金融機関からの借入資金で中小M&Aを行う場合、
- デューデリの結果
- 買収対象企業の事業計画(デューデリで判明した事項を反映したもの)
- 買収対象企業から親会社(買収を行う側)にもたらされるキャッシュフローによる返済計画
だけでなく、
- 買い手側の事業計画や資金計画
も金融機関の審査対象となります。SPC(特別目的会社)を活用するM&Aは、中小M&Aではまだ特殊な事例かと考えられますので、この記事では「買い手側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合の買い手側の立場を前提としています。
さて、金融機関からの実際の審査内容ももちろん重要ですが、同じくらい重要なのがスケジュールです。
- 自社(買い手)の希望するクロージング(株式譲渡及び代金決済)日
- 売り手側の希望するクロージング日
- デューデリのスケジュール
- 金融機関の審査のスケジュール
といったことを調整していく決定していく必要があります。
通常、買い手側と売り手側の希望クロージング日(1と2)をまず調整します。買い手側はM&Aはゴールではなく、クロージング後に対象会社の経営をしていく必要があり、その準備の進捗なども考慮に入れる必要があり、必ずしも最短スケジュールで進めようとは考えていないかもしれません。一方で売り手はM&Aで得た資金を別の投資に回す計画があったりと、できるだけ短いスケジュールで進めることを希望するかもしれません。それぞれ逆の場合もあるでしょう。そういった点を調整する必要があります。
本来望ましいのは、そのようにして上記1と2を調整して定めたクロージング日から逆算して3と4のスケジュールを決める、という流れですが、そう簡単にはいかないケースが多くあります。
3のデューデリのスケジュールですが、買い手側は経験のある税理士・会計士・弁護士に依頼したり、M&Aアドバイザーにプロジェクトリーダー的に動いてもらったりすることで「プロの手を借りる」ことができる場合が多いのでそれほど問題とはなりませんが、売り手や対象会社は買い手側からの開示依頼資料を準備したりインタビューに対応したりしないといけません。M&Aアドバイザーがいたとしても準備・対応は社内で行わざるを得ないでしょう。そして当然ながら、初めてのことなので予め資料の準備ができているとは限りません。そうして「資料の準備・提出が遅れる→デューデリス全体が遅れる」ことにより、他の項目のスケジュールに影響を与える、ということが起きてしまいます。もちろん、デューデリ結果がなければ買い手側の意思決定が行えない、という大きな問題もあります。
4の金融機関のスケジュールですが、買い手側の対応力・説明力、3のデューデリのスケジュール、金融機関側の体制・フローや経験値などの影響を受けます。買い手側が先述のような資料を用意して金融機関へ説明を行うのですが、すでに経験があったり適切なフォローをしてくれるM&Aアドバイザーなどがいる場合以外は、その説明に苦戦するかもしれません。また、様々な資料の提出を求められますが、最終的に必ず必要となる書類のひとつに「デューデリ報告書」があります。デューデリを行った税理士・会計士・弁護士等の専門家が依頼主である買い手に提出するものです。ですので上記3のデューデリが遅れている場合、金融機関への資料提出が遅れ、借入日も遅れ、結果としてクロージング日も遅れるということとなります。
では一体どうやってM&Aのスケジュールを決めていけば良いでしょうか。買い手側の立場では、
- まず金融機関に一般論としてのM&A資金融資の審査に必要な期間を確認する。
- 次にデューデリ専門家にデューデリに必要な期間を確認する。
- それらの情報を得た上で、売り手側とスケジュール調整する(もしくはM&Aアドバイザーにスケジュール調整を依頼する)。
という流れが良いかと考えます。
その際の注意点としては、
- 金融機関には、金融機関内の審査や、決裁を得る手順を教えてもらえる範囲で細かく聞いて、どのタイミングでどういった資料や情報が必要になるか、それぞれの手順にどの程度の時間を見込んでおけば良いか、などを確認することが重要です。また先に提出できる書類もあるかもしれませんので、早めに「必要となる(であろう)書類」一式を確認しておきましょう。
- デューデリ専門家との間では、デューデリの範囲をどうすべきかを相談しながらスケジュールを確認していきましょう。不必要な範囲までデューデリ範囲としてしまうことは、時間的にも費用的にも無駄で終わってしまう可能性もあります。
- 売り手側とのスケジュール調整の中で、買い手側の希望よりも短い期間での対応を要することとなる場合もあるでしょう。そういった場合には、売り手や対象会社からの資料の提出を前倒ししてもらうことでデューデリ期間を少しでも短くできるようにしたりする工夫が必要となります。
以上、「買収する側(親会社となる側)が、自社のバランスシート上で金融機関から借入を行い、その資金で買収対象企業(子会社となる側)の株式を買い取り、借入の返済原資は買収対象企業からもたらされるキャッシュフローで行う」場合のM&Aスケジュール調整の例を解説しました。M&Aの経験が複数回あったり、適切な動きをしてくれるM&Aアドバイザーがいる場合はそれほど苦労せずにできそうなことでも、初めての経験で適切な助言者もいない場合だと苦労することとなります。
ところで、この記事で「適切に助言をしてくれるM&Aアドバイザー」という趣旨の言葉を何回か使用しましたが、前回の記事でも少しご紹介したとおり、全てのM&Aアドバイザーが適切な助言をしてくれるわけではないことには注意が必要です。
- M&Aが早くクロージングした方がM&Aアドバイザーが早く成功報酬を得られる場合。
- 仲介の立場でも何等かの理由で売り手重視の対応をとる場合。
- M&Aアドバイザーの担当者の経験値が高くない場合。
- M&Aアドバイザー担当者の総合的な経験値は低くはないが、金融機関対応など個別のテーマでは苦手分野がある場合。
- M&Aアドバイザー担当者の経験値に関係なく、「こういうスケジュールで進められるはずだ」という思い込み先行となってしまっている場合。
といった例においては、M&Aアドバイザー自身が買い手の立場にたってスケジュール策定をしてくれない可能性もあります。ですので、M&Aアドバイザー側にスケジュールの根拠などを細かく確認したり、セカンドオピニオンを得たりすることも大切です。
以上、私がセカンドオピニオン的立場にたって助言をしていた際のトラブルを元にまとめました。この記事が参考になれば幸いです。