(注)この記事は、以前の記事の内容を一部更新・修正したものです。
一般に、ベンチャーキャピタル(以下、VC)が投資先企業に行う経営支援は「ハンズオン」と呼ばれています。一方で、経営支援を業として行っている存在の代表格と言えば経営コンサルタントとのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。今回の記事では、ハンズオンとコンサルティングを比較することで、両者への理解を深めていきたいと思います。
内容に入る前に、以下5点について予めご了承ください。
- まず、今回の記事はあくまでも「私が考えるハンズオンとコンサルティング」にすぎません。両方の言葉とも、通説と言われるような定義が定まってはいません。全く違うお考えをお持ちVC関係者や経営コンサルタントの方もいらっしゃると思いますし、そもそもVCも経営コンサルタントも多様です。それを強引に比較している記事であるとご理解いただければ幸いです。
- 私個人としては、「和魂洋才」のように、ハンズオンのスタンスとコンサルティングのノウハウをうまく融合したいと考えていますので、今回の記事もそういった考えに基づくバイアスがあるかもしれません。なお、NGCパートナーズの事業内容については「経営・財務コンサルティング」と記載していますが、これは投資ありきではないこと、言葉の分かりやすさを優先させたことが理由です。また、「協働型」を謳っているのもハンズオンのスタンスをコンサルティング活動に反映させたいという想いや実践の表れです。
- プライベート・エクイティファンド(以下、PEファンド)も経営支援活動を行っており、それもハンズオンと呼ぶ場合もありますが、VCや経営コンサルタントと異なりPEファンドはその仕組み上、持ち株比率(シェア)が高い株主として、実質的に経営の最終意思決定権限を持つことも多いので、その権限を前提としていないハンズオンやコンサルティングとは同列に論じることができないと私は考えます。よって、今回の記事での「ハンズオン」という用語はPEファンドのそれではなくVCが行う経営支援のことを意味するものとします。
- 本文中で「支援先企業」という言葉を使用していますが、これはVCにとっては投資先企業、経営コンサルにとってはコンサル先企業を意味します。なお、経営コンサルがコンサル先企業に資金を投じる(出資する)事例や、VCが投資先企業ではない企業に対しコンサルを行う事例などは説明の都合上、今回の記事の対象外です。
- VC業界とコンサル業界との間での人の流動性が高まっていますので、お互いがそれぞれの優れたところを取り入れていく流れも強まるのではないかと思います。そのため、ハンズオンとコンサルティングを分ける意味も薄れていくかもしれません。
さて、それではハンズオンとコンサルティングを比較していきましょう。
(1)立ち位置
・ハンズオン
VCと支援先企業とは原則として株主と発行体の関係であり、また、支援先企業の株主価値が向上することがVCの収益の源泉であるため、「運命共同体(On the same boat)」と呼ばれます。そのため、VCの投資担当者は、支援先企業もしくは経営者とできるだけ近い立ち位置に自分たちを位置づけようとします。どこまで踏み込むかはVCごと投資担当者ごとのスタンスに依るのですが、運命共同体であるという考えが出発点となっているのは多くのVCに共通していると考えられます。但し、運命共同体であっても常に目指すべき方向が常に一致しているとは限りませんし、方向が一致していても時間軸などが一致しないこともありえます。また、投資と出口(EXIT)の場面では利害の調整・交渉が必要となることもあります。
・経営コンサル
経営コンサルタントはあくまでも支援先企業からの業務委託を受けた立場であり、「同じ船に乗っている」わけではありません。ただし、あくまでも形式上の話であり、経営コンサルタントの中には、支援先企業の経営者に寄り添える工夫をされている方も多くいます。
(2)経営支援の基本的スタンス
・ハンズオン
VCは支援先企業もしくはその経営者と共に考え行動します。一部の分野については「教える」というかたちも取ります。前例や参考事例がないことが多いスタートアップの世界で求められるスタンスとも言える一方、別に述べるとおりVCは経営支援の専門性が高くないことが多いためにそういった方法を取らざるを得ないという側面もあります。
・経営コンサル
支援先の経営者や担当者に「教える」というのが基本的方法です。また、多くの場合、特定の専門分野(戦略、人事、財務、会計、営業、業務、システム等々)での支援が中心となります。高い専門性を持っているが故に教えるという方法になりがちであり、また高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもあります。
(3)経営支援のチーム
・ハンズオンVCの担当者は多くの場合、属人的に活動しており、支援先企業への経営支援も属人的な活動に留まることが少なくありません。シニアメンバーと若手の組み合わせで活動している場合でも、属人的なことには変わりありません。ただし最近では、プロジェクト単位で専門性の高いメンバーを支援活動に参加させる例も増えています。また、第三者(VCでも支援先企業でもない、専門性を保有した別の事業体)の力を借りることには積極的ですし、その第三者の中には専門性の高い経営コンサルが含まれることも少なくありません。
・経営コンサル
大手・中堅レベルのコンサルファームではチームを組織して、支援活動に必要な専門分野をカバーできるようにしています。中小・個人レベルではチームが組成されることは多くはないようです。
(4)経営支援の範囲
・ハンズオン
経営全般が対象です。資金を投じている株主であるため、経営のあらゆる面について関心があるからです。VCは支援先企業の株主価値向上が儲けの源泉であり、支援先企業のあらゆる事象が株主価値に影響を与える以上、経営支援の範囲も経営全般とならざるを得ません。ハンズオンを標榜するVCの投資担当者がしばしば支援先企業の取締役などに就任することを考えると分かりやすいかもしれません。但しこのことは、全ての支援先企業の経営全般に常に関わることを意味するわけではありませんし、経営全般について専門性を持っていることを意味するわけでもありません。
・経営コンサル
あくまでも経営の一部分(戦略、人事、財務、会計、営業、業務、システム等々)のみがその対象です。高い専門性を維持するためには分野も限定せざるを得ないということでもありますし、そもそも支援先企業からの依頼が特定の課題解決であることが多いということでもあります。但し経営コンサルタントが支援先企業の取締役などに就任することもありますが、その際は経営全般に対する助言を行うこともあるでしょう。
(5)視点
この点に関しては、他の項目と比べてもかなりバイアスがかかった見方になってしまっているかもしれません。
・ハンズオン
「ありたい姿」「あるべき姿」にいかに近づけていくか、ということ軸とし、個別の戦略や戦術について助言するというよりは、仮説検証が適切に行われるようマネジメントサイクルの構築や運用支援を重視することが多いようです。確立されたノウハウがあるわけではないものの将来性のある産業や事業に投資し経営支援を行うのがVCの存在意義ですから、そうならざるをえないとも言えます。
・経営コンサル
「システム」や「フレームワーク」ありきなことが少なくありません。経営コンサル会社自身が開発したシステムやフレームワークを持っていることもあり、それを売り込む狙いがあったりと、支援のための手段にすぎないはずのそれらがいつの間にか目的化してしまっているのを見ることもあります。また最近は論理的であるだけではいけないということで変わりつつあるようですが、「論理的に正しいかどうか」を重視する傾向があります。
(6)専門性
・ハンズオン
高くはありません。ハンズオンの能力を高めるために組織的研修や訓練を行っているVCは日本では極めて限られていますし、ハンズオンの内容の妥当性や効果を組織的に検証する仕組みがあるVCも日本ではほとんど聞いたことがありません。そのため、良い意味でも悪い意味でもハンズオンの専門性は投資担当者次第になってしまっています。そもそも、VCの投資担当者は、自身を「ベンチャー投資家」などと定義している方や、投資に重きを置くのかハンズオンに重きを置くのか、といったスタンスが曖昧な方も少なくありません。ですので、経営支援に関する勉強量は多いとは言えない事例も見受けられます。
・経営コンサル
少なくともVCよりは圧倒的に高いことが多いです。組織的研修や訓練も充実していますし、経営支援に関する勉強量も圧倒的です。
(7)結果責任
・ハンズオン
経営支援の結果が、支援先企業の企業価値や株主価値を通じて、VCの損益に影響します。そういった意味で経営支援の結果責任を支援先企業と共有していると言えます。投資担当者自身がファンドに出資している場合は猶更です。
・経営コンサル
法律関係上、結果責任の共有はVCほど明確ではありません。あくまでも業務委託契約の関係であり経営支援の結果責任を経営コンサルは負いません。もちろん、経営支援の結果が出ないと業務委託契約を更新してもらえない、評判悪化により新規契約が獲得できないなどの影響はありえます。
(8)ビジネスモデル上の位置づけ
・ハンズオン
VCは「経営支援を(も)行う投資家」ですので、株式などに投資を行い、それが投資時より高い価額で売却することによる差額つまりはキャピタルゲインが儲けの源泉です。経営支援はキャピタルゲインを大きくしたり、確度を高めたりするための手段のひとつです。
・経営コンサル
経営コンサルは支援先企業からの業務委託報酬などが儲けの源泉ですので、経営コンサルは目的そのものと言えます。但し、システムやソフトウェアを購入してもらうことが儲けの源泉である場合は経営コンサルはただの手段なのかもしれません。
(9)ノウハウの開示
・ハンズオン
支援先企業に対してという意味合いでは、VCは経営支援のノウハウを隠す必要がありませんし、ノウハウを開示しなかった結果として株主価値向上が達成できなければ意味がありませんので、必要に応じて全て開示することが一般的です。但し、開示できるほどの専門性がない、体系化がなされていないといったことはありえます。
・経営コンサル
経営支援のノウハウそのものが経営コンサルの強みですので、簡単にはその全てを開示することはしないようです。
(10)ネットワーク・人脈
・ハンズオン
VCのネットワークや人脈は広いことが多いです。VCの日常の活動の中で最も重視されるのは「将来有望な未上場企業を探し出してくる」ことや「支援先企業の株主価値向上に必要なリソースを探してきて紹介する」ことなどであり、そのためにネットワークや人脈を構築すること自体も重要な業務のひとつとして多くの時間を割いています。
・経営コンサルティング
ネットワークや人脈構築自体が業務の一部であるVCほどネットワークや人脈を構築することに時間を割けませんので、VCよりは狭いことが一般的です。
(11)担当者の質、経営に関わった経験、実務経験など
これはいずれも担当者次第と言えますが、組織的な研修や訓練の仕組みが脆弱なVCの方が担当者の当たり外れが多いと考えられます。最近はVCの担当者の出身業界が多様になりつつありますが、業界全体で見るとまだまだ新卒採用や金融機関出身者が多く、経営支援能力の基礎となる事業会社での実務経験・経営経験の多さはあまり期待できません。しかし、両業界とも若手はやる気にあふれており、優秀で勉強熱心な人物が多いです。
以上、両者を比較してみましたが、あくまでも「理解のための比較」であり、優劣を論じたものではありません。両業界で働くことに関心がある方は、ぜひもっと情報収集して考えていただきたいですし、経営支援を必要としている事業会社等の方は自社の課題解決にどちらの方が相性が良いかなどを考えていただけると良いと考えます。
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