NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年6月29日月曜日

事業計画の作り方5 起業前の方向け(4) 営業、競合・代替品

今回は「顧客」にどのように到達してどのようにモノやサービスを購入してもらうのかということを考える営業と、「顧客」から見た場合に他の選択肢となる競合・代替品について説明します。営業については本シリーズとは別に「スタートアップにとっての営業」という記事もアップしていますので、そちらも合わせてご覧ください。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

前回説明した「顧客との関係」との違いがやや分かりにくいですが、「顧客との関係」がサービスの提供場面、「営業」は文字通り販売の場面、と考えると区別が分かりやすくなります。

(5)営業


本シリーズで想定しているスモールビジネスの場合、販売の場面で顧客に到達するための方法としては、

  • 個人営業 or 法人営業
  • 直接販売 or 代理店販売 or Web販売
  • プッシュ(積極営業)型 or プル(店舗)型
  • 他力(提携先)活用、人脈活用

があり、提供するモノ・サービスに応じた選択と組み合わせが必要です。例えば、
「法人営業、直接販売型で、プッシュ型、人脈活用」という組み合わせであれば、リスト化した見込み顧客に他社・他者を介さずに自社側から積極的にアプローチする。見込み顧客リストは人脈を可視化したものを活用する。
といった具合です。最近では多くの広告宣伝費を投入し見込み顧客リストを作ったり、外回り営業ではなくインサイドセールスと呼ばれる営業のフローをWeb上で完結させようとする方法が一般的になってきたりなどのトレンドもありますが、多額の広告宣伝費を投じるビジネスモデルは本シリーズで想定しているスモールビジネスにはそぐいませんし、インサイドセールスは上記方法をより具体化したものであり、矛盾したりするものではありません。

自分の事業にとってどのような営業方法の組み合わせが適切かを考えた後、次には選択した方法ごとに、それを実現させるために必要な事項を考える必要があります。

・直接販売+プッシュ型
 この組み合わせの場合先程も触れたとおり、見込み顧客リストの作成方法を考える必要があります。法人営業であれば探せば自分がアプローチしたい属性の企業リストが見つかることもあります。個人の場合はきっと簡単ではありません。Webを活用したり、昔ながらのチラシ配布→無料体験→リスト化などの方法をとったりします。また、見込み顧客リストができても実際にアプローチを行う営業部隊の構築が必要です。目指す売上規模によっては最初は経営者のみで営業を行うこともありますが、いずれ営業専任者が必要となるでしょう。どういった経験を持った人物を採用するか、営業の成績をどう評価しどう報いるのか、営業担当者は日々どういった数字を追いかけ行動するのか、などを考える必要があります。

・代理店販売→代理店開拓方法、代理店稼働率向上方法
 代理店を活用する場合でも、そもそもどういった存在が代理店に相応しいか、そしてどうやって開拓するか、代理店契約締結後にどうやって代理店に動いてもらうかなどを考える必要があります。

・Web販売→広告の出し方 等
 Webでも同様です。販売サイトをただ開設しただけでは売上はあがりません。どのように販売サイトに来てもらうか、販売サイトを見るだけではなくいかに購入してもらうか、などを考える必要があります。Webの場合、他の販売方法よりも見込み顧客の動きを数字で捉えやすい面があるので、数字を見ながらの試行錯誤も重要です。

(6)競合・代替品


文字通り、自社の事業の競争相手になる存在や、自社の製品やサービスの代わりとなりうる他社の製品やサービスを意味します。

競合と代替品の区別は今はあまり深く考える必要はありません。後ほど説明するように自社の事業の位置付けをどう捉えるかによって変わってくる相対的な違いだからです。自社を鉄道事業と捉えている企業から見ると他の鉄道会社が競合で、航空会社や自動車は代替品に相当しますが、自社を鉄道会社ではなく顧客運送業と捉えると航空会社は代替品ではなく競合に相当するようになる、といった具合で相対的な違いしかありません。

競合・代替品について考えるとき、調べるときは以下の点が重要です。

  • 競合・代替品が存在しないという発想は捨てる。
  • 競合・代替品か否かは顧客の視点で考える(製品やサービスレベルではなく、提供価値のレベルで考える)。

記事「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」の「情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?」の項で競合分析の重要性について説明していますので、そこから以下引用します。
次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。 
ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。 
競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。
例えば、CDプレイヤーを販売する事業の場合、自社の事業や製品をCDを聴くためのデバイスと考えるか、音楽を楽しむための手段と考えるか、安らぎを得るための方法と考えるかで競合も代替品も変わってきます。

また、「営業」は顧客との関係の中だけではなく、競合企業の動きによっても変わってくる可能性がありますのでその観点でも競合や代替品の分析は重要です。

今回は以上です。
次回は「組織・チーム、社外パートナー」の説明から開始します。

2020年6月28日日曜日

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。
いよいよ西洋最高の英雄と言われるユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)の登場です。ローマという国家が共和政の制度疲労で混迷している中、カエサルはその変革を行い帝政の基礎を築きます。その才能は超一流の軍人や超一流の政治家としてのものに留まらず、文筆家としても超一流でラテン文学を代表するうちの一人と言われています。また、才能だけではなく溢れるような人間的魅力があるのが特徴です。
塩野七生さんの力も相俟って、この本を読んでいると眼の前にカエサルが実際にいるようにも感じてしまいます。

ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

  1. 指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた。(イタリアの教科書)
  2. 人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。(ユリウス・カエサル)
  3. 人は、仕事ができるだけでは、できる、と認めはしても、心酔まではしない。言動が常に明快であるところが、信頼心をよび起こすのである。
  4. 情報の重要性を知らない人間が相手を見くびるようになれば、普通でも入ってくる情報を集めることさえ怠るようになる。
  5. (文民は軍隊が隊列や規則にこだわることを馬鹿にすることがあるが)隊列が乱れていては、行軍でも布陣でも指令が行きとどかない恐れがある。(中略)(軍隊は)指揮命令系統が明解である必要がある。
  6. あせれば人は、ごく自然に以前の成功例にすがりつくようになるものである。
  7. 人間誰でも金で買えるとは、自分自身も金で買われる可能性を内包する人のみが考えることである。
引用元「ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前

(1)指導者・リーダーの資質については、多くの人物・書籍がその内容を論じています。ここで挙げられている五つもなるほどと思わせるものです(ただし、ここではその一つ一つが重要なのではなく、カエサルだけが、指導者に求められる資質を全て持っていた、ということそのものが重要なのではありますが)。「説得力」だけではなく「知性」が挙がっているのは注目すべきです。最近でこそビジネスパーソンにもリベラル・アーツといったことが重要視されるようになりつつありますが、知性を軽視する人がまだまだ多いとも感じます。

(2)これもその通りだと思います。ただ、見たくない現実を見るためにはどうすれば良いのか?という難問が残ります。経営者の場合は、忌憚なく意見を言ってくれるパートナーなどがこの問題を解決する手助けをしてくれるかもしれません。いずれにせよ「自分が見たいと思っている現実しか見えていないのではないか」と常に自分に問い続け、そうならないように、またはそうなってしまっても気づくことができるようにする仕組みを考えることが重要です。

(3)これは、ファンド、金融機関や経営コンサルティング会社に所属する人間が自戒を込めて認識しておくべき言葉です。これらの業界には頭が良い人間は多いのですが、残念ながら(きっと私もその例外ではなく)強い思いに裏づけされた思想的な背景がない人物が多く、そういった人物は言動に一貫性がなく、状況が変わると平気で矛盾した言動を行います。事業会社の方から「信頼」してもらえないことがあるのだとしたら、そういったところを見透かされているからかもしれません。

(4)よくいわれることですが、日本人は情報の重要性を軽視する人が多いようです。例えば、昭和の旧日本陸軍では情報将校よりも作戦将校が重視され、その結果、現地の実態を無視した「机上の作戦」が実行されるようなことが常だったといわれています(明治・大正の旧日本陸軍で必ずしもそうではなかったようですが)。また、日本語の「情報」という言葉も定義が曖昧で、「date」を意味するのか、「information」なのか、それとも「intelligence」なのかはっきりしません。ちなみに、断片的な情報である「date」を収集・整理すると「information」となり、それを分析・評価すると「intelligence」になると言われています。そういった違いを意識して「情報」を取り扱うだけでも効果があるかもしれません。

(5)スタートアップの経営者は、指揮命令系統をはっきりさせることやその前提となる組織づくりが苦手な人が多いように感じます(最近でこそ大手企業での就業経験がある経営者など、苦手ではない方も増えているようですが、少し前までは例外は大手企業からのスピンアウト企業くらいでした)。しかし、孫子も言うように指揮命令系統は兵法・経営の八大要素のひとつでありますし、経営学的にも重要です。それが行き過ぎた、所謂「官僚制の逆機能」が生じそうになったときに対策を講じればいいのであり、最初から「官僚的」「大企業的」と毛嫌いしていては、ほとんどの場合企業成長を達成できません。最近では組織づくりにあたって役職員の自主性や自発性を重視し、あえて指揮命令系統を設けないこともあるようですが、それは組織づくりをしなくて良いことを意味しているのではありませんし、経営者の手腕がより問われるということも忘れてはなりません。

(7)人を買収する話だけではなく、いろいろな場面で同様のことが言えます。たとえばある社内制度を新設する提案がなされたとき、その社内制度を役職員が悪用するリスクをあげつらうタイプの経営幹部をよく見かけますが、その人は指摘の仕方に気をつける必要があります。言い方ひとつで「より良い社内制度を作るために発言した人、問題点を指摘した人」ではなく、その経営幹部自身が「抜け道がある社内制度を悪用する可能性がある人」と見られてしまう可能性もあります。塩野七生さん風に言うと「社内制度をみんな悪用するとは、自分自身が社内制度を悪用する可能性を内包する人のみが考えることである。」といった感じでしょうか。

2020年6月3日水曜日

ローマ人の物語3 勝者の混迷

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。今回からは簡単にストーリーも紹介します。前回までで、ローマとカルタゴ間での地中海の覇権を争う「ポエニ戦争」がローマの勝利で終結しました。しかし戦後、勝者の驕りか、数百年の歴史の中での制度疲労か、ローマは混迷の時代を迎えます。グラックス兄弟、マリウス、スッラ、ポンペイウスといった著名な政治家・軍人の統治下でローマは揺れ動きますが、その最後に英雄「ユリウス・カエサル」が登場します。以上が「勝者の混迷」のおおまかな流れです。

ローマ人の物語3 勝者の混迷

  1. 多くの普通人は、自らの尊厳を、仕事をすることで維持していく。ゆえに(中略)誇りは、福祉では絶対に回復できない。職を取り戻してやることでしか回復できないのである。
  2. 人は、必要に迫られなければ、本質的な問題も忘れがちなものである。
  3. 「混迷」とは、敵は外になく、自らの内にあることなのであった。
  4. すべての物事は、プラスとマイナスの両面を持つ。(中略)改革とは、もともとマイナスであったから改革するのではなく、当初はプラスであっても時が経つにつれてマイナス面が目立ってきたことを改める行為なのだ。
  5. 過度な劣等感くらい、状況判断を狂わせるものもないのである。
  6. 優秀なルクルス(ローマの将軍)には、自分にまかせておけば良い結果につながるとの自信が強すぎたために、兵士たちを積極的な参加者に変えるに必要な、心の通い合いの大切さに気づかなかったのであった。
引用元「ローマ人の物語3 勝者の混迷

(1)は自分が過去に希望退職に応募して際に実感しました。別に生活費には困っていないから働かなくていい、というものではありません。人はいろいろなことを経験して成長していきますが、その中で仕事の占める割合というのはとても大きいと思います。仕事をしていないということは、人として成長する機会が大幅に減る、ということです。そう考えると、政策もセーフティーネットの充実ではなく、そもそもの雇用創出に力を入れるべきです。

(2)は、逆説的に改革をすることの難しさを感じさせてくれます。「そもそもうまくいっていないこと」を変えることに反対する人は多くはありません。しかし、「過去にうまくいってきた」、「今までこれでよかった」という状態だと、これを変えることに反対する人が多くなります。だからこそ改革を成し遂げた指導者というのは偉大なのだと思います。

(4)については、何かの改革を行うときに前提として理解しておくと良いと思います。改革する側が過去の経緯を知らないと、ついつい旧制度などを全否定してしまいがちですが、旧制度などもそれが作られたとき導入されたときはメリットがデメリットを上回っていたはずです。それが外部環境や内部環境の変化に伴い、デメリットが上回るようになってきただけのこと。このことを理解して改革に取り組まないと不必要に抵抗勢力を増やしてしまい、結果として改革も成し遂げられないことになりかねません。

(5)については、自分に当てはめてみると痛いほど心に響きます。劣等感のせいでどれだけチャンスを失ったか、そういったことを考えるとキリがありません。

(6)ルクルスは知名度は低いですが、かなり優秀な軍事的指導者であったようです。自軍の10倍以上の敵軍を打ち破ることが一度や二度ではなかったとのことです。また、戦闘の際には自身も最前線に立ったり、食事や寝床は兵卒と共にするなど、兵士の心を掴もうとする努力も行っていたようです。しかし、上記引用のような考えであったことから、兵士たちの心は離れていきました。ルクルスのような優秀な人間でも、その姿勢が間違っていれば人は付いてきません。実際の現代社会を振り返ってみると、ルクルスと同じような考えのマネージャーがいかに多いことか。しかもそのほとんどはルクルスほどの優秀さを微塵も持っていないように見えます。自分自身がルクルス的マネージャーになっていないか見直してみるのも良いと思います。

2020年6月2日火曜日

事業計画の作り方4 起業前の方向け(3) 顧客

今回はビジネスプランで最も大切な項目である「顧客」について、(A)顧客は誰か、(B)顧客のニーズ、(C)顧客へ提供する価値、(D)顧客との関係、に分けて説明します。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(4)顧客


(A)顧客は誰か

顧客がいなくては、あらゆる事業は成り立ちません。
また、顧客の数が多い方がビジネスは行いやすいようにも思えますが、実際には顧客が多岐にわたるほど共通するニーズを見出すことは困難です。若者と高齢者が共通して必要とするモノを見出すよりも、若者だけが必要とするモノを見出す方が簡単であることを考えるとよく分かります。逆に若者にも高齢者にも求められることを目指した製品やサービスは若者にも高齢者にも必要とされない結果となりかねません。

よって、共通のニーズを持つ消費者などをグループ化し、どのグループを自社の顧客層としたいのかを絞り込むことが求められます。

そのことを整理するフレームワークとして、少なくともポジショニングマップを作れるようになりましょう。

ポジショニングマップとは、自社の製品やサービスの差別化や競争優位性を考えるためのフレームワークのひとつで、自社のポジショニングを考える際に使う、言い換えると、どういうニーズを持った消費者グループが自社の製品やサービスを選び、自社の顧客層になるのかということを他社製品やサービスと比べながら考える際に使用します。

Google画像検索でポジショニングマップを検索してみてください。いろいろな事例が出てきます。ポジショニングマップは縦軸と横軸の二軸を考える必要があるのですが、これを一から考えるのは大変なため、まず最初は同じ業界のポジショニングマップをいくつか探し出し参考にしながら考えてみてください。

注意点としては、縦軸と横軸はお互い連動しないようなものを考えましょう。たとえば「高級感」と「価格帯」は連動することが多く、連動してしまう場合は軸が2つではなく1つしかないことになり、それらを同時に評価軸として採用するのは不適切ということになります。


(B)顧客のニーズ

一番勘違いが多い項目です。特に、起業家自身がその業界経験が長いので顧客のことを分かっているつもり、起業家自身が顧客層と同じ属性なので顧客のことを分かっているつもり、などといった例が多く見られます。

実際に、少しでも多くの「想定顧客層」の方にヒアリングを行いましょう。特にBtoCのビジネスの場合、個人である想定顧客へのヒアリングは必須です。その際に注意すべきは、「こんな製品・サービスがあったら良いと思うか否か」ではなく、「実際にお金を出して買うか否か」のレベルまで把握することです。顧客のニーズを、「大変困っている問題(切実な問題)」、「困っている問題」、「それ以外」に分けて、重要度・緊急度を考えると参考になります。顧客が実際にお金を出して買うのは「大変困っている問題(切実な問題)」を解決してくれる製品やサービスだけであり、単に「困っている問題」レベルだとお金を出して買ってくれるとは限りません。

顧客が法人や団体の場合、同様に切実なニーズがあるか否かを把握することに加え、「顧客がそのモノ・サービスを購入できない理由」も把握するようにしましょう。「あなたのサービスは素晴らしいけど、すでに●●社のサービスを利用していて、変更するのに手間がかかるので、今回は見送ります。」といったなどです。ここでは「変更を簡単に」というのも顧客のニーズと言えます。

想定顧客へのヒアリングを行う際は、以下の点に留意・注意しましょう。
  • 自分の考えている製品・サービスのイメージが具体的に湧く、いわゆるプロトタイプ(Minimum Viable Product)を作成し、それを見せながら行いましょう。モノなら紙や粘土で作成、Webサービスならユーザーインターフェイス画面を紙に書く、など。
  • 顧客からの「それ、いいね」で満足することなく、「それ、本当に困っている」、「本当に欲しい」、「いますぐ欲しい」というレベルになって初めて顧客のニーズと呼べることを理解しておきましょう。
顧客へのヒアリングは以下のようなメリットがあります。
  • 顧客の本当のニーズに近づくことができます。
  • 自分の考えているモノやサービスの誤り、もっと根本的にはビジネスプランの誤りに事前に気が付くことができ、変更を行うこと(ピボット)ができます。


(C)顧客へ提供する価値

価値提案(バリュー・プロポジション)と呼ばれています。考える際には、以下の2点を自分に問いかけてみましょう。

問:あなたの製品やサービスは顧客にどんな価値を提供するのでしょうか?
 キーワードは「新規性、意外性、性能、カスタマイズ、仕事を肩代わりする、デザイン、ブランド、価格、コスト削減、リスクの低減、利用のしやすさ、購入のしやすさ、快適さ、満足感」などです(参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション)。

問:自社は何者なのか?という自社の定義(自社の事業の定義)は明確ですか?
 たとえば自社の事業がレンガで教会を建てることである場合、自社は何者と言えますか?レンガを積む事業者でしょうか?、教会を建てる事業者でしょうか?、地域に安らぎの場を用意する事業者でしょうか?


(D)顧客との関係

顧客とのコミュニケーションをどのようにとるか、を考えます。後述する「チャネル」が販売の場面に近いのに比べ、「顧客との関係」はサービスの提供場面に近いものです。この項目についてはイメージを持っている方が多いと思いますが、それをより明確化しておきましょう。

(例)参考文献:ビジネスモデル・ジェネレーション
  • 顧客と担当者の個別かつ直接のやりとりでの関係
  • 専任担当者による関係
  • セルフサービス(直接のやりとりが生じない)
  • 自動サービス(セルフサービスの進化系)
  • SNSなどのコミュニティ内でのやりとり(顧客同士のやりとりも含む)
  • 共創(顧客にも価値創造に加わってもらう)

さて、ここまで来ると「顧客」についてより明確になってきたのではないでしょうか。

次回は「営業」の説明から行います。


以下、より学んでみたい方向けの書籍(ご参考まで)

2020年6月1日月曜日

ローマ人の物語2 ハンニバル戦記

ローマ人の物語」シリーズは一冊ごとに数十箇所付箋をつけてしまうくらいに学びのある作品です。当ブログでは、私が気に入った箇所を、経営や日常生活の視点から取り上げています。

ローマ人の物語2 ハンニバル戦記

  1. 敵方の捕虜になった者や事故の責任者に再び指揮をゆだねるのは、名誉挽回の機会を与えてやろうという温情ではない、失策を犯したのだから、学んだにちがいない、というのであった。
  2. 共和制ローマでは、軍の総司令官でもある執政官に対し、いったん任務を与えて送り出した後は、元老院でさえも何一つ指令を与えないし、作戦上の口出しもしないのが決まりだった。
  3. 戦争終了の後に何をどのように行ったかで、その国の将来は決まってくる。(中略)問題は、それで得た経験をどう生かすか、である。
  4. 責任の追及とは、客観的に誰をも納得させうる基準を、なかなかもてないものだ(中略)。それでローマ人は、敗北の責任は誰に対しても問わない、と決めたのだった。(中略)(責任は誰々にあるとか、どの身分階層にあるとかといったかたちで)国論が二分していては、国力の有効な発揮は実現できない。
  5. 天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることができる人ではない。誰もが見えていながら重要性に気づかなかった旧事実を、気づく人のことである。
  6. 年齢が、頑固にするのではない。成功が、頑固にする。(中略)ゆえに抜本的な改革は、優れた才能をもちながらも、過去の成功には荷担しなかった者によってしか成されない。
  7. 敗北とは、敵に敗れるよりも自分自身に敗れるものなのである。
  8. 過酷に対処しなければならないとしたら、それは一時に集中して成されるべきである(マキアヴェッリ)。
引用元「ローマ人の物語2 ハンニバル戦記
(1)について、日本は失敗した人が再び挑戦できるような文化、仕組みに欠けていると言われています。もちろん、失敗をバネに成功に至った人もいることから、「再び挑戦しにくい」という表現がより正しいのかもしれません。一方、米国のVCは失敗経験のある起業家をより高く評価すると聞きます。

また、失敗から学ぶということに関しては、成功には法則性はなく失敗には法則性がある、という言い方をすることもあります。成功は、その当事者の個人的資質による部分や、運による部分が大きくその法則性を見出すことは容易ではない一方、失敗は「してはならないこと」をしてしまった結果失敗に至るという意味で法則性を見出しやすいという意味です。

失敗から学ぶことも、失敗経験を前向きに捉えることも苦手な日本人が学ぶべきはローマ人かもしれません。

(2)については、権限委譲を行った後は口を挟まないという意味にもとれますし、より現場に近い位置にいる者の意見を重視するという意味にもとれます。どちらにせよ、組織構造の設計原理に通ずるところがあります。

(3)については、(1)とも大いに関係しますが、何かを失敗した場合にはその原因をしっかり把握し、次に活かす必要があります。しかし、成功した場合にも検証フローが必要です。仮説どおりに成功したのか、想定以上の成功だった場合、それはどういった要因でもたらされたか、一回きりの成功だったのか、今後にも活かせる成功だったのか、等々。

なお、検証できるのはきちんとした仮説の下に実行された事項の経緯と結果だけであるということも忘れてはなりません。逆に思いつきでなされた事項についてはそうはいきません。

(5)について、「運が良い人」というのは周囲からは「運」のことだけで見られ勝ちですが、実際には誰よりも「ある事」について真剣に、四六時中考えているからこそ他の人が気づかないこと(たとえば、ちょっとした情報やきっかけ)に気づくことが出来、その結果運を掴んだが如く結果を残すことが出来る、と言えます。きっとここでの「天才」もそういう人達のことなのではないかなと思います。

また、物事がうまく行かないときに、新しい方法を試すということも大事ですが、もともとのやり方に拘ってみて、他人が気づかない解決策を見つけられるよう努力することも大事だなと思います。

(6)について、ある経営者がおっしゃっていた「成功体験は捨てられない。よって、成功体験が新たな場面で障害になるような事態になる前に経営者は引退すべきである」という話と、ある新規事業専門家がおっしゃっていた「人は必ず老害になる。老害になる前提で害を少なくする準備をしておく必要がある」という趣旨の話が思い出されます。何事も引き際が肝心といいますが、引き際を見極めるのは、当時者自身にはなかなか難しいですね。

(8)について、これは事業再生の場面などでもよく言われます。コスト削減や人員削減は、従業員のやる気を削ぐものであるため、それを実施する必要がある場合は小出しに実施するのではなく、一気呵成に行うべきであるというものです。これはまさにその通りだと思います。小出しにリストラ計画が実施されると、それを受ける方の立場である従業員から見ると、全体像が見えなかったり、いつまで耐え続ければいいのか分からなかったりするからです。再建までの道のりを示した上で、リストラは今回限りだから耐えて欲しい、というようなメッセージを発し、一気にリストラ策を実施すべきなのでしょう。

2020年5月31日日曜日

ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず

前回の記事投稿から時間が空いてしまいましたが「ローマ人の物語」についてです。前提知識について前回の記事に簡単にまとめていますので、そちらも合わせてご覧ください。

ローマの為政者や軍事指導者達の言動も現在の会社経営に活かせるものが多いのですが、塩野七生さんのコメントも大変勉強になります。特に気になった箇所についてご紹介していきます。

ローマ人の物語1ローマは一日にして成らず

  1. ゆっくりと一歩一歩地歩を固めていくやり方はそれはそれ賞められてよい生き方だが、組織にはときおり、異分子の混入が飛躍につながるという現象が起こる。
  2. 共同体も初期のうちは、中央集権的であるほうが効率が良い。
  3. 改革の主導者とはしばしば、新興の勢力よりも旧勢力の中から生まれるものである。
  4. 偉大な人物を慕ってくる者には、なぜか、師の教えの一面のみを強く感じとり、それを強調する生き方に走ってしまう者が少なくない。
  5. 抜本的な改革とは、それを担当する人間を入れ替えることによって、はじめて十全になされるものである。
  6. 武器を持たない予言者は自滅する。(マキアヴェッリ)
  7. 重要なのは、その敗北からどのようにして立ち上がったか、である。
引用元「ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず
(1)については、スタートアップが成長するときには、創業メンバーだけではなく、違う能力を持った中途採用者の存在が必要な場合があることに通じます。特に、創業者が経営者としての能力も兼ね備えている場合は問題ないですが、そうでない場合は「経営者」を招聘する必要がありますし、そうしないと企業成長が達成できないことが多いと考えられます。よく言われるように、米国のスタートアップはある段階でプロの経営者を雇いますが、日本では創業者が経営者として残り続けることが多いようです。創業者が外部からプロの経営者を招聘した例としてはGoogleが有名です。

(2)については、シードステージ・アーリーステージの企業は創業者などの求心力がある人物が「ワンマン経営」を行う方がスムースに行くことが多いことに通じます。それらのステージでは企業体力がない中、特に素早い意思決定が必要です。毎回みんなの意見を求めていたりしたら、その間にも市場は競業企業にとられてしまいますし、資金も流出を続けてしまいます。ワンマン経営は概ねスピードはあります。

(5)について、企業が株式上場を目指すと決めたとき、今までとは経営、営業、管理、多くのことを変えていくことになります。上場することが出来る企業の条件の中のひとつ(しかも大きなひとつ)として、管理体制が整っていることが挙げられます。ある時点までは創業メンバーなど気心知れた者同士である程度自由に事業を行っていたかもしれません。しかし、上場を目指す段階になるとそうではすまされません。創業時には重要な役割を担っていたメンバーが、上場を目指す時期にその変化についてこれず(もしくは、ついてこようとせず)、期待される役割を果たせないということも出てきます。そういったときには経営者は、そのメンバーを説得・教育するだけではなく、最終的には辞めてもらうという判断も求められることもあります。大きな変化の中では、人が入れ替わることも必要だということです。

(7)について、私は企業経営とは「試行錯誤」だと考えています。特に世の中にない新しい事業を行うスタートアップには、学ぶことができる先例がいつもあるとは限りません。リスクをとって、誰もやったことがないことにも挑戦しなければなりません。そして、きっと失敗することの方が多いでしょう。しかし、そのときにスタートアップに求められるのは、意気消沈することではなく、失敗から学び次への教訓とすることではないでしょうか。

「ローマ人の物語」は、読む側の状況や経験などによって様々な教訓を引き出すことが出来る良書だと思います。オススメです。


2020年5月29日金曜日

事業計画の作り方3 起業前の方向け(2) 営業循環図

引き続き「起業前の方」向けの事業計画の作り方について説明していきます。

最初に、事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(3)営業循環図

営業循環図とは、事業に登場するプレイヤー、モノ(製品・商品など)やサービスの流れ、お金の流れを分かりやすく図で整理したものです。これらの説明は文字にすると長く複雑になってしまいますが、図にすることでとても分かりやすくなります。貴方の事業計画書を見る方は、エグゼクティブ・サマリーに加えて営業循環図を見たら、貴方の事業の概要をほとんど理解することができるでしょう。

先に例をお見せします。以下の営業循環図は、ECモールを活用して消費者向けに物販を行う事業の場合のものです。図をクリックすると拡大できます。

図:営業循環図の例

図中央上の「自社」が貴方の経営する会社や個人事業を指します。
右下の「お客様」は貴方の事業の最終顧客である個人消費者を指します。
この営業循環図の場合は、お客様は右上にある「ECモール運営会社」に対して支払いを行っていますが、事業によっては貴方の会社に対して支払うこともあるでしょう。
左下には「製造元」があるということは、貴方の事業はいわゆる仕入れ販売であり、製造元から運送業者を介してお客様に矢印が伸びていることから、製造元から製品が直送されるモデルである場合の図であると言えます。貴方の事業が自社内で製造を行うモデルであったり、自社配送を行うモデルであったりすると、当然登場するプレイヤーも矢印も変わってきます。

プレイヤーですが、主だったものは以下のとおりです。「自社」と「お客様」以外は事業内容によって登場したりしなかったりすることもあります。
  • お客様 最終顧客を意味します。
  • 製造元 モノの場合は製造業者を意味します。あなたの事業が他社サービスの販売代理店である場合は、そのサービス提供元事業者を意味します。
  • 仕入元 モノの場合、製造元と自社との間にいる事業者である卸売の会社などを意味します。
  • 中間業者 お客様と自社との間にいる事業者のこと、運送会社、倉庫会社、小売店、仕入型代理店などがあります。
  • 提携先 広告会社、手数料型代理店などを意味します。
また、矢印を良く見ていただくと、モノの流れを表す矢印は点線で描かれており、お金の流れを表す矢印は実線で描かれていることが分かります。この例の図は比較的シンプルですが、より複雑な営業循環図の場合、このように矢印の使い分けをしていないと図を見ただけでは理解できないようになってしまいます。加えて、矢印は原則として片方から片方で伸びる矢印だけを利用するようにしましょう。両方向きの矢印だと、どちらが発注する側でどちらが受注する側なのか、などが分からなくなってしまいます。また、この図では省略しましたが、お金とモノの流れに加えて、情報の流れ(伝票などの流れも含む)を記載することもありますがくれぐれも図が複雑になりすぎないようご注意ください。

図で物事を説明することに興味を持った方は「ピクト図解」の書籍を読んでみることをおすすめします。

次の「顧客」の説明は少し長くなりますので、今回はここまでとします。


2020年5月28日木曜日

事業計画の作り方2 起業前の方向け(1) エグゼクティブサマリー、起業のきっかけや想い

今回からの数回は「起業前の方」向けの事業計画の作り方を説明していきます。

第1回の記事で触れたとおり、主にスモールビジネスや、急成長を前提としない事業をお考えの方が対象です。各地で開催されている起業塾に参加する前に予習的に活用いただいたりすることを想定しています。

実際に私が講師を担当させていただいた起業家養成講座での講義内容をベースとした内容です。また、かなり参考にさせていただいているのが「ビジネスモデルキャンバス」です。以下で説明する個別の項目では、ビジネスモデルキャンバスの考え方をそのまま採用させていただいたものもあれば、僭越ながら除外させていただいたり、追加させていただいている項目があります。「ビジネスモデルキャンバス」はとても有用ですのでそちらもぜひ勉強してみてください。

まだの方は第2回の記事「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」もぜひ先にご一読ください。

起業時に作成する事業計画の項目は以下のとおりです。このまま事業計画書の目次としてご活用いただけます。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
また、事業計画策定の事前準備として、みなさんが起業しようとしている事業や今考えている事業が、一般的にはどういった業種に分類されるか、どういった企業が事業を行っているかを調べてみることをおすすめします。新しい事業といえども、世の中には必ずと言っていいほど先輩企業があります。その情報を上記項目を考える際に参考にしない手はありません。以下のような情報源には、市場の動向はどうか、顧客の趣味嗜好はどのようになってきているか、利益やコストの構造はどうなっているか、競合企業の動きはどうかなどなど活用できる情報が豊富にあります。
  • 経済紙・経済誌の記事
  • 証券会社等のアナリストレポート
  • 上場企業の有価証券報告などの開示資料
  • シンクタンクの記事やコラム
  • 信用調査会社の調査レポート
  • 業界団体のレポート
  • 同業他社の事業計画
それらの情報源からデータ等を得る際の注意点としては、
  • データはいつ時点のものか(古いものは避けましょう)
  • データの出所は信用できるか
  • さらにデータの加工が必要ではないか
などを必ず確認することが挙げられます。なお、事業計画書そのものに引用する際には出典を記載することも忘れてはいけません。

では、いよいよ個別項目に入っていきます。

1.ビジネスプラン


ビジネスプランとは、ここでは事業計画のうち数値計画以外の箇所とお考えください。


(1)エグゼクティブ・サマリー

ビジネスプランの概要を端的に説明するために用意するものです。

事業計画書は数ページから数十ページにもなることもあり、その全てを丁寧に読み込まないと内容が理解できないとなってしまうと、第二回で触れた「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」といった事業計画を作る目的が達成できない可能性が高くなります。忙しいなどの理由で全てを読んでもらえるとは限らないからです。

そこで、あなたのビジネスプランに関心を持ってもらったり、簡潔に理解してもらったりするために、事業計画書の冒頭に要約のページを設ける必要があります。その要約のページのことをエグゼクティブ・サマリーと言います。

実際に事業計画を作る際にはエグゼクティブ・サマリーのページは最初に作っても最後に作ってもどちらでも問題ありませんが、事業計画書では必ず表紙や目次の次のページ、詳細なビジネスプランの内容を説明するページよりも前のページに位置づけてください。エグゼクティブ・サマリーは「事業計画書の冒頭」にあることに意味があります。

実際にビジネスプランの概要を端的に説明することは結構難しく感じられるはずです。まだまだ考えが頭の中で整理できていなかったり、事業への熱い思い入れがあったりと、ついつい説明が長くなってしまうものです。また、場数も踏むまでは、事業計画書を読む側が特に知りたいポイントや、関心を惹きつけるために説明すべきポイントなどがよく分からないことも多いかと思います。

そこで登場するのが「エレベーターピッチ」です。これは自分のビジネスプランの魅力を短時間で効果的に説明する方法としてシリコンバレーで生まれた方法と言われています。エレベータピッチが産まれた際の面白いエピソードがあります。以下のようなものです。

某スタートアップの創業者Aがある著名な投資家Bから投資を受けたいと考えていました。
しかしBは超がつくほど多忙でありアポイントが入りません。
ですがAは諦めず、いくら忙しいBでもエレベーターに乗っている間くらいは話をする時間はあるだろうと考えました。
そこでAはBがエレベーターに乗る際に偶然を装って同乗し、ひょっとして著名な投資家Bさんではありませんか、話しかけました。
Aはエレベーターの中の数十秒でBに自分のビジネスプランの魅力を伝え、Bの興味を惹くことができました。

こういったエピソードがあるため、エレベーターピッチと名付けられたそうです。この話のポイントは、ビジネスプランを説明する時間はエレベーターが目的階に着くまでのせいぜい数十秒しかなかった、というところにあります。

そのエレベーターピッチは以下のようなものです。
私の製品(サービス)は、
(A)「 (切実に困っていること) 」 で問題を抱えている、
(B)「 (ターゲット顧客) 」 向けの
(C)「 (製品のカテゴリー) 」 の製品であり、
(D)「 (具体的な問題) 」 を解決することができる。そして、
(E)「 (従来の一般的な製品) 」 とは違って、この製品には
(F)「 (差別化の特徴) 」 が備わっている。
括弧には自分のビジネスプランに沿った言葉を入れていきます。Googleの画像検索で具体例がいろいろ出てきますので、一度時間を取っていろいろ見てみると面白いと思います。

(A)には、顧客が本当に困っていること、本当に解決したいと思っていることを記入します。いわゆる「顧客のニーズ」や「ペイン」に該当する箇所です。ポイントは「切実な」という言葉で、顧客が実はそこまで困っていないとか、解決したいと思っていない事項はここには当てはまりません。
(b)には主に想定している顧客層を記入します。絞り込むことが重要です。
(c)には、あなたの提供する製品やサービスが一般的にはどういう分野に分類されるかを記入します。
(d)には、あなたのサービスや製品が顧客のどういう問題を解決できるかを具体的に記入します。
(E)有名だったり、先行していたり、あなたが注目していたりする他社のサービスや製品を記入します。
(F)他社サービスや製品と比べた際の顧客視点での特徴、強みを記入します。

何を記入すべきかは事業計画の各項目を考える中でより明確になってきます。

エレベーターピッチをうまく作れると、それがそのままエグゼクティ・サマリーとなりますので挑戦してみてください。そして、作ったエレベーターピッチを周囲のいろいろな人に説明して多くのフィードバックを受けて改善していくとより素晴らしいエレベーターピッチになっていきます。


(2)起業のきっかけや想い

本気で起業をお考えの方でこの項目に書くことがないと言っている方とお会いしたことはありません。文章化するのに苦労されている方はいらっしゃいましたが。

この項目は起業家の方の思いの丈をぶつける箇所なので、書き方に決まりはありませんが、なぜ明文化するのかは知っておいてください。代表的なのは以下のような理由です。
  • ビジネスプランを作るとき、他の項目に反映させるため。
  • 将来、思い返すため。
  • 本当の仲間を集めるため。
  • 事業の中で悩んだときの判断軸とするため。
  • 事業の中で苦しい場面に遭遇したとき自分のモチベーションを維持するため。
起業前後では「起業のきっかけや想い」は常に頭の中にあり忘れることはありませんが、事業を開始して時間が少しずつ過ぎると、日々の忙しさの中で忘れたり見失ったりすることがあります。そういったときや上記のような場面では明文化されている「起業のきっかけや想い」は起業家を力づけたり、起業家が判断を誤ることを防いだりしてくれるはずです。

「起業のきっかけや想い」を明文化する際のポイントをいくつかご紹介します。
  • 素直に書きましょう。格好をつけたりする必要はありません。また、起業の想いに貴賤はありません。
  • 「世の中の問題を解決したい!」という想いがある場合、それに加え、自分自身がその事業を楽しいと思えるか、も考えましょう。
  • 「自分の好きなことを事業化したい!」と想いがある場合、それに加え、それがどう世の中・地域に貢献できるか、も考えましょう。
  • 自分以外の人に読んでもらうためのものということを忘れないようにしましょう。


次回は「営業循環図」を説明していきます。


2020年5月25日月曜日

事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方

事業計画の具体的な策定の仕方についてのご説明を開始する前に、事業計画の全体像や基本的な考え方について触れておきたいと思います。事業計画を作る目的はいろいろあるのですが、最も重要な目的のひとつに「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」ことがあります。よって、事業計画は一方通行なものではだめであり、最終的には一般的なフォーマットに落とし込んだり、事業計画を見る側が求めている事項の説明に注力したりするなど、見せ方にも気を配る必要があるのですが、そういったこともすべて、事業計画策定の第一歩である「どんな枠組みで計画を考えるか」があってこそのものです。今回はその枠組み(全体像、基本的な考え方とも言いかえることができるかもしれません)を考えていきましょう。

ところで、前回の記事でご説明したとおり、この「事業計画の作り方」シリーズは
  1. 起業前の方
  2. 事業承継をしようとしている後継者の方
  3. 急成長を目指して資金調達を考えている経営者の方
を主な読者層と想定しています。今回の記事の内容も、上記1~3のいずれの方にも参考になるものだと考えていますが、1と3の方は今回の記事そのままではなく応用していただくイメージで読んでいただければ幸いです。例えば、今回の記事では将来の目標と現状とのギャップをいかに埋めていくか、ということについて説明していますが、上記1や3の方から見れば、現状分析の対象が限られる、と感じられるかもしれません。しかし、よく考えたらギャップを分析しそこを埋めていく方策を考える、という枠組みそのものはいくらでも応用可能です。私の記事に限らず同様の記事はいずれもそっくりそのまま実践しないと意味がない、というものはきっと少数派ですので、納得できる箇所だけ応用してみようといった感じで読んでいただければ幸いです。

1.全体図

 さて、今回ご紹介したい内容、そして次回以降の「事業計画の作り方」シリーズを読む中でときどき思い出していただきたい事項は、以下の図にすべて含まれています。下図をご覧ください。図をクリックすると拡大できます。

図:事業計画策定の全体図

これは私が事業計画の作り方について説明する際に最初に掲げる図です。バックキャスティングやアンゾフのギャップ分析の応用版とお考えください。全体を簡単に説明します。

(1)ありたい姿
 たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
(2)あるべき姿
 10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
(3)現状(現状分析)
 今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
(4)ギャップ(ギャップ分析)
 あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
(5)実行案
 ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。

それぞれの項目を考える際のフレームワークなども多くあるため、そういったものを活用しない手はありませんが、そもそも上記項目のいずれかを欠いていると個別には素晴らしいフレームワークを活用したとしても全体としては意味のある事業計画は作るのは困難です。

では、上記(1)~(5)の解説をしていきます。

2.ありたい姿

たとえば10年後にこうなっていたい、とか、自分の事業を通じて世の中がこう良くなっていると素晴らしいというイメージとか、夢などを意味します。
経営者の方とお会いして最近感心するのが、自社や自身のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)をよく考えていらっしゃることです。MVVは人によって言葉の定義にかなり差異があるので定義そのものについてはあまり考えすぎない方が良いですが、「ありたい姿」はMVVでいうとビジョンに当たるかと考えます。「経営理念に基づいて示される会社の(具体的な)将来像」ですね。「具体的な」の箇所は、上場企業や上場準備中の企業は別として、それ以外の企業は必要以上に拘る必要はなく、象徴的な数字を示すことができれば良いと考えます。この「ありたい姿」がない事業計画も実際には多く存在しますが、「ありたい姿」が示されないと、以下で説明する事項を具体化することが困難になり、毎日目の前のことだけ一生懸命に取り組んでいるけれども、どこに向かっているか分からない、という会社になりかねません。

3.あるべき姿

10年後にあるべき姿にたどりつくためにはたとえば5年後にはこういった姿になっておかなければならない、ということを具体化したものです。
「ありたい姿」は言い換えると夢や願望であり、多くの場合10年後(場合によっては20年後)などの姿を示したものであり具体性はあまり求められません。一方で「あるべき姿」は多くの場合5年後(変化の激しい業界ではたとえば3年後)の姿を示したものであり、いわゆる中長期計画の最終年度の姿にあたります。そのために具体性が求められます。たとえば、「ありたい姿」が「10年後に日本1位」だったとしたら、5年後には市場の成長性、顧客の購買活動や競合の活動状況から考えて5年後の販売量はこのくらいを達成しておく必要がある、製造原価はこのくらいまで低減しておく必要がある、といった具合です。
ここで大切なのは具体性だけではなく、あくまでも「ありたい姿を至るために具体的に落とし込んだものがあるべき姿である」ということです。現状から積み上げ方式に計算して出てきた5年後の数字、では決してありません。

4.現状(現状分析)

今現在の自社や自分自身の現状を分析したものです。
現状分析のツールとしては優れたフレームワークがあります。有名なものは以下のとおりです(詳細は当シリーズの今後の記事やMBAや中小企業診断士のテキストなどをご参照ください)。

・SWOT分析
 企業の現状を外部環境(機会、驚異)と内部環境(強み、弱み)という視点で分析するフレームワークです。「現状分析」の総仕上げの位置付けであり、将来の方針検討の第一歩といえます。

・PEST分析
 マクロ環境をPolitics(政治的要因)、Economics(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)という切り口で分析するフレームワークです。

・ファイブフォース分析
 業界の収益性を決める以下の5つの競争要因を分析するフレームワークです。
競合(業者間の競争関係)、サプライヤー(供給業者)の交渉力、バイヤー(直接顧客または最終顧客)の交渉力、新規参入業者の驚異、代替製品またはサービスの驚異

・VRIO分析
 企業の経営資源を以下の4つの事項で分析するフレームワークです
  経済価値(Value) 顧客にとっての価値は何か?
  希少性(Rareness) 希少性はあるか?
  模倣可能性(Imitability)真似されにくいか?
  組織(Organization) 組織がきちんと整備されているか?

他にも、財務分析、3C分析、コアコンピタンス分析、事業ライフサイクルの分析、バリューチェーン分析、営業ステップ分析、事業の経済性分析などなど多くのフレームワークがあります。

また通常はM&Aの場面などでしか実施しないことが多いですが、M&Aのデューディリジェンス(DD)のやり方は企業のステージ次第では「現状分析」でも活用できます(業歴が長めの企業向きです)。DDとは直訳すると「当然の努力」であり、実務上は「買収監査」と訳します。企業買収後の経営を成功に導くことが最終的な目的であり、「現状分析」で応用する場合には補完的位置づけ(経営者の考え、社内スタッフの分析に続く手段)と考えられます。

意外と多いのが、古典に書いてある組織論を「現状分析」に応用している例です。たとえば孫子による「組織の優劣」の構成要素も現状分析に活用可能です。以下のようなものです。
 道 経営者と従業員の一体感
 天 時間的条件、国際・国内情勢、経済情勢
 地 地理的条件、立地条件
 将 経営者の器量
   智 勉強好きか、物事を明察できる知力はあるか
   信 信用第一に努めているか
   仁 愛情深く部下の心情をつかみとることができるか
   勇 いざというときの決断力はあるか、困難にくじけない勇気を持っているか
   厳 組織規律維持のために厳正な信念をもって禁欲的な態度を率先垂範できるか
 法 規程、制度、組織原則

現状分析の重要性の例としては旧日本軍と米軍の対比が語られることがあります。
・旧日本軍の場合
 勝利のための方法について、科学的な分析ではなく経験から偶然気づく
 (体験的学習、察知)
  →勝利に内在する指標を理解せず、勝利の再現性がない。
   もしくはそもそも間違った戦略をとってしまう。
・米軍の場合
 敵と味方の行動と結果を分析し、勝利につながる効果的戦略を構築した
  →常に戦略があることで勝利の再現性がある。追うべき指標が的確。
少し分かりにくい説明になってしまいましたが、つまりは、体験的学習のみ(不十分な現状分析を象徴)では「勝った理由」(自社の本当の現状)は分からず、その後の適切な戦略構築へ至ることができないということです(参考文献:失敗の本質超入門失敗の本質)。

5.ギャップ(ギャップ分析)

あるべき姿と現状との間の差異や乖離を分析したものです。現状からあるべき姿に至るためにはまだ不足している事項とも言い換えることができます。
ギャップ分析のキーワードは「分解」と「深堀り」です。

まず「分解」ですが、例としてはアプリ開発の事業計画で、あるべき姿と現状の間には利益額10倍というギャップがあったとします。つまりはあるべき姿達成のためには利益額を10倍にする必要があるという場合です。その際に「ギャップ=利益額10倍」で終わっていてはほとんど意味はありません。そこには「分解」が必要です。「利益額向上=売上増or利益率改善」と分解できますし、さらには「売上増=単価向上or数量増」、「利益率改善=原価低減or技術力向上」と分解できるかもしれません。他の例としては、飲食店経営の事業計画で、あるべき姿と現状の間には店舗売上10倍というギャップがあったとします。つまりは店舗売上を10倍にしないとあるべき姿には到達できないという場合です。その際に「ギャップ=店舗売上10倍」だけではなくやはり「分解」が必要です。店舗売上はいろいろなかたちに分解できるかと思いますが、もっとも一般的なのは「店舗売上=客数×単価」でしょう。たったこれだけでも客数を10倍にする必要があるのか、単価を10倍にする必要があるのかを考えることができます(単価10倍というのは現実的でないとしても)。客数についてもいろいろなかたちで分解できます。「客数=商圏人口×来店率」かもしれませんし、「客数=席数×回転率」かもしれません。

次に「深堀り」ですが、これはトヨタの「なぜ?を5回繰り返す」と同じことですね。表面的なギャップに対してそれを解消するための行動計画を考えても、それこそ対症療法であり意味がありません。「深堀り」について私がよく例に挙げるのが腹痛です。お腹が痛いときに、お腹が痛い理由を考えずにすぐに胃腸薬を飲んでも、そのときは痛みが治まるかもしれませんがまた繰り返してしまう可能性もあります。そのときにもう少し深堀りして腹痛の原因を探ってみたらどうでしょう?お腹を冷やしていたり、冷蔵庫の中のものが腐りかけていたりするかもしれません。それが分かるとお腹が冷えない服を着る、食べ物の賞味期限などを確認するといったよりよい対策を考えることができます。さらに深堀りしてみると、いつも買い物をするお店に陳列されている商品は賞味期限間近のものが多いといったことが分かるかもしれません。そうしたら他のお店で購入するという手を打つことができます。このように少し深堀りするだけでもより良い対策を考えることができることが分かります。

6.実行案

ギャップを埋めるための具体的方策です。あるべき姿に至るまでの行動計画とも言いかえることができます。
将来像(ありたい姿、あるべき姿)を描き、現状の己を知り、その間のギャップを深堀りできたら、後はギャップを解消する行動計画を考え実行するだけです。行動計画を考える際のキーワードは「ステップ」です。たとえばTOEIC500点の人物が3年後にTOEIC900点を目指すとします。その際に、「目標は一つ!TOEIC900点!」一本槍でやってしまうと、その意気や良しではありますが、あまりの目標の高さに気が萎えてしまったり、まずは次回は何点を目指せばいいのかが曖昧になってしまったりします。そこで登場するのがステップです。次回の試験までに点数を伸ばしやすい箇所を集中的に勉強し少し高めの700点を目指す、その次は得意分野をさらに伸ばし800点、そしてその次は全体の底上げを行い900点を!といった具合にステップを行動計画と数値目標のセットで定めていくのです。人は計画未達成ということを経験しすぎると負け癖がついてしまい、計画未達成が当たり前の状態になってしまいます。900点目標一本槍で900点を取ることができない、という状況が続くことが例です。ですので、成功体験を積みつつ事業を推進できるようステップを決め、そのステップは一気に三段飛びを目指す時期と、確実に一段一段進んでいく時期などをうまく組み合わせていくと良いと考えます。

以上、長文になってしまいましたが、以上が私の考える事業計画策定の枠組みです。ギャップ分析というフレームワークも応用可能性が高いものですので、ぜひ他の場面でも活用してみてください。

次回からは、「起業前の方」向けの事業計画の作り方をご紹介します。

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