いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)では早速内容に入りましょう。
1.ビジネスプラン
(1)エグゼクティブ・サマリー
(2)起業のきっかけや想い
(3)営業循環図
(4)顧客
(5)営業
(6)競合・代替品
(7)組織・チーム、社外パートナー
(8)事業の重要指数
2.数値計画
(1)売上高・原価
(2)経費
(3)運転資金
(4)設備資金
(5)資金調達
(4)顧客
(A)顧客は誰か
顧客がいなくては、あらゆる事業は成り立ちません。
また、顧客の数が多い方がビジネスは行いやすいようにも思えますが、実際には顧客が多岐にわたるほど共通するニーズを見出すことは困難です。若者と高齢者が共通して必要とするモノを見出すよりも、若者だけが必要とするモノを見出す方が簡単であることを考えるとよく分かります。逆に若者にも高齢者にも求められることを目指した製品やサービスは若者にも高齢者にも必要とされない結果となりかねません。
よって、共通のニーズを持つ消費者などをグループ化し、どのグループを自社の顧客層としたいのかを絞り込むことが求められます。
そのことを整理するフレームワークとして、少なくともポジショニングマップを作れるようになりましょう。
ポジショニングマップとは、自社の製品やサービスの差別化や競争優位性を考えるためのフレームワークのひとつで、自社のポジショニングを考える際に使う、言い換えると、どういうニーズを持った消費者グループが自社の製品やサービスを選び、自社の顧客層になるのかということを他社製品やサービスと比べながら考える際に使用します。
Google画像検索でポジショニングマップを検索してみてください。いろいろな事例が出てきます。ポジショニングマップは縦軸と横軸の二軸を考える必要があるのですが、これを一から考えるのは大変なため、まず最初は同じ業界のポジショニングマップをいくつか探し出し参考にしながら考えてみてください。
注意点としては、縦軸と横軸はお互い連動しないようなものを考えましょう。たとえば「高級感」と「価格帯」は連動することが多く、連動してしまう場合は軸が2つではなく1つしかないことになり、それらを同時に評価軸として採用するのは不適切ということになります。
(B)顧客のニーズ
一番勘違いが多い項目です。特に、起業家自身がその業界経験が長いので顧客のことを分かっているつもり、起業家自身が顧客層と同じ属性なので顧客のことを分かっているつもり、などといった例が多く見られます。
実際に、少しでも多くの「想定顧客層」の方にヒアリングを行いましょう。特にBtoCのビジネスの場合、個人である想定顧客へのヒアリングは必須です。その際に注意すべきは、「こんな製品・サービスがあったら良いと思うか否か」ではなく、「実際にお金を出して買うか否か」のレベルまで把握することです。顧客のニーズを、「大変困っている問題(切実な問題)」、「困っている問題」、「それ以外」に分けて、重要度・緊急度を考えると参考になります。顧客が実際にお金を出して買うのは「大変困っている問題(切実な問題)」を解決してくれる製品やサービスだけであり、単に「困っている問題」レベルだとお金を出して買ってくれるとは限りません。
顧客が法人や団体の場合、同様に切実なニーズがあるか否かを把握することに加え、「顧客がそのモノ・サービスを購入できない理由」も把握するようにしましょう。「あなたのサービスは素晴らしいけど、すでに●●社のサービスを利用していて、変更するのに手間がかかるので、今回は見送ります。」といったなどです。ここでは「変更を簡単に」というのも顧客のニーズと言えます。
想定顧客へのヒアリングを行う際は、以下の点に留意・注意しましょう。
- 自分の考えている製品・サービスのイメージが具体的に湧く、いわゆるプロトタイプ(Minimum Viable Product)を作成し、それを見せながら行いましょう。モノなら紙や粘土で作成、Webサービスならユーザーインターフェイス画面を紙に書く、など。
- 顧客からの「それ、いいね」で満足することなく、「それ、本当に困っている」、「本当に欲しい」、「いますぐ欲しい」というレベルになって初めて顧客のニーズと呼べることを理解しておきましょう。
- 顧客の本当のニーズに近づくことができます。
- 自分の考えているモノやサービスの誤り、もっと根本的にはビジネスプランの誤りに事前に気が付くことができ、変更を行うこと(ピボット)ができます。
(C)顧客へ提供する価値
価値提案(バリュー・プロポジション)と呼ばれています。考える際には、以下の2点を自分に問いかけてみましょう。
問:あなたの製品やサービスは顧客にどんな価値を提供するのでしょうか?
キーワードは「新規性、意外性、性能、カスタマイズ、仕事を肩代わりする、デザイン、ブランド、価格、コスト削減、リスクの低減、利用のしやすさ、購入のしやすさ、快適さ、満足感」などです(参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)。
問:自社は何者なのか?という自社の定義(自社の事業の定義)は明確ですか?
たとえば自社の事業がレンガで教会を建てることである場合、自社は何者と言えますか?レンガを積む事業者でしょうか?、教会を建てる事業者でしょうか?、地域に安らぎの場を用意する事業者でしょうか?
(D)顧客との関係
顧客とのコミュニケーションをどのようにとるか、を考えます。後述する「チャネル」が販売の場面に近いのに比べ、「顧客との関係」はサービスの提供場面に近いものです。この項目についてはイメージを持っている方が多いと思いますが、それをより明確化しておきましょう。
(例)参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)
- 顧客と担当者の個別かつ直接のやりとりでの関係
- 専任担当者による関係
- セルフサービス(直接のやりとりが生じない)
- 自動サービス(セルフサービスの進化系)
- SNSなどのコミュニティ内でのやりとり(顧客同士のやりとりも含む)
- 共創(顧客にも価値創造に加わってもらう)
以下、より学んでみたい方向けの書籍(ご参考まで)