M&Aについては本日現在、バリュエーションについての記事を連載中ですが、それとは別に単発テーマを取り扱う「M&Aの基礎知識」のコーナーも不定期で掲載します。
なお、NGCパートナーズでは、中小M&Aガイドライン遵守宣言にも記載したとおり「利益相反リスクを完全には排除できないため、原則として仲介契約は締結しない」という方針ですので、仲介形式には若干否定的な立場です。
ですが、仲介形式にはFA形式にはないメリットもあるのも事実ですので、仲介形式に肯定的な解説や、中立な立場の解説など含め、同様の記事にいくつか目を通したり、実際にM&Aアドバイザーを活用したことがある経営者に話を聞いたりすることをお勧めします。
1.M&Aアドバイザーとは?
ファイナンシャル・アドバイザー(FA)や、M&Aコンサルタントと呼ぶこともあります。
M&Aに必要な専門知識やネットワークを保有していて、それを活用してM&Aの当事者である買い手や売り手に対し、助言やサポートを行います。「代理」という用語が使用されることもありますが民法上の代理権はない事例が大半です。
M&Aに必要な専門知識やネットワークを保有していて、それを活用してM&Aの当事者である買い手や売り手に対し、助言やサポートを行います。「代理」という用語が使用されることもありますが民法上の代理権はない事例が大半です。
以下、日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトからの抜粋です。
「M&Aアドバイザー」とは、M&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担うM&Aのスペシャリスト(専門家)を意味し、「M&Aコンサルタント」や「ファイナンシャルアドバイザー(FA)」等とも呼ばれます。(中略)「M&Aアドバイザーの仕事は財務会計・税務・法律のるつぼ」と表現される様に、その業務範囲は広く、幅広い知識と能力を必要とします。また、M&Aアドバイザーとしてプロフェッショナルになる為には、財務会計・税務・法律の他に、経営を理解し、交渉やファシリテーション等のコミュニケーション能力の高さも必要となります。(中略)顧客の経営戦略という重要課題のサポートを行い、日本経済を支える企業経営における重要な部分のお手伝いをするのがM&Aアドバイザーです。(以下、略)(引用元:日本M&Aアドバイザー協会Webサイト)
なお、そもそも「M&Aアドバイザー」は利用した方が良いのか?メリットは?とお悩みの方は、同協会の以下のページをご覧ください。
買収を検討されている方はこちら。
売却・譲渡を検討されている方はこちら。
2.FA形式と仲介形式の概要
M&Aアドバイザーが買い手や売り手に助言やサポートを行うにあたって、形式が大きく二つに分かれます。日本M&Aアドバイザー協会のWebサイトには以下のように記述されています。
通常、企業がM&Aを実行する場合、M&Aアドバイザーに契約成立までの一連のサポートを依頼しますが、アドバイザーの関わり方には、主に「アドバイザリー形式」と「仲介形式」という二つの着任形式があります。アドバイザリー形式の場合には、売り手と買い手それぞれにM&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手と買い手、それぞれの立場で助言を行います。一方、仲介形式の場合には、売り手と買い手の間に、M&Aアドバイザーが着任する形となり、売り手、買い手の間に立って、中立的な立場で助言を行い、媒介とも呼ばれることもあります。(引用元:日本M&Aアドバイザー協会Webサイト)
分かりやすく図示すると以下のようになります。
左図のような、買い手側と売り手側それぞれに異なるM&Aアドバイザーが付く形式が「FA形式」(上記協会の引用文は「アドバイザー形式」となっていますが同じ意味)です。FAはファイナンシャル・アドバイザーの頭文字をとったものです。キーワードは「交渉」です。FAは依頼主の利益のために活動する、という形式であるため、依頼主の利益を最大化することができるというメリットがあります。
一方で、右図のように、買い手側と売り手側の間にM&Aアドバイザーが付く形式が「仲介形式」です。キーワードは「調整」です。買い手のことも売り手のことも理解している仲介会社が介在することで、M&Aが円満に進んだり、成約に至りやすいというメリットがあります。
3.FA形式と仲介形式を比較した際の主な論点
(1)FA形式は日本の中小M&A文化に合わないというのは本当か
先述のとおり、FA形式のキーワードは「交渉」です。買い手・売り手それぞれにM&Aアドバイザーが就任し、買い手のアドバイザーは買い手の利益のために活動する、売り手のアドバイザーは売り手の利益のために活動する、という原則の下、両者間で「交渉」が行われます。依頼主の利益のために交渉するというのは当たり前のことではあるのですが、中小M&Aの場合、「交渉」が行き過ぎると後々災いを呼び込む可能性が高いということが言われます。M&Aというのは手続きとしては株式譲渡などによる経営権の移転で終了ですが、経営権の移転というのはその後の経営によりシナジーの実現など、M&Aの目的を達成するためのスタートでしかありません。そして、シナジーの実現のためには、当事者間の協力体制を築くことが必要不可欠です。しかし、M&Aの段階で「交渉」が行き過ぎた結果、当事者間にしこりが残り、その後の協力体制構築に悪影響が出る場合があります。キーパーソンが退職するといったこともあります。事業の実務を遂行するにあたって「仕組み」の割合が比較的大きな大企業の場合は影響が少ないかもしれませんが、「人」の割合が大きな中小企業では致命的な影響になりかねません。
といったことがFA形式の懸念点としてよく挙げられるのですが、FA形式→交渉が主→軋轢を産む可能性大、という流れはかなり短絡的であると私は考えます。結局のところ、FAであろうと仲介会社であろうと、依頼主の希望を叶えるために活動する立場ですから、その活動姿勢にも依頼主の考えや想いが反映されます。「徹底的に安く買いたい(高く売りたい)」という考えで且つM&A後の経営を考慮しないタイプの依頼主であれば、FA形式であろうと仲介形式であろうと、軋轢を産む可能性があるでしょう。逆にM&A後の経営も考慮している依頼主の下であればFA形式であってもそうそう軋轢を産むことにはなりません。
以上のことから、「FA形式は日本の中小M&A文化に合わない」可能性はあるものの、より重要なのは依頼主の考えや姿勢である、と言えると考えます。
(2)仲介会社は中立な助言をしてくれるのか
仲介形式は上図のとおり、買い手と売り手の間にたって、両者の利益や思惑の「調整」を行います。「交渉」がキーワードとなるFA形式よりも、円満な合意に至りやすいとも言われています。一方で、必ず付きまとうのが「利益相反」というキーワードです。
上記のとおり、FAや仲介会社は法律上の代理人ではないのですが、それに近しい立場であるため、民法第108条第2項の趣旨である「利益相反行為の制限」の考えと取り入れ、M&Aでも仲介形式は避けるべきである、と言われることが少なくありません。
民法第108条(自己契約・双方代理)1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
具体的な利益相反としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。
- 買い手と売り手との間で、株式譲渡額が論点となっている際、仲介会社がどちらか一方に有利な株式譲渡額を提案する。
- 対象会社に何かしらの問題が発見された場合に、仲介会社が買い手側に適切にそのことを伝えない。
といったことが考えられます。また、
- 多くの場合、「売り手は一度会社を売ってしまえば、仲介会社のリピーター顧客にはなりにくい(売り手が何社も会社を保有しているような事例を除いて)」、一方で「M&Aに積極的な買い手は、また別のM&Aの場面で仲介会社のリピーター顧客となることがありうる」ため、仲介会社は構造的に売り手側よりも買い手側の意向を重視しやすい傾向がある。
といったことも言われます。
仲介形式を採用する以上、「利益相反」のリスクは完全には排除することができません。依頼主側としては、M&A仲介会社やその経営者の実績や姿勢、担当コンサルタントの人柄などを見極める、任せっきりにしないで意思決定をしていくなどの方法でリスクを低減していくべきです。
なお、NGCパートナーズでは、「経営・財務コンサルティング先の事業者の成長戦略や事業承継に必要な場合のみM&Aアドバイザーを引き受ける」という方針であるため、原則としてFA形式のみ対応しており、利益相反を回避できない仲介契約は締結しないこととしています。当事者一方と従前から経営・財務コンサルティングに関する契約を締結している以上、仲介契約を締結しても、中立な立場でM&Aアドバイザー業務を行うことは難しいからです。
(3)仲介形式の方が低コストというのは本当か
中小M&Aにおいて、FA形式は仲介形式に比べコストが高く、採用しずらいと考えられています。FA形式ではM&Aアドバイザーが2社(者)関与する一方、仲介形式はM&Aアドバイザーが1社(者)しか関与しないため、仲介形式の方が低コストと見られているようです。多くの場合、そうであるかもしれません。しかし、中には仲介会社が買い手からも売り手からもFA形式と同水準の報酬を受け取る事例も少なくないようです。もちろん、それに見合った活動をしてくれたら問題はないのですが、FA形式=高コスト、仲介形式=低コスト、と短絡的に考えるのではなく、個別具体的に見極めることが重要です。