NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2020年7月26日日曜日

事業計画の作り方8 起業前の方向け(7) 売上高・原価、経費

今回から数値計画の説明に入ります。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

2.数値計画


「数値計画」では、できるだけ簿記や会計の知識がない方でも分かるように一定程度単純化して説明します。そのため会計の決まりごととは若干異なる箇所もありますが、スモールビジネスの事業計画を作る段階では特に問題ありません(現実的には「運転資金・資金繰り」ということを深く理解する必要がありますが、その点に関しては次回以降説明します)。

会計や簿記についてこの機会に少し触れておきますと、それらは経営の共通言語ですので、経営者が早い段階で一定の知識を身に付けておくことに越したことはありません。簿記の勉強をしたり、良い税理士の先生を見つけて「経営者に必要な簿記・会計の知識」という視点で教わったりしていくことを強くおすすめします。その際、「経営者に必要な」という言葉を絶対に忘れないようにもしてください。ここで経営者に求められるのは簿記や会計の必要以上に詳細な知識ではなく、管理会計資料や財務会計資料などから情報を読み取り、事業の意思決定をする力です。自社の数字に対する理解を深めるために経理の業務を一時的に経営者が行うことはありえますが、それでもできるだけ早く経理担当者などに任せることが望まれます。

(1)売上高・原価


(A)単価×個数=売上・原価
 このシリーズでは何度か、数字を分析する際は数字を分解しようというお話をしてきました。たとえば「売上は販売単価×個数に分解できる」といった具合です。売上計画を考える際はその逆で「単価と個数を掛け合わせたものが売上である」と考えます。「販売単価×個数=売上」ということですね。原価計画も同様で「仕入単価×個数=原価」ということになります。「分析は割り算(分解)、計画は掛け算」と覚えておくと良いです。

ところで、売上は商品を販売するビジネスでも、サービスを提供するビジネスでも分かりやすいですが、原価はどうでしょう。原価は「売上をあげるためにかかった直接的なコスト」を意味します。商品を販売するビジネスの場合、その販売する商品を仕入れる価格が原価と言えます。一方でサービスを提供するビジネスの場合、数値計画作成上は原価は外注費だけと考えましょう。会計の決まりごととしては、本当であれば原価と考えなければならないコストもあるのですが、そこを厳密にやってしまうととても複雑になってしまうので、今の段階では将来の宿題としておきましょう。原価と考えるべきコストを原価としておかなくとも、後で説明する「経費」にその分計上されますので、実務上の問題も特にはありません。

(B)販路ごと
 売上計画については「販路ごと」にも考えておく必要があります。

具体的な場面を考えると分かりやすいのですが、全く同じ商品が店頭とWeb通販では異なる値段で販売されていることは珍しくありません。店頭とWeb通販では必要となる地代家賃などの水準が異なります。店舗はお客様に来店していただけるよう良い立地=高い地代家賃が必要となりますが、Web通販で必要となる倉庫やコールセンターは店舗ほど良い立地である必要はなく、地代家賃を低く抑えることができます。そういった理由で店頭価格よりもWeb通販の方が安い値段であったりします。

また、メーカー直販サイトと小売店の店頭価格も異なる値段であることもあります。小売店での店頭価格は製造にかかった費用に加え、メーカーの利益、卸売業者の利益、小売店の利益などが上乗せされている一方、メーカー直販サイトでは卸売業者や小売店も必要ないため、その利益を価格に上乗せする必要がないからです。

数値計画を考える際にも同様に販路ごとに違う価格設定をする可能性を考えておきましょう。例えば、原価70円で、消費者価格は100円の商品の場合、

・直接販売(例えば店頭販売)
 単価100円 × 10個 = 1,000円

代理店販売(代理店が店頭販売するような場合)
 単価80円 × 20個 = 1,600円
 代理店側は単価100円では買ってくれないでしょう。消費者価格100円の商品なので、代理店は単価100円で仕入れて消費者価格100円で販売しても利益は出ませんし、100円より高い値段では今度は消費者が買ってくれません。

Web販売(自社サイトで販売する場合)
 単価90円 × 30個 = 2,700円
 Web販売も直接販売と言えますが、自社店舗の店頭価格と同じ価格にする必要はありません。販売にかかるコストが少ない、価格の比較がしやすいので他社よりも安くしないと売れないといった理由で店頭価格と異なる価格設定をすることもありえます。
 
一方で、原価は「仕入価格」ですので、上記販路の違いの影響は受けないことが一般的です。

(2)経費


ここで言う経費は、会計上は「販売費及び一般管理費(販管費)」と呼ばれるものと、本来であれば原価と考えなければならないものの内、簡便さ優先のため原価に計上しなかった項目を合わせたものです。
実際のところ、「これから事業を開始する」前にすべてを漏れなく予想・計画することは簡単ではありません。一方で、予想していなかった経費が発生した場合、売上が計画どおりでも、結果として赤字となったり、資金不足となったりする恐れがありますので、予想・計画をしっかりと行うことはとても重要です。

予想・計画をより適切に行う方法の例は以下のとおりです。

(A)主な経費一覧から自社にもかかりそうなものを探す
 主な経費一覧は以下のとおりです。
役員報酬、給与手当・労務費、法定福利費(社会保険料など)、福利厚生費、通勤交通費、営業交通費、通信費、地代家賃、業務委託費、水道光熱費、保険料、交際費、広告宣伝費、販売促進費、販売手数料、荷造運送費、減価償却費など
それぞれの経費の詳細をWebなどで調べてみると良いです。

(B)変動費と固定費に分けて考える
 経費の分類の仕方にはいろいろありますが、覚えておいた方が良い分類の仕方として、変動費と固定費という考え方があります。売上に比例にして発生する費用が変動費、売上と関係なく発生する費用が固定費です。この分類に沿って、自社にどういった経費がかかるのか考えてみましょう。

(C)他社・他事業を参考にする
 自分の事業と類似の事業を行っている事例を探し、どういう経費がかかっているかを知り、参考にしましょう。全ての経費を網羅するような情報は少ないかもしれませんが、同業他社の事例の情報収集の中で、どういった経費が発生しているのかにも目を光らせておくことをおすすめします。多くの会社を見ている税理士の先生や金融機関の担当者に相談してみるのもいいかもしれません。

(D)想像力を高める
 事業上の行動や商品・サービスの流れや提供場面などの具体的場面を想像しましょう。想像が具体的であればあるほど、そこで発生するであろう経費も具体的に気がつくことができます。


次回は「運転資金」についての説明から開始します。

2020年7月23日木曜日

事業計画の作り方7 起業前の方向け(6) 事業の重要指数

今回は「事業の重要指数」について説明していきます。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。

(8)事業の重要指数


このブログでは重要指数は一般的に「KPI」と呼ばれるものとかなり近い意味で使用しています。一般にKPIは「企業目標の達成度を評価するための主要業績評価指標」と定義されますが、日本語化した「重要指数」はより分かりやすく単純に「売上利益の先行指数」とお考えください。このシリーズが想定しているスモールビジネスの場面では、経営=営業と言っていいほど、日々の営業現場で何を行うかが大切です(急成長を目指す企業や大企業でも当然大切ですが、経営に占める営業の重要性はスモールビジネスの方が高いことが多いです)。そして売上利益は何もせずにあがるものではなく、何かしらの事前の行動が必要です。その事前の行動の中で日々追いかける数字として設定するのが重要指数です。そのため「売上利益の先行指数」という表現をしています。定義の議論だけではイメージが湧きにくいので重要指数の例を見ていきましょう。


(A)売上を分解した数字

 最も基本となるものです。以前の記事「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」のギャップ分析の説明の中で、分析には数字の分解が重要である旨の説明をしました。重要指数でも同様で、売上は「個数×単価」のように掛け算で計算されるものであり、その裏を返せば売上を分解した数字こそが売上をつくるための重要な数字、つまりは重要指数ということになります。
典型的なものとしては「販売個数、サービス提供回数、会員数、単価」などが挙げられます。


(B)売上を作り出す前提となる数字

 営業活動は当然ながら、toCであろうとtoBであろうと、直販であろうと代理店販売であろうとWeb販売であろうと、いきなりお客さんに買ってくださいというのではなく、いくつかの営業のステップを踏んでいきます。toCであれば、消費者に気づいてもらい、覚えてもらって、好きになってもらい、より深く知ってもらって、そして選んでもらう=買ってもらうといったステップを踏みます。toBであれば先方担当者に説明し、上席にプレゼンする機会をもらったり、稟議を社内であげてもらったり、決済者に最終プレゼンをしたりするステップを踏んで、購買の意思決定をしてもらうというステップを踏みます。Webでの販売であれば、広告を目にしてもらったり、自社サイトにアクセスしてもらったり、自社サイトのコンテンツを見て購買意欲を高めてもらったりするステップを踏むことになります。営業活動がそういったステップに分解できるということは、それぞれの回数などを目標値にしたり測定したりすることで、売上利益につながる活動を行っているかを知ることができるため、そういった数字も重要指数と言えます。お客様に最初に接するところから、購買・入金に至るまでの流れをステップとして可視化して、どのステップが重要かを考え、重要指数として設定しましょう。


(C)確率を示す数字

 上記(B)とも密接に関係するのですが、営業ステップごとの回数だけでなく、ある営業ステップから次の営業ステップに進む確率を重要指数として捉えることも大切です。たとえば、「接点を持った顧客の内、次回訪問や販売につながる率」が挙げられます。ある営業担当者はその率が高く、他の営業担当者はその率が低いということが生じている場合、そこには改善の余地があるかもしれませんし、そもそもリソースが限られているスモールビジネスの場合、ただ闇雲なだけの営業活動は実態にそぐいません。他には「上席プレゼンへ至る率」といったことも挙げられます。ただ先方の窓口担当者に頼るだけの場合と、先方担当者がその上席を説得する材料をこちら側で用意する場合とではその率も変わってくるでしょう。Web販売であれば「Webサイトへのアクセス数の内、購入につながる率」といったかたちで率を見ていくことが可能です。アクセス数が多いのに購入に至らないというのであれば、Webサイトの内容に何か要改善点があるのかもしれません。

また、営業ステップとは別の観点でも確率が重要となることがあります。分かりやすい例では会員ビジネスの場合の「会員の内、稼働している会員の率」が挙げられます。会員となってもらってもさらにそこから購入してもらわないことには売上があがらないモデルの場合は、如何に購入してもらう率=稼働率を高めるかが重要です。サブスクリプションモデルのように毎月一定の会費などが発生する場合でも、休会=会費が発生しない会員が増えてしまうといったことが生じるかもしれません。そこでも如何に休会から復帰してもらい休会率(稼働率の裏返し)を下げるかが重要となります。他には継続率や退会率なども重要指数と考えることができますね。


これらの重要指数は先行する同業他社が公開している場合などを除き、自分で事業をやりながら測定していくことが先に必要となることも多いですが、どういった指数を測定しておき、次年度から目標値として設定するかなどを予め考えておかないと長い時間を無駄にしてしまうこととなります。事業計画を策定する際に、大切な項目のひとつとしてぜひ重要指数も考えてみてください。

次回からは数値計画策定の方法に入っていきます。

2020年7月19日日曜日

M&Aの補助金「経営資源引継ぎ補助金」

すでにかなり注目されていますが、中小企業庁が新たに中小企業等のM&Aを支援する補助金の制度を設けました。「経営資源引継ぎ補助金」という名称です。

ここ数年は「法人版事業承継税制」の強化、「個人版事業承継税制」の創設など、主に親族内承継を促進する制度の整備が進んでいましたが、2020年に入ってからは経済産業省による「中小M&Aガイドライン」の策定、中小企業基盤整備機構による「経営力強化支援ファンド出資制度」など親族外承継を促進する制度の整備も進んできました。今回の補助金も親族外承継促進の一環で、M&Aに伴って発生する費用を補助する内容となっています。

制度の詳細についてはすでに特設サイトも開設されており、とても細かく説明してありますので、そちらをご覧いただくのが良いかと思いますが、まずは制度の概要を知りたいという方向けに以下、重要ポイントのみ箇条書きでご紹介します。端的にご紹介するために端折ったり簡略化したりしていますので、詳細は必ず特設サイトやそこにアップされている公募要領(PDF)をご覧いただくか、補助金事務局や専門家にご相談ください。

以下、本補助金の主なポイントです。

  1. 本補助金は、中小企業等の経営資源の引継ぎに際して必要となる経費の一部を補助するもの。つまりは中小企業等のM&Aに要する費用の一部が補助されるというもの。
  2. 本補助金の目的は、中小企業等に対してM&Aに着手することを促す支援と、M&Aを成約させることを促す支援とを行うことを通じて、新陳代謝を加速し経済活性化を実現すること。
  3. 本補助金には、その目的を達成するために買い手支援型と売り手支援型とが用意されている。
  4. 買い手支援型は、M&Aの後にシナジーを活かした経営革新等を行うこと、地域経済全体を牽引する事業を行うことが要件とされている。
  5. 売り手支援型は、地域経済全体を牽引する事業が第三者(つまりは買い手)により継続されることが見込まれることを要件としている。
  6. 補助対象者は中小企業と個人事業主。開業医、会社法上の会社である農業法人、個人農家は対象となるが、医療法人や社会福祉法人などは対象とならない。また、みなし大企業や単なるグループ内再編も対象とはならない。
  7. 補助期間は、原則として補助金の交付決定日から最長で2021年1月15日まで。
  8. 補助率は2/3で、補助上限額はM&Aに着手することを促す支援においては100万円、M&Aを成約させることを促す支援においては650万円(但し、廃業を伴わない場合は200万円)。
  9. 事業の性質上、補助金に採択された場合でも社名などの情報が公開されることはない。
  10. M&Aを成約させることを促す支援については、申請時に相手方が具体化している方が採択率が高い。
  11. 補助される主な経費は、士業等専門家への謝金、トップ面談などで発生する交通費、企業概要書作成などの外注費、M&A専門会社や専門家への委託費(着手金、成功報酬、株価算定費用や不動産鑑定費用など)やシステム利用料(M&Aのマッチングプラットフォーム利用料)。廃業を伴う場合は廃業費。
  12. 最終的にM&Aが成立しない場合でも補助の対象となる(例えばDDの結果、M&Aを断念した場合、そのDD費用は補助の対象となる)。

もともとM&Aを選択肢として考えていた中小企業等にとっては検討を前進・具体化させるきっかけとして良い制度かと考えます。一方で、そもそもM&Aを検討していなかった中小企業等が、補助金があるからと拙速にM&Aに向けて動き出すのはおすすめできません。

M&A、事業承継や本補助金についてご相談されたい方は、本ブログ上部のContactからお問い合わせください。

2020年7月12日日曜日

事業計画の作り方6 起業前の方向け(5) 組織・チーム、社外パートナー

今回は「組織・チーム、社外パートナー」について説明します。組織・チームは主に社内の仲間の話、社外パートナーは文字どおり社外の仲間の話です。

事業は、様々な機能が一体となって運営されています。どんなに優秀な起業家でも、その全てを自分だけで行うことはできません。また、もしできたとしても、時間の制約がある以上、どれもいまいちな結果となってしまいます。起業家は優秀であっても万能ではありません。ぜひチームとしてみんなの力を結集できるようになりましょう。

いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)
 1.ビジネスプラン
  (1)エグゼクティブ・サマリー
  (2)起業のきっかけや想い
  (3)営業循環図
  (4)顧客
  (5)営業
  (6)競合・代替品
  (7)組織・チーム、社外パートナー
  (8)事業の重要指数
 2.数値計画
  (1)売上高・原価
  (2)経費
  (3)運転資金
  (4)設備資金
  (5)資金調達
では早速内容に入りましょう。


(7)組織・チーム、パートナー



(A)事業に必要な機能

最初に、事業を運営するために必要な様々な機能とは何かを知っておきましょう。一般的には以下のような機能が必要と考えられます。簡単ではありますが、それぞれの言葉が何を意味するかも合わせて記載します。

・マネジメント
 直訳すると「管理」ですが、ここでは「経営そのもの」とお考えください。会社の目標などを設定し、目標達成に向けた仕組みを作り運営していくこと全体を意味します。

・経営企画
 企業によって経営者の参謀的位置付けであったり、秘書的な位置付けであったり、部門調整機関であったり、特定プロジェクト対応組織であったりと様々ですが、いずれにせよ経営者や経営陣を直接サポートする位置付けの機能です。スモールビジネスでは設けられないことも多いです。

・経理財務
 経理は財務会計資料や管理会計資料を適切に作成し、会社の状況を数字で明らかにする役割を担っています。財務は資金の調達・運用などを行う機能です。スモールビジネスの場合ですと資金繰り、入出金、金融機関対応などが実際の主な活動です。

・総務(庶務、法務、広報)
 総務という機能の範囲はとても広く、他の機能に含まれないものは全て総務が担当する、という企業も多くあります。ここでは法務と広報も含めていますが、これらも本来は専門性が高く重要であるため、企業規模が大きくなると総務とは別の独立した機能と考える必要が出てきます。

・人事労務(採用、給与計算、人事評価)
 企業は人なり、というように事業運営にあたって人に関することはとても重要です。「人事」は人の採用、教育、評価などが主な役割です。「労務」は勤怠管理や給与計算などが主な役割です。スモールビジネスですと「人事」は経営者自身の仕事であることも少なくありません。

・企画、マーケティング、営業、顧客管理、店舗運営
 企画は製品やサービスの企画などを意味します。マーケティングは本来は 「顧客やクライアント、パートナー、さらには広く社会一般にとって価値のあるオファリングスを創造・伝達・提供・交換するための活動とそれに関わる組織・機関、および一連のプロセスのことを指す」(アメリカマーケティング協会)といったようにかなり幅広い意味合いなのですが、実際には営業企画や市場調査、販売方法の検討などかなり狭い意味合いで使われています。

ここまでに挙げた機能はどの業種でも必要となります。

他には例えば製造業であれば「製造、購買・仕入、品質管理、研究開発」なども必要と考えられますが、本シリーズで想定している読者の方々の中に今から製造業を立ち上げようと考えていらっしゃる方は少ないと考えられますのでここでは割愛します。


(B)事業に必要なプレイヤー

次に、事業を運営するために必要なプレイヤー=登場人物を考えてみましょう。

・経営者、経営陣
・自社雇用の従業員(フルタイム、パートタイムいずれも含む)
・外部人財(専門家、顧問、フリーランスなど)
・デジタルツール

ここでは外部人財やデジタルツールの活用がここ数年で大きく注目されているテーマです。

外部人財の活用では、従来の専門家(たとえば士業専門家)だけではなく、大手企業での経験豊富な人財を顧問として招聘したり、専門的スキルを保有しているフリーランスの方を一時的にチームに迎えたりとしたりすることが注目されています。「人財=自社雇用」が当たり前ではなくなったということですね。顧問活用についてはパーソルキャリア社のWebサイトが分かりやすいのでご参照ください。また、フリーランスの活用については経済産業省がレポートを出していますので、そちらもご参照ください。

デジタルツールでは例えば、RPA、MA、SFA、CRM、グループウェアといった言葉を聞かれたことがあるのではないでしょうか。それらを活用すると、従来は手作業で行っていた作業がかなりの程度自動化できるようになっていたり、あたかも書くことが目的化していた営業日報がデジタル化や可視化することで営業力強化の貴重なツールになったり、従来は紙と口頭で行っていた情報共有がWebで完結したりします。費用面においてもSaaSモデルのものですと、専任の人財を雇用するよりも安く利用できることが多いようです。


(C)どの機能を誰が担うのが望ましいか

 そして、以下のことも整理します。
・経営者・起業家自身ができること、できないこと
・経営者・起業家自身がやるべきこと、人に任せるべき
・直接雇用している人財に任せるべきか、一時的に仲間を募って任せるべきか

 自社、自分の事業の強みに直結する業務は経営者自身か直接雇用している人財に任せるべきでしょう。そうではない業務はそこを内製化しても自社の強みにはつながらない可能性が高いので、専門家やフリーランスの方などに任せてしまった方がお互いの強みに集中できて効率的だと考えられます。


(D)どのようか価値観を持った仲間を、どのように募るか

 説明の順番としては最後になりましたが、これが一番重要です。ほとんどの場合、事業立ち上げ直後は少数精鋭で事業を運営する必要があります。スモールビジネスであれば、その後の事業運営も少数の仲間と行っていくことになるでしょう。そういった際に、どのような価値観を持った仲間を募るかはとても重要です。たとえば社会貢献重視の事業運営をしたいと経営者が考えていても、儲けしか考えないメンバーがいた場合は経営者が望みとは異なる言動をとるかもしれません。仮説検証・試行錯誤型で事業の可能性を開こうと考えている従業員がいても、失敗を過度に恐れる経営者であれば、その従業員のことを適切に評価できないかもしれません。そうならないよう、自社でこの事業に関わる仲間は経営者も含め、何々の価値観を共有できる人物であること、といったこと考えておく必要があります。

また、そういった仲間をどうやって募るかも考えておきましょう。待ちの姿勢ではほぼ間違いなく良い出会いはありません。

次回は「事業の重要指数」について説明します。

2020年7月4日土曜日

ローマ人の物語5 ユリウス・カエサル ルビコン以後

塩野七生さんの「ローマ人の物語」について。
いよいよカエサルがルビコン川を越えて旧体制との内戦に突入します。有名な「犀は投げられた」とカエサルが言ったといわれている場面です。ちなみにルビコン川は当時、ローマ本国と属州の境と定められていて、属州総督であったカエサルが軍団を率いてルビコンを越えることは国法を犯すことになり、そのことは「古いローマ」への反逆、内乱、もっと言えば、共和政から帝政(実際に帝政の形式が整ったのはカエサル没後)への第一歩であったことから、「ルビコン川」が象徴的に取り扱われています。

ローマ人の物語5 ユリウス・カエサル ルビコン以後

  1. 人間は、気落ちしているときにお前の責任ではないと言われると、ついほっとして、そうなんだ、おれの責任ではなかったのだ、と思ってしまうものである。こう思ってしまうと、再起に必要なエネルギーを自己生産することが困難になる。
  2. 戦闘は激動なのだ。ゆえに戦場では、すべてが激動的に成されねばならない。(アレクサンドロス)
  3. 孤独は、創造を業とする者には、神が創造の才能を与えた代償とでも考えたのかと思うほどに、一生ついてまわる宿命である。
  4. 宗教は、それを信じない人々に対しては、「行動原則の正し手」とはなりえない。哲学は、それを理解できるだけの知力のない人々に対しては、影響力をふるえない。(中略)だが法律はちがう。法律とは、宗教を異にし哲学に無関心な人々でも、人間社会に生きていくのに必要なルールであるからだ。
  5. 自分にある種の才能が欠けていてもそれ自体では不利ではなく、欠けている才能を代行できる者との協力体制さえ確立すればよい(以下略)
  6. 戦士で富はつくれるが、富では戦士はつくれない。
引用元「ローマ人の物語5 ユリウス・カエサル ルビコン以後

(1)そう考えたカエサルは、ある戦いの敗戦の責任を指揮官である自分ではなく、兵士にあると明言したそうです。その結果兵士達は奮起し、次の戦いに勝利をもたらしました。一般的には会社の業績悪化の責任はその経営者にあると考えられています。たとえ問題がある従業員がいたとしても、そういう状態を放置していたことが経営者の責任であるからです。そういう考えが主流の中、過去には日本のある大手企業では経営者が「働かない社員が悪い」と発言し、無責任な経営者の代表格のような言われ方をしていました。その経営者にカエサルのような深い考えがあったかは分かりません。おそらく無かったでしょう。たとえ有ったとしても、兵士の奮起を呼び起こしたカエサルと、その経営者では組織の構成員(従業員や兵士など)からの信頼や尊敬の程度が大きく異なっていた結果、一方のカエサルは偉大な功績を残し、もう一方のその経営者は批判されることになったと考えられます(ただし、世間一般からの反発は新聞等で大きく取り上げられましたが、社内での反応が実際にどうだったかは私には分かりません)。歴史上の偉人の考え・行動・発言は大変勉強になりますが、上記の事例は、歴史上の教訓も使う場面や環境を間違うと全く違った結果をもたらす好事例といえます。

(2)スタートアップの経営は激動です。新規事業の立ち上げも激動でしょう。であれば、その全てが激動的に行わなければ結果につながらないのだと思います。

(3)経営者は孤独と言いますが、何かを創る人々に共通することなのでしょうか。

(4)この一文でローマで法律が発展し、その後の世界史に大きな影響を与えた理由のひとつが良く分かります。ローマという国家の特徴として、その構成員の多様性が挙げられます。そしてその多様性を支えたのが法律という制度と寛容さだと言われています。多様性という言葉は少し前から経営の重要キーワードのひとつでもありますがそれを実現して企業価値を向上させることに苦戦している企業も多いようです。ローマの歴史を学ぶことはその解決の糸口になるかもしれません。

(5)スタートアップの経営者は経営に必要な全ての能力を兼ね備えている必要はなく、営業が苦手なら営業が出来る人財を、技術が苦手なら技術が分かる人財を活かす能力、またそういった人財を魅了する能力があれば十分なのだ、と言われています。また、社内で一番業務経験が豊富な経営者の存在が後継者が育ちにくい主因となってしまい事業承継の妨げとなるという事例も少なくありません。そういったことから考えると、組織のトップは万能である必要はないというだけではなく、万能と見られてはならないということなのかもしれません。

(6)同様に、スタートアップの仲間はキャッシュを生み出せるが、キャッシュでは本当の仲間は得られない、ということですね。