NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
NGCパートナーズはクライアント企業の役職員と「協働する」経営・財務コンサルティングファームです。
キーワード:ベンチャー・スタートアップ / アトツギ・後継者 / M&A・事業承継 / セミナー・社内研修
活動拠点:福岡 / 東京

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2019年12月27日金曜日

NGCパートナーズのコンサルティング事業について


NGCパートナーズは、経営・財務コンサルティング事業を行っており、当ブログでも随時紹介させていただいています。
個別の記事では、
などに記載していますし、ラベルの「NGCパートナーズ」にまとめています。

ただ、ブログだと過去記事はどんどん埋もれてしまって分かりにくくなってしまったり、そもそものアクセス数がまだ少なかったりするので、ビザスクにもう少しわかりやすくまとめています。ビザスクでは、同サイトの登録フォームに従うかたちで、より具体的な内容になっていますので、お目通しいただければ幸いです。
本日時点では主に、
  1. これから株式上場を目指す企業の財務戦略、資本政策についてお話ができます
  2. アーリー・ミドルステージ前後のスタートアップの株式上場準備実務を実施できます
  3. 売上数億円から数十億円クラスの成長志向企業からのM&Aアドバイザリー業務受託が可能です
  4. 協働型コンサルタントとして未上場企業の経営参画~実務に幅広く対応できます
といったことを相談対応可能事項として登録しています。
ビザスク経由でもお問い合わせをいただいていますが、やりとりもスムーズにできる仕組みがあり、大変便利です。
もちろん、直接のご連絡も承っています。

2019年11月18日月曜日

VCからの資金調達の際の注意点~専門家編~

ベンチャーキャピタル(以下、VC)からの資金調達を行う際の注意点の内、今回は「専門家への相談」の際の注意点を取り上げたいと思います。

「VCからの資金調達のメリット・デメリット」のような記事がWeb上には多くありますので、是非事前にそういった記事にも目を通しておいてください。

さて、VCとの間でいろいろやりとり(資料提出、ヒアリングや投資審査)を行って、そのVCとの間では資金調達についてほぼほぼ合意できたという段階にたどりついたにも関わらず、経営者にとっては身近な存在の反対によってVCからの資金調達を行えない、もしくは断念するという場合があります。

特に、
  • 東京以外の地域のスタートアップ
  • VCに限らず外部株主を初めて受け入れるスタートアップ
にその事例が多いようです。

ではその「経営者にとっては身近な存在」とは誰のことでしょうか?
  1. 金融機関の支店長や担当者
  2. 顧問税理士
  3. 他の既存株主
  4. その他
実はどの選択肢も程度の差はあれ当てはまるのですが、私の経験上、特に多いのは顧問税理士です。

私がVCで東京以外の地域のスタートアップへ投資検討をしている際、投資候補先企業の経営者が顧問税理士の反対にあってVCからの資金調達を中止する、という事例をチラホラと見かけましたし、そういった話を聞くことも少なからずありました。

顧問税理士というのは、ほとんどの未上場企業の経営者にとっては最も身近な専門家でもありますし、何かあったら顧問税理士に相談する、顧問税理士の意見は尊重するという経営者も多いのではないでしょうか。

税理士側も、税務顧問だけにとどまらず、経営コンサルティング機能を強化されている事務所が多くあります。そういった税理士であれば良いのですが、昔ながらの税務顧問業務しか行っていない、顧問先が外部から資金調達をしたような経験がない、といった税理士の場合、要注意です。

そういった税理士が
  • よく分からないからといって慎重論を唱えたり反対したりする
  • VCをハゲタカファンドと同類と誤解している
  • 自分たちの領分を侵されたくないので反対する
などして、経営者の考えに大きな影響を与えた結果、VCからの資金調達が中止されることが意外なことに少なくありません。
もちろん、VC側の言い分だけを鵜呑みにするのもよくありませんが、税理士の意見についても鵜呑みにするのはよくありません。

自社の顧問税理士がどんな専門分野や経験を持っているかを把握した上で、事前に相談するなどの対応が必要です。

スタートアップにとって顧問税理士はとても重要な存在です。VCが投資検討をする際、
  • 審査資料の用意がスムーズなスタートアップ
  • 経営者が自社の数字を把握できているスタートアップ
などは、経営者やCFOの存在だけでなく、顧問税理士のコンサルティングの賜物だったりします。VCからの資金調達を検討するタイミングというのは、顧問税理士との関係を深める、見直すなどの良い機会とも言えると思います。

2019年11月15日金曜日

良い経営者の「考え方」~VCの視点~

今回は少し厚かましくも「優れたスタートアップ経営者とは?」について考えていきたいと思います。

なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。

あと、本記事では「経営者」と「起業家」という言葉をあえて区別せずに使用しています。ご了承ください。

私は環境に恵まれ、いろいろな経営者を近くで見たり、一緒に仕事をすることができたりしました。ざっと列挙すると、
  • 祖父は会社を数社起こした起業家
  • 父は二代目経営者
  • 新卒入社した会社の経営者は、個人創業した同社を短期で株式上場させた起業家
  • 二社目の会社の経営者は、社内ベンチャーの立ち上げを成功させたイントレプレナー
  • 三社目の会社の経営者は、20代で個人創業した後、社員数百人規模まで成長させた起業家
  • ベンチャーキャピタルプライベートエクイティに所属していた際には多くの起業家やプロ経営者と接することができた
といった感じです。三社目の会社とその次の直近勤務した会社では私も経営陣の末席として、会社経営に関わることもできました。

そういった方々などの大きな影響を受けて育った私なりの考えを「ベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資担当者の立ち位置」でまとめてみました。

VCはスタートアップの“将来性”や“可能性”を評価して投資を行います。しかしVCの投資担当者も未来を予言する能力があるわけではなく、「成長しうるスタートアップ」の資質を個別に、そして総合的に見ていくこととなります。その中でも経営者の資質は多くのVCが重視するテーマです。

成長しうるスタートアップにおける、良い経営者像とは? 大きなビジョンや夢がある、経験豊富、若くて行動的、MBAホルダー、営業力がある、数字に強い……など、資格からスキルまで、挙げればキリがありません。今回は経営者の資質としての「考え方」に焦点を当てます。

(1)夢が大きく、理想が高い


いくら経験豊富で、能力が高くとも、大きな夢や高い理想がなければ大きなことを成し遂げられません。吉田松陰の言葉を引用します。
夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。
経営者やそれを志しているみなさんには、これを「夢なきスタートアップ経営者には成功なし」と読み替えていただきたいと思います。経営者の考え方として、第一に挙げられるべき項目です。

(2)決断力がある


いくら大きな夢や高い理想があっても、貫き通す“強い心”がなければ成し遂げることはできません。では強い心とはどういう意味でしょうか?ここでは「決断力」と読み解きたいと思います。

経営者が備えるべき決断力とは実は、「失敗を恐れない心」とも言い換えることができます。経営者にとって決断力が重要なのは言うまでもありませんが、ここで言う決断力は、「正しい決断を下す力」とは少し違います。まず「決断する力」があり、その上で「正しい決断を下す力」が活きるのです。

失敗を恐れる経営者は、「正しさの追求」を言い訳にして決断を下しません。そもそも「熟慮すれば正しい判断ができる」と考えている時点で、それは多くの場合、傲慢にすぎないのです。

正しい回答を探して立ち止まるよりも、意思決定を積極的に行う仮説検証・試行錯誤型の経営者こそ、良い経営者といえます。それは歴史も証明しています。

もし失敗したら?大丈夫、あきらめない限り失敗はありません。

(3)自省する力がある


次に、「自省する力」を取り上げたいと思います。自らの言動や行動を反省し、己の力不足を認めずして成長はありえません。まずは自分が「知らない」ことを知る。ソクラテスの「無知の知」、論語の「これを知るをこれを知るとなし、知らざるを知らざるとなせ。これ知るなり」など、繰り返し説かれてきた第一歩です。

そして「うまくいったらみんなのおかげ、失敗したら自分のせい」を心得ましょう。経営者自身を「褒めて伸ばす」のは単なる甘えです。成長しうるスタートアップの経営者は、自省する習慣を持っています。もちろん、役職員に対してはぜひ「褒めて伸ばす」を実践して欲しいと思います。

(4)学びと実践を繰り返す


「実践主義者」と呼ばれる人がいます。机上で考えているだけで実際の行動に移せないのはたしかに良くありませんが、実践主義の人が陥りがちなのが、経験のみを重視しすぎる点です。経営者には経験だけでは足りません。経営学と実際の経営は違うと考え、経営学をきちんと学ばない経営者も少なくありませんが、非常にもったいないことです。

良い経営者は、学びと実践、その間を行ったり来たりして、自分が経験したことの本当の意味を知ったり、事前に得た知識をもとに経験をより充実させたりしています。

(5)考えの枠組みや軸を持っている


アニマルスピリットを持つ経営者だからか、野性的勘を発揮する経営者も多いようです。世の中、すべてが理屈で片付くわけではないので、鋭い勘も必要でしょう。しかし、良い経営者は自分の勘も大切にしつつ、自分なりの考え方に「枠組み」や「軸」を持っています。判断に迷ったときに寄る辺となるものです。

考えの枠組みや軸とは、経営関連書籍ではいわゆる「フレームワーク」として解説されているものもそれに当たります。「目標から遡って考える」、「趣旨から考える」、「原則と例外」、「正攻法と奇策の組み合わせ」、「選択と集中」、「論理と直感」など、経営の様々な場面で活用することができます。

(6)したたかである


夢が大きく失敗を恐れず、自身を省みながら、勉強熱心で考え方に軸もある。実はこれでも良い経営者とは必ずしも言えません。そこには「したたかさ」が足りないことが多いからです。

良い経営者のしたたかさとは?まずは「役割を演じられる」ことです。素のままの自分が経営者に向いている、という人もいるとは思います。しかしそれは極めて限られた人だけに言えることです。経営者は、すべてが思い通りにはいかない会社経営の中で、「経営者たるものこうあらねばならない」という考えの下に、その場に応じた役割を演じなければなりません。

次に「愛情深いが、冷酷にもなれる」二面性です。綺麗ごとしか言えない経営者は成功しません。二面性という意味では、人に見せない「欲」も重要な原動力です。夢だって欲のひとつと言えます。したたかな経営者は表には出さない一面を持ち、そのこと自体が人間としての魅力を高めることにもつながっていたりします。

最後に


良い経営者の条件として、多くの場合、経験、知識、スキルや人脈などが挙げられますが、それらは必要条件であっても十分条件ではありません。今回挙げたポイントは、捉えようによっては精神論的に聞こえるかもしれませんが、これらの「考え方」が備わっていてはじめて、経験、知識、スキルや人脈が活きてくるものと考えます。

VCの投資審査は通常3カ月程度という長い時間をかけます(最近は短期化されているようですが)。これは、単にビジネスモデルの審査をしているだけではなく、期間中に経営者の資質を見極めようとしているのです。今回挙げたポイントはまだ一部であるかもしれないし、異なる考えを持ったVCの投資担当者も多いと思います。ただ、間違いなく言えるのは投資審査の際には、ビジネスモデルや数値計画の話ばかりではなく、経営者としての考え方が重視されるということです。

以上、少しでもご参考になれば幸いです。
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2019年10月8日火曜日

スタートアップにとっての営業

今回はスタートアップ企業にとっての営業について考えていきたいと思います。

なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。

スタートアップの経営の中での悩みはいろいろありますが、その中でも一番の悩みとして挙がることが多いのが売上が伸びない、ということではないでしょうか。

戦略がなく敗れ去った国家や軍隊の話は歴史でもよく登場しますが、スタートアップの売上が伸び悩むのは、実はそれとは逆で戦略しかないことが原因であることが少なくないと考えています。私はそれを「戦略あって兵隊なし」と表現しています。本当は「戦略あって実行なし」や「戦術なし」でも構わないのですが、分かりやすい言葉として「兵隊なし」としています。

今回は兵隊=実行策、その中でも最も重要なひとつである営業の必要性や基本的な考え方について触れてみたいと思います。

スタートアップ経営者にありがちな勘違い
  • 当社の製品は圧倒的な技術が元になっており、競争力がある(ので売れるはず)。
  • ターゲット顧客にヒアリングした結果、極めて評判が良かった(ので売れるはず)。
  • 総合商社が販売代理店になってくれた(ので売れるはず)。
  • 全国に代理店網を構築した(ので売れるはず)。
  • マーケティングは完璧である(ので売れるはず)。
  • 当社の製品は競合他社の製品よりはるかに安い(ので売れるはず)。

他にも自社商品やサービスが売れるはずであるという理由をたくさん聞くことがありますが、これらは実は「営業」を知らないスタートアップ経営者にありがちな勘違いです。

もちろんこれらは製品やサービスが売れるためには必要なことではあります。ただ、それだけでは足りません。そこには「営業」の機能が足りないもしくは存在していません。良い製品やサービスであれば顧客の方から探し出してくれるかのような勘違いも耳にすることが多いですが、ほとんどの場合、営業活動を行わなければ顧客に知ってもらうことができず、結果として売上は伸びません。

スタートアップでの営業の位置付け

まずは、多くのスタートアップでの営業の位置付けについて見てみましょう。実は営業を軽視するスタートアップ経営者は多いのです。それらの経営者は、プログラマー、コンサル、技術者やマーケターなど様々な背景を持っていますが、意外に少ないのが営業出身者。そのため、たとえ営業部門が社内にあってもその役割は重視されていないことも多くあります。しかし、すでに商品やサービスが販売できる状態であるならば、営業を重視した社内体制を構築すべきです。

マーケティングの究極の目的は、モノやサービスが「売れる」状態を作り出すことですが、それを実現できている企業は決して多くはありません。それにモノやサービスは常に顧客の声を聞いて改良していく必要があります。今では顧客開発モデルなどの優れた手法もありますが、実際の販売開始以降は、顧客の声は営業部門に一番多く集まります。どんなビジネスでも「顧客」がスタートラインなのです。そこに一番近い場所にいる営業部門を重視しないことはありえません。

早速今から営業部門の位置付けについて考えてみて欲しいと思います。

まずは「直販」からはじめる

営業や営業部門の重要性を理解している場合、まずは「直販」と呼ばれる営業方法から開始することが望ましいと考えられます。これは「現場主義」の営業場面での体現といえます。

直販を行うことは営業担当者がいなくても実施可能です。営業は重要なものなのだから経営者自身が行うべきなのです。

そこで知るべきは本当の顧客のニーズだけではなく、どうやったら顧客の感動を得られるか、どのような流れや方法で顧客の感動を得たか、です。実は直販を最初に行うべき理由はここにあります。

営業経験のない経営者が、自社の商品やサービスの販売を開始する際、いきなり代理店網を構築しようとすることがあります。はっきり言ってしまうとそれは成功する可能性が極めて低いです。営業代理店は一度契約すれば後は黙って商品やサービスを販売してくれる存在ではありません。代理店となる企業はほとんどの場合、あなたの会社以外とも代理店契約を結んでいるのです。そして、取り扱う商品やサービスは多岐にわたります。そういった中、代理店自身の利益を考えた場合、代理店は当然ながら、売りやすいもの、利益率が高いものを優先して販売していきます。あなたは代理店に対し、自社の商品やサービスの販売を強化してもらえるよう働きかけるでしょう。そのときに重要になるのが、あなたの会社が直販で培ったノウハウなのです。代理店に対しそのノウハウを提供していくことで、あなたの会社の商品やサービスは、代理店にとって売りやすいものとなっていきます。こういった取り組みがあって初めて代理店網が活きてくるのです。

代理店の活用は掛け算に似ています。あなたの会社の営業力がゼロであれば、どんなに立派な代理店網を構築しても、掛け算した結果は変わらずゼロになるにすぎません。必ず、まずは直販からはじめましょう!

営業は仕組みづくり

営業活動を強化する際にありがちな間違いが、いわゆる「スーパー営業マン」を採用したり育てたりしようとすることです。営業の世界にはそういった人達が少なくないし、そういった人達は尊敬すべき対象です。ですが、そういった人達の営業ノウハウはその人達にしかできないことが多く、営業活動はブラックボックスになりやすいと言われることもあります。そのため、会社を継続的に成長させるためには、属人的な営業ではなく、組織的な営業を行う体制が望ましいといえます。組織的な営業活動を行うために最低限必要となるのがたとえば次の機能です。
  • 営業のステップ化とKPI目標設定
  • KPI管理や営業力強化目的とした営業会議
  • インセンティブ制度
  • 営業力強化の取り組み(教育)
KPIはいろいろ定義や使われ方がありますが、ここでは「先行指数」として捉えたいと思います。売上や利益を営業の管理指標にしているスタートアップが少なくありませんが、売上利益は結果であって、それを管理しても営業の観点では意義に乏しいと言えます(もちろん経営の観点では重要です)。売上利益をあげるための営業活動をステップ化し、それぞれのステップに目標となるKPIを設定しましょう。分かりやすい例としては訪問数やキーパーソンへの提案数などです。そういったことを先行指数として管理していくことが営業の結果につながっていきます。

また、インセンティブ制度も重要です。営業結果を出した担当者には何かしらのかたちできちんと報いる制度を作ることが営業力強化にもつながります。

スタートアップでの取締役会、経営会議そして営業会議でも、戦略に関する事項に議論が集中する場面を多々見てきました。しかし、結果を出していくスタートアップは必ず兵隊=実行策についてもしっかりと議論し仕組みを作っています。そして実行策の代表格のひとつが「営業」です。私は営業なくして成長なし、と考えています。


2019年10月7日月曜日

官民ファンド(日経新聞)

官民ファンド、遠い累損解消 4機構 1年で6割増:日本経済新聞
スタートアップ企業などに投資して産業を振興する官民ファンドで......

ここで名前が挙がっている官民ファンドの内、中小機構とA-FIVEは私も関わりがありました。

中小機構は私が所属していたVCやPEが運営するファンドのLPとしてです。

A-FIVEとは間接的な関わりで、出資を受けるかどうかを検討している事業会社側にコンサルとして入った経験と、A-FIVEの仕組みを活用して6次化ファンドの設立を行った地方銀行にコンサルとして入った経験とがあります。

私見ですが、中小機構は当時すでに民間VC/PEのファンドへのLP出資経験が豊富で、GPに対する対応でも任せるところそうでないところ、GPに対してどう意見を言えばGPが納得して動くか、などの勘所を掴んでいるように見受けられました。場合によってはGPに無理難題を突きつけるLPに対し、同じLPとして違う意見を言ったりとGP側の立場であった私としてはファンド運営全般でおおいに助けられました。

一方のA-FIVEは知る限り「管理を徹底すればリスクは下がる」との考えに過度に偏っているように見受けられました。当時はA-FIVEが活動を開始したばかりの時期で試行錯誤中だったのかもしれませんが、まさに投資先企業の箸の上げ下げまで管理しようとする投資契約の内容で、首をかしげたのを覚えています。結局、私のコンサル先の内、事業会社側には出資受け入れをしない方が良いと提案し、その案が採用されました。今でも正しい判断だと思っています。

2019年10月2日水曜日

社外取締役の役割(日経新聞)

社外取締役、初の3割超 上場企業:日本経済新聞
上場企業の役員の顔ぶれが多彩になってきた。取締役に占める社外取締役の......
日経新聞その他の経済紙・経済誌には定期的に「日本の上場企業における社外取締役の割合」の記事がでます。内容は毎回お決まりで、社外取締役を設置している上場企業の割合は増えている、社外取締役が期待されている役割を果たせているかではまだまだ改善の余地がある、といったものです。

私は未上場企業の社外取締役を務めさせていただく機会もあり、監査役会が設置されている会社の場合は、監査役会にも一部の時間出席させていただき、監査役の方々と情報交換を行うこともあります。

上場or未上場、会社の機関設計の違いなどがあり、一概には言えないのですが、私の経験上、上場企業の社外取締役に関する論評や記事などを読んでいて感じるのが「社外取締役に多くを期待しすぎ」ということです。

今回の日経新聞の記事も、社外取締役に期待される役割について「異なった経験や知見を経営に生かす」と書いたかと思うと、不祥事を防ぐことがその役割と読めるような記載もあります。

実際の上場企業の取締役会の場でも、監査役との違いが全く分からない発言に終始するような社外取締役も見てきました。

只でも社外取締役に相応しい層が薄いことが指摘される日本なのですから、社外取締役に多くを求めるのではなく、ある程度期待する役割を限定すべきではないでしょうか。

実際には明確な線引ができるわけではないかとは思いますが
  1. 取締役(会)の判断がいわゆる経営判断の原則を逸脱していないかの監督は監査役の役割
  2. 取締役(会)が経営判断の原則の範疇で意思決定している前提で、より適正適切な意思決定ができるよう促していくのが社外取締役の役割
といったことが私の案です。

2019年9月26日木曜日

歴史に学ぶ

「愚者は経験から学び、賢者は歴史に学ぶ。」オットー・フォン・ビスマルク

歴史関係の投稿が増えるので「歴史に学ぶ」「歴史から学ぶ」ための考え方・方法を記しておきたいと思います。


1.事実を知るだけではなく、教訓を引き出すこと。

歴史の知識が豊富なのは素晴らしいですが、企業経営に活かすためには、教訓を引き出す必要があります。
  • 歴史上のその事件にはどのような背景があったのか
  • どのような背景の下、その判断がなされたのか
  • その判断はどのように歴史に影響を与えていったのか
  • もし違う判断がなされていた場合、その後の歴史にどういう影響与えていただろうか
こういう問いを投げかけながら、史実を自分なりに解釈していくことが学びにつながります。
歴史にifは禁物だということが昔から言われますが「歴史を学ぶ」のであればそうかもしれませんが「歴史に学ぶ」「歴史から学ぶ」場合にはifを問いかけることで学びの量が格段に増加します。


2.引き出した教訓を、実際の企業経営に当てはめて活かすこと

実際には自分とは縁のない国家的な指導者に関する教訓でも、これが企業経営の場面だったら、と想像を膨らませてみることが大切です。あなたが経営者なのであれば、必ず重なる部分があり、経営に役立つヒントがあるはずです。

いずれも事実を並べただけのテキストでは実行は難しいと思われます。「歴史に学ぶ」「歴史から学ぶ」のであれば、教材は小説でも問題ありません。物語としての歴史であれば、登場人物への感情移入も容易で、当事者の気持ちに近づけるでしょう。今はまだ歩み始めたばかりの自身の経営者のキャリアも、いずれ書物に描かれているような物語に……そんな野望を胸に読んでみるのも良いと思います。

とは言いつつ、背景となるザッとした歴史の流れが分かっていないと読む際に辛いという声があるのも事実です。そういった際に事前知識として読んでおくと良いのが「もう一度よむ山川世界史」と「もう一度よむ山川日本史」です。短時間で歴史をザッと振り返ることができます。


ローマ人の物語について

企業経営について「歴史に学ぶ」(≒歴史を学ぶ)ための書籍として定番中の定番ですが、「ローマ人の物語」を愛読しています。今は五賢帝の後半のあたりを読んでいます。この本についても以前のブログで取り上げていましたので、内容を更新しつつ、改めてご紹介していきたいと思います。

内容に入る前に、今回はこの本の舞台である「ローマ」という国家について触れておきたいと思います。

ローマという国家は、建国当初は王政、その後共和政を経て帝政となった後、東西に分裂し、東の帝国は途中からは一般にビザンツ帝国と呼ばれるようになったりと、国家の名称や通称がひとつではないのですが、それでは不便ですの当ブログ内ではカッコつきのローマ(「ローマ」)と記載し、特に必要があるときには共和政ローマなどと記載するようにします。

「ローマ」の魅力は次の一言で言い表されています。
「ローマ史には歴史(もしくは、人類の経験)の全てが詰まっている」
伝承の期間も含めると紀元前753年から1453年まで2000年続いた国家です。その歴史を見てもわかるとおり、国家成立期、直後の混乱期、成長期、停滞期、改革期、衰退期などがあわただしく、何度も繰り返し現れます。衰退期も迎えた後、再度持ち直した国家というのは歴史上、多くはありません。そのような場面で指導者がどう考え、行動したか、これほど企業経営に参考となるものはないと考えます。

「ローマ」はしかも多くの民族を包含する世界帝国であり、先に述べたようにさまざまな政治体制も経験しています。

宗教的にも建国当初は多神教であったものが途中から一神教となったりしています。

地理的にもアジアとヨーロッパをつなぐ位置、キリスト教世界とイスラム教世界をつなぐ位置にあり、それぞれの価値観の影響を受けたりしています。

法律の世界でも「ローマ」は重要な存在で、そのローマ法は現在の大陸法に大きな影響を与えていますし、英米法にも少なからず影響を与えています。

「ローマ」の魅力はまだまだありますが、歴史の授業で学んだ以上のような事柄だけ見てもその魅力の一端が分かるかと思います。

そしてこの本「ローマ人の物語」はタイトルどおり、国家そのものではなく「人」に焦点を当てた内容となっています。そして著者である塩野七生さんは小説家であり、決して組織のリーダーでも企業経営者でもありません。しかしながら小説家としての一流のセンスからか、その指導者論には唸らせられることが多いです。

この本の分類は歴史書ではなく小説です。読み進めるうちに、登場人物の表情までが目の前に浮かんでくるような瑞々しい文章で、娯楽としても十分楽しめます。歴史=暗記というイメージや、歴史書の堅いイメージで敬遠してしまう人ほど、このような小説をきっかけに「歴史に学ぶ」体験をしてほしいと思います。

次回から少しずつ内容に触れていきたいと思います。

なお、本ブログは著作権侵害を望んではいません。今後の引用は著作権法第32条の範囲内に留めるようにしますが、問題がある場合はコメント頂ければと思います。



2019年9月25日水曜日

起業の覚悟、資金調達の責任(下)

前回は起業を「覚悟」というキーワードで考えました。後半の今回は、資金調達を「責任」というキーワードで考えましょう。

まず、資金調達はなぜ行うのでしょうか?直接的には、資金調達をしなければ事業を推進できない、会社を大きくできないなどの理由が挙げられます。他には、株主に著名人や有名企業に入ってもらい、会社の信用性を高める狙いなどもありえます。

さらには応用編として、経営に規律を設けるという意味もあります。金融機関から借入をすると、契約に従って毎月返済や利払を行う必要があります。そのため、毎月しっかりと資金を用意できるよう、経営に規律を持たせようという動機が生まれるのです。社内体制の整備といった側面もあります。株主や債権者に対して経営の状況を説明するためには、会社の体制を整備して、社内の情報をしっかりと管理できるようになる必要があるからです。

それでは次に資金調達を行うために必要なことをいくつかご紹介していきます。

  • 起業を考え始めたら貯金を始めましょう
あくまでも預貯金であって、株式などでの運用は含みません。そもそも、株式などのリスクのある金融商品は「余裕資金」、言い換えると、なくなっても困ることはない資金で行うものです。起業のために使う、という目的がある以上、株式などではなく預貯金が正解です。起業の際によく言われるのが、起業の後、2年間全く売上が立たなくても暮らしていけるだけの資金を用意するか、起業前にまとまった量の仕事を受注しておく、ということです。これはとても大切で、起業した後から営業活動を開始すると、毎日のように減り続ける通帳残高を見て焦りながら営業活動をする羽目になるため、良い結果を生むことができないことが多いと言われます。だからこそ、本来は起業前にいくつか受注確実な仕事を見つけておくことがベストではありますが、なかなかそうもいかないので、次善の策として貯金をしておくのです。

また、自分で資金を用意するかどうかは、その後の資金調達にも大きく影響します。考えてみてください。みなさんの知人が起業したとします。でもその知人自身はお金を出さず、周りの人にお金を出してくれと言っているのを見たらどう思いますか?「まずは自分で出そうよ」と思う方が多いのではないでしょうか。起業家自身が資金を用意することは、その起業家の覚悟の現れとも見られるのです。

  • 資金調達を行う前に、自分の事業でのお金の流れを理解し、予測できるようにしておきましょう
ここでは詳しくは説明しませんが、利益が出たからといって、手元にお金が残るわけではありません。利益が出ているのにお金が減ることもあります。逆に、利益が出ていなくてもお金が手元にある限りは、会社は存続できます。

「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるかと思います。読んで字のごとく、利益は出ているのに、会社が倒産してしまうことを意味します。これは経営者が自分の事業のお金の流れを理解していない、もしくは予測に失敗したことが理由で起きます。そんな会社には、金融機関や投資家も怖くて資金を出せないはずです。また、お金の流れを予測できていないと、お金が足りなくなって慌てて資金調達を行うことになります。しかし、資金調達には一定の時間がかかるのです。また、自分が焦っていると、自分にとって不利な条件での資金調達という結果にもなりかねません。こういった話のときによくあるのが、会計や経理のことは全て顧問税理士に任せているので、自分は詳しくは分からない、という事例です。しかし、任せていることと経営者自身が理解することは全く別の話といえます。それに、会社を大きくしていきたいとお考えの場合は、会計や経理はできるだけ社内で行うべきです。その方がリアルタイムに資金や利益の状況を把握できるし、経営に活かすこともできます。最近ではアウトソーシングも一般的になっていますが、まずは内製化し、理解した後、アウトソーシングという順番が良いと考えます。

  • 自分の事業や会社のステージ=段階を知りましょう
会社には、成長のステージ=段階があります。一般的には、シードやスタートアップ、ミドルステージ、レイターステージなどに分けられます。日本語でも、創業期、揺籃(ようらん)期、成長期、安定期などの言葉があります。

なぜそれを理解する必要があるかと言えば、ステージごとに適した資金調達の方法があるからだ。業種によってもマチマチなので一概には言えませんが、たとえば起業したばかりの頃の資金調達に関する「3F」という有名な言葉があります。Founder(起業家自身)、Family(起業家の家族)、Friend(起業家の友人)からの資金調達が良い、というものです。しかし、たまたまそれらの人が大金持ちでもない限り、事業を拡大するときに必要となる資金は準備できないでしょう。だから、次のステージでは、金融機関や投資家などから資金を集め、さらにステージが進むと株式上場をして株式市場から広く資金を集めるようになるのです。

  • 事業に、再現性を持たせる仕組みを作りましょう
再現性とは、わかりやすく言えば、成功の要因が分かっていて、それを別の機会にも一定以上の確率で実現できることを意味します。球技で言えば、自分のシュートの成功率を高めるには、ゴールの左側から、このくらいの距離でシュートを打つ必要があると理解していること。そして、それを実行できることを意味します。「なぜホームランを打てるか分からない」と言っている野球選手と、「自分はこういう場面ではホームランを狙えるから、その場面では積極的に狙っていく」と言っている野球選手、どちらをスカウトしたいと思うでしょうか?再現性を持たせるということはスポーツでも決して簡単なことではないですが、事業においても実は難しいことです。なぜお客様が自社の製品を選んで買ってくれるのかを正確に理解していない会社は少なくありません。みなさんはそうならないよう、再現性を持った事業を行って欲しいと思います。

  • 集中すべきことを決めましょう
集中すべきことを決める。言い換えると、「何をしないかを決める」ということです。起業家の特徴にも色々ありますが、多くの起業家に共通しているのは「アイデアが豊富」という点。それ自体は素晴らしいことですが、一方ではマイナスに働き、「特定の事業に集中できない」とか、「すぐに諦めて他の事業に興味を持ってしまう」となりやすいのも事実です。しかも、起業したての頃は、社内のあらゆる資源が不足しています。人もお金も時間も足りないのです。そういったときにあれもこれもやりたい、というわけにはいきません。資金提供者も「経営が散漫になり、どの事業も結果がでない」という事態は望んではいません。常に選択と集中が必要であることを覚えておいてください。

  • チームをつくりましょう
会社は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、どれもいまいちな結果となってしまう可能性が高いです。資金提供者も、起業家がスーパーマンであることを求めてはいません。むしろ、起業家自身の強みに集中し、それ以外のことはチームとして対応して欲しいと考えていますし、そういったことができる会社の方を高く評価するでしょう。みなさんは優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。

  • 最後にもう一度、必要な資金調達かを考えましょう  
「お金は多ければ多いほどよい」という考えもありますが、それが当てはまる局面と、そうではない局面とがあります。平成に起きたリーマン・ショックの後、ベンチャーキャピタルの間では「Cash is king」という言葉がよく使われました。世界的に資金調達が難しくなっていたので、「チャンスがあれば、可能な限り多額の資金を調達しておこう、そうでないと次の資金調達の機会はずっと先かもしれない」と考えざるをえなかったのです。

逆に、資金調達環境が良い時期もあります。景気は悪くないのに低金利のような時期が例として挙げられます。そのような時期には、ある程度の余裕を持たせるということは別としても、必要額をはるかに上回る資金を調達すべきではありません。借入であれば利息がかさむという問題もありますし、もっと重大なこととしては、経営の規律が緩むという問題があります。資金調達をした直後、その資金を事業に使わず、高級車を購入してしまう経営者も残念なことに珍しくはありません。資金調達の際には、常に、本当に必要な資金調達か考えるようにしましょう。

さて、次は資金提供側の目線や考え方について整理します。

起業間もない段階での資金提供側の視点は主にふたつです。融資候補先や投資候補先の経営者が信頼に足るかどうか、実現可能性や将来性のある事業計画であるかどうか。

まずは、信頼に足る起業家かどうかですが、起業家や経営者としての資質、人柄、初対面時の印象などが重要です。事業がうまく行きだすと天狗になる起業家は、当然ながら信頼されません。逆に、うまく行っているときにこそ、次の手を考え実行していく起業家は高く評価されます。貧すれば鈍すると言いますが、事業が苦しくなってから、どうすればいいか、などと考えるのは遅すぎるのです。そんなことを考える前に、今日を生き残ることで手一杯になってしまうからです。経験豊富な資金提供者は、それぞれ独自の起業家評価ポイントを持っています。そういった方々との面談などの場で急に取り繕っても見抜かれてしまいます。ぜひ、起業家や経営者のあるべき姿について、多く学んで、自分なりに考え、実践していってください。そういったことを真面目に取り組んでいればきっと評価してくれる人に出会えるはずです。

次に、事業計画の実現可能性や将来性ですが、実はそれを判断する際にもっとも重要な要素は、「誰が経営者であるか」なのですが、もちろんそれだけで良いわけではありません。事業計画の作り方の勉強会に参加したり、自分なりに考えることによって、実現可能性や将来性を資金提供者に納得してもらえるよう努力を積み重ねましょう。あと、必ず覚えておいて欲しいのは、事業計画は、資金提供者と起業家との間の大切な約束だということです。起業家は事業計画を示し、それを達成するために努力をすることを説明して、資金を調達します。資金提供者は、事業計画を見て、それが達成されることを期待して資金を出します。事業計画を示して資金調達する以上、大きな責任が発生することは忘れないで欲しいと思います。

本稿では最後にみなさんにふたつのことをお伝えします。

ひとつめは、起業や事業を行うことを楽しんで欲しい、ということです。本記事では「覚悟」や「責任」と一見重たいキーワードが多かったが、それを上回る楽しさを起業や事業に見いだせる人こそが起業家なのです。ワクワクすることが起業家にとっての最大のご褒美でありモチベーションの源です。ぜひ起業や事業を楽しんでください。

ふたつめは、「地域貢献のための起業」を最初から必ずしも考える必要はない、ということです。もちろん、明確に地域貢献をしたいと考えている方を否定しているわけではありません。すでに考えている方はとても素敵なことなので、ぜひ実行してください。逆に地域貢献を具体的に考えてはいない方も、自信を持ってください。真っ当な事業でありさえすれば、それを真剣に行うことで自然と地域貢献ができるのです。事業が大きくなれば、地域に雇用を産み、税金を納めることになる。それはとても立派な地域貢献なのです。

起業の覚悟、資金調達の責任(上)

今回と次回は、起業ということを「覚悟」というキーワードで、そして資金調達を「責任」というキーワードで考えてみたいと思います。いずれも、「起業する前」のみなさんが起業や資金調達についてより深く考えるきっかけとなれば幸いです。

なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。

さて最初に「起業」と「資金調達」の意味について考えてみましょう。

「起業」と一言で言っても、
・最初から株式会社を設立して事業規模の拡大を目差すパターン
・個人事業主から開始して段階を踏んで事業規模拡大を目差すパターン
・事業規模の拡大を前提としていないフリーランサーやクリエイターのパターン
など様々なパターンがあります。

Web関連事業やコンサルティング業のようにパソコンひとつで起業できる業種もあります。実際に私は開業に際しては、パソコン、スマートフォン及び名刺を用意し、コワーキングスペースに入会しただけです。一方でものづくり、農業や店舗運営のように一定の資金が必要とされるものもあります。

しかし、いずれにしても「覚悟」が必要とされない「起業」はありません。今回と次回では「起業」の中でも、自分以外の人からも何かしらの方法で資金調達を行う必要がある、言い換えれば人のお金を預かる覚悟が求められる「起業」を前提として話を進めたいと思います。

次に「資金調達」ですが、この言葉にもさらに分解できます。
  1. デットファイナンス : 金融機関からの借入が典型例です。
  2. エクイティファイナンス : エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルやCVCからの資金調達が例に挙げられます。
  3. アセットファイナンス : これは「起業」の段階ではほとんど関係ないためこれ以降は触れませんが、会社が保有する土地や建物などの資産=アセットを活用して資金を得る方法を指します。
  4. 事業で得られる儲けを蓄積する

本記事での「資金調達」とは、直接的に他者に対する責任が発生する「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」を前提として進めたいと思います。ファイナンス=資金調達、デット=負債、エクイティ=株式と適宜読み替えてください。

では、ここからが本題です。「覚悟から考える起業」ということで、これからいくつかの質問をします。ひとつひとつ、自分に問いかけてみてください。これらの質問は、ベンチャーキャピタルでの活動や、起業相談を受ける中で整理していったものです。

  • 大きな失敗をしても、また挑戦する覚悟はありますか?
まずは、みなさんの過去の経験の中で、大きな失敗をしたことがあるか、それは何だったか、思い出してノートに書き出してみてください。次に、みなさんがやろうと考えているビジネスで想定される大きな失敗とは何だろうか?それも書き出してみてください。。

この質問は、失敗=悪いこと、という意味合いでしたものではありません。どんなに優秀な人でも、挑戦する人は必ず失敗します。失敗をしたことがない人は、挑戦してこなかっただけです。失敗を想定していない人は、自分の能力を過信している傲慢な人にすぎません。一方で挑戦して失敗する人は、その試行錯誤の中で大きく成長していきます。そして失敗経験を活かすことで、次の成功確率を高めていくことができます。事業はその連続ともいえるものです。また、成功から法則を見出すことは難しいですが、失敗から法則を見出すことはできる、ということもいえます。

繰り返しになりますが、挑戦する以上、失敗は避けられません。失敗から学ぶことなしに成長もできません。つまりは、失敗する覚悟、それを乗り越える覚悟が「起業」には必ず必要となるのです。

  • 本当の「人脈」を活用する覚悟はありますか?
そもそも人脈とは何でしょうか?交換した名刺の数や、有名人と知り合いであることを自慢するタイプの方もいらっしゃいますが、それは人脈といえるのでしょうか?広い意味ではそうかもしれません。しかし、「起業」における「人脈」とは、あなたを信じて仕事を出してくれる人、あなたを信じてお金を出してくれる人、このような人たちとの関係を指します。きっとみなさんの周りにはみなさんの起業を応援してくれる方々が大勢いると思います。そういった方々との関係も当然ながら大切しなければなりません。一方で、応援だけでは事業は成り立たないのも事実です。起業における本当の人脈を持っているかどうか考えてください。そして、その人脈を活用する覚悟が自分にあるか問うことが大切です。

  • 人のお金を使う覚悟はありますか?
どんな方法で資金調達したとしても、人のお金を使って事業をする上では、様々な義務が生じます。そしてほとんどの場合、返済する金額は借りたり投資を受けたりした金額よりも大きくなります。もしくはそういった約束や目標設定をします。また、知人や友人からお金を出してもらうということは、万が一事業が失敗したときに、同時に人間関係も崩れる可能性があるということでもあります。そういったことを理解した上で、人のお金を使う覚悟はありますか?

  • 様々な人との関係で苦労し、苦悩する覚悟はありますか?
日常生活であれば、不都合のある相手とは距離をとったり、自分が引くことにより特に問題を表面化させずに済ませることができます。しかし、起業すれば自分が代表者であり最終責任者であるため、逃げることは許されません。どんなことも、どんな人に対しても何かしらの判断のもと、対処していく必要があります。

社内でも同様です。起業家自身と創業メンバーの間には覚悟や意識の大きな差があります。場合によっては、創業メンバーのサラリーマン精神が表面化することも。そのときには、創業メンバーと言えどもお互いのことを本当の意味で理解していないことにショックを受けると思います。それでも事業は一緒に行っていく必要があります。

友人と一緒に会社を経営する場合には、友人を解雇する必要に迫られるかもしれません。友人に会社の借入の連帯保証をしてもらう必要が生じるかもしれません。家族との関係で苦悩することもあるかもしれません。

起業家はある段階では、ワークライフバランスなどと言ってはいられない場面にも直面します。運悪く、配偶者との関係がうまくいっていないタイミングと重なれば、離婚をつきつけられる可能性もあるのです。

最初は支援者だった人が、何かのきっかけで最大の敵対者になることだって少なくはありません。そうなると大変です。相手は「せっかく応援してやったのに裏切りやがって」と、普通では考えられないほどの嫌がらせをしてくるような事例もあります。

良くない可能性の話ばかりをしてしまいましたが、どれもが起こりうることです。そういったことに苦労し、苦悩することへの覚悟も必要です。

  • 事業計画を、事業経験者を含め多くの人に見てもらい、厳しい意見をもらう覚悟はありますか?
どんなにじっくり考えた事業計画でも、人の批判にさらされていない計画は十分ではありません。特に類似の事業を経験している方の意見はとても貴重なものです。その方の話を聞くことで失敗の疑似体験もできるはずです。

事業計画を人に見せることに強い抵抗感を持つ方も多いかと思います。しかし、安心してください。人に見せたり話したりしたくらいで成り立たなくなる事業は、はじめから長持ちはしません。真似されることを恐れるよりも、人の批判にさらされていない不完全な事業計画であることを恐れて欲しいと思います。もちろん、見せる相手は選ばなくてなりませんが、多くの人に見せて厳しい意見をもらうことで事業計画はより良いものになります。一人ひとつの意見でも、100人に見せることで100個の改善点に気がつくことができるのです。

ぜひ、自分の事業計画が批判される覚悟を持って欲しいと思います。

  • 自分を理解して、環境の変化に対応していく覚悟はありますか?
会社を経営していくうちに必ず環境の変化に遭遇します。そのときに生き残ることができるのは、ダーウィンが言うように「環境に適応した者」だけです。「自分は○○な性格だから……」と自分の限界を自分で決めてしまう人は、自分だけでは環境の変化に適応できません。その場合、自分の弱いところを補ってくれるパートナーが必要となります。

しかし、どんなに素晴らしいパートナーがいる場合でも、自分自身の変化が必要な場面もあります。その際に試されるのが、「自分の限界を超えるほどの努力をしたことがあるか」ではないでしょうか。学生の方であれば、「人生でこんなに勉強したことはない」と言えるほどの勉強を今からでもして欲しいと思います。

  • 情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?
ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に対し、残念ながら投資は行わないという判断をすることも少なくはありません。しかし、その中にも実は、直感的に素晴らしいと感じる事業も多くあるのです。では、投資をしないという判断をしたのはなぜでしょうか。もちろん理由はひとつではありませんが、最も多い理由のひとつに「情報軽視、誤った情報分析」というものがあります。「私の事業はとてもユニークであり、世界に同じことをやっている企業は存在しない。」という思い込みが典型的な例です。事業計画の検討には、「競合分析」という項目を必ず盛り込むべきですが、その際、次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。

ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。

競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。

  • 撤退する勇気はありますか? 合理的に判断できる自信はありますか?
起業前後というのは、ひたすら前向きなことを考え、良くない可能性には目を向けたくない時期です。しかし、撤退の可能性を考えないのは、目を背けていれば撤退するような状況には陥らないと考える、非科学的な姿勢ともいえます。どういう場合に撤退すべきか、撤退する際にはどれほどの損害が発生するのかを考えておく必要があります。

まずは撤退を合理的に判断できる知識を身につけておきましょう。経済学やファイナンスの知識です。「サンクコスト」という言葉があります。日本語にすると「埋没費用」です。実はこの言葉を知っているだけで、撤退の判断をより合理的に下せる可能性が高まります。みなさんの周りでも「今までかけた時間と資金が無駄になるから、中止なんてできない」という話を聞いたりすることはないでしょうか?こういう場合に、サンクコストの考え方を応用すると、「過去に投資した資金や労力は一旦脇に置き、これから必要となる投資額とその効果を再度計算しなおして、投資継続か撤退かを判断しよう」と考えられます。ぜひ、経済学とファイナンスの基礎的な知識は身につけておいてください。

  • 越境することを楽しめますか?
越境とは、例えば自分が経験のない分野の仕事に就いてみたり、全く文化の違う外国に飛び込んだり、自分の従来の枠を飛び越えることを意味します。新しい価値観とぶつかり合うことは人が最も成長できる場面のひとつです。「新しい価値を生み出すことができるのは、越境した人だけ」と言われることもあります。会社を変革できるのは「若者、馬鹿者、よそ者だけ」という言葉とも通じるところがあるのではないでしょうか。

本稿では「自分に問いかけて欲しい質問」を通じて、起業を「覚悟」という面から考えてみました。当然ながら、他にもたくさん覚悟する必要があることは少なくありません。また、起業後の事業の段階ごとに覚悟すべき事項も変わってきます。起業の段階は主に始める覚悟ですし、仲間を増やす段階では、人の人生を背負う覚悟が求められます。事業を拡大させる時期には、波に乗る覚悟、組織をつくる覚悟、社員などに背中を見られる覚悟が求められます。会社が安定成長に入っても、安定が衰退の始まりだと考えると、経営を変えていく覚悟が必要となるでしょう。起業前のみなさんから見ると、少し将来の話もありますが、まずは「あなたは覚悟ある起業家か?」という問いに少しでも自信を持って回答できるようになれると素晴らしいと考えます。

次回は、資金調達を「責任」というキーワードで考えます。