第1回の記事で触れたとおり、主にスモールビジネスや、急成長を前提としない事業をお考えの方が対象です。各地で開催されている起業塾に参加する前に予習的に活用いただいたりすることを想定しています。
実際に私が講師を担当させていただいた起業家養成講座での講義内容をベースとした内容です。また、かなり参考にさせていただいているのが「ビジネスモデルキャンバス」です。以下で説明する個別の項目では、ビジネスモデルキャンバスの考え方をそのまま採用させていただいたものもあれば、僭越ながら除外させていただいたり、追加させていただいている項目があります。「ビジネスモデルキャンバス」はとても有用ですのでそちらもぜひ勉強してみてください。
まだの方は第2回の記事「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」もぜひ先にご一読ください。
起業時に作成する事業計画の項目は以下のとおりです。このまま事業計画書の目次としてご活用いただけます。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)また、事業計画策定の事前準備として、みなさんが起業しようとしている事業や今考えている事業が、一般的にはどういった業種に分類されるか、どういった企業が事業を行っているかを調べてみることをおすすめします。新しい事業といえども、世の中には必ずと言っていいほど先輩企業があります。その情報を上記項目を考える際に参考にしない手はありません。以下のような情報源には、市場の動向はどうか、顧客の趣味嗜好はどのようになってきているか、利益やコストの構造はどうなっているか、競合企業の動きはどうかなどなど活用できる情報が豊富にあります。
1.ビジネスプラン
(1)エグゼクティブ・サマリー
(2)起業のきっかけや想い
(3)営業循環図
(4)顧客
(5)営業
(6)競合・代替品
(7)組織・チーム、社外パートナー
(8)事業の重要指数
2.数値計画
(1)売上高・原価
(2)経費
(3)運転資金
(4)設備資金
(5)資金調達
- 経済紙・経済誌の記事
- 証券会社等のアナリストレポート
- 上場企業の有価証券報告などの開示資料
- シンクタンクの記事やコラム
- 信用調査会社の調査レポート
- 業界団体のレポート
- 同業他社の事業計画
- データはいつ時点のものか(古いものは避けましょう)
- データの出所は信用できるか
- さらにデータの加工が必要ではないか
では、いよいよ個別項目に入っていきます。
1.ビジネスプラン
ビジネスプランとは、ここでは事業計画のうち数値計画以外の箇所とお考えください。
(1)エグゼクティブ・サマリー
ビジネスプランの概要を端的に説明するために用意するものです。事業計画書は数ページから数十ページにもなることもあり、その全てを丁寧に読み込まないと内容が理解できないとなってしまうと、第二回で触れた「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」といった事業計画を作る目的が達成できない可能性が高くなります。忙しいなどの理由で全てを読んでもらえるとは限らないからです。
そこで、あなたのビジネスプランに関心を持ってもらったり、簡潔に理解してもらったりするために、事業計画書の冒頭に要約のページを設ける必要があります。その要約のページのことをエグゼクティブ・サマリーと言います。
実際に事業計画を作る際にはエグゼクティブ・サマリーのページは最初に作っても最後に作ってもどちらでも問題ありませんが、事業計画書では必ず表紙や目次の次のページ、詳細なビジネスプランの内容を説明するページよりも前のページに位置づけてください。エグゼクティブ・サマリーは「事業計画書の冒頭」にあることに意味があります。
実際にビジネスプランの概要を端的に説明することは結構難しく感じられるはずです。まだまだ考えが頭の中で整理できていなかったり、事業への熱い思い入れがあったりと、ついつい説明が長くなってしまうものです。また、場数も踏むまでは、事業計画書を読む側が特に知りたいポイントや、関心を惹きつけるために説明すべきポイントなどがよく分からないことも多いかと思います。
そこで登場するのが「エレベーターピッチ」です。これは自分のビジネスプランの魅力を短時間で効果的に説明する方法としてシリコンバレーで生まれた方法と言われています。エレベータピッチが産まれた際の面白いエピソードがあります。以下のようなものです。
某スタートアップの創業者Aがある著名な投資家Bから投資を受けたいと考えていました。
しかしBは超がつくほど多忙でありアポイントが入りません。
ですがAは諦めず、いくら忙しいBでもエレベーターに乗っている間くらいは話をする時間はあるだろうと考えました。
そこでAはBがエレベーターに乗る際に偶然を装って同乗し、ひょっとして著名な投資家Bさんではありませんか、話しかけました。
Aはエレベーターの中の数十秒でBに自分のビジネスプランの魅力を伝え、Bの興味を惹くことができました。
こういったエピソードがあるため、エレベーターピッチと名付けられたそうです。この話のポイントは、ビジネスプランを説明する時間はエレベーターが目的階に着くまでのせいぜい数十秒しかなかった、というところにあります。
そのエレベーターピッチは以下のようなものです。
私の製品(サービス)は、括弧には自分のビジネスプランに沿った言葉を入れていきます。Googleの画像検索で具体例がいろいろ出てきますので、一度時間を取っていろいろ見てみると面白いと思います。
(A)「 (切実に困っていること) 」 で問題を抱えている、
(B)「 (ターゲット顧客) 」 向けの
(C)「 (製品のカテゴリー) 」 の製品であり、
(D)「 (具体的な問題) 」 を解決することができる。そして、
(E)「 (従来の一般的な製品) 」 とは違って、この製品には
(F)「 (差別化の特徴) 」 が備わっている。
(A)には、顧客が本当に困っていること、本当に解決したいと思っていることを記入します。いわゆる「顧客のニーズ」や「ペイン」に該当する箇所です。ポイントは「切実な」という言葉で、顧客が実はそこまで困っていないとか、解決したいと思っていない事項はここには当てはまりません。
(b)には主に想定している顧客層を記入します。絞り込むことが重要です。
(c)には、あなたの提供する製品やサービスが一般的にはどういう分野に分類されるかを記入します。
(d)には、あなたのサービスや製品が顧客のどういう問題を解決できるかを具体的に記入します。
(E)有名だったり、先行していたり、あなたが注目していたりする他社のサービスや製品を記入します。
(F)他社サービスや製品と比べた際の顧客視点での特徴、強みを記入します。
何を記入すべきかは事業計画の各項目を考える中でより明確になってきます。
エレベーターピッチをうまく作れると、それがそのままエグゼクティ・サマリーとなりますので挑戦してみてください。そして、作ったエレベーターピッチを周囲のいろいろな人に説明して多くのフィードバックを受けて改善していくとより素晴らしいエレベーターピッチになっていきます。
(2)起業のきっかけや想い
本気で起業をお考えの方でこの項目に書くことがないと言っている方とお会いしたことはありません。文章化するのに苦労されている方はいらっしゃいましたが。この項目は起業家の方の思いの丈をぶつける箇所なので、書き方に決まりはありませんが、なぜ明文化するのかは知っておいてください。代表的なのは以下のような理由です。
- ビジネスプランを作るとき、他の項目に反映させるため。
- 将来、思い返すため。
- 本当の仲間を集めるため。
- 事業の中で悩んだときの判断軸とするため。
- 事業の中で苦しい場面に遭遇したとき自分のモチベーションを維持するため。
「起業のきっかけや想い」を明文化する際のポイントをいくつかご紹介します。
- 素直に書きましょう。格好をつけたりする必要はありません。また、起業の想いに貴賤はありません。
- 「世の中の問題を解決したい!」という想いがある場合、それに加え、自分自身がその事業を楽しいと思えるか、も考えましょう。
- 「自分の好きなことを事業化したい!」と想いがある場合、それに加え、それがどう世の中・地域に貢献できるか、も考えましょう。
- 自分以外の人に読んでもらうためのものということを忘れないようにしましょう。
次回は「営業循環図」を説明していきます。