NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年9月21日月曜日

事業計画の作り方15 後継者の方向け(3) 事業計画作成のための財務分析(現状分析の補足)

前回の記事で事業計画を作るための「現状理解と現状分析」についていろいろな例示をしましたが、今回は前回の補足で「事業計画を作るための財務分析」について説明します。

財務分析は業種業態ごとに何をするかがある程度異なってくるのですが、今回ご紹介するのは事業計画を作るに当たってほとんどの業種で最低限、事前に財務分析をしておくべき事項です。財務分析はこれだけ行えば他の数値は分析しなくて良いという意味ではなく、来期以降の予想貸借対照表・損益計画・キャッシュフロー予想を行うに当たって、まずは最低限押さえておくべき事項のみ説明するものです。

1.貸借対照表と損益計算書に関する分析

 売上債権、棚卸資産や仕入債務については過去の決算書から回転期間を計算しておきましょう。事業計画を作る上では、今後の売上や仕入といった損益計画上の数値がどう予想貸借対照表に影響してくるか、さらにはどう予想キャッシュフローに影響してくるのかを計算するために使用します。

それぞれの用語の意味と計算式は以下のとおりです。なお、財務や会計に自信がない方は先にこちらの記事に目を通していただくと理解が進むと思います。

(1)売上債権回転期間の計算

 売上債権を回収するのに要する期間を表す指標です。

売上債権とは主に売掛金のことで、売上には計上しているものの、まだ資金回収・現金化が終わっていないものの残高を表しています。

売上債権回転期間が長いということは現金化まで時間を要しているということですし、逆に売上債権回転期間が短いということは現金化までの時間が短いということです。ですので、ほとんどの場合、売上債権回転期間が短い方が望ましいとされています。但し、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)で中小企業に対する支払い時期については規制がありますのでご注意ください。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
売上債権回転期間 = 売上債権 / ( 年間売上 ÷ 12 )
     = 売上債権 / 単月売上平均

(2)棚卸資産回転期間の計算

 何ヶ月分の棚卸し資産を保有しているかを表す指標です。

棚卸資産とは、将来販売する予定で保有している製品、商品、仕掛品、原材料のことです。

棚卸資産回転期間が長いということは過剰な在庫を抱えている可能性があるということですし、逆に棚卸資産回転期間が短いということは限られた在庫で事業を行っているということです。資金繰り上は棚卸資産回転期間は短い方が望ましいですが、在庫切れによる販売機会を逸失するという見方もあり、適正な在庫量を見極めていく必要があります。

財務分析にあたっては、過去の3期分の棚卸資産回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 棚卸資産 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で棚卸資産回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。棚卸資産の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

(3)仕入債務回転期間の計算

 仕入債務を支払うのに要した期間を表す指標です。

仕入債務とは主に買掛金のことで、将来販売するためにすでに仕入れているがまだ代金の支払いをしていないものの残高を表します。
 
仕入債務回転期間が長いということは支払いまでの期間が長い取引が多いということですし、逆に仕入債務回転期間が短いということは支払いまでの期間が短い取引が多いというこです。ですので一見、仕入債務回転期間は長い方が望ましいと思われますが、意図的に仕入債務回転期間を長くすることは慎重に検討する必要があります。仕入債務回転期間を長くするためには、取引先(仕入元)に対し、仕入れから支払いまでの期間を延ばして欲しいと相談・依頼することになりますが、そのことが貴方の会社がの資金繰りが厳しいのではないかという憶測を呼んでしまうなどのリスクもあるからです。

財務分析にあたっては、過去3期分の売上債権回転期間を「○ヶ月」というかたちで計算しておきましょう。

計算式は以下のとおりです。
仕入債務回転期間 = 仕入債務 / ( 売上原価※ ÷ 12 )
     = 仕入債務 / 単月売上原価平均※

※)売上原価ではなく、売上高で仕入債務回転期間を計算している解説書もありますが、計算する際にどちらかに統一しておけば特に大きな問題はありません。仕入債務の額は売上そのものではなく売上原価に影響してくるものですので、売上原価で計算する方が筋は通っていると考えられます。

2.貸借対照表に関する分析

(1)設備の確認

 正確には財務分析とは言えないですが、事業計画作成にあたっては現状の設備を点検しておきましょう。合わせて今後必要となる設備投資額の分析を行っておきましょう。新規に設備を購入する必要があるものだけでなく、既存設備の修繕も合わせて確認しておきます。将来、突然の出費に困ることがないよう、専門の事業者に見積もりをしてもらっておくべきです。なお、「必要な」設備投資と「できれば行いたい」設備投資はできるだけ分けておくことをおすすめします。

(2)有利子負債の返済予定一覧表の作成

 有利子負債とは、読んで時の如く利子を支払う必要がある負債のことで、多くの場合金融機関からの借入や社債のことを表します。取引先や自社の経営陣からの借入があり、且つ金銭消費貸借契約などでその借入に金利が付される場合は、その借入も有利子負債に含みます。

金融機関から借入を行ったら、その金融機関から返済予定表が送られてくると思います。しかし、同じ金融機関からでも借入が何本かあったり、複数の金融機関からの借入がある場合は、返済予定一覧表を作成しておくべきです。事業計画を作る上では将来のキャッシュフローを計算する際に使用します。

返済予定一覧表は以下の情報をとりまとめます。

まずは、以下の基本情報を記載しましょう。同じ金融機関からの借入でも別々の借入であれば以下の情報も別々に記載します。
  • 金融機関名(○○銀行)
  • 借入をした金額(○円)
  • 借入をした日付(○年○月○日)
  • 借入期間(○年○月○日~○年○月○日)
  • 返済月数(○ヶ月)
  • 利子率(○%)
  • 返済方法(元利均等返済 or 元金均等返済)
  • 返済猶予期間、据置期間(○ヶ月)
  • 借換の場合はどの借入の借換か
次に以下の情報を借入ごと・月ごとに記載しましょう。
  • 返済額(元本)
  • 利払額(利息)
  • 返済額合計(元本+利息)
  • 借入金残高(○円)
複数の借入がある場合は、この4つの項目はそれぞれの合計値も計算して記載しておきます。 

また利子率について、全ての借入の利子率を加重平均した利子率を合わせて計算しておきます。

(3)売却可能な資産の特定等

 もし売却可能な資産があればその特定とその売却予想額も調べておきましょう。

ここでの「売却可能」とは「事業で使用していない資産」という意味です。昔から保有しているものの事業には使用していない不動産や、取引などの付き合いとは関係ない運用目的の有価証券などが該当します。

事業に使用しているものの売却できる資産というものもありえますが、ほとんどの場合に売却した後、その資産を賃借する必要があります(セールス・アンド・リースバック取引)。よって売却した方が効率がいいか、保有し続けた方が効率がいいかの判断を慎重にする必要がありますので、事業で使用していない資産とは分けて数字を記録しておきます。

3.損益計算書

(1)売上の分解

 本シリーズの売上に関する説明の回で、「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」というフレーズをご紹介しました。売上計画を作るにあたっては、その根拠を示すためにも単価×個数といったように掛け算を行う必要があります。そしてそれを適切に行うには過去どうであったかも参考のひとつとしますので、過去の売上について分解作業をしておく必要があります。

粗利益率の計算も含めて、以下の計算は実施しておきましょう。
  • 販売数量と販売単価と粗利益率
  • 販路別の売上と粗利益率
  • 顧客別の売上と粗利益率
  • 製品商品・サービス別の売上と粗利益率

(2)原価・販管費の固変分解

 原価や販管費のような費用は、固定費と変動費に分けることができます。ただ、一般的な販管費一覧や製造原価報告書を見ただけでは、どの科目が固定費で、どの科目が変動費かはおおよそしか分かりません。そのため、それぞれの費用の内容や性質を見極めて固定費か変動費かを判定する必要があり、その作業のことを固変分解と呼びます。

事業計画をつくる上では、売上額を変動させた場合の利益額の変動度合い(弾力性)を見たり、損益分岐点売上高を計算したりするために使用します。

固定費とは売上の数字とは直接は連動しない費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な固定費:
人件費、労務費、法定福利費、地代家賃、水道光熱費、減価償却費、リース料など
但し、本当にそれらが固定費かどうかは内容や性質を個別に確認した上で決定しましょう。例えば地代家賃は固定費の代表格ではありますが、飲食店の地代家賃が固定部分と売上連動部分に分かれている例もあるようです。他にも製造原価内の労務費を変動費と見る場合や、人件費の内残業代だけを変動費と見る場合もあります。
変動費とは売上の数字と連動する費用のことを指します。多くの中小企業では主に以下のような費用が該当します。
代表的な変動費:
原材料、販売手数料、リベート、外注費など

(3)人件費等の詳細確認

ほとんどの中小企業にとって、人件費が最も大きい費用項目のひとつです。事業計画をつくる上でも大切な項目ですので、財務分析と合わせて以下の計算をしておきましょう。
  • 退職率
  • 労務費・給与等の分解(従業員数と平均年収)
  • 一人あたりの給与増加率
  • 法定福利費の人件費に対する比率
  • 賞与支給の方針や計算式
事業計画をつくる上では、上記数値をそのまま採用するとは限りませんが、大きく乖離させるわけにはいかないことも多いため、しっかりと確認しておきます。

(4)減価償却費の詳細確認

 将来の数値を計算する上で地味にやっかいなのが減価償却費です。資産ごとに償却期間、償却方法が違いますし、教科書どおりに表計算ソフトに計算式を入れてもなかなかうまく計算できないこともあります。また、将来の設備投資に対する減価償却額を正確に計算することは、その設備投資の内容が決定していない限りは不可能です。そのため、事業計画を作る上では、既存設備に関する将来の減価償却費は顧問税理士に算出をお願いするか、固定資産額に対する比率として計算してしまうかの方法をとります。税理士事務所によっては将来の減価償却費を計算するソフトウェアが未導入である場合もありますので、その場合は固定資産額に対する割合として計算してしまう方法をとることになります。

財務分析の段階では以下の事項を確認しておきましょう。
  • 既存設備の今後の減価償却費の計算
  • 減価償却費の固定資産に対する率の計算
  • 過去に償却不足があればその額の確認

(5)同業種の財務指標の入手

 顧問税理士や金融機関に相談して、同業種の財務指標一覧をできるだけ入手しておきましょう。実際には業種分類がうまく自社に当てはまらなかったり、企業規模がうまく当てはまらなかったりして使用しにくい面もあるのですが、やはり他社の数値というのは参考になります。

以上、長くなりましたが、事業計画を作る前にやっておくべき最低限の財務分析についての説明でした。