NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年9月20日日曜日

事業計画の作り方14 後継者の方向け(2) 現状理解と現状分析

後継者の方向けに事業計画の作り方を解説していくシリーズですが、前回説明したとおり、一定の前提を設けています。読者層として想定しているのは、先代経営者の親族かもともと会社の役職員であった後継者の方です。詳しくはシリーズの前回の記事をご確認ください。

さて、本シリーズの「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」にて、事業計画の作り方の全体像を説明した際、「現状分析」について触れました。後継者の方もこれから何をするか、すべきかを考えたいと思います。しかし、その前に一端立ち止まって以下のようなことを考えてみてください。
  • 個々の役職員の仕事ぶり、得意な仕事、キャリアプランや性格についてどのくらい理解していますか?
  • 自社の製品商品やサービスについて詳細に説明できますか?なぜお客様に選ばれているか説明できますか?
  • ひとつの製品商品やサービス当たりの本当の利益額を把握していますか?粗利ではなく本当の利益です。
  • 自社のお客様について詳細に説明できますか?BtoBであれば個別のお客様の情報について理解できていますか?BtoCであれば顧客層の詳細について説明できますか?
  • 自社の決算書や月次試算表を見て、内容の詳細を説明できますか?例えば販管費の中にある雑費について説明できますか?
  • 会社全体の売上や利益だけでなく、お金の流れ=キャッシュフローを詳細に説明できますか?
  • 金融機関からの借り入れについて、毎月の返済額を把握していますか?支店長や担当者の名前を覚えていますか?
等々。

これらの情報のほとんどは自然に集まってくるものではなく、情報を集計する仕組みや、情報が報告される仕組みを構築しておかなければなりませんし、これらのことを人に説明できるくらい理解しておかなければ事業計画を適切に作ることはできません。会社の仲間達も現状や自分たちのことを理解しようとしない後継者にはついて行きたいとは思えないでしょう。また、現状分析などをすっ飛ばして新しい施策を行ってしまうと、必要以上に既存の役職員の反発を招く結果となってしまいます(もちろん、既存役職員の反発を覚悟で実施しなければならない施策というものはあります)。

では、現状分析はどのように行ったらよいでしょうか。

(1)まずは、現状を理解しましょう。

 一番良い現状理解の方法は「自分で実際にやってみる」、「自分の目で確かめる」ことです。時間がないと言い訳しても始まりません。

ファーストリテイリング社はどのような職種での入社でも、まずは実際の店舗での勤務から開始するそうです。製造業では昔から、現場・現物・現実と言われています。後継者の現状理解も同様かと思います。
  • 先代経営者の話を改めて丁寧に聞き、どのような想いで経営してきたか、どのような苦労を乗り越えてきたか、まだ乗り越えられていない問題点は何かを理解しましょう。いつも同じ話を聞かされていると考えてしまい、大切なことを聞き逃したりしていることもあります。
  • 役職員と一緒に働き、コミュニケーションをとりましょう。面談だけでは理解が不十分に終わります。
  • ものづくりを自分もやってみて、作り手の働きぶりを見てみましょう。
  • 原価や費用を決算書や月次試算表上の数字としてだけ理解するのではなく、総勘定元帳などに目を通し、さらには現場に行き原価や費用の発生の現場を実際に見て確認しましょう。
  • 外注先や業務委託先の現場にも行き、業務がどのように行われているのか理解しましょう。
  • 棚卸しを一緒に行い、どのような在庫がどのように保管・管理されているか理解しましょう。
  • 営業に行ったり、既存のお客様に会いに行ったりして、お客様はどういったことで困っておりどのような事情を抱えているか、自社の製品商品やサービスがなぜ選ばれているか、なぜ選ばれていないか、生の声を聞きましょう。また、自社の営業担当者がどのような状況で営業活動を行っているか確認しましょう。
  • 保守・メンテナンスに同行し、どういった活動が顧客満足度の維持向上につながっているのかを確認しましょう。
  • 役職員と同じ場所で働き、役職員から見た職場環境について理解しましょう。
  • 金融機関への説明に同行し、金融機関側がどう考えているか、何を知りたがっているかを理解しましょう。
  • 同業他社の経営者や後継者の話を聞き、その環境や言動を理解しましょう。
以上はあくまでも例示です。他にもたくさん理解すべき現状があるはずですので自分で考え、先代経営者にも教えを請い、現状理解のためのなすべきことをリストアップし、実行していってください。

自分は現状を理解できている!というのは思い込みにすぎないことが少なくありません。謙虚な気持ちで取り組むことをおすすめします。

(2)次に現状を分析しましょう。

 「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」では現状分析のフレームワークについて代表的なものを紹介しました。それ以外でも、現状理解で集めた情報についての分析、数字や営業に関する分析はご自身で分析をすることをおすすめします。

現状理解で例示したことだけでも、
  • 人に関することでは、適材適所が実現できているか、改善可能な理由にも関わらず退職をしてしまいそうな役職員はいないか、といったことが分析できます。
  • ものづくりの現場でも、生産効率向上の余地はないか、品質向上の余地はないか、外注先や業務委託先は適切かといったことを分析できます。
  • 営業と棚卸しを両方行えば、在庫量やその種類が適切か分析できるかもしれません。
  • お客様の声を元に、自社の製品商品やサービスがお客様の期待に応えられているか、改善の余地がないか分析できます。
  • 役職員と同じ場所で一緒に働けば、評価制度や職場環境の改善可能性について分析できるでしょう。
営業に関することでは、きっと営業担当者ごとに顧客の性質や営業担当者のキャラクターなどが理由で、様々な営業スタイルがあったかと思いますが、基本的な型としてはどのようなものか、営業担当者の行動のあるべき姿とかいったことが分析できるはずです。

数字に関しては、まずは月次試算表などを元に毎月の貸借対照表や損益計算書の数値を一覧表に自分で入力していきましょう。見ているだけでは気が付かなかったことが見つかるはずです。自分で入力した一覧表を常に手元に置いておいて時間があるときに見直してみるとまた気づきがあります。また、合わせて財務分析を行っていろいろな指標を計算してみるのも良いことです。財務分析の中で気がつくこともあれば、月次決算が適切に行われていないことが理由で、財務分析が行えない事項、つまりは月次決算の要改善点も判明するでしょう。

製品商品やサービスことの利益額も計算してみましょう。そもそも原価計算はどのレベルで行えているでしょうか。粗利の把握が適切にできていないことも珍しくありません。また、原価に含まれないコスト(主には販管費)も考慮した場合、製品商品やサービスをひとつ・一回提供する毎に本当の利益はどの程度出るのかも分析しましょう。一回の営業でどの程度売上を作る必要があるのか、営業担当者ひとりあたりどの程度の売上が必要か、自社の目標利益を達成するためにどの程度の売上をあげる必要があるのかが分かりやすくなります。

キャッシュフロー計算書を自分で作成してみることも良いかもしれません。その過程で貸借対照表、損益計算書とキャッシュフロー、それぞれの関係性やお金の流れを理解できるようにもなります。

主要メンバーの時間の使い方の分析も重要です。一生懸命に仕事に取り組んでいる役職員の中にも、重要度や緊急度に応じた時間の使い方になっていない例が多くあります。例えば、営業の基本である顧客接点回数の最大化のために営業に充てる時間が一番重要にも関わらず、実際には他の業務に時間を取られていたなどといったことです。

以上のこともあくまでも例示です。同業他社の現状分析の方法を模倣するところから始めても構いません。分析をすればするほど、また新たに分析すべきことが見つかると思います。

「べンチャー型事業承継」という言葉があるように今後の後継者には、起業家的なマインドが求められてくるのは間違いありません。

一方で既に一定の歴史がある企業を受け継ぐのですから、現状の良い面悪い面もしっかりと理解して必要に応じて打ち手を打つ必要があります。重ねてになりますが、後継者にとっての事業計画づくりはまずは現状理解と現状分析がとても重要です。

なお、経営コンサルタントに現状分析を依頼して、その報告を受けるという手段もありますが、後継者自身が目、耳や足を使って理解・分析したものと比べても後継者の血肉となりにくいので、できるだけ現状理解と現状分析は後継者自身で行うのが良いと考えます。