内部環境分析についての解説の一回目で触れたとおり、前回の「経営面・業務面・人事面に分けた分析」に引き続き、内部環境分析の代表的フレームワークについて解説します。
今回は、経営資源の優位性を分析する「VRIO分析(VRIOフレームワーク)」、自社のどの活動で価値を生み出しているかを分析する「バリューチェーン分析」について解説し、次回は複数の事業を行っている場合に知っておくべき「プロダクトライフサイクル」、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」、「ビジネススクリーン」について解説します。
1.VRIO分析
VRIO分析は、企業の競争優位性の源泉を経営資源に求める考え方(リソースベースドビュー)に基づく代表的フレームワークです。内部環境分析に利用されるフレームワークですが、競合他社との比較といった外部環境を加味できるところも特徴のひとつです。なお余談ですが、リソースベースドビューとよく比較される考え方に「ポジショニングアプローチ」があります。これは、企業の競争優位性の源泉を市場における自社の位置づけに求める考え方で、以前説明した5フォース分析などがその代表的フレームワークです。
一般的には「VRIO=ブリオ」と読み、「Value」、「Rarity」、「Imitability」、「Organization」の頭文字をとったものです。それらひとつひとつ、そしてその組み合わせが企業の競争優位性を生み出していると考えます。ひとつずつ説明します。
(1)Value 価値・経済性
人的リソース・物的リソース・財務リソース・情報リソース(いわゆる、ヒト・モノ・カネ・情報)について、経済的な価値があり、事業機会を逃さずに最大限に活用できるか、ということを意味します。少し分かりにくいので言い換えると「その経営資源がない場合と比べ、企業価値は大きく増加するか」という問いに「YES」で答えられる場合は「価値・経済性あり」と考えます。
(2)Rarity 希少性
自社の属する業界において希少性はあるか、ということを意味します。競合他社の中で少数の企業しか希少性を持ち合わせていない場合は「希少性あり」と考えます。
(3)Imitability 模倣困難性
他社・他者が模倣することは容易か困難か、ということを意味します。言い換えると「他社・他者がその事業を模倣するにはどの程度の投資、費用や経営資源が必要か」という意味で「投資対効果などの観点で多大な投資等が必要となる」と回答できる場合は「模倣困難性あり」と考えます。模倣困難性は「歴史的経緯」、「ブラックボックス」、「複雑性」、「知的財産権による保護」というキーワードが重要です。歴史的経緯は、ある企業独自の歴史的要因が模倣困難性の理由となっているということを意味します。ブラックボックスは、経営資源の調達や運用の曖昧さなど、社外から見た場合に理解しにくいことが模倣困難性の理由となっていることを意味します。複雑性は、社会的要因、政治的要因などが複合的に絡み合っていることが模倣困難性の理由となっていることを意味します。そして最後は、知的財産権による保護が模倣困難性の理由となっていることを意味します。
(4)Organization 組織・体制
企業の競争優位性をもたらす経営資源を保有していても、それを活かすことができる組織・体制になっていないと本当の競争優位とは言えません。組織としての方針が定められ、意思決定が迅速に行われ、経営資源利用の手続き・フローが整備されており、組織内の誰でもその経営資源を利用できるようになっている状態が求められます。
VRIO分析は、V→R→I→Oの順番で分析します。「V」にYESで回答できる場合は「R」に進み、そこもYESであれば次は「I」に・・・・という流れです。以下の表をご覧になると、分析の流れと、その評価(自社の競争優位の状態)についてご理解いただけると思います。
VRIO分析を行う場合にいくつか注意点があります。
- 分析結果は永続的なものではないため、継続的に行っていく必要があります。外部環境は変化しますし、同様に顧客の価値観や価値基準も変化します。
- 外部パートナーのリソースは含めないで分析する必要があります。「自社でコントロールできる」ことが内部環境分析の対象の前提です。
2.バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業活動のどこに価値があるか、企業活動を通じてどのように価値が創出されているかを分析するフレームワークです。さらには、競合企業が模倣できない価値を創出することを目的とします。また、前回の「業務面の分析」がそれぞれの業務の強み・弱みを分析するための方法であったのに対し、バリューチェーン分析は企業のそれぞれの活動・機能の流れやつながり方に注目した分析と言えます。ですので、個々の活動・機能の分析だけではなく、企業活動全体を俯瞰し、整合性をとるように分析していくことが重要です。
バリューチェーン分析の基本形は以下の図のとおりです。このフレームワークは最初に製造業を想定して考えられたようで、当然ながら全ての企業に当てはまるわけではありません。基本形を参考に、それぞれの企業ごとに自社の活動の流れを考える必要があります。
(1)主活動
その活動が直接的に価値を生み出す活動のことを主活動と定義します。
上記の図で言うと、「購買物流→製造→出荷物流→マーケティング・販売→サービス」です。
(2)支援活動
企業の活動は主活動だけでは完結しません。主活動を支え、より円滑に活動できるようにするための活動を支援活動と呼びます。上記の図で言うと、「全般管理(インフラストラクチャー)」、「人事・労務管理」、「技術開発」、「調達活動」がそれに当たります。
(3)分析の手順
以下のような流れで分析を行います。
(a)提供価値の理解
(b)活動の分解(主活動)
(c)支援活動(主活動以外の活動)の特定と定義
(d)ベンチマーク対象・比較対象となる企業の特定
(e)事実や数値(費用・時間など)の洗い出し
(f)各活動の分析(強み弱み分析、VRIO分析)
(g)分析結果の意味の考察
(4)バリューチェーン分析を行うメリット
自社の提供価値の源泉を論理的に説明できるようになります。また、自社の提供価値の源泉だけでなく、競合企業の提供価値の源泉を分析することができます。さらには、今後の経営資源配分や、M&A戦略立案につなげることができる、というメリットもあります。
(5)注意点
単一機能の優位性は他社も模倣しやすく、持続的な競争優位を確立できません。そのため、複数の機能での優位性保持が必要です。また、企業の活動全体として価値が高まるよう、各機能・活動の整合性あるつながりが必要です。