いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)では早速内容に入りましょう。
1.ビジネスプラン
(1)エグゼクティブ・サマリー
(2)起業のきっかけや想い
(3)営業循環図
(4)顧客
(5)営業
(6)競合・代替品
(7)組織・チーム、社外パートナー
(8)事業の重要指数
2.数値計画
(1)売上高・原価
(2)経費
(3)運転資金
(4)設備資金
(5)資金調達
2.数値計画
「数値計画」では、できるだけ簿記や会計の知識がない方でも分かるように一定程度単純化して説明します。そのため会計の決まりごととは若干異なる箇所もありますが、スモールビジネスの事業計画を作る段階では特に問題ありません(現実的には「運転資金・資金繰り」ということを深く理解する必要がありますが、その点に関しては次回以降説明します)。
会計や簿記についてこの機会に少し触れておきますと、それらは経営の共通言語ですので、経営者が早い段階で一定の知識を身に付けておくことに越したことはありません。簿記の勉強をしたり、良い税理士の先生を見つけて「経営者に必要な簿記・会計の知識」という視点で教わったりしていくことを強くおすすめします。その際、「経営者に必要な」という言葉を絶対に忘れないようにもしてください。ここで経営者に求められるのは簿記や会計の必要以上に詳細な知識ではなく、管理会計資料や財務会計資料などから情報を読み取り、事業の意思決定をする力です。自社の数字に対する理解を深めるために経理の業務を一時的に経営者が行うことはありえますが、それでもできるだけ早く経理担当者などに任せることが望まれます。
(1)売上高・原価
(A)単価×個数=売上・原価
このシリーズでは何度か、数字を分析する際は数字を分解しようというお話をしてきました。たとえば「売上は販売単価×個数に分解できる」といった具合です。売上計画を考える際はその逆で「単価と個数を掛け合わせたものが売上である」と考えます。「販売単価×個数=売上」ということですね。原価計画も同様で「仕入単価×個数=原価」ということになります。「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」と覚えておくと良いです。
ところで、売上は商品を販売するビジネスでも、サービスを提供するビジネスでも分かりやすいですが、原価はどうでしょう。原価は「売上をあげるためにかかった直接的なコスト」を意味します。商品を販売するビジネスの場合、その販売する商品を仕入れる価格が原価と言えます。一方でサービスを提供するビジネスの場合、数値計画作成上は原価は外注費だけと考えましょう。会計の決まりごととしては、本当であれば原価と考えなければならないコストもあるのですが、そこを厳密にやってしまうととても複雑になってしまうので、今の段階では将来の宿題としておきましょう。原価と考えるべきコストを原価としておかなくとも、後で説明する「経費」にその分計上されますので、実務上の問題も特にはありません。
(B)販路ごと
売上計画については「販路ごと」にも考えておく必要があります。
具体的な場面を考えると分かりやすいのですが、全く同じ商品が店頭とWeb通販では異なる値段で販売されていることは珍しくありません。店頭とWeb通販では必要となる地代家賃などの水準が異なります。店舗はお客様に来店していただけるよう良い立地=高い地代家賃が必要となりますが、Web通販で必要となる倉庫やコールセンターは店舗ほど良い立地である必要はなく、地代家賃を低く抑えることができます。そういった理由で店頭価格よりもWeb通販の方が安い値段であったりします。
また、メーカー直販サイトと小売店の店頭価格も異なる値段であることもあります。小売店での店頭価格は製造にかかった費用に加え、メーカーの利益、卸売業者の利益、小売店の利益などが上乗せされている一方、メーカー直販サイトでは卸売業者や小売店も必要ないため、その利益を価格に上乗せする必要がないからです。
数値計画を考える際にも同様に販路ごとに違う価格設定をする可能性を考えておきましょう。例えば、原価70円で、消費者価格は100円の商品の場合、
・直接販売(例えば店頭販売)
単価100円 × 10個 = 1,000円
・代理店販売(代理店が店頭販売するような場合)
単価80円 × 20個 = 1,600円
代理店側は単価100円では買ってくれないでしょう。消費者価格100円の商品なので、代理店は単価100円で仕入れて消費者価格100円で販売しても利益は出ませんし、100円より高い値段では今度は消費者が買ってくれません。
・Web販売(自社サイトで販売する場合)
単価90円 × 30個 = 2,700円
Web販売も直接販売と言えますが、自社店舗の店頭価格と同じ価格にする必要はありません。販売にかかるコストが少ない、価格の比較がしやすいので他社よりも安くしないと売れないといった理由で店頭価格と異なる価格設定をすることもありえます。
一方で、原価は「仕入価格」ですので、上記販路の違いの影響は受けないことが一般的です。
(2)経費
ここで言う経費は、会計上は「販売費及び一般管理費(販管費)」と呼ばれるものと、本来であれば原価と考えなければならないものの内、簡便さ優先のため原価に計上しなかった項目を合わせたものです。
実際のところ、「これから事業を開始する」前にすべてを漏れなく予想・計画することは簡単ではありません。一方で、予想していなかった経費が発生した場合、売上が計画どおりでも、結果として赤字となったり、資金不足となったりする恐れがありますので、予想・計画をしっかりと行うことはとても重要です。
予想・計画をより適切に行う方法の例は以下のとおりです。
(A)主な経費一覧から自社にもかかりそうなものを探す
主な経費一覧は以下のとおりです。
役員報酬、給与手当・労務費、法定福利費(社会保険料など)、福利厚生費、通勤交通費、営業交通費、通信費、地代家賃、業務委託費、水道光熱費、保険料、交際費、広告宣伝費、販売促進費、販売手数料、荷造運送費、減価償却費など
それぞれの経費の詳細をWebなどで調べてみると良いです。
(B)変動費と固定費に分けて考える
経費の分類の仕方にはいろいろありますが、覚えておいた方が良い分類の仕方として、変動費と固定費という考え方があります。売上に比例にして発生する費用が変動費、売上と関係なく発生する費用が固定費です。この分類に沿って、自社にどういった経費がかかるのか考えてみましょう。
(C)他社・他事業を参考にする
自分の事業と類似の事業を行っている事例を探し、どういう経費がかかっているかを知り、参考にしましょう。全ての経費を網羅するような情報は少ないかもしれませんが、同業他社の事例の情報収集の中で、どういった経費が発生しているのかにも目を光らせておくことをおすすめします。多くの会社を見ている税理士の先生や金融機関の担当者に相談してみるのもいいかもしれません。
(D)想像力を高める
事業上の行動や商品・サービスの流れや提供場面などの具体的場面を想像しましょう。想像が具体的であればあるほど、そこで発生するであろう経費も具体的に気がつくことができます。