今回は少し厚かましくも「優れたスタートアップ経営者とは?」について考えていきたいと思います。
なお本記事は、数年前に別サイトに投稿させていただいたり、私が起業家養成講座などでお話しをさせていただいたりしたものを今回当ブログ用に書き直したものです。
あと、本記事では「経営者」と「起業家」という言葉をあえて区別せずに使用しています。ご了承ください。
私は環境に恵まれ、いろいろな経営者を近くで見たり、一緒に仕事をすることができたりしました。ざっと列挙すると、
- 祖父は会社を数社起こした起業家
- 父は二代目経営者
- 新卒入社した会社の経営者は、個人創業した同社を短期で株式上場させた起業家
- 二社目の会社の経営者は、社内ベンチャーの立ち上げを成功させたイントレプレナー
- 三社目の会社の経営者は、20代で個人創業した後、社員数百人規模まで成長させた起業家
- ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティに所属していた際には多くの起業家やプロ経営者と接することができた
といった感じです。三社目の会社とその次の直近勤務した会社では私も経営陣の末席として、会社経営に関わることもできました。
そういった方々などの大きな影響を受けて育った私なりの考えを「ベンチャーキャピタル(以下、VC)の投資担当者の立ち位置」でまとめてみました。
VCはスタートアップの“将来性”や“可能性”を評価して投資を行います。しかしVCの投資担当者も未来を予言する能力があるわけではなく、「成長しうるスタートアップ」の資質を個別に、そして総合的に見ていくこととなります。その中でも経営者の資質は多くのVCが重視するテーマです。
成長しうるスタートアップにおける、良い経営者像とは? 大きなビジョンや夢がある、経験豊富、若くて行動的、MBAホルダー、営業力がある、数字に強い……など、資格からスキルまで、挙げればキリがありません。今回は経営者の資質としての「考え方」に焦点を当てます。
(1)夢が大きく、理想が高い
いくら経験豊富で、能力が高くとも、大きな夢や高い理想がなければ大きなことを成し遂げられません。吉田松陰の言葉を引用します。
夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。
経営者やそれを志しているみなさんには、これを「夢なきスタートアップ経営者には成功なし」と読み替えていただきたいと思います。経営者の考え方として、第一に挙げられるべき項目です。
(2)決断力がある
いくら大きな夢や高い理想があっても、貫き通す“強い心”がなければ成し遂げることはできません。では強い心とはどういう意味でしょうか?ここでは「決断力」と読み解きたいと思います。
経営者が備えるべき決断力とは実は、「失敗を恐れない心」とも言い換えることができます。経営者にとって決断力が重要なのは言うまでもありませんが、ここで言う決断力は、「正しい決断を下す力」とは少し違います。まず「決断する力」があり、その上で「正しい決断を下す力」が活きるのです。
失敗を恐れる経営者は、「正しさの追求」を言い訳にして決断を下しません。そもそも「熟慮すれば正しい判断ができる」と考えている時点で、それは多くの場合、傲慢にすぎないのです。
正しい回答を探して立ち止まるよりも、意思決定を積極的に行う仮説検証・試行錯誤型の経営者こそ、良い経営者といえます。それは歴史も証明しています。
もし失敗したら?大丈夫、あきらめない限り失敗はありません。
(3)自省する力がある
次に、「自省する力」を取り上げたいと思います。自らの言動や行動を反省し、己の力不足を認めずして成長はありえません。まずは自分が「知らない」ことを知る。ソクラテスの「無知の知」、論語の「これを知るをこれを知るとなし、知らざるを知らざるとなせ。これ知るなり」など、繰り返し説かれてきた第一歩です。
そして「うまくいったらみんなのおかげ、失敗したら自分のせい」を心得ましょう。経営者自身を「褒めて伸ばす」のは単なる甘えです。成長しうるスタートアップの経営者は、自省する習慣を持っています。もちろん、役職員に対してはぜひ「褒めて伸ばす」を実践して欲しいと思います。
(4)学びと実践を繰り返す
「実践主義者」と呼ばれる人がいます。机上で考えているだけで実際の行動に移せないのはたしかに良くありませんが、実践主義の人が陥りがちなのが、経験のみを重視しすぎる点です。経営者には経験だけでは足りません。経営学と実際の経営は違うと考え、経営学をきちんと学ばない経営者も少なくありませんが、非常にもったいないことです。
良い経営者は、学びと実践、その間を行ったり来たりして、自分が経験したことの本当の意味を知ったり、事前に得た知識をもとに経験をより充実させたりしています。
(5)考えの枠組みや軸を持っている
アニマルスピリットを持つ経営者だからか、野性的勘を発揮する経営者も多いようです。世の中、すべてが理屈で片付くわけではないので、鋭い勘も必要でしょう。しかし、良い経営者は自分の勘も大切にしつつ、自分なりの考え方に「枠組み」や「軸」を持っています。判断に迷ったときに寄る辺となるものです。
考えの枠組みや軸とは、経営関連書籍ではいわゆる「フレームワーク」として解説されているものもそれに当たります。「目標から遡って考える」、「趣旨から考える」、「原則と例外」、「正攻法と奇策の組み合わせ」、「選択と集中」、「論理と直感」など、経営の様々な場面で活用することができます。
(6)したたかである
夢が大きく失敗を恐れず、自身を省みながら、勉強熱心で考え方に軸もある。実はこれでも良い経営者とは必ずしも言えません。そこには「したたかさ」が足りないことが多いからです。
良い経営者のしたたかさとは?まずは「役割を演じられる」ことです。素のままの自分が経営者に向いている、という人もいるとは思います。しかしそれは極めて限られた人だけに言えることです。経営者は、すべてが思い通りにはいかない会社経営の中で、「経営者たるものこうあらねばならない」という考えの下に、その場に応じた役割を演じなければなりません。
次に「愛情深いが、冷酷にもなれる」二面性です。綺麗ごとしか言えない経営者は成功しません。二面性という意味では、人に見せない「欲」も重要な原動力です。夢だって欲のひとつと言えます。したたかな経営者は表には出さない一面を持ち、そのこと自体が人間としての魅力を高めることにもつながっていたりします。
最後に
良い経営者の条件として、多くの場合、経験、知識、スキルや人脈などが挙げられますが、それらは必要条件であっても十分条件ではありません。今回挙げたポイントは、捉えようによっては精神論的に聞こえるかもしれませんが、これらの「考え方」が備わっていてはじめて、経験、知識、スキルや人脈が活きてくるものと考えます。
VCの投資審査は通常3カ月程度という長い時間をかけます(最近は短期化されているようですが)。これは、単にビジネスモデルの審査をしているだけではなく、期間中に経営者の資質を見極めようとしているのです。今回挙げたポイントはまだ一部であるかもしれないし、異なる考えを持ったVCの投資担当者も多いと思います。ただ、間違いなく言えるのは投資審査の際には、ビジネスモデルや数値計画の話ばかりではなく、経営者としての考え方が重視されるということです。
以上、少しでもご参考になれば幸いです。