NGCパートナーズ 代表 石井優のブログ
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2022年3月12日土曜日

事業計画の作り方28 後継者の方向け(16) 中期経営計画策定の手順と体制(上)

事業計画を作る際に、後継者・アトツギの方と起業前の方で大きく異なるのは社内にすでに部門責任者や事業責任者がいるか否か、ということです。

起業前の方であれば、まだそういった存在がいないことがほとんどでしょうし、起業後もそういう状況が続くかもしれません(起業家の最も重要な役割としてチームづくりがありますので、きっとそういった存在が増えていくことでしょう)。一方で、後継者・アトツギの方であれば、先代を支えた部門責任者や事業責任者がいることが多いでしょう。肩書がどうかではなく、実質的にそういう役割を担っているか否かで考える必要があります。キーパーソンという呼び方でも良いかもしれません。事業承継においては、先代を支えた幹部役職員をどう遇するか、ということが大きな論点になることも少なくありませんが、ここではそれについてあまり触れないことにします。

後継者・アトツギの方が自分の中でアイデアを練っているだけ、というのであれば別として、実際の経営や事業運営ではそれら各責任者の協力を得ていく必要があります。「事業計画の作り方1 枠組み、全体像、基本的な考え方」でも説明したとおり、事業計画には「特定の人に事業を説明して、何らかの協力を引き出すなどの目的を達成する」という機能もあります。「特定の人」の具体例としては金融機関や投資家などを想定しがちですが、当然ながら社内の役職員もそれに該当します。さらには、事業計画の検討・策定の段階から(もっと言えば現状分析の段階から)社内の責任者やキーパーソンに加わってもらうことで、「自分たちが作った事業計画」とすることにより、経営や事業がより一層自分事となって計画実現・達成の可能性が高まります。さらには、事業計画検討・策定の過程で責任者やキーパーソンの資質ややる気を深く知ることができ、今後、経営を共に担い得る存在なのかを考えることができます。

それらの理由で、後継者やアトツギは「巻き込み型の事業計画検討・策定」について知っておくべきと考えます。そこで参考になるのが、株式上場準備の中で作り上げていく中期経営計画検討の手順や体制です。それを基礎として自社なりの手順や体制を見出していくと良いと考えます。

次回は「株式上場準備の中で作り上げていく中期経営計画検討の手順や体制」について解説します。

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2022年3月5日土曜日

事業計画の作り方27 後継者の方向け(15) 長期ロードマップの検討

さて今回から事業計画検討・策定の段階に入ります。ほぼゼロからのスタートとなる「起業前後の方」と違い、後継者やアトツギの方々はすでに一定の歴史がある会社の事業計画を考える立場ですので、現状分析について回を重ねて説明してきました。一方で事業計画の検討・策定の段階に入ると、あくまでも将来の話ですので基本的な考え方は同じです。ですので後継者の方にも「起業前の方向け」の回にぜひお目通しいただきたいと思います。そして、当シリーズでは特に後継者・アトツギの方に知っておいていただきたいテーマ(つまりは「起業前の方向け」ではカバーできていないテーマ)について取り上げていくことにします。

今回は「長期ロードマップの検討」について解説します。

1.長期ロードマップとは?

長期ロードマップとは、一般的な名称ではなく私が勝手に命名して活用しているものなのですが、下のイメージのように中期経営計画(中計。一般的には3年程度の計画)×数回についての大枠を考え、整理しておくための表です。
長期ロードマップのイメージ図
横に時間軸を、縦に各項目を並べます。上記イメージはあくまでもイメージですので、各項目は自社にふさわしいものを考える必要があります。横軸もケースバイケースですが、中期経営計画の2回分以上の期間にしておくと良いと思います。そして両軸が交わる各セルには、どういったことを行うか、どういった状況になっておきたいか、といったことを簡潔に記入していきます。A3縦一枚にしてタブレット端末や紙で持ち歩いておくと、ちょっとした空き時間に自社の長期の計画をまとめるのに活用しやすいでしょう。

2.長期ロードマップの活用

こういった長期のことを考える話をすると必ず反論として挙げられるのが「環境は変化するものであり、このようなロードマップは環境適応への妨げとなる」、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」などといった意見です。

しかし環境に適応するとは、環境に流されるという意味ではありません。自社なりに将来の環境予想をしておかないと事業の方向性すら考えることができなくなります。長期ロードマップは将来の環境や、環境変化の方向性を考えるきっかけとして活用してください。また、長期ロードマップは中計の元となるものではありますが、それ自体は計画ではありませんので、その内容は定期・不定期に見直していくつもりでいれば良いのです。

また、「6年後とか9年後のことなんか誰にも分からない」という考えは、多くの場合、「将来こうなっているだろう」ということを考える、やや受け身の発想が背景にあるように見受けられます。長期ロードマップを考える際には「将来、こうなっていたい」を発想のベースにするようにしましょう。

3.長期ロードマップを考えるポイント

(1)単年度ごとに考える必要はない

 上記イメージ図ではセルを単年度ごとに区切っていたり、3年ごとに区切っていたりしています。そのように必ずしも単年度ごとに考える必要はありません。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などは毎年変わることの方が少ないでしょうし、数値計画のようなものでも3年後には売上いくら、6年後には売上いくら、といったように3年区切りで決めることでも問題ありません(但し、直近の中計を検討する段階では単年度に落とし込むことになるはずです)。

(2)全てのセルを記入する必要はない

 ある項目もともと取組の時間軸が長く、6年後や9年後についてはまで考えることができる一方、別のある項目についてはせいぜい2年後までしか考えることができない、といったことがあると思います。それは当然のことですので、全てのセルを最初から記入しなくてはならない、とは考える必要はありません。考えがまとまったタイミングで随時記入していきましょう。

(3)株式上場計画や事業承継計画を起点にすると考えやすい

 株式上場の計画や、事業承継計画がある企業の場合、それも長期ロードマップに組み込んでしまいましょう。そうすることにより、上場スケジュールを実現するためには、事業面でこういう状態になっておく必要がある、など、長期ロードマップの他の項目を考えやすくなります。事業承継計画も同様に活用可能です。上場スケジュールに事業が振り回されるのは少し違うのではないか、との考えもありますが、実際には上場スケジュールを決めて、それを実現できるよう事業を推進する、ということで取り組みをしている会社も少なくはありません。

(4)新規事業についても大枠を考えておく

 長期ロードマップも中計と同様、全社→事業ごと、と考えるのが基本ですが、新規事業についても大枠を考えておきましょう。すでに具体的アイデアがあるものはもちろんですが、そうでない場合でも、既存事業が一定の時期で縮小傾向になる可能性が高いので、それまでに新規事業を軌道に乗せておく必要がある、などを書いておくのです。そのことにより、バックキャスティングで、いつまでにどういう取組が必要となる、といったことを考えることができるようになります。

(5)将来の組織図も考えておく

 数年ごとのあるべき組織図についても予め考えておくことで、どのポジションで人財が不足するとか、こういった強みのある人財が新たに必要になるということを予め見通すきっかけとなります。近年では人財不足は多くの業界で起きていますし、ポジションによっては数年単位での採用活動が必要なることもあります。


単年度の事業計画(≒予算)はどうしても数字面で達成するかしないか、だけに関心が向きがちです。しかし、経営者がそれだけを考えていては将来の事業の土台を作っていくことはできません。長期ロードマップを活用して、長期的な会社・事業の方針や施策を考えてみることをおすすめします。

次回は「中計の組織的な検討の仕方」について解説予定です。
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