内部環境分析の続きです。今回は「経営面・業務面・人事面に分けた分析」について解説します。
1.経営面についての内部環境分析
「経営面」というくらいですから、経営者・経営陣に加え、組織体としての会社、という視点で分析を行います。以前にもこのシリーズでご紹介しましたが、よくまとまったものとして、孫子の「組織の優劣」つまりは「道・天・地・将(智信仁勇厳)・法」の枠組みが有用です。孫子はいわゆる兵法書で、以下で説明する内容も、本来は国家同士もしくは軍隊同士の「彼我の優劣を判断するための基準」として考えられたものです。国家や軍単も、企業と同様に「目的を持った組織」として捉えると、企業における彼我の優劣を判断する基準、つまりは内部環境分析の枠組みとして大変参考になります。
「道」とは「経営者と従業員の一体感」ということを意味しています。なかなか分析しにくいかもしれませんが、あらゆる組織体の活動の基盤となる事項ですのでとても重要です。
「天」、これについては解釈はいろいろありますが、私は「時間的条件」、「国際・国内情勢」、「経済情勢」などと幅広い意味合いで捉えています。ただし、いずれも「外部環境」に関することなので外部環境分析の際に参考にすることにしましょう。
「地」とは「地理的条件、立地条件」を意味します。Webの登場や、コロナ禍でのリモートワークやWeb会議の浸透で立地条件の重要性が低下しているようにも見えますが、本当にそうか、という視点で分析しましょう。
「将」とは「経営者の器量」を意味します。「経営陣の器量」と読み替えても問題ありません。これはさらに智信仁勇厳で構成されます。「智」は学ぶことが好きか、物事を明察できる知力はあるか、「信」は信用第一に努めているか、「仁」は愛情深く部下の心情をつかみとることができるか、「勇」はいざというときの決断力はあるか、困難にくじけない勇気を持っているか、「厳」は組織規律維持のために厳正な信念をもって禁欲的な態度を率先垂範できるか、を意味します。
「法」とは「規程、制度、組織原則」を意味します。これが行き過ぎると官僚制の逆機能の一因となってしまいますが、多くの人員で構成される組織を運営するためには一定程度の整備がなされていることが必要です。規程や制度については明文化されている場合は分かりやすいですが、それが明文化されていない場合は分析するのはやや困難です。組織原則も同様に分析にかなり困難が伴いますが、組織の分析としてとても重要です。
また、組織体としての会社の分析、という意味合いで組織図の分析が有用です。中小企業の場合、組織図がないことも多々ありますが、後に解説する業務面についての内部環境分析と合わせ、「現状の実際の組織図」、「現状でのあるべき組織図」をそれぞれ作成することで、「不足している機能や人材」が見えてきます。
「現状の実際の組織図」とは、社内ヒアリングなどを通じて、実際にどの業務をどの部署が担当しているのか、それを誰が管理しているのか、権限はどのようになっているのか、などの情報を集めて、その情報を元に書きます。つまりは現状をありのままに表した組織図、ということです。
「現状でのあるべき組織図」とは、自社で現在行っている事業で必要となる機能・部署、必要となる管理者、など様々な事象を検討の上、「本来、こういう組織図であればより適切な経営や事業運営ができるはず」という組織図を考え作成します。その際には以下のような基本的な組織の原則を知っておくと便利です。つまりは、専門化の原則、権限責任一致の原則、統制範囲の原則、命令統一性の原則、権限移譲の原則(例外の原則)です。特に専門化の原則、統制範囲の原則、命令統一性の原則は組織図を書く際に必須の知識です。
「専門化の原則」は、業務を分業することで、効率性、専門性や習熟度を高めることを意味します。たとえば経理に関する業務は集約して経理部に担当してもらうことで、効率的な処理ができますし、さらには経理についての専門性や習熟度が高まる、という意味合いです。ですので、基本的な組織図を書く際には、分業と同類業務の集中、を考えておく必要があります。
「統制範囲の原則」は、ひとりの管理者が管理できる部下の数には限界があり、それを超えると組織は非効率に陥ってしまうというものです。ですので、組織図を書く際には、業務量、担当者数、管理者数のバランスを考えておく必要があります。中小企業では、特定の管理者が普通は管理不能な膨大な数の業務と従業員を管理していることになっている、という組織図がよく見られます。それは本来はあってはなりません。
「命令統一性の原則」は、分かりやすく言えば「上司はひとりとしなければならない」という意味合いです。ある従業員に指示を出す上司はひとり、その従業員が報告をする相手となる上司もひとりだけ、ということです。たまに中小企業の組織図で、ある部門には同格の部長が二人いたり、部長だけでなく取締役が直接指示を出せることとなっている事例を見かけることがあります。実務上は都度都度調整して乗り切っているのかもしれませんが「あるべき組織図」では避けなければなりません。そういう意味で、いわゆるマトリックス型の組織図は運用に困難か手間を要することとなりますので同様に避けるべきです。
「現状の実際の組織図」、「現状でのあるべき組織図」を比較することで、本来はあるべきこの機能が社内に存在しない、こういった能力を持っている人材が不足している、などが分かりますし、さらに「将来のある時点でのあるべき組織図」まで描くことができれば、それは将来の計画策定時にも重要な情報となります。
2.業務面についての内部環境分析
会社の強みが、社内のある業務の生産性が極めて高いことや、顧客からの評価が高いことであることも少なくありません。そういった強みや弱みを洗い出すために、社内業務を「主業務」と「支援業務」に分けて列挙し、それぞれの業務を2つの評価軸で評価してみましょう。先述の「組織図の分析」と合わせて行うとより効果的な分析となるでしょう。
1つ目の評価軸は「顧客の評価」です。
これを例えば「4:大変評価されている、3:まぁ評価されている、2:あまり評価されていない、1:評価されていない、0:わからない」で点数付けしていきます。
2つ目の評価軸は「同業他社との比較」です。同様に「4:大変優位性がある、3:まぁ優位性がある、2:やや劣っている、1:劣っている、0:わからない」で点数付けしていきます。
3.人事面についての内部環境分析
企業活動の基盤となる事項で「人事」の重要性を否定する人はほとんどいないと思います。以下のような事項の分析を通じて、自社の人事的な強み・弱みを洗い出していきます。
- 組織風土はどのようなものか、会社の方針と合致しているか
- 人事評価制度は会社の方針を反映したものとなっているか
- 報酬体系は人事評価制度に連動したものとなっているか、仕組みはシンプルか
- 離職率と休職率は業界平均等と比べてどうか、高すぎないか、低すぎないか、その理由はどう考えられるか
- 業界、業種特有の項目の水準はどうか
「5」についてはたとえば以下のようなものです。
製造の場合→技術や品質管理の伝承、蓄積
営業の場合→シフト体制やインセンティブ制度等
SEの場合→労働時間の管理
それらの参考となる情報、労働時間、離職率、求職率、年齢構成etc.
営業の場合→シフト体制やインセンティブ制度等
SEの場合→労働時間の管理
それらの参考となる情報、労働時間、離職率、求職率、年齢構成etc.
次回は、内部環境分析の代表的フレームワークについて解説予定です。
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