事業承継は、まず
- 経営の承継
- 財産・資産の承継
に分けられます。中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、経営の承継をさらに「人の承継」と「知的資産の承継」に分けていますが、理解しやすい方の分類を使っていただいて問題ありません。本シリーズは「事業計画の作り方」ですので取り扱うのは「経営(人+知的資産)の承継」の範囲です。
さて、事業承継は他に、
- 親族内承継
- 親族外承継
という分け方もでき、親族外承継はさらに
- 役職員への承継(MBO、EBOなど)
- 社外の第三者への承継(M&A、プロ経営者招聘など)
に分けることもできます。本シリーズでは「親族内承継」もしくは「役職員への承継」で会社を引き継いだ(もしくは引き継ぐ)後継者を想定読者層と考えています。
ところで後継者の方は、ある方は別の会社でビジネスパーソンとしての経験を積んだり、会社経営について学んだりしてきたかもしれません。ある方は早い段階で事業承継する会社に入社し現場経験を積んだり、後継者候補として経営の一端を担ったりしてきたかもしれません。どんな経験を積んできたとしても、いざ実際に後継者と決定してときには、やらなければならないことの多さにいい意味でも悪い意味でも驚かれているのではないでしょうか。
- 事業は順調だが今ままでのやり方では少しずつ厳しくなってくるのは分かっており改革したいが、事業が順調なため改革の必要性の理解が得にくい。
- 事業が厳しい状況となっており、改革の必要性ではコンセンサスがとれているが、まずは目の前の赤字や資金不足を解消させなければならない。
- 既存事業が順調なうちに新規事業に取り組みたい。
- これからも大切にしていきたい理念や事業もある一方、新たに取り入れたい考え方や新たに開始したい事業もあり、日々の業務もある中頭の整理も追いつかず、手も回らない。
などなど。
何から開始していけばいいか、残念ながらすべての場合に当てはまる方程式のようなものはなく、個別具体的に考えていく必要があるかと思います。このシリーズでは、以下のようなパターンを想定して解説を行っていきます。
<解説の前提としての想定>
- 後継者は先代経営者の親族かもともと会社の役職員(つまりはM&Aやプロ経営者招聘ではない)
- 後継者がようやく経営の意思決定を任せられ始めたタイミング
- 既存事業は昔は大きな利益を上げていたが、現在は決して順風満帆ではない(市場は縮小傾向、売上は営業努力で何とか水平飛行、損益は若干の黒字か赤字)
- 資金の余力はない(従業員や取引先への支払いが遅れることはないが、運転資金と返済資金でギリギリであり余裕資金は少ない)
- 事業を推進するために必要なデータは先代経営者やベテラン役職員の頭の中にあり、可視化に取り組み始めたところ
- 後継者はやる気も体力もあり、既存事業のテコ入れと新規事業の開始により、企業を再び成長軌道に戻したいと考えている
私が今までの何らかのかたちでコンサルをさせていただいた事業承継事例も、このようなパターンが大きな割合を占めていました。上記のような前提だけで後継者の取り組み方やコンサルの仕方が一義的に決まるわけではありません。次回以降の解説を読んでいただける後継者の方は、自分の場合はどうすべきだろうと考えながら目を通していただければ幸いです。