いつもどおり最初に事業計画の全体像と今回の内容の位置付けを確認しましょう。
起業時事業計画の項目(下線部分が今回の記事で説明する箇所です)では早速内容に入りましょう。
1.ビジネスプラン
(1)エグゼクティブ・サマリー
(2)起業のきっかけや想い
(3)営業循環図
(4)顧客
(5)営業
(6)競合・代替品
(7)組織・チーム、社外パートナー
(8)事業の重要指数
2.数値計画
(1)売上高・原価
(2)経費
(3)運転資金
(4)設備資金
(5)資金調達
前回説明した「顧客との関係」との違いがやや分かりにくいですが、「顧客との関係」がサービスの提供場面、「営業」は文字通り販売の場面、と考えると区別が分かりやすくなります。
(5)営業
本シリーズで想定しているスモールビジネスの場合、販売の場面で顧客に到達するための方法としては、
- 個人営業 or 法人営業
- 直接販売 or 代理店販売 or Web販売
- プッシュ(積極営業)型 or プル(店舗)型
- 他力(提携先)活用、人脈活用
があり、提供するモノ・サービスに応じた選択と組み合わせが必要です。例えば、
「法人営業、直接販売型で、プッシュ型、人脈活用」という組み合わせであれば、リスト化した見込み顧客に他社・他者を介さずに自社側から積極的にアプローチする。見込み顧客リストは人脈を可視化したものを活用する。
といった具合です。最近では多くの広告宣伝費を投入し見込み顧客リストを作ったり、外回り営業ではなくインサイドセールスと呼ばれる営業のフローをWeb上で完結させようとする方法が一般的になってきたりなどのトレンドもありますが、多額の広告宣伝費を投じるビジネスモデルは本シリーズで想定しているスモールビジネスにはそぐいませんし、インサイドセールスは上記方法をより具体化したものであり、矛盾したりするものではありません。
自分の事業にとってどのような営業方法の組み合わせが適切かを考えた後、次には選択した方法ごとに、それを実現させるために必要な事項を考える必要があります。
・直接販売+プッシュ型
この組み合わせの場合先程も触れたとおり、見込み顧客リストの作成方法を考える必要があります。法人営業であれば探せば自分がアプローチしたい属性の企業リストが見つかることもあります。個人の場合はきっと簡単ではありません。Webを活用したり、昔ながらのチラシ配布→無料体験→リスト化などの方法をとったりします。また、見込み顧客リストができても実際にアプローチを行う営業部隊の構築が必要です。目指す売上規模によっては最初は経営者のみで営業を行うこともありますが、いずれ営業専任者が必要となるでしょう。どういった経験を持った人物を採用するか、営業の成績をどう評価しどう報いるのか、営業担当者は日々どういった数字を追いかけ行動するのか、などを考える必要があります。
・代理店販売→代理店開拓方法、代理店稼働率向上方法
代理店を活用する場合でも、そもそもどういった存在が代理店に相応しいか、そしてどうやって開拓するか、代理店契約締結後にどうやって代理店に動いてもらうかなどを考える必要があります。
・Web販売→広告の出し方 等
Webでも同様です。販売サイトをただ開設しただけでは売上はあがりません。どのように販売サイトに来てもらうか、販売サイトを見るだけではなくいかに購入してもらうか、などを考える必要があります。Webの場合、他の販売方法よりも見込み顧客の動きを数字で捉えやすい面があるので、数字を見ながらの試行錯誤も重要です。
(6)競合・代替品
文字通り、自社の事業の競争相手になる存在や、自社の製品やサービスの代わりとなりうる他社の製品やサービスを意味します。
競合と代替品の区別は今はあまり深く考える必要はありません。後ほど説明するように自社の事業の位置付けをどう捉えるかによって変わってくる相対的な違いだからです。自社を鉄道事業と捉えている企業から見ると他の鉄道会社が競合で、航空会社や自動車は代替品に相当しますが、自社を鉄道会社ではなく顧客運送業と捉えると航空会社は代替品ではなく競合に相当するようになる、といった具合で相対的な違いしかありません。
競合・代替品について考えるとき、調べるときは以下の点が重要です。
- 競合・代替品が存在しないという発想は捨てる。
- 競合・代替品か否かは顧客の視点で考える(製品やサービスレベルではなく、提供価値のレベルで考える)。
記事「起業の覚悟、資金調達の責任(上)」の「情報収集は必死に行いましたか? その情報分析は適切ですか?」の項で競合分析の重要性について説明していますので、そこから以下引用します。
次の2点は絶対に忘れないで欲しいと思います。
ひとつめは「競合企業は必ず存在する」ということ。ふたつめは「競合か否かは必ず顧客目線で考える」ということです。
競合がいない、と言ってしまうのは傲慢であり、かつ情報の軽視といえます。冷静に考えれば、数十億人いる人類の中で、「自分と同じことを考えている人は他には存在しない」と考えることはおかしいと気がつくはずです。自分が唯一無二の天才である可能性と、自分と同等かそれ以上の頭の良さをもった人が世界の中に一人以上いる可能性、それを比べても分かるはずです。また、「自分と同じ技術を持つ人は他にはいない」というのも、事業として考えた場合は、誤った情報分析といえます。誤解を恐れず言えば、お客様から見た場合、自分のニーズが満たされるのであれば、それがどういった技術で実現されているかは、あまり関係がありません。だからこそ、競合分析をする際には、「同じ技術はないか?」ではなく「お客様のニーズを満たす他の方法はないか?」という視点で分析すると、より正解に近づけると言えます。例えば、CDプレイヤーを販売する事業の場合、自社の事業や製品をCDを聴くためのデバイスと考えるか、音楽を楽しむための手段と考えるか、安らぎを得るための方法と考えるかで競合も代替品も変わってきます。
また、「営業」は顧客との関係の中だけではなく、競合企業の動きによっても変わってくる可能性がありますのでその観点でも競合や代替品の分析は重要です。
今回は以上です。
次回は「組織・チーム、社外パートナー」の説明から開始します。