NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年11月20日金曜日

菅政権の中小企業政策と中小M&A

新政権になってからすでに三ヶ月目に入っていますが、新しく立ち上げられた成長戦略会議での議論や、同会議の民間委員の見解が菅内閣の中小企業政策に反映された場合、中小企業のM&A(中小M&A)がより活発化するきっかけになるのではないかと注目が集まっています。

中小M&Aに関係する政策を少し振り返ってみますと、前の安倍政権では中小企業の「事業承継」促進が大きなテーマとなっており、まずは「法人版事業承継税制」の強化、「個人版事業承継税制」の創設など、主に親族内承継を促進する制度の整備が進み、2020年に入ってからは第三者承継支援総合パッケージとして経済産業省による「中小M&Aガイドライン」の策定、中小企業基盤整備機構による「経営力強化支援ファンド出資制度」など親族外(第三者)承継を促進する制度の整備も進みました。

第三者承継のための中小M&Aは引き続き活発な状況が継続すると予想されます。強いニーズがあることに加え、政策的な後押しもしばらく続きそうだからです。国も上記第三者承継支援総合パッケージの中で「10年間で60万者の第三者承継を目指」す、と明言しています。

ところで、菅政権では中小M&Aに新たなキーワードが加わりそうです。そのキーワードは「生産性向上」です。日本は主要国の中でも企業活動の生産性が低いということが長らく指摘され続けています。日本企業の生産性の低さの要因については様々な事項が挙げられていますが、菅政権になってから特に注目度が上昇している事項として、「企業の生産性は企業規模が大きくなるほど高くなる傾向があるが、日本は企業規模が小さい中小企業の割合が他国と比べても大きい。よって日本企業全体の生産性は低い。」ということが挙げられます。

これは、特に成長戦略会議の民間議員でもあるデービット・アトキンソン氏が唱えているもので、同氏の提言は菅首相の政策にも大きな影響があると言われています。同氏は中小企業基本法の改正を行ったり、最低賃金の見直しを行ったりすることにより、中小企業に企業規模拡大を促すことを提唱しています。

企業規模と生産性の相関関係は直感的に理解しやすいものの、因果関係はあるのか、因果関係があるとしても企業規模が拡大すると生産性が向上するのか、生産性が高い企業が企業規模拡大に成功しやすい傾向があるのかなど、どちらが原因でどちらが結果なのかなどは議論の余地があるかもしれません。また、そもそも日本の大企業の生産性が中小企業より高いのは、付加価値額が向上しているのではなく、労働者削減の結果にすぎないという意見もあるようです。

しかし、当面は解消されない後継者不足の問題、とも相俟って、中小企業への再編期待が高まっていくことは間違いなさそうです。そこでやはり引き続き注目されるのが手段としての「中小M&A」です。アトキンソン氏の提言でも中小企業の規模拡大の手段として挙げられているのは「統廃合」であり、つまりはM&Aです。今までの中小M&Aは事業承継のための手段という位置づけが中心で、一部に事業再生のための手段という位置づけがあったくらいでした(ただし、それは売り手にとって、という意味合いです。買い手にとっては成長戦略のひとつであったり、代替できない技術などを持った取引先の事業継続など、様々な意味合いがあります)。今後は売り手買い手双方の生産性向上の手段としてのM&Aが活発化し、中小M&A市場が盛り上がっていくことが期待されます。