NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2021年10月25日月曜日

M&Aの基礎知識:FA形式と仲介形式

M&Aについては本日現在、バリュエーションについての記事を連載中ですが、それとは別に単発テーマを取り扱う「M&Aの基礎知識」のコーナーも不定期で掲載します。

今回は、中小M&Aにおける論点として「FA形式と仲介形式」について取り上げます。

なお、NGCパートナーズでは、中小M&Aガイドライン遵守宣言にも記載したとおり「利益相反リスクを完全には排除できないため、原則として仲介契約は締結しない」という方針ですので、仲介形式には若干否定的な立場です。

ですが、仲介形式にはFA形式にはないメリットもあるのも事実ですので、仲介形式に肯定的な解説や、中立な立場の解説など含め、同様の記事にいくつか目を通したり、実際にM&Aアドバイザーを活用したことがある経営者に話を聞いたりすることをお勧めします。

1.M&Aアドバイザーとは?

 ファイナンシャル・アドバイザー(FA)や、M&Aコンサルタントと呼ぶこともあります。
 M&Aに必要な専門知識やネットワークを保有していて、それを活用してM&Aの当事者である買い手や売り手に対し、助言やサポートを行います。「代理」という用語が使用されることもありますが民法上の代理権はない事例が大半です。

 以下、日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトからの抜粋です。
「M&Aアドバイザー」とは、M&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担うM&Aのスペシャリスト(専門家)を意味し、「M&Aコンサルタント」や「ファイナンシャルアドバイザー(FA)」等とも呼ばれます。
   (中略)
「M&Aアドバイザーの仕事は財務会計・税務・法律のるつぼ」と表現される様に、その業務範囲は広く、幅広い知識と能力を必要とします。また、M&Aアドバイザーとしてプロフェッショナルになる為には、財務会計・税務・法律の他に、経営を理解し、交渉やファシリテーション等のコミュニケーション能力の高さも必要となります。
   (中略)
顧客の経営戦略という重要課題のサポートを行い、日本経済を支える企業経営における重要な部分のお手伝いをするのがM&Aアドバイザーです。(以下、略)
なお、そもそも「M&Aアドバイザー」は利用した方が良いのか?メリットは?とお悩みの方は、同協会の以下のページをご覧ください。
 買収を検討されている方はこちら
 売却・譲渡を検討されている方はこちら

2.FA形式と仲介形式の概要

 M&Aアドバイザーが買い手や売り手に助言やサポートを行うにあたって、形式が大きく二つに分かれます。日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトには以下のように記述されています。
通常、企業がM&Aを実行する場合、M&Aアドバイザーに契約成立までの一連のサポートを依頼しますが、アドバイザーの関わり方には、主に「アドバイザリー形式」と「仲介形式」という二つの着任形式があります。アドバイザリー形式の場合には、売り手と買い手それぞれにM&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手と買い手、それぞれの立場で助言を行います。一方、仲介形式の場合には、売り手と買い手の間に、M&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手、買い手の間に立って、中立的な立場で助言を行い、媒介とも呼ばれることもあります。
分かりやすく図示すると以下のようになります。

左図のような、買い手側と売り手側それぞれに異なるM&Aアドバイザーが付く形式が「FA形式」(上記協会の引用文は「アドバイザー形式」となっていますが同じ意味)です。FAはファイナンシャル・アドバイザーの頭文字をとったものです。キーワードは「交渉」です。FAは依頼主の利益のために活動する、という形式であるため、依頼主の利益を最大化することができるというメリットがあります。

一方で、右図のように、買い手側と売り手側の間にM&Aアドバイザーが付く形式が「仲介形式」です。キーワードは「調整」です。買い手のことも売り手のことも理解している仲介会社が介在することで、M&Aが円満に進んだり、成約に至りやすいというメリットがあります。

3.FA形式と仲介形式を比較した際の主な論点

(1)FA形式は日本の中小M&A文化に合わないというのは本当か

 先述のとおり、FA形式のキーワードは「交渉」です。買い手・売り手それぞれにM&Aアドバイザーが就任し、買い手のアドバイザーは買い手の利益のために活動する、売り手のアドバイザーは売り手の利益のために活動する、という原則の下、両者間で「交渉」が行われます。依頼主の利益のために交渉するというのは当たり前のことではあるのですが、中小M&Aの場合、「交渉」が行き過ぎると後々災いを呼び込む可能性が高いということが言われます。

M&Aというのは手続きとしては株式譲渡などによる経営権の移転で終了ですが、経営権の移転というのはその後の経営によりシナジーの実現など、M&Aの目的を達成するためのスタートでしかありません。そして、シナジーの実現のためには、当事者間の協力体制を築くことが必要不可欠です。しかし、M&Aの段階で「交渉」が行き過ぎた結果、当事者間にしこりが残り、その後の協力体制構築に悪影響が出る場合があります。キーパーソンが退職するといったこともあります。事業の実務を遂行するにあたって「仕組み」の割合が比較的大きな大企業の場合は影響が少ないかもしれませんが、「人」の割合が大きな中小企業では致命的な影響になりかねません。

といったことがFA形式の懸念点としてよく挙げられるのですが、FA形式→交渉が主→軋轢を産む可能性大、という流れはかなり短絡的であると私は考えます。結局のところ、FAであろうと仲介会社であろうと、依頼主の希望を叶えるために活動する立場ですから、その活動姿勢にも依頼主の考えや想いが反映されます。「徹底的に安く買いたい(高く売りたい)」という考えで且つM&A後の経営を考慮しないタイプの依頼主であれば、FA形式であろうと仲介形式であろうと、軋轢を産む可能性があるでしょう。逆にM&A後の経営も考慮している依頼主の下であればFA形式であってもそうそう軋轢を産むことにはなりません。

以上のことから、「FA形式は日本の中小M&A文化に合わない」可能性はあるものの、より重要なのは依頼主の考えや姿勢である、と言えると考えます。

(2)仲介会社は中立な助言をしてくれるのか

 仲介形式は上図のとおり、買い手と売り手の間にたって、両者の利益や思惑の「調整」を行います。「交渉」がキーワードとなるFA形式よりも、円満な合意に至りやすいとも言われています。一方で、必ず付きまとうのが「利益相反」というキーワードです。

上記のとおり、FAや仲介会社は法律上の代理人ではないのですが、それに近しい立場であるため、民法第108条第2項の趣旨である「利益相反行為の制限」の考えと取り入れ、M&Aでも仲介形式は避けるべきである、と言われることが少なくありません。
民法第108条(自己契約・双方代理)
1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
具体的な利益相反としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。
  • 買い手と売り手との間で、株式譲渡額が論点となっている際、仲介会社がどちらか一方に有利な株式譲渡額を提案する。
  • 対象会社に何かしらの問題が発見された場合に、仲介会社が買い手側に適切にそのことを伝えない。
といったことが考えられます。また、
  • 多くの場合、「売り手は一度会社を売ってしまえば、仲介会社のリピーター顧客にはなりにくい(売り手が何社も会社を保有しているような事例を除いて)」、一方で「M&Aに積極的な買い手は、また別のM&Aの場面で仲介会社のリピーター顧客となることがありうる」ため、仲介会社は構造的に売り手側よりも買い手側の意向を重視しやすい傾向がある。
といったことも言われます。

仲介形式を採用する以上、「利益相反」のリスクは完全には排除することができません。依頼主側としては、M&A仲介会社やその経営者の実績や姿勢、担当コンサルタントの人柄などを見極める、任せっきりにしないで意思決定をしていくなどの方法でリスクを低減していくべきです。

なお、NGCパートナーズでは、「経営・財務コンサルティング先の事業者の成長戦略や事業承継に必要な場合のみM&Aアドバイザーを引き受ける」という方針であるため、原則としてFA形式のみ対応しており、利益相反を回避できない仲介契約は締結しないこととしています。当事者一方と従前から経営・財務コンサルティングに関する契約を締結している以上、仲介契約を締結しても、中立な立場でM&Aアドバイザー業務を行うことは難しいからです。

(3)仲介形式の方が低コストというのは本当か

 中小M&Aにおいて、FA形式は仲介形式に比べコストが高く、採用しずらいと考えられています。FA形式ではM&Aアドバイザーが2社(者)関与する一方、仲介形式はM&Aアドバイザーが1社(者)しか関与しないため、仲介形式の方が低コストと見られているようです。

多くの場合、そうであるかもしれません。しかし、中には仲介会社が買い手からも売り手からもFA形式と同水準の報酬を受け取る事例も少なくないようです。もちろん、それに見合った活動をしてくれたら問題はないのですが、FA形式=高コスト、仲介形式=低コスト、と短絡的に考えるのではなく、個別具体的に見極めることが重要です。

2021年10月24日日曜日

コンテンツ紹介:NGCパートナーズのWebサイト20211024


NGCパートナーズのWebサイトに少しずつコンテンツを追加しています。

1.TOPページ https://www.ngc-partners.biz/

TOPページには、
  • 新着情報
  • 過去の新着情報(2021年)
  • COVID-19感染拡大防止への取り組み
  • 免責事項
  • プライバシーポリシー
を掲載しています。Webサイトを開設して間もないこともあり、こまめにアップデートを行っていますので、新着情報は多めになっています。Web会議だけでは完結しない業務もあることから、新型コロナ(COVID-19)の感染対策についても紹介しています。

2.事業者の概要  https://www.ngc-partners.biz/about

事業者の概要のページには
  • 事業者の概要
  • 代表者の略歴
  • 代表者メッセージ
  • 中小M&Aガイドライン遵守宣言
を掲載しています。「代表者メッセージ」は、核や軸となる部分は不変としつつも、内容の追加や表現の変更を適宜行っていますので、ときどきご確認いただけると嬉しいです。「中小M&Aガイドライン遵守宣言」は登録M&A支援機関でない以上、掲載の必要はないのですが、中小M&Aガイドラインを遵守していることを示すため掲載しています。

3.事業の概要 https://www.ngc-partners.biz/business

事業の概要のページには、
  • 事業の概要
  • 中小M&Aのセカンドオピニオン
  • 公開可能な買収希望情報
  • 解説記事のピックアップ
を掲載しています。事業項目それぞれについての詳細な説明は今後適宜追加したいと考えていますが、作成済みであった「中小M&Aガイドライン」について先行して掲載しています。「買収希望情報」は公開できる案件がある場合のみ一部情報を掲載する方針です。「解説記事のピックアップ」はNGC Partners Weblogの中で主に連載しているものを分かりやすく列挙したものです。

4.NGC Partners Weblog https://www.ngc-partners.biz/blog

NGC Partners Weblogのモバイルページを埋め込んで表示しているページです。

5.Contact https://www.ngc-partners.biz/contact

コンサルティングやプライバシーポリシーに関するご依頼、ご相談やその他のお問い合わせをお預かりするページです。


今後も随時コンテンツを追加し、充実した段階で本格的なサイトにリニューアルさせたいと考えています。当ブログと合わせてご覧いただければ幸いです。

2021年10月21日木曜日

コンテンツ紹介:公開可能な買収希望情報

NGCパートナーズのWebサイトでは、受託しているM&Aアドバイザリー業務の中から、公開可能な「買収希望」情報の一部を掲載しています(買収希望とは、会社や事業を買収したいという希望、を意味しています)。

注意点としては
  1. 加入している日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)のデータベースのページに詳細を掲載している。
  2. クライアントの意向によりそもそも掲載していない案件や、JMAAの正会員のみに限定して詳細情報を公開している案件も含まれる。
  3. 経営・財務コンサルティングの一環としてM&Aアドバイザリーを行っているので、買い手側FAとして活動している事例が大半である(また、同様の理由で仲介業務は原則として行っていない)。
などがあります。

本日時点の案件は以下のとおりです。会社の譲渡・売却等をお考えの企業オーナーの方、該当するクライアントがいらっしゃるM&Aアドバイザーの方、ぜひこちらからご連絡ください。
1.福岡県内での食品製造業、木材・木製品製造業等の買収希望
 JMAA正会員のみに公開。
 JMAAの案件管理システムからご確認ください(買収希望ID349)。

2.長崎県内での食品製造業、木材・木製品製造業等の買収希望
 JMAA正会員のみに公開。
 JMAAの案件管理システムからご確認ください(買収希望ID348)。

3.福岡県内でのビルメンテナンス業の買収希望
 一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

4.福岡県内での洗濯業の買収希望
一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

5.福岡県内での麺類製造業の買収希望
一般に公開。詳細はこちらからご確認ください。

情報の更新などの可能性ありますので、最新情報はこちらからご確認ください。

2021年10月19日火曜日

M&Aバリュエーション基礎4 基本用語解説三回目 マルチプル法

引き続き、バリュエーションの基本用語の解説です。
今回は、EV/EBITDA倍率法に代表されるマルチプル法(類似会社比較法)に関連する用語について解説します。

■マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法は、他の方法に比べ比較的簡便であることから、未上場企業のバリュエーションの際に利用される最も一般的な方法のひとつで、類似会社比較法とも呼ばれます。バリュエーションの対象となる会社と類似の事業を行う上場企業を複数選定し、それらの企業の企業価値に関する指標を参考にして、対象となる会社の株主価値を算出しようとする方法です。マルチプル法にも複数の方法があり、M&AのバリュエーションではEV/EBITDA倍率法が最もよく使われます。
算出の手順を簡単にまとめると、
  1. 類似会社(上場企業)の財務数値と株価から、当該類似会社の事業価値がEBITDAの何倍になっているかを算出し、その平均値を計算します(EV/EBITDA倍率)。
  2. 対象会社の修正EBITDAEV/EBITDA倍率を乗ずることでその事業価値を計算します。
  3. 当該事業価値に投融資(もしくは非事業用資産、事業に関係のない資産の時価のこと)と現預金額を加算し、有利子負債を差し引くことで株主価値を計算します。
という流れとなります。詳細は計算式を含め後日解説します。

■類似会社

バリュエーションの対象会社と同様の事業を行っている上場企業のことです。ただし、多くの上場企業は複数の事業を行っているため、対象会社と売上構成が一致している例はあまりありません。そのため、類似セグメントの売上割合や利益の割合なども勘案し選定します。

■EBITDA

「利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益」のことで、「earnings before interest, tax, depreciation, and amortization」の頭文字をとったものです。中小M&Aのバリュエーション上での計算式は「EBITDA=営業損益+減価償却費+のれん償却額」を使用します。費用発生時点でのキャッシュアウトがない減価償却費とのれん償却額を営業損益に足し戻すことで、簡易な営業キャッシュフロー(つまりは本業で稼ぎ出すキャッシュフロー)として捉えられるという理由や、企業ごとの会計処理に違いがあることが多い減価償却費などの影響を排除することで企業間での数値比較をしやすくする意味などがあり、EBITDAを使用します。多くの解説文では「EBITDA=営業損益+減価償却費」と記載されているのですが、M&Aが一般的になったこともありのれんの償却が発生している企業も増えたので、「EBITDA=営業損益+減価償却費+のれん償却額」と覚えておく方がより正確です。

■類似会社(上場企業)の株主価値

株式時価総額のことです。上場企業である類似会社は日々株式市場で株価が推移していますので、その株価を利用し、「株主価値=時価総額=株価×発行済株式総数」という計算式で算出します。株価は証券会社のWebサイトやYahoo!ファイナンスなどを利用して調べます。発行済株式総数は当該類似会社の有価証券報告書などで確認します。

■EV/EBITDA倍率

事業価値がEBITDAでの何倍であるかということを表す指標です。倍率のことをマルチプルと呼ぶことからここでの企業価値算定方法は実務上、マルチプル法と呼ばれます。

■非流動性ディスカウント

上場企業の株式は理論上は上場市場を通じていつでも売買ができることになっています。そのことを「流動性がある」と言います。一方で未上場企業の株式は日々取引がされているわけではなく、売買の機会は限られているので「流動性がない」と言います。このように両者の株式の換金のしやすさには差があるため、それを調整するための項目として非流動性ディスカウントが使われます。

■有価証券報告書

主に上場企業が金融商品取引法(以前の証券取引法)で開示を義務付けられている資料で、投資家がその上場企業の株式へ投資を行うか否かの判断に利用します。企業や事業の概要や、決算数値の詳細が載っているため、上場会社である類似会社の詳細な情報を調べる際に使用します。当該類似会社のWebサイトや金融庁のEDINETからダウンロードが可能です。

次回はディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)に関連する用語を取り扱う予定です。


2021年10月8日金曜日

M&Aバリュエーション基礎3 基本用語解説二回目 企業財務の基本バランスシート2

前回に引き続き、バリュエーションの基本用語の解説です。
今回は、前回ご紹介した「企業財務の基本バランスシート」に関連する用語について解説します。


■投融資

非事業用資産」と表記することもあります。いずれにせよ、事業に使用していない資産はすべてここに含まれると考えて実務上は差し支えありません。ほとんどの保有有価証券、他社への融資・貸付などが該当します。役職員用の保養施設などは利用実態や事業への貢献度合いに合わせて、ここに含める含めないを判断します。

■現預金

文字どおり現金と預金の合計を意味するのですが、短期売買目的の株式等を保有している場合は、短い時間で確実に現金化できると考え、現預金に含む取り扱いにすることがあります。

■事業価値

M&Aのバリュエーションで最も肝となる用語です。教科書的な定義は「その企業が稼ぎ出す将来のFCFの現在価値の合計」ですが、まずは「その会社が現在から将来にわたって稼ぎ出す(予想・計画の)キャッシュフローや利益を元に、一定の計算方法で算出される、事業そのものの価値」と理解しておいてください。「一定の計算方法」というのが、本連載での説明の中心となる類似会社比較法ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)などのことを意味しています。
なお、エンタープライズ・バリュー(EV)はこの事業価値のことを指します。EV=企業価値、との誤解がよく見受けられますのでご注意ください。

■企業価値

事業価値に、非事業用資産である投融資及び現預金を足し合わせたものです。貸借対照表の総資産に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。

■有利子負債

文字どおり、利払いが必要な負債、を意味します。金融機関からの借入、リース債務が典型例です。役員借入金はバリュエーション上の有利子負債には含まないことが一般的です。中にはしっかりと金銭消費貸借契約を締結して、利払いもしている例もあり、その場合は一見して有利子負債と考えられなくもないですが、資本金に近い性質を持つものとして、実務上は有利子負債には含まずに計算します。

■純有利子負債(NetDebt)

有利子負債から、現預金を差し引いたものを意味します。現預金の方が多い場合は「NetCash」と呼びます。日本語にすると「純現預金」ですが、実務上は「ネットキャッシュ」ということが一般的です。

■株主価値

企業価値から、有利子負債を差し引いたものを意味します。貸借対照表の純資産・株主資本に対応しそうに見えますが、実際には数値が一致しないことがあります。
なお、株式上場に関わるバリュエーションで採用されるPER倍率法・PBR倍率法・PSR倍率法は、この株主価値に該当する株式時価総額を直接的に計算する方法です。

次回も基本用語の解説を続けます。次回はEV/EBITDA倍率法に代表されるマルチプル法(類似会社比較法)に関連する用語を取り扱う予定です。