NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年6月28日日曜日

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。
いよいよ西洋最高の英雄と言われるユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の登場です。ローマという国家が共和政の制度疲労で混迷している中、カエサルはその変革を行い帝政の基礎を築きます。その才能は超一流の軍人や超一流の政治家としてのものに留まらず、文筆家としても超一流でラテン文学を代表するうちの一人と言われています。また、才能だけではなく溢れるような人間的魅力があるのが特徴です。
塩野七生さんの力も相俟って、この本を読んでいると眼の前にカエサルが実際にいるようにも感じてしまいます。

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

  1. 指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた。(イタリアの教科書)
  2. 人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。(ユリウス・カエサル)
  3. 人は、仕事ができるだけでは、できる、と認めはしても、心酔まではしない。言動が常に明快であるところが、信頼心をよび起こすのである。
  4. 情報の重要性を知らない人間が相手を見くびるようになれば、普通でも入ってくる情報を集めることさえ怠るようになる。
  5. (文民は軍隊が隊列や規則にこだわることを馬鹿にすることがあるが)隊列が乱れていては、行軍でも布陣でも指令が行きとどかない恐れがある。(中略)(軍隊は)指揮命令系統が明解である必要がある。
  6. あせれば人は、ごく自然に以前の成功例にすがりつくようになるものである。
  7. 人間誰でも金で買えるとは、自分自身も金で買われる可能性を内包する人のみが考えることである。
引用元「ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

(1)指導者・リーダーの資質については、多くの人物・書籍がその内容を論じています。ここで挙げられている五つもなるほどと思わせるものです(ただし、ここではその一つ一つが重要なのではなく、カエサルだけが、指導者に求められる資質を全て持っていた、ということそのものが重要なのではありますが)。「説得力」だけではなく「知性」が挙がっているのは注目すべきです。最近でこそビジネスパーソンにもリベラル・アーツといったことが重要視されるようになりつつありますが、知性を軽視する人がまだまだ多いとも感じます。

(2)これもその通りだと思います。ただ、見たくない現実を見るためにはどうすれば良いのか?という難問が残ります。経営者の場合は、忌憚なく意見を言ってくれるパートナーなどがこの問題を解決する手助けをしてくれるかもしれません。いずれにせよ「自分が見たいと思っている現実しか見えていないのではないか」と常に自分に問い続け、そうならないように、またはそうなってしまっても気づくことができるようにする仕組みを考えることが重要です。

(3)これは、ファンド、金融機関や経営コンサルティング会社に所属する人間が自戒を込めて認識しておくべき言葉です。これらの業界には頭が良い人間は多いのですが、残念ながら(きっと私もその例外ではなく)強い思いに裏づけされた思想的な背景がない人物が多く、そういった人物は言動に一貫性がなく、状況が変わると平気で矛盾した言動を行います。事業会社の方から「信頼」してもらえないことがあるのだとしたら、そういったところを見透かされているからかもしれません。

(4)よくいわれることですが、日本人は情報の重要性を軽視する人が多いようです。例えば、昭和の旧日本陸軍では情報将校よりも作戦将校が重視され、その結果、現地の実態を無視した「机上の作戦」が実行されるようなことが常だったといわれています(明治・大正の旧日本陸軍で必ずしもそうではなかったようですが)。また、日本語の「情報」という言葉も定義が曖昧で、「date」を意味するのか、「information」なのか、それとも「intelligence」なのかはっきりしません。ちなみに、断片的な情報である「date」を収集・整理すると「information」となり、それを分析・評価すると「intelligence」になると言われています。そういった違いを意識して「情報」を取り扱うだけでも効果があるかもしれません。

(5)スタートアップの経営者は、指揮命令系統をはっきりさせることやその前提となる組織づくりが苦手な人が多いように感じます(最近でこそ大手企業での就業経験がある経営者など、苦手ではない方も増えているようですが、少し前までは例外は大手企業からのスピンアウト企業くらいでした)。しかし、孫子も言うように指揮命令系統は兵法・経営の八大要素のひとつでありますし、経営学的にも重要です。それが行き過ぎた、所謂「官僚制の逆機能」が生じそうになったときに対策を講じればいいのであり、最初から「官僚的」「大企業的」と毛嫌いしていては、ほとんどの場合企業成長を達成できません。最近では組織づくりにあたって役職員の自主性や自発性を重視し、あえて指揮命令系統を設けないこともあるようですが、それは組織づくりをしなくて良いことを意味しているのではありませんし、経営者の手腕がより問われるということも忘れてはなりません。

(7)人を買収する話だけではなく、いろいろな場面で同様のことが言えます。たとえばある社内制度を新設する提案がなされたとき、その社内制度を役職員が悪用するリスクをあげつらうタイプの経営幹部をよく見かけますが、その人は指摘の仕方に気をつける必要があります。言い方ひとつで「より良い社内制度を作るために発言した人、問題点を指摘した人」ではなく、その経営幹部自身が「抜け道がある社内制度を悪用する可能性がある人」と見られてしまう可能性もあります。塩野七生さん風に言うと「社内制度をみんな悪用するとは、自分自身が社内制度を悪用する可能性を内包する人のみが考えることである。」といった感じでしょうか。