NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年6月29日月曜日

事業計画の作り方5 起業前の方向け(4) 営業、競合・代替品

今回は「顧客」にどのように到達してどのようにモノやサービスを購入してもらうのかということを考える営業と、「顧客」から見た場合に他の選択肢となる競合・代替品について説明します。営業については本シリーズとは別に「スタートアップにとっての営業」という記事もアップしていますので、そちらも合わせてご覧ください。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

前回説明した「顧客との関係」との違いがやや分かりにくいですが、「顧客との関係」がサービスの提供場面、「営業」は文字通り販売の場面、と考えると区別が分かりやすくなります。

(5)営業


本シリーズで想定しているスモールビジネスの場合、販売の場面で顧客に到達するための方法としては、

  • 個人営業 or 法人営業
  • 直接販売 or 代理店販売 or Web販売
  • プッシュ(積極営業)型 or プル(店舗)型
  • 他力(提携先)活用、人脈活用

があり、提供するモノ・サービスに応じた選択と組み合わせが必要です。例えば、
「法人営業、直接販売型で、プッシュ型、人脈活用」という組み合わせであれば、リスト化した見込み顧客に他社・他者を介さずに自社側から積極的にアプローチする。見込み顧客リストは人脈を可視化したものを活用する。
といった具合です。最近では多くの広告宣伝費を投入し見込み顧客リストを作ったり、外回り営業ではなくインサイドセールスと呼ばれる営業のフローをWeb上で完結させようとする方法が一般的になってきたりなどのトレンドもありますが、多額の広告宣伝費を投じるビジネスモデルは本シリーズで想定しているスモールビジネスにはそぐいませんし、インサイドセールスは上記方法をより具体化したものであり、矛盾したりするものではありません。

自分の事業にとってどのような営業方法の組み合わせが適切かを考えた後、次には選択した方法ごとに、それを実現させるために必要な事項を考える必要があります。

・直接販売+プッシュ型
 この組み合わせの場合先程も触れたとおり、見込み顧客リストの作成方法を考える必要があります。法人営業であれば探せば自分がアプローチしたい属性の企業リストが見つかることもあります。個人の場合はきっと簡単ではありません。Webを活用したり、昔ながらのチラシ配布→無料体験→リスト化などの方法をとったりします。また、見込み顧客リストができても実際にアプローチを行う営業部隊の構築が必要です。目指す売上規模によっては最初は経営者のみで営業を行うこともありますが、いずれ営業専任者が必要となるでしょう。どういった経験を持った人物を採用するか、営業の成績をどう評価しどう報いるのか、営業担当者は日々どういった数字を追いかけ行動するのか、などを考える必要があります。

・代理店販売→代理店開拓方法、代理店稼働率向上方法
 代理店を活用する場合でも、そもそもどういった存在が代理店に相応しいか、そしてどうやって開拓するか、代理店契約締結後にどうやって代理店に動いてもらうかなどを考える必要があります。

・Web販売→広告の出し方 等
 Webでも同様です。販売サイトをただ開設しただけでは売上はあがりません。どのように販売サイトに来てもらうか、販売サイトを見るだけではなくいかに購入してもらうか、などを考える必要があります。Webの場合、他の販売方法よりも見込み顧客の動きを数字で捉えやすい面があるので、数字を見ながらの試行錯誤も重要です。

(6)競合・代替品


文字通り、自社の事業の競争相手になる存在や、自社の製品やサービスの代わりとなりうる他社の製品やサービスを意味します。

競合と代替品の区別は今はあまり深く考える必要はありません。後ほど説明するように自社の事業の位置付けをどう捉えるかによって変わってくる相対的な違いだからです。自社を鉄道事業と捉えている企業から見ると他の鉄道会社が競合で、航空会社や自動車は代替品に相当しますが、自社を鉄道会社ではなく顧客運送業と捉えると航空会社は代替品ではなく競合に相当するようになる、といった具合で相対的な違いしかありません。

競合・代替品について考えるとき、調べるときは以下の点が重要です。

  • 競合・代替品が存在しないという発想は捨てる。
  • 競合・代替品か否かは顧客の視点で考える(製品やサービスレベルではなく、提供価値のレベルで考える)。

記事「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」の「情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?」の項で競合分析の重要性について説明していますので、そこから以下引用します。
次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。 
ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。 
競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。
例えば、CDプレイヤーを販売する事業の場合、自社の事業や製品をCDを聴くためのデバイスと考えるか、音楽を楽しむための手段と考えるか、安らぎを得るための方法と考えるかで競合も代替品も変わってきます。

また、「営業」は顧客との関係の中だけではなく、競合企業の動きによっても変わってくる可能性がありますのでその観点でも競合や代替品の分析は重要です。

今回は以上です。
次回は「組織・チーム、社外パートナー」の説明から開始します。

2020年6月28日日曜日

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。
いよいよ西洋最高の英雄と言われるユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の登場です。ローマという国家が共和政の制度疲労で混迷している中、カエサルはその変革を行い帝政の基礎を築きます。その才能は超一流の軍人や超一流の政治家としてのものに留まらず、文筆家としても超一流でラテン文学を代表するうちの一人と言われています。また、才能だけではなく溢れるような人間的魅力があるのが特徴です。
塩野七生さんの力も相俟って、この本を読んでいると眼の前にカエサルが実際にいるようにも感じてしまいます。

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

  1. 指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた。(イタリアの教科書)
  2. 人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。(ユリウス・カエサル)
  3. 人は、仕事ができるだけでは、できる、と認めはしても、心酔まではしない。言動が常に明快であるところが、信頼心をよび起こすのである。
  4. 情報の重要性を知らない人間が相手を見くびるようになれば、普通でも入ってくる情報を集めることさえ怠るようになる。
  5. (文民は軍隊が隊列や規則にこだわることを馬鹿にすることがあるが)隊列が乱れていては、行軍でも布陣でも指令が行きとどかない恐れがある。(中略)(軍隊は)指揮命令系統が明解である必要がある。
  6. あせれば人は、ごく自然に以前の成功例にすがりつくようになるものである。
  7. 人間誰でも金で買えるとは、自分自身も金で買われる可能性を内包する人のみが考えることである。
引用元「ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

(1)指導者・リーダーの資質については、多くの人物・書籍がその内容を論じています。ここで挙げられている五つもなるほどと思わせるものです(ただし、ここではその一つ一つが重要なのではなく、カエサルだけが、指導者に求められる資質を全て持っていた、ということそのものが重要なのではありますが)。「説得力」だけではなく「知性」が挙がっているのは注目すべきです。最近でこそビジネスパーソンにもリベラル・アーツといったことが重要視されるようになりつつありますが、知性を軽視する人がまだまだ多いとも感じます。

(2)これもその通りだと思います。ただ、見たくない現実を見るためにはどうすれば良いのか?という難問が残ります。経営者の場合は、忌憚なく意見を言ってくれるパートナーなどがこの問題を解決する手助けをしてくれるかもしれません。いずれにせよ「自分が見たいと思っている現実しか見えていないのではないか」と常に自分に問い続け、そうならないように、またはそうなってしまっても気づくことができるようにする仕組みを考えることが重要です。

(3)これは、ファンド、金融機関や経営コンサルティング会社に所属する人間が自戒を込めて認識しておくべき言葉です。これらの業界には頭が良い人間は多いのですが、残念ながら(きっと私もその例外ではなく)強い思いに裏づけされた思想的な背景がない人物が多く、そういった人物は言動に一貫性がなく、状況が変わると平気で矛盾した言動を行います。事業会社の方から「信頼」してもらえないことがあるのだとしたら、そういったところを見透かされているからかもしれません。

(4)よくいわれることですが、日本人は情報の重要性を軽視する人が多いようです。例えば、昭和の旧日本陸軍では情報将校よりも作戦将校が重視され、その結果、現地の実態を無視した「机上の作戦」が実行されるようなことが常だったといわれています(明治・大正の旧日本陸軍で必ずしもそうではなかったようですが)。また、日本語の「情報」という言葉も定義が曖昧で、「date」を意味するのか、「information」なのか、それとも「intelligence」なのかはっきりしません。ちなみに、断片的な情報である「date」を収集・整理すると「information」となり、それを分析・評価すると「intelligence」になると言われています。そういった違いを意識して「情報」を取り扱うだけでも効果があるかもしれません。

(5)スタートアップの経営者は、指揮命令系統をはっきりさせることやその前提となる組織づくりが苦手な人が多いように感じます(最近でこそ大手企業での就業経験がある経営者など、苦手ではない方も増えているようですが、少し前までは例外は大手企業からのスピンアウト企業くらいでした)。しかし、孫子も言うように指揮命令系統は兵法・経営の八大要素のひとつでありますし、経営学的にも重要です。それが行き過ぎた、所謂「官僚制の逆機能」が生じそうになったときに対策を講じればいいのであり、最初から「官僚的」「大企業的」と毛嫌いしていては、ほとんどの場合企業成長を達成できません。最近では組織づくりにあたって役職員の自主性や自発性を重視し、あえて指揮命令系統を設けないこともあるようですが、それは組織づくりをしなくて良いことを意味しているのではありませんし、経営者の手腕がより問われるということも忘れてはなりません。

(7)人を買収する話だけではなく、いろいろな場面で同様のことが言えます。たとえばある社内制度を新設する提案がなされたとき、その社内制度を役職員が悪用するリスクをあげつらうタイプの経営幹部をよく見かけますが、その人は指摘の仕方に気をつける必要があります。言い方ひとつで「より良い社内制度を作るために発言した人、問題点を指摘した人」ではなく、その経営幹部自身が「抜け道がある社内制度を悪用する可能性がある人」と見られてしまう可能性もあります。塩野七生さん風に言うと「社内制度をみんな悪用するとは、自分自身が社内制度を悪用する可能性を内包する人のみが考えることである。」といった感じでしょうか。

2020年6月3日水曜日

ローマ人の物語3 勝者の混迷

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。今回からは簡単にストーリーも紹介します。前回までで、ローマとカルタゴ間での地中海の覇権を争う「ポエニ戦争」がローマの勝利で終結しました。しかし戦後、勝者の驕りか、数百年の歴史の中での制度疲労か、ローマは混迷の時代を迎えます。グラックス兄弟、マリウス、スッラ、ポンペイウスといった著名な政治家・軍人の統治下でローマは揺れ動きますが、その最後に英雄「ユリウス・カエサル」が登場します。以上が「勝者の混迷」のおおまかな流れです。

ローマ人の物語3 勝者の混迷

  1. 多くの普通人は、自らの尊厳を、仕事をすることで維持していく。ゆえに(中略)誇りは、福祉では絶対に回復できない。職を取り戻してやることでしか回復できないのである。
  2. 人は、必要に迫られなければ、本質的な問題も忘れがちなものである。
  3. 「混迷」とは、敵は外になく、自らの内にあることなのであった。
  4. すべての物事は、プラスとマイナスの両面を持つ。(中略)改革とは、もともとマイナスであったから改革するのではなく、当初はプラスであっても時が経つにつれてマイナス面が目立ってきたことを改める行為なのだ。
  5. 過度な劣等感くらい、状況判断を狂わせるものもないのである。
  6. 優秀なルクルス(ローマの将軍)には、自分にまかせておけば良い結果につながるとの自信が強すぎたために、兵士たちを積極的な参加者に変えるに必要な、心の通い合いの大切さに気づかなかったのであった。
引用元「ローマ人の物語3 勝者の混迷

(1)は自分が過去に希望退職に応募して際に実感しました。別に生活費には困っていないから働かなくていい、というものではありません。人はいろいろなことを経験して成長していきますが、その中で仕事の占める割合というのはとても大きいと思います。仕事をしていないということは、人として成長する機会が大幅に減る、ということです。そう考えると、政策もセーフティーネットの充実ではなく、そもそもの雇用創出に力を入れるべきです。

(2)は、逆説的に改革をすることの難しさを感じさせてくれます。「そもそもうまくいっていないこと」を変えることに反対する人は多くはありません。しかし、「過去にうまくいってきた」、「今までこれでよかった」という状態だと、これを変えることに反対する人が多くなります。だからこそ改革を成し遂げた指導者というのは偉大なのだと思います。

(4)については、何かの改革を行うときに前提として理解しておくと良いと思います。改革する側が過去の経緯を知らないと、ついつい旧制度などを全否定してしまいがちですが、旧制度などもそれが作られたとき導入されたときはメリットがデメリットを上回っていたはずです。それが外部環境や内部環境の変化に伴い、デメリットが上回るようになってきただけのこと。このことを理解して改革に取り組まないと不必要に抵抗勢力を増やしてしまい、結果として改革も成し遂げられないことになりかねません。

(5)については、自分に当てはめてみると痛いほど心に響きます。劣等感のせいでどれだけチャンスを失ったか、そういったことを考えるとキリがありません。

(6)ルクルスは知名度は低いですが、かなり優秀な軍事的指導者であったようです。自軍の10倍以上の敵軍を打ち破ることが一度や二度ではなかったとのことです。また、戦闘の際には自身も最前線に立ったり、食事や寝床は兵卒と共にするなど、兵士の心を掴もうとする努力も行っていたようです。しかし、上記引用のような考えであったことから、兵士たちの心は離れていきました。ルクルスのような優秀な人間でも、その姿勢が間違っていれば人は付いてきません。実際の現代社会を振り返ってみると、ルクルスと同じような考えのマネージャーがいかに多いことか。しかもそのほとんどはルクルスほどの優秀さを微塵も持っていないように見えます。自分自身がルクルス的マネージャーになっていないか見直してみるのも良いと思います。

2020年6月2日火曜日

事業計画の作り方4 起業前の方向け(3) 顧客

今回はビジネスプランで最も大切な項目である「顧客」について、(A)顧客は誰か、(B)顧客のニーズ、(C)顧客へ提供する価値、(D)顧客との関係、に分けて説明します。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)顧客


(A)顧客は誰か

顧客がいなくては、あらゆる事業は成り立ちません。
また、顧客の数が多い方がビジネスは行いやすいようにも思えますが、実際には顧客が多岐にわたるほど共通するニーズを見出すことは困難です。若者と高齢者が共通して必要とするモノを見出すよりも、若者だけが必要とするモノを見出す方が簡単であることを考えるとよく分かります。逆に若者にも高齢者にも求められることを目指した製品やサービスは若者にも高齢者にも必要とされない結果となりかねません。

よって、共通のニーズを持つ消費者などをグループ化し、どのグループを自社の顧客層としたいのかを絞り込むことが求められます。

そのことを整理するフレームワークとして、少なくともポジショニングマップを作れるようになりましょう。

ポジショニングマップとは、自社の製品やサービスの差別化や競争優位性を考えるためのフレームワークのひとつで、自社のポジショニングを考える際に使う、言い換えると、どういうニーズを持った消費者グループが自社の製品やサービスを選び、自社の顧客層になるのかということを他社製品やサービスと比べながら考える際に使用します。

Google画像検索でポジショニングマップを検索してみてください。いろいろな事例が出てきます。ポジショニングマップは縦軸と横軸の二軸を考える必要があるのですが、これを一から考えるのは大変なため、まず最初は同じ業界のポジショニングマップをいくつか探し出し参考にしながら考えてみてください。

注意点としては、縦軸と横軸はお互い連動しないようなものを考えましょう。たとえば「高級感」と「価格帯」は連動することが多く、連動してしまう場合は軸が2つではなく1つしかないことになり、それらを同時に評価軸として採用するのは不適切ということになります。


(B)顧客のニーズ

一番勘違いが多い項目です。特に、起業家自身がその業界経験が長いので顧客のことを分かっているつもり、起業家自身が顧客層と同じ属性なので顧客のことを分かっているつもり、などといった例が多く見られます。

実際に、少しでも多くの「想定顧客層」の方にヒアリングを行いましょう。特にBtoCのビジネスの場合、個人である想定顧客へのヒアリングは必須です。その際に注意すべきは、「こんな製品・サービスがあったら良いと思うか否か」ではなく、「実際にお金を出して買うか否か」のレベルまで把握することです。顧客のニーズを、「大変困っている問題(切実な問題)」、「困っている問題」、「それ以外」に分けて、重要度・緊急度を考えると参考になります。顧客が実際にお金を出して買うのは「大変困っている問題(切実な問題)」を解決してくれる製品やサービスだけであり、単に「困っている問題」レベルだとお金を出して買ってくれるとは限りません。

顧客が法人や団体の場合、同様に切実なニーズがあるか否かを把握することに加え、「顧客がそのモノ・サービスを購入できない理由」も把握するようにしましょう。「あなたのサービスは素晴らしいけど、すでに●●社のサービスを利用していて、変更するのに手間がかかるので、今回は見送ります。」といったなどです。ここでは「変更を簡単に」というのも顧客のニーズと言えます。

想定顧客へのヒアリングを行う際は、以下の点に留意・注意しましょう。
  • 自分の考えている製品・サービスのイメージが具体的に湧く、いわゆるプロトタイプ(Minimum Viable Product)を作成し、それを見せながら行いましょう。モノなら紙や粘土で作成、Webサービスならユーザーインターフェイス画面を紙に書く、など。
  • 顧客からの「それ、いいね」で満足することなく、「それ、本当に困っている」、「本当に欲しい」、「いますぐ欲しい」というレベルになって初めて顧客のニーズと呼べることを理解しておきましょう。
顧客へのヒアリングは以下のようなメリットがあります。
  • 顧客の本当のニーズに近づくことができます。
  • 自分の考えているモノやサービスの誤り、もっと根本的にはビジネスプランの誤りに事前に気が付くことができ、変更を行うこと(ピボット)ができます。


(C)顧客へ提供する価値

価値提案(バリュー・プロポジション)と呼ばれています。考える際には、以下の2点を自分に問いかけてみましょう。

問:あなたの製品やサービスは顧客にどんな価値を提供するのでしょうか?
 キーワードは「新規性、意外性、性能、カスタマイズ、仕事を肩代わりする、デザイン、ブランド、価格、コスト削減、リスクの低減、利用のしやすさ、購入のしやすさ、快適さ、満足感」などです(参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)。

問:自社は何者なのか?という自社の定義(自社の事業の定義)は明確ですか?
 たとえば自社の事業がレンガで教会を建てることである場合、自社は何者と言えますか?レンガを積む事業者でしょうか?、教会を建てる事業者でしょうか?、地域に安らぎの場を用意する事業者でしょうか?


(D)顧客との関係

顧客とのコミュニケーションをどのようにとるか、を考えます。後述する「チャネル」が販売の場面に近いのに比べ、「顧客との関係」はサービスの提供場面に近いものです。この項目についてはイメージを持っている方が多いと思いますが、それをより明確化しておきましょう。

(例)参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション
  • 顧客と担当者の個別かつ直接のやりとりでの関係
  • 専任担当者による関係
  • セルフサービス(直接のやりとりが生じない)
  • 自動サービス(セルフサービスの進化系)
  • SNSなどのコミュニティ内でのやりとり(顧客同士のやりとりも含む)
  • 共創(顧客にも価値創造に加わってもらう)

さて、ここまで来ると「顧客」についてより明確になってきたのではないでしょうか。

次回は「営業」の説明から行います。


以下、より学んでみたい方向けの書籍(ご参考まで)

2020年6月1日月曜日

ローマ人の物語2 ハンニバル戦記

ローマ人の物語」シリーズは一冊ごとに数十箇所付箋をつけてしまうくらいに学びのある作品です。当ブログでは、私が気に入った箇所を、経営や日常生活の視点から取り上げています。

ローマ人の物語2 ハンニバル戦記

  1. 敵方の捕虜になった者や事故の責任者に再び指揮をゆだねるのは、名誉挽回の機会を与えてやろうという温情ではない、失策を犯したのだから、学んだにちがいない、というのであった。
  2. 共和制ローマでは、軍の総司令官でもある執政官に対し、いったん任務を与えて送り出した後は、元老院でさえも何一つ指令を与えないし、作戦上の口出しもしないのが決まりだった。
  3. 戦争終了の後に何をどのように行ったかで、その国の将来は決まってくる。(中略)問題は、それで得た経験をどう生かすか、である。
  4. 責任の追及とは、客観的に誰をも納得させうる基準を、なかなかもてないものだ(中略)。それでローマ人は、敗北の責任は誰に対しても問わない、と決めたのだった。(中略)(責任は誰々にあるとか、どの身分階層にあるとかといったかたちで)国論が二分していては、国力の有効な発揮は実現できない。
  5. 天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることができる人ではない。誰もが見えていながら重要性に気づかなかった旧事実を、気づく人のことである。
  6. 年齢が、頑固にするのではない。成功が、頑固にする。(中略)ゆえに抜本的な改革は、優れた才能をもちながらも、過去の成功には荷担しなかった者によってしか成されない。
  7. 敗北とは、敵に敗れるよりも自分自身に敗れるものなのである。
  8. 過酷に対処しなければならないとしたら、それは一時に集中して成されるべきである(マキアヴェッリ)。
引用元「ローマ人の物語2 ハンニバル戦記
(1)について、日本は失敗した人が再び挑戦できるような文化、仕組みに欠けていると言われています。もちろん、失敗をバネに成功に至った人もいることから、「再び挑戦しにくい」という表現がより正しいのかもしれません。一方、米国のVCは失敗経験のある起業家をより高く評価すると聞きます。

また、失敗から学ぶということに関しては、成功には法則性はなく失敗には法則性がある、という言い方をすることもあります。成功は、その当事者の個人的資質による部分や、運による部分が大きくその法則性を見出すことは容易ではない一方、失敗は「してはならないこと」をしてしまった結果失敗に至るという意味で法則性を見出しやすいという意味です。

失敗から学ぶことも、失敗経験を前向きに捉えることも苦手な日本人が学ぶべきはローマ人かもしれません。

(2)については、権限委譲を行った後は口を挟まないという意味にもとれますし、より現場に近い位置にいる者の意見を重視するという意味にもとれます。どちらにせよ、組織構造の設計原理に通ずるところがあります。

(3)については、(1)とも大いに関係しますが、何かを失敗した場合にはその原因をしっかり把握し、次に活かす必要があります。しかし、成功した場合にも検証フローが必要です。仮説どおりに成功したのか、想定以上の成功だった場合、それはどういった要因でもたらされたか、一回きりの成功だったのか、今後にも活かせる成功だったのか、等々。

なお、検証できるのはきちんとした仮説の下に実行された事項の経緯と結果だけであるということも忘れてはなりません。逆に思いつきでなされた事項についてはそうはいきません。

(5)について、「運が良い人」というのは周囲からは「運」のことだけで見られ勝ちですが、実際には誰よりも「ある事」について真剣に、四六時中考えているからこそ他の人が気づかないこと(たとえば、ちょっとした情報やきっかけ)に気づくことが出来、その結果運を掴んだが如く結果を残すことが出来る、と言えます。きっとここでの「天才」もそういう人達のことなのではないかなと思います。

また、物事がうまく行かないときに、新しい方法を試すということも大事ですが、もともとのやり方に拘ってみて、他人が気づかない解決策を見つけられるよう努力することも大事だなと思います。

(6)について、ある経営者がおっしゃっていた「成功体験は捨てられない。よって、成功体験が新たな場面で障害になるような事態になる前に経営者は引退すべきである」という話と、ある新規事業専門家がおっしゃっていた「人は必ず老害になる。老害になる前提で害を少なくする準備をしておく必要がある」という趣旨の話が思い出されます。何事も引き際が肝心といいますが、引き際を見極めるのは、当時者自身にはなかなか難しいですね。

(8)について、これは事業再生の場面などでもよく言われます。コスト削減や人員削減は、従業員のやる気を削ぐものであるため、それを実施する必要がある場合は小出しに実施するのではなく、一気呵成に行うべきであるというものです。これはまさにその通りだと思います。小出しにリストラ計画が実施されると、それを受ける方の立場である従業員から見ると、全体像が見えなかったり、いつまで耐え続ければいいのか分からなかったりするからです。再建までの道のりを示した上で、リストラは今回限りだから耐えて欲しい、というようなメッセージを発し、一気にリストラ策を実施すべきなのでしょう。