今回は「長期ロードマップの検討」について解説します。
1.長期ロードマップとは?
長期ロードマップとは、一般的な名称ではなく私が勝手に命名して活用しているものなのですが、下のイメージのように中期経営計画(中計。一般的には3年程度の計画)×数回についての大枠を考え、整理しておくための表です。
横に時間軸を、縦に各項目を並べます。上記イメージはあくまでもイメージですので、各項目は自社にふさわしいものを考える必要があります。横軸もケースバイケースですが、中期経営計画の2回分以上の期間にしておくと良いと思います。そして両軸が交わる各セルには、どういったことを行うか、どういった状況になっておきたいか、といったことを簡潔に記入していきます。A3縦一枚にしてタブレット端末や紙で持ち歩いておくと、ちょっとした空き時間に自社の長期の計画をまとめるのに活用しやすいでしょう。2.長期ロードマップの活用
こういった長期のことを考える話をすると必ず反論として挙げられるのが「環境は変化するものであり、このようなロードマップは環境適応への妨げとなる」、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」などといった意見です。
しかし環境に適応するとは、環境に流されるという意味ではありません。自社なりに将来の環境予想をしておかないと事業の方向性すら考えることができなくなります。長期ロードマップは将来の環境や、環境変化の方向性を考えるきっかけとして活用してください。また、長期ロードマップは中計の元となるものではありますが、それ自体は計画ではありませんので、その内容は定期・不定期に見直していくつもりでいれば良いのです。
また、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」という考えは、多くの場合、「将来こうなっているだろう」ということを考える、やや受け身の発想が背景にあるように見受けられます。長期ロードマップを考える際には「将来、こうなっていたい」を発想のベースにするようにしましょう。
3.長期ロードマップを考えるポイント
(1)単年度ごとに考える必要はない
上記イメージ図ではセルを単年度ごとに区切っていたり、3年ごとに区切っていたりしています。そのように必ずしも単年度ごとに考える必要はありません。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などは毎年変わることの方が少ないでしょうし、数値計画のようなものでも3年後には売上いくら、6年後には売上いくら、といったように3年区切りで決めることでも問題ありません(但し、直近の中計を検討する段階では単年度に落とし込むことになるはずです)。
(2)全てのセルを記入する必要はない
ある項目もともと取組の時間軸が長く、6年後や9年後についてはまで考えることができる一方、別のある項目についてはせいぜい2年後までしか考えることができない、といったことがあると思います。それは当然のことですので、全てのセルを最初から記入しなくてはならない、とは考える必要はありません。考えがまとまったタイミングで随時記入していきましょう。
(3)株式上場計画や事業承継計画を起点にすると考えやすい
株式上場の計画や、事業承継計画がある企業の場合、それも長期ロードマップに組み込んでしまいましょう。そうすることにより、上場スケジュールを実現するためには、事業面でこういう状態になっておく必要がある、など、長期ロードマップの他の項目を考えやすくなります。事業承継計画も同様に活用可能です。上場スケジュールに事業が振り回されるのは少し違うのではないか、との考えもありますが、実際には上場スケジュールを決めて、それを実現できるよう事業を推進する、ということで取り組みをしている会社も少なくはありません。
(4)新規事業についても大枠を考えておく
長期ロードマップも中計と同様、全社→事業ごと、と考えるのが基本ですが、新規事業についても大枠を考えておきましょう。すでに具体的アイデアがあるものはもちろんですが、そうでない場合でも、既存事業が一定の時期で縮小傾向になる可能性が高いので、それまでに新規事業を軌道に乗せておく必要がある、などを書いておくのです。そのことにより、バックキャスティングで、いつまでにどういう取組が必要となる、といったことを考えることができるようになります。
(5)将来の組織図も考えておく
数年ごとのあるべき組織図についても予め考えておくことで、どのポジションで人財が不足するとか、こういった強みのある人財が新たに必要になるということを予め見通すきっかけとなります。近年では人財不足は多くの業界で起きていますし、ポジションによっては数年単位での採用活動が必要なることもあります。
単年度の事業計画(≒予算)はどうしても数字面で達成するかしないか、だけに関心が向きがちです。しかし、経営者がそれだけを考えていては将来の事業の土台を作っていくことはできません。長期ロードマップを活用して、長期的な会社・事業の方針や施策を考えてみることをおすすめします。
次回は「中計の組織的な検討の仕方」について解説予定です。
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