意見を聞くことを言います。主治医以外の意見を聞くことで、現在の治療が適切なのか、他に良い治療がないのかなど、患者がより納得のいく治療を受けることが可能になります。
(出典:セカンドオピニオン.com Webサイト)

2.M&Aにおけるセカンドオピニオンとは?

 中小M&Aガイドラインでは以下のように定義されています。
セカンド・オピニオンとは、中小M&Aを行おうとしている者が支援機関と契約を締結する際や、支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、他の支援機関から意見を求めることをいう。
同ガイドライン用に定義されている言葉が含まれますので、より一般的な用語で書き直すと以下のとおりです。

中小企業のM&Aにおけるセカンドオピニオンとは、
  • 事業を譲り渡す側(いわゆる売り手)や事業を譲り受ける側(いわゆる買い手)が、
  • M&A助言業務を行うM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者などと
  • ファイナンシャルアドバイザリー契約や仲介契約を締結する際や、
  • それらの事業者から受けたM&Aのストラクチャーやバリュエーションなどを含む専門的な助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、
  • 他のM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者などに意見を求めること

3.M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性

 医療におけるセカンドオピニオンは、患者が自分の病気やその治療法について理解し選択するために必要な方法のひとつとして実施される例が増えていますが、M&Aにおけるセカンドオピニオンの必要性は医療におけるそれと同じかそれ以上と言えます。理由は以下のとおりです。
  • M&Aはほとんどの中小企業にとって極めて少ない回数しか経験しないものであるため、日々忙しい経営者や企業オーナーが理解を深めていくことは容易ではない。
  • 専門家の質がどうかを、その分野の専門ではない者が判断するのはM&Aに限らず簡単ではない。
  • 加えて、M&A助言業務は医療行為とは違い資格や免許が不要なため、専門家が保有する専門性が一定水準以上であることが保証されない(士業専門家としてM&Aに関わっている場合は資格は保有しているが、M&A助言業務そのものが士業としての本来の業務ではないことが多いため、士業の資格を保有していることが、M&Aの専門性が一定水準以上であることを保証しているわけではない)。
これらを解消するために、国も事業承継ガイドライン中小M&Aガイドラインを定め、中小企業経営者や企業オーナーの理解を促進したり、M&Aに関わる専門家にもガイドラインに沿った一定水準以上の活動を求めてたりしていますし、日本M&Aアドバイザー協会のように専門性向上活動や職業人としての倫理の啓発活動を行っている例もあります。セカンドオピニオンもそういった問題を解消するためのひとつの方法といえます。

4.どういった場合にセカンドオピニオンがあると良いか?

 では、M&Aにおけるセカンドオピニオンはどういった場合にどのようなことを確認するために活用すると良いのでしょうか?先述の中小M&Aガイドラインではいくつかの例が紹介されています。
  • M&A助言業務を行うM&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者とFA契約や仲介契約を締結する際に、業務の具体的内容や報酬の妥当性について意見を求める。
  • 最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約など)を締結・調印する前に、その契約内容について意見を求める。
同ガイドライン記載以外の事項でも
  • バリュエーションの結果や、その前提条件、算出過程の妥当性について意見を求める。
  • デューデリジェンスの結果や、その調査過程・範囲について意見を求める。
といったことが考えられます。

いずれの事項も、事業を譲り渡す側、事業を譲り受ける側、どちらの場合でもセカンドオピニオンの活用が望まれます。

5.要確認事項

 M&Aアドバイザリー事業者やM&A仲介事業者とのFA契約や仲介契約の中には専任条項と呼ばれる条項で、実質的にセカンドオピニオンが禁止されている場合があります。ほとんどの場合は、M&Aで極めて重要な秘密保持の観点から設けられている条項ですが、そういった場合はFA契約や仲介契約を締結する前に当該専門家に必ず相談しましょう。「中小M&Aガイドラインに記載されていたセカンドオピニオンを活用する可能性も残しておきたい」と伝えれば、ほとんどの専門家が対応してくれるはずです。

6.NGCパートナーズの「M&Aセカンドオピニオンサービス」について

 NGCパートナーズでは以下の内容でセカンドオピニオンサービスを実施可能です。

(1)対応可能事項
 M&Aに関する全般的事項について相談対応可能です。すでに締結している(もしくは締結予定の)FA契約や仲介契約に基づき御社がM&A専門家に委託している事項に準じます。
但し、以下の事項については対応不可です。
・弁護士法や税理士法に違反する可能性のある事項
・知的財産、環境や技術分野の高度な専門性の必要な事項

(2)相談対応方法
 Web会議システム、メール、電話や面談いずれの方法でも可能です。特に理由がない限り、Web会議システム+メールでの対応が基本となります。

(3)期間及び費用
 1ヶ月50,000円(税抜)~で、ご希望の期間対応します。1ヶ月からでも承ります。資料の作成などを伴わないご相談であれば月内に何度でも承ります。資料の作成が必要になる場合は別途ご相談ください。交通費や調査費などの実費が発生した場合はご負担をお願いします。

(4)業務受託までの流れ
 こちらからお問い合わせください。秘密保持契約を締結するか、こちらから秘密保持誓約書を差し入れさせていただくまでは御社名を伏せていただいて問題ありません。